#4 弱小魔法が最強すぎるんだが
兵士や魔術士とともにラカシーダ戦線の陣地に到着した。
「おーいリノー! どこだー!」
城を出た後も見つからなかったから先に着いてると思ってたんだが……。
「隊長!! 敵陣地前方に突如巨大な火柱が!」
「何があった?!」
「炎の中に人影が見えます!」
急にどよめきだす陣地。
「火柱? もしかしてリノか?」
次々とそそり立つ火柱の隙間、微かにワインレッドが見えた。
あんなに連発して、またすぐに魔力切れになっちまうぞ。
「もし敵の真ん中で倒れたら……」
……手遅れになる前に、助けないとな。
俺は柵を乗り越え戦場へと走り出した。
*
降り注ぐのは空を覆い尽くさんばかりの氷の矢。
「残念だけど、俺には効かないんだよなぁ」
触れては吸い込まれ、また消えていく氷柱。
氷の雨の中、傘もささずに駆け抜ける。
「今度は『風』か?」
前から迫り来るのは巨大な竜巻。
「……だが、俺には通用しない」
わざと立ち止まり手を突き出す。
「――魔勢粉砕!」
おお、ギュルギュルと渦を巻いて手に吸い込まれていく。
この手のひらの熱、まさに魔法を吸収してるって感じだ。
「ま、こんなこと言う必要ないんだけど」
忘れていた厨二心が疼いてしまった。うぅ、少し恥ずかしい。
しかし体力補正はないのな。しばらく走ると疲れてきた。
早く見つけないと……。おや、あの影は?
「ふぅ……。やっぱりリノだったか」
こんなところで倒れやがって、今にも死にそう顔してんじゃねぇか。
砂ぼこりの中、思わず抱きとめる。
「そんなとこで寝てるとまたやられるぞ!」
「んん……。タスク……逃げて……」
「声小さくて何言ってるか分かんねぇよ、大人しくしとけ。いま回復するからな。
って……ん? は、はぁ!?」
これはなんだ?! 砂煙の中から現れたのは巨大な獣。
しかもその頭は、1、2、3つ。 まさか……ケルベロス?!
その3つの口は俺たちを取り囲むように迫ってきた。
舞い上がった砂で見えなかったのか。
リノを回復させても間に合わない。
「な、何か……。そうだ! リノ、聞こえるか!?」
「何よ……」
「目くらましに使える魔法はないか?!」
「……閃光……」
よし、今度は聞き取れた。
俺の魔力量なら少しは時間稼ぎになるはずだ。手のひらを空に掲げ、強く目を瞑る。
「リノも目ぇ瞑っとけよ。閃光ー――!!」
放たれたのは純白の眩い光。瞼の裏の視界が白む。
これなら流石にアイツでも……。
恐る恐る目を開く。
「――え、なにこれは」
目の前に横たわるのは真っ黒に焦げたケルベロス。ピクリともしない。
あたりを見渡せば黒い塊が散らばり、枯れ草の焦げた臭いが鼻をつくだけ。
「け、ケルベロスは……?」
胸の中のリノが虚ろな目を向ける。
「た、倒したみたいだ。わけわかんねぇけ、ど……」
あれ、なんか頭がくらくらしてきた。
「……ごめん、なんか無理っぽい」
「え、どうしたの? って急に覆いかぶさらないで……!」
リノがなんか言ってるが身体が言うことを聞かない。
ほのかな暖かさを頬に感じながら目を閉じた。
*
ここはどこだ……?
目を覚ますと白い石造りの部屋で寝ていた。
「なんか腹が重いな……ってリノか。おーい生きてるかー」
「うぅ……。あ、やっと起きた!」
椅子に座り俺にうつ伏せていたリノ。顔を上げ紅い瞳をぱちくりさせる。
腕から伸びる点滴と病衣を見るに、ここは病院みたいだ。
「その点滴、大丈夫なのか?」
「うん、これはただの魔力回復用。それよりあんた……タスクこそ大丈夫なの?
医者はおそらく疲労って言ってたけど」
「俺も分からない。まぁ慣れない環境で知らないうちに疲れてたんだろ。もう平気だ」
「そう……」
すると目を伏せてしまった。垂れた髪で顔は見えない。
……やっぱりまだ調子が悪いのか?
「おいホントにだいじょ」
「……あ、ありがとね!!」
「え?」
バッと顔を上げるリノ。翻る深紅の髪。
そんなに顔を赤くしてどうしたってんだ?
「た、タスクが居なきゃ今頃私、悔しいけど死んでた。だから、ありがとう……。
……な、何よニヤニヤして。この私が感謝してあげてるんだからなんか言いなさいよ!」
その桜色の唇を尖らせる。
「いや、なんか可愛いなって」
「なっ……! そんなこと言っても何もでないわよ!」
ぷいっと横を向いてしまった。
強気なくせして素直なところもあるんだな。
「ごめんごめん。ところでなんであんな無茶したんだよ。魔力が切れやすいのは分かってたんだろ?」
「……いいわ。お礼に教えてあげる、特別に。誰かに言ったら置き去りにしてやるんだから」
「い、言わないって」
「実はね――」
リノは膝に目を落とし話し始めた。