#2 魔法吸収もできるようです
「べ、別に乗せたくて乗せてるわけじゃないんだから。
あんなところで野垂れ死なれても具合が悪いし」
「わ、分かったって」
リノは俺が丸腰なのに気づくと、まあこんな感じに荷台に乗せてくれた。
ちなみに馬車ではなく獣車という乗り物らしい。
「それで、あんたどこの人間なの?」
「日本、といっても分からないよな」
「聞いたことないわね」
「実は俺、異世界から来たみたいなんだ。この世界から見て」
「異世界? なにそれ御伽噺?」
サイドテールを揺らしクスクス笑うリノ。
「いや、これが本当なんだって。死んだと思ったら急に女神が現れて」
「はいはい。そういうことにしてあげる」
納得いかない……。けどまあ急に言われたらそんなもんだろう。
「リノは何をしてたんだ?」
「ギルドの依頼を片付けてからラカシーダの戦場に行くはずだったんだけど、それがあんな目に遭っちゃった」
ギルドはなんとなく分かるが、戦場?
「この世界では戦争でもしてるのか?」
「あんたそんなことも知らないの。魔族連邦ダルノキアがこの国、アルマ王国を侵略し始めたのよ」
魔族だと? まさにファンタジーだな。
「戦場に行くのもギルドの依頼?」
「あぁ、えと。まあ自分のためのようなもんね」
「それってどういう……」
「い、いいからあんたは私に連れられてればいいの! 一応助けられたんだし、少しは面倒見てあげるから」
そういうと獣の手綱に目を落としてしまった。どこかモヤモヤするが仕方がない。
しかし戦争か。俺にチートがあれば敵なんて……。
いや、もしかしたらあの稲妻を消したり魔力を回復させたりするのが「唯一無二」の能力なのか?
「ちょっと獣車を止めてくれないか」
「何よ急に」
「……試したいことがあるんだ」
*
「消し炭になっても知らないわよ?」
「おう、バッチコイ!」
月に照らされた草原。リノは心配そうに俺を見つめる。
「本当に消えるの? じゃあいくわ……炎属性添加、炎門裁判!」
突如として現れたのは炎の壁、メラメラと音を立てながら迫ってくる。
さ、流石にこれは……。思わず身震いする。
「いや、大丈夫だ。予想通りならこの後――」
そして俺は炎に飲み込まれ……なかった。
触れた途端身体に吸い込まれていく炎の壁。あの時感じたほのかな熱も感じる。
ふぅ、分かってはいたがいざすると怖いもんだ。
「う、うそ。私の魔法が効かないだなんて……。火力は抑えたけど無傷じゃ済まないはず!」
まさに信じられないといった表情で口をあけるリノ。
「なんだ手加減してたのか」
「魔法を消すだなんて聞いたことないわ! 今度は本気でいく。……焔狐奔流!!」
リノの手から飛び出たのは……人魂?!
人よりはるかに巨大なそれはゴウゴウと飼い主の周りを回っている。
「魔力最大! 突撃!!」
「ちょ、流石にそれはまず――」
ついに俺の体は消し炭に……
……なってない!
ま、マジで死ぬかと思ったわ。
「な、本当だろう?」
「そう、みたいね……」
ガクリと地面に膝をつく。
「おいどうしたんだ?」
「魔力切れ……。効率が悪いのも困りものね……」
「ならもう一つ試してみるか。手を出してくれ」
「何をするつもり……?」
その白く綺麗な手を恐る恐る差し出す。
……意識して繋ぐとなるとなんか恥ずかしいな。まあこれは検証なんだ。よし!
「……!? はぁ……んっ……あぁん!! はぁ、はぁ、ちょっと離しなさいィ!」
乱暴に振り払われる俺の手。
……このとろんとした目と赤らめた頬。そして甘い声。や、やっぱり気持ちいいってことなのか。
「急に何するのよ! ってあれ? 魔力が元に戻ってる……」
顔を真っ赤にしたと思えば不思議そうに自分の手を見つめるリノ。
「やっぱり俺の力は魔法吸収と魔力回復みたいだな。ついでに、その、感じさせるみたいだけど……」
「感じっ?! そ、そんなことないわ!」
「いや、あんなとろけた顔して喘がれたらね」
正直、男としてグッと来ました。
「くっ……。あ、あんたが特別な力を持つことは分かったわ。けど手を握るのは禁止!」
「え、なんで。魔力が切れやすいなら俺と組めばいいじゃん」
役得……じゃなくてその方が有利だろう。
「……もう知らない! いいから私の邪魔はしないでよね!」
だらしない顔を見られたのを怒ってるのか?
ぷんぷんと頰を膨らませながら獣車へ戻っていった。
想像してたのとはだいぶ違うが、これが俺の力……。
元の世界ではどうしようもなかった俺だが、ここなら少しは役に立てるかも知れないな。
「なに突っ立ってんのー。置いてくわよー」
「ちょ、待てってリノ!」
こうして俺たちは最初の戦場に旅立っていった。