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魔法は得意ですけど、メイドさんとして頑張ります!  作者: ぺこ菜ほのめ子
第四章 がっこう
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28. 魔法使い志望の少女

 砂穂(すなほ)・アストラリウズンちゃん(12)。

 魔法クラスの一年C組に所属。

 親の期待を背負って、魔法を学ぶために単身サリスモニカに。

 現在は本館の西にある魔法クラス用の寮で生活を送っていている模様。

 あまり家がお金持ちではないらしく、学費を支払ってもらうのもやっとの状態で、時間があれば内職やアルバイトを行って生活費を稼いでいる。

 無口で大人しいタイプなのだけれど、動植物に対して心優しくて、クラスの花瓶の水を毎日こっそりと替えたり、道ばたの傷ついた動物の治療をしてあげたりしている。


 探査魔法や姿を消す魔法で得た情報によると、目が止まった亜麻色の髪の少女は、ざっとこんなプロフィールでした。

 ちなみに現在、内職は造花作りや折り紙で鶴を折るお仕事を、アルバイトでは中心市街のお花屋さんで、三時から七時・週三四ののシフトで働いているみたいです。

 勉学に励んで結果を出さなければいけない中、お花が好きな彼女にとっては、このお仕事は癒しのひとときみたいで、毎日楽しそうに仕事をしていました。


 ところで――。

 魔法クラスの授業を見学させてもらいましたが、ざっとまとめるとこんな内容でした。

 (噂通り、魔法訓練学校の先生はあまりいい腕ではないらしく、姿を消したわたしの存在は露呈することはありませんでした)

 理論――教科書を読み進めて、魔法の基礎を学びます。具体的には、頭の中でイメージを思い浮かべ、火の魔法、水の魔法、雷の魔法などを使うための呪文を覚えていきます。

 実践――本館裏の広い裏庭で、理論で学んだ魔法を実際に使っていきます。一年生の一ヶ月目なので、実際のところまだ誰も魔法は使えないので、たとえるとバドミントンにおける素振り練習のようなものですが……。

 開発――授業では、魔法を使うためには、脳波を魔法使いの波長と合わせることが必要だと述べられていました。一日に一度、約十分ほど、魔法クラスの生徒は四階の暗幕の張られた特別な教室に移動して、微量な電流が流れるヘッドギアを頭に装着していました。結構痛みを伴うのか、途中で外しちゃう子もちらほらいました。


 ……そんな魔法クラスの授業風景を見て、とてもイヤな予感が走ったんです。

 魔法の存在を知らない人間が見たら、これはまっとうな魔法の才能の開発だと思うでしょう。

 でも――実際の魔法使いから見たら?

 魔法って、世界にあまねく存在する精霊の力を借りないと使えないんです。(精霊の力を借りない「無属性魔法」っていう例外もありますけど、難易度が高く、魔法学校でもほとんど教えませんし、魔法使いの中でも使えるのは一握りでしょう)

 だからまず初めにやることは、精霊と仲良くすることなんです。

 精霊に声を掛けて、自分の仲良くなれる精霊を知り、その声を聞くところから始めます。

 でも――ここで使われている教科書には、一言たりとも「精霊」という文字が出てこないのです。

 それに脳波なんて、魔法の詠唱にはなんら関係がないはずです。

 大事なのは体中を流れる魔力です。

 これは……さすがにおかしいです!


 もしかして……ですけれど。

 わたしはあのお姉ちゃんたちの妹ですから、「魔法を用いて悪いことをする人がいる」ということを痛いほどよく知っていました。

 ですから――こんなシナリオが思い浮かんでくるのです。


 ここは、魔法訓練学校を謳っていますけれども、授業内容は全くのデタラメで、教科書通りにやったって、先生の言うことをちゃんと聞いたって、魔法が使えるようにはなりません。

 魔法は、生まれながらもしくは幼少期に使えるようになる人が、全体の約九○%を占めていると言われていますし、魔法訓練学校に通っても、せいぜい五%ぐらいしか卒業までに魔法が使えないというのが常識になっていますから、魔法が使えなくても、「本人の才能がないから」で片付けられてしまうのです。

 その裏で、学校関係者は、多額の学費を得て大儲け。

 学費を払っている親御さんは、どちらかと言えばお金持ちの家が多いみたいですし、余っているお金をお子さんのためにためらうことなく投資するのです。

 結果、子供が魔法を使えなかったとしても、「残念ながらくじに外れてしまった」と自分に言い聞かせてしまいます。


 それでも学校は、毎年数人は魔法を使える卒業生を、バゼリアなどの魔法都市にある魔法学校へと輩出していますが、これだってもしかしたら裏取引的なものが交わされているのかもしれないのです。

 表で行われる授業は適当に行いますが、何名か才能がありそうな生徒を個別に呼び出し、特別授業と称して精霊のことをそれとなく教えて、魔法を習得させます。

 魔法使いになれる可能性がゼロではないですから、「自分こそは自分こそは」って、入学者が毎年毎年やってくる……。

 入学前に、「適性試験」と称したふるいわけを行ったりするのも、自分は特別なんだっていう自尊心を与えようとするため……。


 もちろん魔法使いから見たら、ここでの授業がおかしいということは一目瞭然です。

 でも情報が漏洩しないように、うまく管理はしているみたいですし、たとえ魔法使いがこの事実を知ったとしても正義感を持ってそれを咎める人なんていません。

 魔法って特別な才能です。

 この国では、全人口の一%未満の人しか使えないと言われています。

 ですが魔法関係者にとって、魔法を使える人が増えるということは、パイが減ることに他ならないんです。誰だって自分の縄張りに入ってこられたくはありません。もしかしたら、現在のこの特権階級の座が脅かされるかもしれませんから……!

 たしかに魔法の力を結晶化させ、掃除・洗濯・調理の場にそれを持ち込んで、お金持ちの家では、ほうきや洗い板や旧式ガスコンロが消え始めるというようなご時世で、魔法に対する需要は確実に増えてきていますが、慎重になっているのではないのでしょうか。

 だから裏で、魔法訓練学校から輩出する生徒数が厳格に定められているとか……そういう事情まで察してしまうのです。


 このシナリオには確証はありません。

 陰謀論――全部わたしの妄想かもしれないです。

 でも、お姉ちゃんたちの生き様を見ていると……そういうことも、ごくごく当たり前のように行われているんじゃないかって悲しくなってくるのです。


 でも一つだけ、これだけは分かっています。

 ここで行われていることは、詐欺です。

 このままだと砂穂ちゃんは、魔法が使えるようにはなりません。

 いえ――魔法なんて、本当は使えなくてもいいんです。

 でも、自分の時間を潰して、親の期待に応えようとする砂穂ちゃんの姿を見ると、なぜだか同情してしまって……。


 もしチャンスがあるのなら、彼女には本当の魔法のことを知って欲しいです。

 精霊と仲良くなって、人のために行使するのが、魔法なんだって……!


 でもどうすればいいんでしょう?

 お手紙を書いて、本当の魔法のことや、この学校の真実を伝えますか?――ちょっとインパクトが弱いと思いますし、最悪無視されるでしょう。

 それならば――直接伝えるしかありません!!


 ご主人様に許可をもらって、魔法クラスの秘密を知った日の翌日、十九時頃、砂穂ちゃんの働くお花屋さんの前へとやってきました。


「お疲れ様なのです」


 そう言って挨拶をして、ちょうど彼女が店から出てくる瞬間でした。


「あ、あのっ!!」


 わたしはすかさず声を掛けます。

 砂穂ちゃんは怪訝そうに、首をかしげますが、


「……今日はもう、店じまいなのです。申し訳ないですけど、また明日――」


「そうじゃないんです。わたし、砂穂ちゃんに大事なことを伝えなくちゃって思って……」


「大事なこと……? そもそもあなた、いったい誰なのですか?」


「わ! 申し遅れました。わたし、七菜・レナルミカっていいます。サリスモニカ高校に通っている一年生です……って、そんなことはどうでもよくって――」


 わたしは、魔法クラスで行われている授業がインチキであること、本当の魔法は、精霊と仲良くなって使えることなどを包み隠さず伝えました。

 これで、彼女も目を覚ましてくれる――そう思っていたのですが、


「……何言っているのですか? 授業がインチキ? そんなのありえません。精霊? 聞いたこともないです。だいたいあなた、サリスモニカ高校の一年生って言ってますけど、もしかして普通クラスの方なのですか?」


「そうですけど……」


 そう返すと、砂穂ちゃんはため息をついて、


「噂は本当みたいですね。普通クラスの方が嫉妬して、変な嫌がらせをしてくるって」


「ち、違います! そんなんじゃありません! ただ――」


「確かに、私はまだ入学したてで魔法が使えない状態ですけど、でも絶対に魔法を習得して、周囲をあっと言わせてやるのです! そして、絶対にお母さんを幸せにしてあげるのですっ!!」


 言い放つと、学校の方へと駆け出してしまいました。

 ダメ……でした。

 本当のことを教えれば、目を覚ましてくれるなんて思っていましたけど、そもそもわたしたち、どこにも接点がありませんし、やっぱりお話をちゃんと聞き入れてくれませんでした。

 それに――おだやかな性格だと思っていたのに、予想以上に、負けん気が強そうでした。


 どうしましょう。

 実際にわたしが精霊に呼びかけて魔法を唱えるのを見てもらえば、認めてくれるかもしれないですけど、できれば初対面の相手には、まだわたしが魔法を使えることを伏せておきたいのです。

 何か、何か……砂穂ちゃんの目を覚まさせる、いい方法は――


「……そうです!」


 ふと妙案が思いつきました。

 この学校で光の科学のついて学んだときのこと。


 ――光の屈折によって、ものの見え方が変わることがある。たとえば、陽炎や蜃気楼などの現象は、それが原因である。


 光を操作して姿を消すことができたように、これを使えば幻とか……そういったものを見せられたりするんじゃないでしょうか?

 砂穂ちゃんが言うことを聞いてくれるような人物の幻を見せて、本当のことを伝えるんです!


「やるしかありません」


 もちろん今のわたしは、そんな魔法まだ習得していません。

 でも砂穂ちゃんの将来が掛かっているんです。

 わたしはその日から、思い描いたイメージを投射する魔法の訓練に時間を費やすのでした。

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