26. メイド探しは学校で
再開&第二部のはじまりはじまりです。
お屋敷では、年に三回――四月と八月と十二月に大掃除を行います。
絨毯を外し、隠れていた汚れをモップやブラシを使って徹底的に落とし、外した絨毯はあまりにも長くて屋敷の中では綺麗にできないので、街のお掃除屋さんにクリーニングの依頼をします。
全ての部屋のカーテンも外し、何回かに分けて洗濯機に放り込み、庭の竿に掛けて天日干ししておきます。
その後、外側の窓もピカピカにするのですが、身を乗り出して掃除をするのはさすがに危険ということで、こちらも街のお掃除屋さんのお世話になりました。
そのほかに吊された照明やシャンデリアを一度下ろして綺麗にしたり、使っていない暖炉や煙突を掃除したり、部屋の家具を動かしてその裏に隠れていた汚れを綺麗にしたり――
もう、とにかく大変でした。
このお屋敷に入ってきて、一番大変な一週間でした。
でもそんな忙しい大掃除も、クリーニングに出していた絨毯が戻ってきて、それを元の場所に配置して、ついに完了になります。
「お疲れ様、みんな。大掃除の完了を祝して乾杯よ」
わたしたち四人はマグカップを片手に、大仕事が終わった喜びを分かち合います。
四人――そうです。お約束通り、この一週間は都和さんがお手伝いに来てくれました。
わたしたちと同じメイド服を身につけて、屋敷中を駆け回って助けてくれました。
さすがに元・メイドさんということもあって、何事もてきぱきとこなしてくださって、非常に助かりました!
「それにしても、やっぱり人手が足りなかったわね。いつもいつも思っているのだけれど、あともう一人か二人、メイドが欲しいわね。いつまでも都和に頼る訳にもいかないし」
わたしたちはこくこくと頷きます。
瑠璃さんももう、「人手は足りない」などと強がって、その提案を拒否することはありませんでした。
「どうなの、瑠璃? 人事権はあなたに委任をしているわけだけど、どこかにいい子なんて落ちていないかしら? あ、分かってると思うけど、若くて、可愛くて、真面目で、その人にしかないような強みがなければ認めないから」
「……すみません。ちょっと思い当たりません……」
瑠璃さんは申し訳なさそうに、頭を下げました。
「七菜はどう? 何か、つてとかないの?」
「うーん、地元に帰れば、もしかしたらいるかもしれないですけど……」
でも、若くて、可愛くて、真面目で、その人にしかないような強みって、ちょっと条件が厳しすぎます!
うーん、かなり難しいです……。
「玲櫻。わたくしにいいアイデアがあるのですけど」
突如そんな風にして口を開いて、人手不足に悩むわたしたちの注目を一瞬に集める都和さんでした。
「あら、どんなアイデアなの? 是非とも聞かせて頂戴」
「うふふ、それは――学校に行って、玲櫻の眼鏡にかなうような人材を探すことですわ!」
「学校に……通う?」
わたしは知らなかったのですが、都和さんの話によると、駅から北に向かって徒歩五分ほどの距離に、サリスモニカ高等学校という名前の学校があるようです。
学校は、子供が学ぶ施設です。
だからご主人様の条件の一つである「若い」は自ずと達成できそうですし、高等学校ともなれば「真面目」な子だって多いでしょう。
あとは――メイドとしてのお仕事を喜んでやってくれる、ご主人様のお眼鏡に叶う方がいるかどうか……。
「面白そうね! 学校に行って、有望そうな子を見つける! 素晴らしいアイデアだわ!」
「都和お姉様。でも……学校って、関係者以外立入り禁止なのでは?」
「そうですわね。今はいろいろとうるさいご時世ですから、門の前には警備員が立って、生徒や教職員以外は入れないというお話を伺ったことが……」
「そんなの問題ないわ。早い話が、その学校の生徒になればいいってことでしょう?」
「生徒になる、ですか?」
首をかしげます。
いったい誰が?
わたしたちにはメイドとしてのお仕事がありますから、やっぱりご主人様が?
「というわけで――来月から学校に通おうと思うのだけれど、当然あなたたちも一緒よ?」
しかし予想に反して、ご主人様はわたしたちをお誘いになるのでした。
「ま、待ってください! 私たちはこのお屋敷のメイドです。学校に通って、職務を放棄するわけには――」
瑠璃さんが反論します。
「そうね。屋敷を空にすることになるわ。でも主は、屋敷の中にはいないのよ。あなたたちは、主のいない屋敷にいて仕事をするつもり? それとも――主の身の回りの世話をするの?」
言われて気づきました。
わたしたちのお仕事は、ご主人様を満足させること。
ご主人様がお出かけになるのなら、メイドがそれに連れ立つのは当然なのです。
「……それにどうせ、『屋敷の掃除をする時間がなくなる』とか考えているんでしょう? そこは工夫よ。朝に済ませたり、学校から戻ってきてからも十分する時間があるはずよ。それに目的は、新しい仲間を探すことよ? 人手が増えれば、少ない時間でもうまく仕事をこなせるんじゃないかしら?」
そしてご主人様は笑って、
「でもいいわね、学校って。わたし、学校というものに通ったことなんてなかったから、どのような世界なのか、興味津々よ。科学についての理解を深めたり、同年代の子供たちと交流を深めたり……うん、面白そうね」
「本当に……学校に通ってもいいのでしょうか?」
瑠璃さんが尋ねます。
「当然よ。あ、学費はもちろんわたしの方から出すから心配しなくてもいいわよ。業務上必要な費用だし、主人が出して然るべきだもの。まぁ、奨学金なんかをもらってくれれば、それが一番だけど」
「……ご主人様、私、嬉しいです」
そう言って、なんと瑠璃さんは瞳に涙を浮かべたのです。
普段は感情を見せない彼女の涙は、わたしにとって衝撃でした。
「実は……私も憧れていたんです、学校に。
昔、故郷の学校で、読み書きや計算や歴史や地理を、孤児院の子たちと学んだことを今でも覚えています。時に教え合ったり、時に遊んだり……とても楽しい時間でした。
私はお金もなくって、働くしかありませんでしたから、孤児院を出てこうしてご主人様にお世話になっていますけど、こんなチャンスをいただけて、感極まっています……!」
「バカね。泣くことなんてないのに。でもわたしも嬉しいわ。わたしのこんな突発的な提案を、こんな風にして喜んでくれるなんて主人冥利に尽きるもの」
「ご主人様、わたしもご一緒してよろしいでしょうか?」
「もちろんよ。あ、学業もそうだけど、一番大事なのはメイドを希望者を発掘することよ。それを忘れちゃダメだからね」
微笑んで、そうおっしゃいました。
*
新学期が始まるのは毎年九月で、八月上旬の今なら十分に入学手続きは間に合いました。
とある日の午後、三人まとまって徒歩でサリスモニカ高等学校を訪れます。
四方を灰色の塀と背の高い木々が取り囲んでいて、警備員さんの許可をもらって正門から入ると、まず目に入ったのが「コ」の字の大きな建物でした。
これが教室や各種特別教室の入った、本館らしいです。
故郷の小さくておんぼろな学校と比べて大きくて綺麗なので、わたしはもうビックリです。
思い返すと――幼い頃に通っていた魔法学校が、これくらい立派だったかなと思います。
正門から昇降口までをレンガ敷きの広い通りが結んでいて、その左右には夏の花や、植栽を動物の形に刈り込んだトピアリーなんかがありました。
通りの途中には大きな噴水があって、噴水の中心には、この学校の創設者と思しき人物の銅像が建てられていました。
係の人に応接室に案内されて、入学するには「読み書き・計算・一般常識」の試験を合格する必要があること、授業料の他に入学金が必要なことを説明されました。
ご主人様曰く、「対して高い買い物ではない」らしいです。
また「魔法クラス」を希望するかどうかも尋ねられました。
魔法クラス――要は魔法を使えない人が、魔法の能力を開花させるための、特別なカリキュラムを受けられるクラスです。
具体的には何をやっているのかは分かりませんが、おそらく精霊と仲良くなる方法だったり、魔法をイメージする基本中の基本を学ぶんじゃないかって……一介の魔法使いは想像してみます。
それにしても、魔法を学ぶクラスと普通のクラスが一緒の建物に入っているんですね。……ちょっと驚きました。
こういうのって、きっぱりと分けられているものだって思っていましたから。
ちなみに、尋ねてみたところ、全生徒の約半分が特別クラスに通っているようでした。
係の人は、「このご時世、魔法を使えれば将来安泰!」などと、熱心に魔法クラスを勧めてくださいましたが、わたしたちは、もちろん普通クラスを選択します。
特別クラスって、普通クラスの二倍以上学費が取られるらしいですし、そもそも魔法の才能を開発させる必要もないですし……。
ただご主人様は、瑠璃さんに冗談っぽく、「あなただけ、魔法クラスを専攻してもいいのよ」とおっしゃいました。
瑠璃さんは即答で、「興味ありません」と返しました。
そのほか、寮がある旨などを説明されました。
寮を持っていることって、結構重要だと思います。
いえ――わたしたちにはもちろん不要なんですけど、寮で生活をしているっていうことは、その生徒さんは親元を離れて学校に通っているということです。
話によると、寮の費用も結構掛かるらしいとのことでしたから、住み込みで働けるメイドのお仕事はお金を節約できて、価値あるものとなるはずです。
そしてその場でペーパーテストを受けて、無事全員合格することができました。
帰り道、ご主人様はふと「学んだことって、人生のいつどこでどういう風に役立つのか分からないわよね」とつぶやきました。
わたしもそう感じます。
最大の目的は、第三のメイドさん候補を見つけることですけど、安くない学費を出してまで学校に通わせてくださるんですから、学んだことをしっかりと生かせていければいいなって思いました!




