24. メイドさんと星祭り
軽快な笛の音と、体中に響いてくる力強い太鼓の音。
通りを行き交う人の波と、道を照らすほの赤い提灯。
そして雲一つない、満天の星空!
七月の第二週、日曜日。
無事星祭りを迎えることができました!
ご主人様、瑠璃さん、六花お姉ちゃん、そしてわたしは、並んで屋台の並ぶ通りを歩きます。
わたしの右手にはわたあめ! そして左手にはりんご飴!
わたあめはふわふわで甘くて、口の中に入れた瞬間溶けて、すっごい不思議な感触です!
りんご飴は、真っ赤でキラキラしていてとても綺麗で、外側の飴も、内側のりんごもおいしくって、念願の食べ物を口にできて大満足でした。
輪投げも経験することができました。
投げた輪っかで台の上の景品を囲むことができたら、それをゲットできるというゲームでした。
なかなか輪っかの中に景品を収めるのは難しかったですが、瓶に入ったラムネをゲットできました!
シュワシュワとした青い飲み物で、不思議な感じでしたが、とてもおいしかったです。
今日わたしたちは、「せっかくだから」というご主人様のご提案で、「浴衣」を身につけています。
昔は一部の地域でよく着られていた衣装とのことですが、見て着るのはこれが初めてでした。
浴衣には、紫陽花とか朝顔とか向日葵とか、夏の花が描かれています。
着てみての感想は、涼しくて夏っぽくて、とっても可愛いっていうこと!
……いえ? メイド服も素敵で可愛いんですよ?
でも浴衣は、それとは趣が違って素敵だったんです。
ご主人様も、瑠璃さんも、お姉ちゃんも浴衣姿がとても似合っていて、わたしはいま、特別な時間を過ごしているんだって感じました。
*
あのあと。
四埜お姉ちゃんと話す機会が少しだけありました。
「わたし、とんでもないことをしていたのかもしれない」
目が覚めて、最初に口にした言葉はそれでした。
浄化魔法を受けて、闇に閉ざされた心が解放され、改心してくれたのです!
ですが、罪の意識にさいなまれるようになって、これまでの行いに対する罪滅ぼしをしなければいけないと、言っていました。
今朝、目が覚めると、すでにお姉ちゃんはこの屋敷にはいませんでした。
七菜の心に触れて、忘れていた大切なものを思い出したような気がする。
困っている人を救うため、旅に出たくなった。
……依頼に失敗したわたしには、もうこれしか道が残されていない。
近況は、手紙で逐次報告をする。
――そういった内容のお手紙を残して。
結局、他のお姉ちゃんたちの行方は聞けずじまいでした。
どこで何をしているのか、分かりません。
でもいつの日か今回みたいに、対峙して喧嘩をして、お互いの正義をぶつけ合うときがまたやってくるのだと思います。
それにしても、四埜お姉ちゃんからのお手紙、とても楽しみです。
*
神社の境内の特設ステージでは、笛と太鼓、そして巫女舞の演舞が行われています。
もちろん舞の演者は、この街の唯一の巫女――都和さん。
舞に集中する彼女は、表情こそは笑っていませんでしたが、なんとなく心の中では最高の笑顔を見せてくれていると感じました。
時計塔の鐘が、街中に夜九時を伝えます。
短冊をつけた笹が、境内の外、中心市街をU字に囲む川のほとりへと集められました。
わたしたちもそれに合わせて移動をします。
頭上に輝く星々――天の川と掛けて、地上を流れる川に短冊と笹を流し、願いを天へと届けるという風習なのだとか。
川原には蛍が舞い、星の瞬きに負けないと言わんばかりに光のダンスが行われて、つい見とれてしまいます。
都和さんや、お祭りの運営さんたちが、合図と共に笹を川へと次々に流すと、わたしは視線を水面へと向けました。
川の流れに乗って、ゆっくりと南へ南へと進む短冊たち。
川原に集った人たちは、皆瞳を閉じて、胸の前で手を組んでいました。
短冊に書いた願いを、心の中でもう一度天へとお願いしているのです。
気がつけば、ご主人様も、瑠璃さんも、六花お姉ちゃんもそうしています。
そうです。わたしも――
「家族みんなで幸せに暮らせますように――」
*
「そういえば。ご主人様のお願い事って、何にされたんですか?」
最高の星祭りを迎えて、屋敷への帰路、わたしは尋ねました。
ご主人様はにっこりと笑って、
「いろいろ迷って、結局今日ギリギリになって決めたんだけど、『無事平穏』よ」
「無事平穏ですか」
「あら、ちょっとありきたりで、つまらないとでも思ったのかしら?」
「そ、そんなことありません!」
そう言うものの、実際は心の中でちょっぴりとそう思っていたり……。
表情とか声色で分かっちゃうんですかね?
「わたしはね、ここで生活する前、別の場所に住んでいたんだけど、そこは争いが日常茶飯事の、自分の命の灯火も明日ともしれないような世界だったわ。
サリスモニカにやってきて、あなたたちをメイドとして雇い、日々落ち着いた生活を送っていて、『無事平穏』が当たり前だって思っていたけれど、昨日みたいな出来事があって、それももしかしたらいつの日か、幻のように消えてしまうんじゃないかって感じたのよ。だから『無事平穏』」
「……ご主人様。そうだったんですね」
ご主人様について知っていることは、物書きをされていること、魔法を使えること、そして見た目は子供なのに、中身がすごい大人びているということでした。
過去について知るのは初めて、とってもビックリしました。
瑠璃さんも初めて聞く話らしくて、瞳を大きく見開いていました。
「わたしは、あの屋敷であなたたちメイドと一緒に過ごす日常が大好きよ。そして瑠璃が入れるココアや、七菜の見せる素敵な笑顔が大好き。
だから改めて、明日からもよろしくね、二人とも」
「「はいっ!!」」
魔法とか、お祭りとか、そういう特別な時間は終わって、メイドさんとしての毎日がまた始まるのです!




