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魔法は得意ですけど、メイドさんとして頑張ります!  作者: ぺこ菜ほのめ子
第三章 おまつり
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21. メイドさんと光の魔法

 未明、サリスモニカ西の山岳地帯で発生した低気圧が突如発達し、ゆっくりとした動きで東へと向かっている――新聞の一面にはそう書かれていました。

 現に、屋敷のお庭から見えた西の空には、ぶ厚くて黒い暗雲が立ちこめていました。

 新聞には、合わせて謝罪文も掲載されていました。

 天気予報が間違っていたことに対する、です。

 そうです――これは異常なんです。

 魔法使いが風の精霊に近い将来の天候を尋ねるので、天気予報が外れることなんて滅多にないんです。

 まして、こんな大嵐、予測できないほうがおかしいです。

 だからわたしは――とてもイヤな予感がしていました。

 これは誰かが意図的に起こしたものだって。

 魔法使い――それも天候を操作するなんて、並大抵のことではできません。

 小さな電気を発生させたり、風を吹かせたりするのとはレベルが違うんです。

 かなり高位の魔法使い――そういった人物が暗躍していると感じました。


 わたしたち五人は食堂のテーブルを囲み、緊急対策会議を開きます。


「どうしましょう……。明日のお祭り――」


 都和さんはうなだれて、小声でつぶやきました。

 その表情には、いつもの精気が感じられません。


「「…………」」


 瑠璃さんも、ご主人様も、お姉ちゃんも、わたしも、窓の外に顔を向けたり、うつむいたり、その場で足踏みしたり、しかし全員が沈黙を貫き、都和さんの顔を真正面から見ることができませんでした。

 そうですよね……。あんなに一生懸命準備をしていたのに、大嵐がサリスモニカを襲ったら、屋台も短冊も何もかも、全て台無しです。

 そう思うと、顔向けできなくって……。

 ただわたしは、その裏に誰かの悪意があることを知っていました。

 それを、口にするかどうか迷いに迷っていて――


「魔法の仕業、よね」


 口火を切ったのはお姉ちゃんでした。

 全員が、彼女に顔を向けます。


「魔法……? どういうことですか?」


 この中で一番魔法に疎い瑠璃さんが尋ねました。


「悪意を持った人間が嵐を意図的に起こしたの。そうでもなければ、こんな異常気象は考えられないわ」


 そしてわたしに「約束を破るわね」と耳打ちしました。

 その一言で、何をしようとしているのか理解できました。


 彼女は、自分が魔法使いであることを告白します。

 瑠璃さんは、瞳を大きく見開いて驚愕しました。

 そしてその後に、わたしも魔法使いであることを告白すると、「嘘だろ!?」と大声を上げて、その場で立ち上がりました。

 わたしは、これまで隠していたことを謝ります。

 しかしそれ以上の糾弾――どうして魔法使いがこんなところでメイドを、とか――はありませんでした。

 それは今がこんな緊急事態だからでしょう。

 もし今の事態がうまく収まれば、しっかりと訳を説明しなければいけないときがやってくるのでしょうけれど。

 まあとにかく、わたしたちが魔法使いであることを説明したので、これからいろいろと話が進めやすくなります。

 次に口を開いたのはご主人様でした。


「この嵐は、魔法使いの仕業。わたしもなんとなくそう感じていたわ。でもだからといって、どうしようもないんじゃないの? あなたたちが魔法を使えて、結界のようなものを張ることはできても、嵐のような強大な自然災害に打ち勝つことができるのかしら?」


「結界では無理です。でも――一つだけ策があります」


 お姉ちゃんは力強く断言しました。

 そして、わたしを優しい表情で見つめて、


「この子が、大嵐に打ち勝つ魔法を唱えられます」


「えええええええええええええっっ!!??」


 指名された瞬間、もう「ありえないです!」っていう気持ちを、大声で叫んでしまいました。


「わ、わたしがですか!? む、無理です! そんな、わたしなんて――」


「何を言っているの。あなたにならできるわ。それに――彼女たちの期待を裏切るわけにはいけないでしょう?」


「……七菜さん? 本当なのですか? あなたなら、あの嵐に打ち勝つことができるんですかっっ!?」


 都和さんはいつもの平静さをなくして、わたしに抱きついて泣きじゃくります。

 藁にもすがろうとする彼女の想いが伝わってきて、わたし、なんとかしなくちゃいけないんだって強く思います。

 でも、どうやって?

 わたしはどうしていいか分からず、逡巡していると、


「こんな嵐の魔法、私の知る限りで起こせるのは、ただ一人しかいないわ。だからこれは、私たちが解決するべき問題なのよ」


 ……やっぱりそういうことになるんでしょうか?

 確信は持てなかったんですけれど、実はわたしの頭の中には「虹色の災禍」の異名を持つ、彼女の名前が浮かんでいました。

 四番目のお姉ちゃん――四埜お姉ちゃんです。

 虹の精霊という、七大精霊を統括する特別な精霊のご加護を持っていた彼女は、火と土の魔法を合わせて溶岩を発生させたり、氷と風の魔法を合わせて吹雪を起こしたりするといった芸当が可能でした。

 もちろん――嵐も例外ではありません。

 となると――やっぱり四埜お姉ちゃんが、誰かの依頼を受けてこんなことを?


「そして七菜。あなたにならできるはずよ。あなたの優しい光の魔法ならね」


    *


 わたしの光の魔法で、嵐に打ち勝つなんて本当にできるんでしょうか?

 でもわたし、昔に似たようなことをしでかしていたんですよね。

 光の精霊にお願いして、おひさまの光を操作し、一切の雨雲を寄せ付けなかったことが。

 あれ以来、わたしはそんな大規模な光の魔法を使うことがありませんでした。

 でももしかして、お姉ちゃんたちと同じレナルミカの血が流れるわたしなら……そういうこともできちゃうんでしょうか?


 わたしたちはこの街で一番の高台にある神社の境内にやってきて、小さな林を越えたところにある崖の上に立ちました。

 山の向こうの西の空には、いかにもといった暗雲が立ちこめています。ゴロゴロと雷も鳴っていました。

 あんなのが街までやってきたら――全て台無しです!


「皆さん、行きますね! 光の精霊さんたち、わたしに力を貸してくださいっ!」


 四人が見守る中、わたしは瞳を閉じて両手を空へと掲げました。

 そして東の空に登る太陽から、光の精霊の力をたくさんいただくのです。

 普段魔法を唱えるときは、呪文を心の中で唱えるだけでしたけど、今回みたいな大きな魔法の場合は例外です。

 可能な限り多くの精霊の力をもらうため、大声で精霊さんたちに呼びかけ、また暗雲をかき消す具体的なイメージを抱くために瞳を閉じて、魔法の形成に集中していました。

 そうでもしなければ、成功はありえないんです。


 掲げた両手に光の精霊が集まり、強いきらめきと熱さを感じるようになりました。瞳を閉じていても分かります。


「綺麗だな……」


「本当です。まるで――太陽のようです」


 背後からそんな声も届きます。


 そして力が集まって、「これならいける!」、そう思った瞬間、わたしは目を見開いて、


「光の精霊さんたちよ、束となって、悪い雲を貫いてくださいっ! いっけぇぇぇええっっ!!」


 手の中の光を、西の空向けて放射したのです。

 瞬間、まばゆくて太い光の筋が勢いよく飛び出して、その反動で強く後ろに吹っ飛ばされそうになりました。

 でも四人が、わたしを背後から支えてくれます。――ありがとうございます!


 光の筋が暗雲の中心部に届くと、まるでインクが水面に広がるように、一瞬のうちに黒い雲が綺麗さっぱりと消えて、青い空が現れました。

 ――わたし、やったんです!


「すごいっ、すごいですわっ、七菜さんっ!」


「まさかこんなことができるなんて……すごいな、お前」


「やっぱり――天才ね」


「さすがよ、七菜。お姉ちゃん嬉しいわ!」


 わたしを支えてくれた皆さんが、各々言葉を掛けてくれます。


「はいっ、わたし、頑張りましたっ!」


 自らの才能に驚きながらも、わたしはいつものように元気に笑顔でそう答えたのでした。

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