20. メイドさんとお姉ちゃん -後編-
翌日、朝の時間はゆっくりとしてから、お昼過ぎにお姉ちゃんと一緒に街へと出かけます。
わたしが案内役……のつもりですが、正直まだあまりこの街を散策したことがないので、ガイドさんのようなことはできません。
できることは、商店街のお店、シンボルの時計塔、噴水広場などなどを一緒に見学して、サリスモニカの雰囲気を味わってもらうことだけです。
街の見学の間、わたしはずっとお姉ちゃんの手を握っていました。
迷子にならないようにというだけでなく、お姉ちゃんの体調の異変にすぐ気づけるようにという意図もありました。
無事、何事もなく中心市街の散策も終わり、お姉ちゃんは「歴史があって温かくていい街ね」と微笑んでくれました。
星祭りの会場である、神社にも訪れました。
街の人々が、設営の続きをしている中で、都和さんはほうきを手に境内のお掃除をしていました。
「こんにちは、都和さん!」
「ごきげんようですわ。あら? そちらの方は――」
「はい! わたしのお姉ちゃんです!」
「六花・レナルミカです。いつも七菜がお世話になっています。妹のことが気になって、はるばるピロリアフィオナからやって来たんです」
「こちらこそよろしくお願いいたしますわ。遠いところからここまでお越しいただき、嬉しく思いますの。ふふっ、七菜さんにはいつも楽しませてもらっていますわよ。
ところで、今週の日曜日にお祭りがあるのですが――」
「伺っています。その日まで、こちらに滞在させていただくつもりですよ」
「まぁ! それは良かったですわ!」
都和さんは胸の前で手を合わせて、満面の笑みを浮かべました。
「そうです! お姉ちゃんもお願い事を書きましょうよ!!」
境内の笹には、昨日よりも多くの短冊が取り付けられていて、そよ風になびくのがとても涼やかでした。
都和さんにお願いして、昨日作ったお客様用の短冊を一枚いただきます。
お姉ちゃんは、マジックペンを片手に、
「やっぱり、『七菜の幸せ』かしら? いいえ、それとも――『家族の幸せ』……」
「それ、わたしと同じ願い事です!」
「やっぱり――同じ事を考えるのね」
書いた短冊を、笹の葉に結びつけました。
姉妹二人で同じ願いを託したのですから、きっと……お星様は願い事を叶えてくれますよね?
わたしはふと、昔のことを思い出しました。
*
この国の北にある大国――ノノキアの、魔法使いの集まる街にわたしは生まれました。
実家は、ご主人様のお屋敷にも勝るとも劣らない、立派なお屋敷でした。
お母さんは、わたしを産むとすぐに亡くなって、幼い頃はお父さんや日雇いの家政婦さん、家庭教師のもとで育っていった記憶があります。
お父さんも、わたしが六歳くらいの頃に行方不明になって、幼いわたしたちだけが取り残されましたが、魔法の才能があったということもあり、周囲の助けを借りずとも生きていくことができました。
魔法学校では優秀な成績を収め奨学金を手に入れ、またそこで鍛えた魔法を「実践」へと活かしお金を儲けていたのです。
「仕事」の関係で家にまったく戻らなかったり、食事なんかも各人が行ったりで、一つ屋根の下で生活をしていましたが、もうその頃から各々の心はバラバラだったように思えます。
わたしはどういうわけかお料理がさっぱりできなくて、キッチンに入れてもらえなかったので、六花お姉ちゃんと一緒にご飯を食べることが多かったですが、そういう意味ではこの「呪い」に救われていたのかもしれません。
昔から六花お姉ちゃんだけ、姉妹という関係でありながら、他のお姉ちゃんとはかなり違っていました。
基本的に、人は一種類の精霊としか仲良くなれず、その属性の魔法しか使えないのですが、火・水・雷など基本的な魔法だけでなく、わたしの得意な光の魔法や、三番目のお姉ちゃんが得意な闇の魔法まで使いこなせるようでした。
曰く、どんな精霊とも心を通わすことができるのだとか。
それなのに生まれてこの方、魔法を私利私欲のために使ったことがありません。
魔法はどうしてもというときだけ、人の幸せのため。――そう言っていました。
でもだからこそ家では変な目で見られていて、「臆病者」だとか「偽善者」だって陰口をたたかれていました。
わたしも六花お姉ちゃんはそうなのだと、上の姉たちから偏見を抱かせられていて――結果、そそのかされるがままに、大変なことをしてしまったのでした。
お姉ちゃんたち、世界のどこで活躍――いえ、暗躍をしているか分かったものではないですけれど、願いを叶えるためには、星に祈りを託すだけでなく、わたしたちの頑張りが必要なのかもしれません。
風に揺れる短冊を見て、不意にそう感じたんです。
*
翌日は、わたしの職場であるお屋敷を案内しました。
ホールに、禅部屋、使用人室、キッチン、応接室、執務室、お庭などなど、ご主人様に許可を取って屋敷の隅から隅まで紹介しました。
その後、お姉ちゃんが瑠璃さんと一緒に台所に立って夕飯を作ったり、ご主人様の提案でせっかくだからと四人でお風呂に入ったりと、特別な時間を過ごしました。
そんな幸せな時間が続き、お祭りの前日――土曜日を迎えます。
でもなんとなく、朝目覚めた瞬間に、胸が締め付けられるようなイヤな予感がしたんです。
そして、それは――勘違いではなかったようです。
朝、屋敷の玄関を掃除していると、駆け足で石段を登る音がしました。
白衣と緋袴という巫女装束の女性――都和さんでした。
ただいつも浮かべている笑顔はそこにはなく、表情は不安さでいっぱいで、全身汗でびっしょりでした。
わたしを見つけるや、両肩をがっしりと掴んで、
「大変ですのっ! 大きな雨雲が、こちらに向かってきていますの!!」




