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魔法は得意ですけど、メイドさんとして頑張ります!  作者: ぺこ菜ほのめ子
第三章 おまつり
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18. メイドさんと会場設営

 今日は、七月(モルニカグロリア)第二週の水曜日(リア・メルクレイリア)

 お祭り当日まで、残すところあと四日です。

 本日は休日ですが、だからこそ街の人たちもこぞって星祭りの会場設営に躍起になっているようです。


 わたしたちのお仕事――短冊作成の進捗はどうなっているかと言いますと――


「やりました! ついに、終わりました~!」


「……やり遂げたんだな、私たち!」


「お疲れ様ですわ! これで計二万と五千枚の短冊が完成ですの!」


 あの日以来、コツコツと作成を進めていって、ようやく今日、全ての短冊に穴を開け、ひもを通すことができたのでした。

 ちなみに短冊一万枚は当日のお客さんのために保管をしておくようで、商店街に渡す必要もなく、これでわたしたちの設営準備はおしまいになります。

 後は、商店街の方々や都和さんがうまくやってくれるでしょう。


 神社の境内にはすでにたくさんの笹が用意されていていました。

 わたしたちが必死で短冊を作っている間にも、願い事の書かれた色とりどりの短冊がもうすでに結びつけられていました。


「家族が健康でいられますように」

「無事平穏」

「家を建て替えたい」

「彼女と結ばれますように」

「税金を安くして欲しい」

「お医者さんになりたい」

「猫になりたい」

 ……いろいろな筆跡で、いろいろな願い事が掲げられています。


 中でも、割と目についたのが、

「魔法使いになりたい」

 大抵、子供らしいつたない筆跡で書かれています。

 ……う~ん、ちょっとこれはどうかと思いますよ。気持ちは分かりますけど。

 経験者の立場から言わせてもらいますと、魔法を使えたら確かに将来は約束されるかもしれませんけど、それでかえって不幸になることもあるんですから!


 そんな風にしてお願い事を見ていると、短冊を手にした十歳くらいの子供が、笹を見上げていました。

 どうやら高いところに取り付けたいけれども、自分の背丈じゃそれは無理でどうしようか悩んでいる模様……。

 するとそれを見かねた瑠璃さんは、すかさず彼女の股の下に自分の頭をくぐらせてあげます。


「よっ……と。これなら高いところも届くだろう?」


 肩車です。

 背の高い瑠璃さんですから、笹の上の方も楽々届いてしまいます。

 お嬢さんは、「おー高い高いー」って言ってとてもはしゃいでいました。

 そういえば、瑠璃さんって昔は小さい子のお世話をしてあげていたんですよね。

 道理ですぐに、こういう対応ができるんだなぁと感心いたしました。

 長年妹ばかりをやってきた、生粋の妹のわたしにとっては、そんなお姉さんな瑠璃さんを見てほっこりとできました。


 向日葵のお花も魔法で用意して、それを知り合いから譲り受けたものとごまかして、都和さんにお渡ししました。

 今はまだ、茎をお水につけている状態で日の目は見ませんけれど、きっとお祭りの当日には、黄色い大きな花が、会場を彩ってくれるのだと思います。


 ちなみに会場の方なんですけれど、ちょうど商店街の主に男性陣が、屋台の設営を行っているところでした。

 駅から神社までの道を挟むように、台とテントと紅白幕と、それらを支える木の棒でできた屋台が作られていきます。

 テントには、「とうもろこし」とか「焼きそば」とか、出し物の名前がいろいろと書いてありましたが、「わたあめ」とか「りんご飴」とか「輪投げ」とかが、特にわたしの注意をひきました。

 それらがどういうものか見たことがなかったので、興味津々だったからです。

 飴ってフツーは硬いですよね?

 それなのにふわふわした綿ってどういうことでしょうか?

 りんご飴って、りんごの形をした飴のことでしょうか?

 輪投げって、どういう遊びでしょうか?

 想像はつきません。

 お祭り当日が楽しみです!


 通りを歩きながら、そういう風にして屋台の見学をしていると、商店街の方に声を掛けられました。

「短冊、ありがとうな!」

「あなたって、あのお屋敷のメイドさん? 初めて見るわねー」

「あー、あの、わずか十歳で小説を書いている、あの天才美少女作家さんのお屋敷の!」

「最近、瑠璃ちゃんの他にメイドを雇ったっていう噂だけど」

「今度うちに来てね、サービスするから!」

「そのメイド服可愛いわね。うちの喫茶店の制服にもしようかしら」


 ……などなど。

 ご主人様って、滅多に外出されませんけれども、「若干十歳の天才美少女作家」として、こうして街でも有名なんですね。

 まあ、確かにフツーの十歳が小説家さんなんてやってたら、それは話題になりますけど!

 でも、良かったです。

 ご主人様、街の方たちと実は打ち解けているみたいで、これにもほっこりとさせられました。


「今日まで、いろいろと細かい作業をありがとうございますわ」


 設営の様子を見終わって、石段の下まで戻ってくると、深々と頭を下げました。


「どうってことはありません、都和お姉様。もしまた何かお手伝いすることがあれば、何でも言ってください」


「瑠璃さんの言うとおりです! 持ちつ持たれつですから」


「ありがとうございますわ。二人とも」


「後は、当日を迎えるだけですね! そういえばお天気って――」


 星祭りですから、雨はもちろんのこと、たとえ曇りでも興をそがれるというものです。

 肝心の夜空が、黒い雲で覆い隠されてしまいますから……。


「それは問題ありませんわ。天気予報によると、今日から日曜日まで、ずっと快晴ですもの!」


「それは良かったです!」


 お天気予報は、まず滅多に外れません。

 というのも、資格を持った風の魔法使いが風の精霊の声を聞き、一週間後くらいの天気までぴたりと当ててしまうからでした。

 だからわたしはそれを聞いて、とても嬉しくなりました。

 見上げれば、満天の星空――

 わたしたちの願い事が、星へと託される――

 そして食べて、遊んで、踊って――最高の一日になりそうです。


 是非とも、お姉ちゃんにも来て見てもらいたかったですけれども、それは残念ながら無理ですよね。

 そうです!

 いっぱい写真を撮って、またお姉ちゃんに送ってあげましょう。

 そうしたら、きっと喜んでくれるに違いありません!


    *


 お屋敷に戻ると、瑠璃さんは夕食の準備を始めました。

 お休みですけれども、ご主人様は執務室に今日はこもっていらして、手持ち無沙汰なわたしは、お庭の椅子に腰掛けて、青空の下で読書を行っていました。

 もちろん読んでいるのは、「天才美少女作家さん」の作品です。

 強大な魔力を持った魔法使いの女の子が主人公で、悪い魔法使いやドラゴンと戦ったりするファンタジー小説でした。

 爽快感があって、ついつい物語に没頭してしまいます。

 そういえば、お姉ちゃんにも同じ本を送ったんでしたっけ?

 もう読んでくださっているのでしょうか――?


 そんな折、石段の方からコツコツと階段を上る音が聞こえました。

 お客様でしょうか?

 本を閉じて、わたしはお迎えに上がります。


「――――!」

 でも――「お客様」の姿を見て、言葉を失ってしまいました。

 リボンで束ねた、長い栗色の髪。

 わたしと同じ、エメラルド色をした瞳。

 いつもわたしを慰めてくれた、おだやかな表情。

 そして――見覚えのあった、群青色のエプロンドレス。


 涙が止めどなく落ちてきてしまいます。

 どうして? なんでここに? 病院はどうしたの?

「お姉ちゃんっ!」

 いろいろな感情がない交ぜになって爆発して、彼女の胸に飛びつきます。

 お姉ちゃんは、いつもの陽だまりのような優しい微笑みを浮かべて、


「来ちゃった」


 そう口にするのでした。

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