17. メイドさんと願い事
星祭りの設営で、わたしたちメイドが請け負ったのは、主に小物の準備でした。
神社の拝殿奥にある東屋に集まり、テーブルの上に赤・白・黄・青・紫――色とりどりの短冊を並べます。
短冊は、縦二十センチ・横七センチくらいで、薄いビニールでできていました。
ビニールなので、万が一の雨にも強いですし、見た目だって透き通っていて、とても涼やかです。
「短冊に穴を開けて、ひもを通すんですね……」
パンチを使って短冊の上部に穴を開け、そこに十センチほどの麻ひもを結ぶようです。
「そうですの。短冊はお祭りの肝ですけど、準備は割と単純作業ですのよ」
ちなみに、穴を開けてひもを通した短冊は商店街に配り、住民の方がお買い物のときに受け取れるようにするらしいです。
そして持ち帰って各々の願い事を書き、神社に用意されている笹に吊すのだとか。
「都和お姉様。全部で何枚くらい用意すれば――」
「そうですわね。今日は最低でもざっと五千ほど」
「「ご、五千!?」」
声を揃えて驚愕します。
五千なんて、とても果てしない作業のように思えたからです。
「あらあら、何をそんなに驚いているのやら。この街の人口は、約二万。書き損じたり、欲張りな方は一人で二枚以上短冊を書いたりしますし、それに当日いらっしゃるお客様の分も合わせれば、五千ではとてもじゃないですけど足りませんわよ。
まあ……街の全ての人が短冊を書くわけではないですし、それでも最終的には二万五千以上は用意したいですわね」
「「に、二万五千……」」
五千なんて、半分もいってないじゃないですか!
「うぅ~ん、なかなか大変そうですね……」
「そうだな。だがやってみれば、案外分からない」
「そうですわね。これは単純な作業ですから。穴を開けて、ひもを通して結んで、完成物をダンボールに入れる。慣れてくれば、一件ものの十秒ほどで片付くはずですわ」
「となると、一分で六件。一時間で三六〇件。三人でやれば、五時間と言ったところか……」
「でもぶっ続けでやるのは、あまりにも苦痛ですわ。時折お茶をしながら、おしゃべりもしながら、楽しくやっていきましょうね」
そんなこんなで六時間ほど掛けて、パッケージに入って綺麗に並んでいた五千枚の短冊は、紐付きの、すぐに書いて笹に結べる短冊へと進化しました。
もう太陽は西の空に沈み掛かり、わたしたちの街をあかね色に照らしていました。
「やり遂げました~!」
ひたすら単純作業でしたが、やり終えると大きな達成感に満たされて嬉しくなります。
「ああ、なんだか嬉しい……な」
瑠璃さんも、いつになく微笑んでいます。
「ありがとうございますわ。でも……このペースですので、明日も明後日もあるということお忘れなく、ですわ。うふふっ」
「「うっ……」」
……そうでした。
明日も、明後日も、明明後日も……まだまだ出荷すべき短冊は残っているのでした。
う~ん、やっぱり単純作業はちょっと向いてないかもです。
「そうですわ。短冊もそうなのですが、実はお花も用意しておきたいのですが――」
「お花ですか?」
「短冊や笹と一緒に空へ捧げたり、神社を華やかにするために必要ですの。欲しいお花は、朝顔・桔梗・百合・撫子・向日葵なんですけど」
「でも向日葵って、まだまだ時期的に早いですよね?」
「そうだな、このあたりでは早くて来月の初めあたりに咲くと思うが……」
「そうなんですのよね。お花屋さんに行っても、やはり向日葵は扱っていないようで。去年はこの国より早く向日葵の咲く国から取り寄せたんですけれども、今年はうまく手に入らないようで……」
困った表情を浮かべます。
向日葵といえば、大輪の花を咲かせる黄色いお花。
あるとないとでは、華やかさが全然違ってきます。
お祭りは絶対に成功させたいんです。
それならば――
「……あ、あのっ。向日葵なら、もしかしたら手に入れられるかもしれないです!」
「本当ですの?」
「お姉ちゃんのお友達の親戚の方が、向日葵を育てていまして、結構南の地域なので、もう花を咲かせていると思います!」
もちろん大嘘です。
向日葵の種を買って、光の魔法を使って、一晩の間にお花を咲かせる気満々です。
ご主人様や都和さんはわたしのことを知っていますし、こういう誰かをしあわせにする魔法ならお姉ちゃんも許してくれるでしょうし、あと問題は瑠璃さんをどうだまくらかすかということですけど――
「本当か? それならばすぐに手配してくれ!」
嘘の話を信じてくれたみたいで何よりです。
内心にっこりと微笑みます。
「分かりました。では戻りましたら、病院にいるお姉ちゃんにお手紙を書きますね!
ということで都和さん、安心してください! 向日葵はちゃんと手に入りますから!」
「七菜さん、ありがとうございますわね」
満面の笑みを咲かせてくれました。
さて、後でこっそりと向日葵の種を買っておくのを忘れないようにしないといけませんね!
*
作った短冊を、屋敷へ戻るついでに商店街のお店に届けます。
今年は、雑貨屋の羽美さんが短冊を商店街の人たちに割り振ってくれるらしく、それらを小分けしてたくさんあるお店に配るというようなお仕事は必要ないようで助かりました。
街ですれ違った幼い子供には、直接短冊を分けてあげました。
ただの短冊なのに、もらっただけで舞い上がって、今日一生懸命やったことも報われた気がしました。
「なるほどね。今日は短冊作りをやったの」
お屋敷に戻ると、ご主人様はお庭で読書をしていらっしゃいました。
瑠璃さんがココアをすぐに用意し、三人でテーブルを囲むと、今日の進捗をご報告します。
「そして明日も短冊作り、明後日も短冊作り、明明後日も短冊作りです!」
「あら、そうなの! ふふっ、なかなか大変そうなのね」
「はい。ところで――ご主人様、私たちの分もいただいてきました」
瑠璃さんはバスケットから十枚ほどの短冊を取り出しました。
「ここに願いを書いて、短冊を吊すのよね?」
「ええ、そうです」
ご主人様はまだ何を書くか決まっていないようで、唇に手を当てて、思案に耽ります。
一方で瑠璃さんは、マジックペンのキャップを外すと、さっそく短冊に願い事を書き始めます。
書かれた願い事は――「ご主人様が健康で元気にいられますように」
「これ以外の願い事は私にはありません」
「あら、ありがとう。でも――何か重要なことを忘れていないかしら?」
「重要なこと?」
「隣にいる人のことよ」
言われて、瑠璃さんは右隣に座るわたしの方に顔を向けます。
「……そうですね」
瑠璃さんは、「ご主人様」と「が」の間に、「と七菜」を加えました。
でもご主人様は不満げな顔をして、
「自分を大切にできない子は嫌いよ」
「……!」
言われて、「七菜」の後に「と私」を慌てて追加しました。
「願い事、迷っちゃうわね。わたしは――ちょっと決まらないみたい。
ところで、七菜はどうするの?」
「……お前は、もう決まっているだろう?」
瑠璃さんは、おそらくお姉ちゃんのことを言っているのだと思います。
そうです。やっぱり真っ先に考えちゃいました。
お姉ちゃんの病気――いえ、呪いが消えてなくなりますように。
そして元気でいられますように、って。
「そうですね。お姉ちゃんのことを書きたいです。でもご主人様や瑠璃さんも幸せでいて欲しいですし――」
「それは安心しろ。私の短冊で叶えてやるから」
「ありがとうございます! ……実は、ちょっと迷っているんです。お姉ちゃんだけじゃなくって、家族のことを書こうかな……って」
「七菜は確か、七姉妹の末っ子なのよね」
「だが喧嘩をして、六番目のお姉さん以外とは疎遠だって……言っていたっけか」
お姉ちゃんが元気になるのもそうですけど、本当は、一番目から五番目のお姉ちゃんとも仲直りしたいんです。
戦争で人を殺したり、魔法を用いた兵器の開発に協力したり、意図的に自然災害を起こしたりと、はっきり言ってお姉ちゃんたちは最悪です。
私利私欲のために、人を不幸にしているのですから。
でも上のお姉ちゃんたちだって、六花お姉ちゃんと同じ血が流れているんです。
人に優しくできるはずなんです。
そしてきっといつの日か、しでかした過ちに気づいて反省をしてくれるはずなんです。
そう、それは昔のわたしのように――。
上のお姉ちゃんたちの行方は、ピロリアフィオナにやってきたときから、一切耳に入ってきませんでした。
もしかしたら六花お姉ちゃんは知ってるかもしれませんが、それを聞いたりはしませんでした。
きっと相変わらず、魔法の力で悪いことをして、お金儲けをしているんでしょうけど――
「家族みんなで幸せに暮らしたい」
いろいろと考えたあげく、わたしの願い事はこうなりました。
六花お姉ちゃんが元気になって、一果お姉ちゃん、二葉お姉ちゃん、三葉お姉ちゃん、四埜お姉ちゃん、五樹お姉ちゃんが戻ってきて、そしてここには瑠璃さんもご主人様も含まれています!
ちょっと欲張りなお願い事かもしれませんけれど、これくらい望んでもバチは当たりませんよね?




