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魔法は得意ですけど、メイドさんとして頑張ります!  作者: ぺこ菜ほのめ子
第三章 おまつり
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16. メイドさんと巫女さん

 街の灯は消えて、神社の提灯のほの赤い光だけがともる夜。

 笹に吊された色とりどりの短冊に記された願いが、漆黒の夜空に瞬く数多の星々へと託される。

 それは、一年に一度の、特別な「お祭り」――。


「……それって、とっても素敵でしょう?」


 六月(ヴィオラルミカ)が終わり、七月(モルニカグロリア)がやってきました。

 比較的おだやかな気候のこの国ですが、おひさまが顔を出す時間も日に日に長くなる今日この頃で、つい今朝メイド服も半袖タイプの夏服に衣替えしました。

 ……そんなことはさておき、わたしたちは禅部屋に集まり、お客様――都和(とわ)さんのお話を聞いていました。


「そうですね~。星に願いを託すって、なんだかロマンチックで素敵です!」


 要は、近々この街で、大きな夏祭りが開かれるということでした。

 街を上げて行うサリスモニカの伝統行事らしくて、お祭り当日は星に願いを託すだけでなく、神社の境内に露店が並び、周囲の街から観光客がたくさん訪れ、食べたり遊んだり踊ったりするのだとか。

 ちなみにご主人様も、このお屋敷にお住まいになってからまだ一年経っていないそうで、この行事は初耳とのことでした。


「で、都和お姉様。その星祭りとやらは、いつ開催されるんですか?」


「再来週の日曜日(リア・リィア)ですの」


「そ、それって、ホントにすぐじゃないですか!」


 急な話で驚きます。


「そうなのよ~。でもまだまだ準備が進んでいなくって……」


「なるほどね。あなたがなぜ今日ここに来たのか、よく分かったわ」


 ご主人様はにやりと笑います。


「あら、察しになりましたの? ふふっ」


 都和さんも、クスクスと笑います。


「要は、星祭りの準備を手伝って欲しくてここに来たのよね」


「うふふっ、正解ですわ」


「星祭りのお手伝い……ですか?」


 わたしたちは首をかしげます。


「わたしは構わないわよ。瑠璃と七菜、二人出してあげるわ。と言っても、拒否権はないんでしょうけど」


「そうですわね。商店街の方々はもちろん、当日露店を出してもらったり、設営を手伝ってもらっていたりしますし、その他の街の方々にも初穂料の名目で、お祭りを運営するお金をいただいていますから。

 こんな大きなお屋敷にお住まいのお嬢様が、何もしないのはちょっと……ですわね。世間体というものもありますし。ふふっ」


「というわけよ。瑠璃、七菜、都和のお手伝いをしてあげなさい」


「し、しかし、メイドとしての仕事が――」


「何をしていいのか分かりませんけど、足手まといになってしまうんじゃ……」


「はぁ。あなたたちったら、こういう行事にはもっと積極的に取り組まないと。

 別に、二十四時間ずっとこのお屋敷のために働いているわけじゃないでしょう? 瑠璃、あなたは午後、手持ち無沙汰になったとき、警備と称して屋敷の中をぶらついているでしょう? そういう無駄な時間なら、都和のために使ってもいいんじゃないの?」


「そ、そう言われると、そうですが――」


「お祭りの手伝いが瑠璃に負担を掛けてしまうのなら、掃除なんかの仕事量をいくらか減らしてもいいわ。どうせ来月の頭には大掃除をして、屋敷中綺麗にしちゃうんだもの。あ、でも料理の手を抜くのは何があっても許さないわ。

 都和、あなたには来月の大掃除の時にはまた手伝ってもらうのでよろしくね」


「あら、やっぱりそうなるんですのね」


「当たり前よ。屋敷中の隅から隅まで掃除をして、普段洗わないカーテンや絨毯まで綺麗にするのに人手が足りなすぎるもの」


「そうですわね。『持ちつ持たれつ』という奴ですわね」


「そう、『持ちつ持たれつ』なのよ。相互扶助なのよ。今月はお祭りを成功させるために、あなたたちが都和を手伝う。そして来月は屋敷の大掃除のために、都和があなたたちを手伝う」


「なるほど……です」


 わたしは、かつてご主人様が「人は一人じゃない」「回りに支えてくれる人がいる」とおっしゃっていたのを思い出していました。


「それに何より、きっとこれはあなたたちの社会勉強になるはずよ。屋敷の中では得られなかったであろう……ね。

 特に七菜、あなたはただでさえ屋敷の外と交流することが少ないんだから、この機会、逃しちゃダメよ。何をやるか、何ができるかなんて気にしないで、普段のあなたらしさを持ってやりなさい。

 二人ともいいわね!?」


「「はいっ!」」


 こうして、わたしたちは「星祭り」の設営を手伝うことになったのでした。


    *


 星祭りのお話も終わり、彼女を見送るついでに、都和さんの管理する神社を訪れることになりました。

 神社は、サリスモニカ駅西側の高い丘の上にあって、駅を挟んでお屋敷とはちょうど正反対の方角にありました。

 長い長い石段を上ると視界が開け、ようやく丹塗りの大鳥居の下にたどり着きます。

 わたしは本物の神社をこれまで見たことがありませんでした。

 本の中でしか見たことのない、砂利を敷いた参道や、魔獣をかたどった石像、清浄なお水が湧き出る石の箱や、お金を入れると願いが叶うらしいお賽銭箱、それに立派で大きな建物があって、その落ち着いた雰囲気の空間に、わたしは息を呑みます。


「わぁ~、これが神社なんですね! すっごい素敵です!」


「あら、喜んでもらえて嬉しいですわ」


 都和さんは、初めて神社に入って興奮するわたしのことを見て、くすりと微笑みました。


「そうですの。神社の境内も素晴らしいのですけれど、もっといい場所がありますのよ」


 そう言って境内の奥の、生い茂った笹と獣道の先にある、開けた空間にわたしを案内してくれます。

 そこは崖になっていて、胸の高さほどもある高い柵が、空と地面を隔てる境界線になっていました。


「ここからサリスモニカの街が一望できますのよ」


「わぁ~~!」


 街で一番背の高い建造物――時計塔。

 連綿と続く赤い屋根。

 建物の赤とコントラストを描く、緑の木々。

 そして中心市街をぐるりと囲むように流れる大きな川。

 そしてそんな街の上を歩く、この街の人々。

 高い高い丘の上から見るこの街はやっぱりとても素敵で、そして新鮮でした。


「高いところから見ると、こんな風に見えるんですね! 人も建物も小さく見えて、まるで昔遊んだおもちゃのお家みたいです!」


「そう。ここはこの街で一番眺めのいい場所――わたくしのお気に入りですもの。ほら、向こうに玲櫻の屋敷も見えますでしょう?」


 遠くの、黒い屋根の立派な屋敷を指差します。


「ホントです!」


「時折、ここから屋敷の様子をうかがうんですの。双眼鏡なんかを使えば、庭に出ている玲櫻や瑠璃たちを見ることもできるんですのよ?」


「そうなんですか~!」


 わたしは手すりをしっかりと掴んで、右手を大きくわたしの家に向けて振ってみました。

 おそらく気づいてはくれないでしょうけど!


「それはそうと、七菜さん?」


「はい、なんでしょうか?」


「あなた、魔法が使えるんですのよね? うふふっ」


「ええっ!?」


 こんなに素晴らしい景色を見られていい気分だったのに――まさに青天の霹靂でした。

 ご主人様に続いて、都和さんまで!?

 そういえば、都和さんはご主人様のお友達ですから、もしかして、ご主人様がわたしの秘密をバラして――?


 でもまだそう決まったわけではありません。

 とりあえずは、こんなときの決まり文句です。


「な、何をおっしゃってるんですか……。魔法なんて使えたら、魔法学校に通うに決まってるじゃないですかー」


 ちょっと諦めがついてしまっているのか、とてつもない棒読みでした。


「そうですわよね。フツーなら」


「わたし、何の取り柄もない、ごくごくフツーの女の子ですよ?」


 都和さんの、笑顔なんですけど、どこか裏を感じさせるその表情に、冷や汗が出て来ます。


「七菜さん。隠す必要なんてありませんわ。いまここにはわたくしたち以外誰にもいませんから、改めてちゃんとした自己紹介を、と思っただけですの。

 わたくし、都和・クロキエグミリアはごくごくフツーの巫女さんですわ。

 でも巫女ですから、ちょっとだけ魔力とか霊力に敏感なんですのよ? そういう血を受け継いでいますから。

 だからわたくしには隠し事は無駄で、たとえ魔法で隠蔽していてもわたくしにはバレバレなんですの」


 穏和な笑顔を浮かべて、「ちょっと不思議な力があること」を告白しました。


「……じゃあご主人様のこともやっぱり――」


「もちろん存じておりますわ。そもそも、玲櫻と最初に知り合った人間は、わたくしが初めてでしたから」


「都和さんは、魔法使いさんなんですか?」


「いいえ、先ほども申し上げた通り、わたくしはフツーの巫女ですの。魔力や霊力や不吉な予感を感じたり、占いでちょっとした未来を読むことはあっても、あなたたちのように、精霊に語りかけて火や水を操ったりといったことはできませんわ」


「そうです! 神社にいる神様のおかげで、魔法が使えるっていう噂がありますけど――」


「あらあら、何のことやら。わたくしにはさっぱりですわ。ふふっ」


 またまた、何を考えているのか分からない柔らかスマイル。

 初めてお会いしたときもそうでしたけど、やっぱりつかみどころがありません。


「七菜さん。ちょっとだけ――真剣な話をさせていただきますわ」


 でも――彼女が眉間にしわを寄せ、声のトーンを若干低くして語り始めるのを聞くと、わたしたちを取り囲む空気が張り詰めたのを感じました。


「……真剣な話ですか?」


「いまこうして、わたくしとあなたが互いの素性を明らかにしたのは、他でもありませんの。わたくし、占いをよく行うのですが、近々サリスモニカに何か不吉なことが訪れるような気がしてなりませんの。

 しかもそれは――星祭りの日」


「不吉なこと――?」


「具体的には何か分かりません。ですが――何か魔法の力で大きな災いが起きるような、そんな気が――」


「魔法の力って……」


 わたしの周りにいる魔法使いっていうと、ご主人様、それからわたし。

 わたしやご主人様のせいで、何か不幸せなことが起きてしまう――?


「……いいえ、ありえませんよ! わたしは、滅多なことがなければ魔法なんて使いませんし、ご主人様だってそうです! それに他の人を不幸にする魔法は絶対に使いませんから!」


 それはお姉ちゃんとの絶対の約束でしたから。


「――そうですわね。七菜さんや玲櫻が、災いを起こすなんてありえませんわよ。ふふっ、占いなんて『当たるも八卦当たらぬも八卦』ですものね」


「はいっ。絶対に大丈夫です。だから、一日一日星祭りに向けて準備をしていって、最高のお祭りになるよう、一生懸命頑張りましょう!」


 そうです。

 未来は誰にも分からないんです。

 良い方向に進むのか、悪い方向に進むのか、神様だけが知っているんです。

 だから――今を一生懸命生きるしかないんです!


 「星祭り」――絶対に成功させたいです。

 そして、わたしの願いも星に届けばいいなと思うのでした。

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