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魔法は得意ですけど、メイドさんとして頑張ります!  作者: ぺこ菜ほのめ子
第二章 にちじょう
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11. メイドさんとピクニック -後編-

 当日はお休みということもあり、わたしたちメイドもいつものメイド服ではなく、各々の私服を着てお屋敷前にやってきた馬車に乗り込みました。

 わたしはこちらにやってきてまだお洋服を買っていないので、学校の制服でもあった青いエプロンドレスを、瑠璃さんは白いブラウスとコルセットスカートを身につけていました。

 ご主人様は、漆黒の膝上ワンピースでした。

 動きやすそうで、ピクニックにはぴったりだと思います。


 馬車はサリスモニカを出て、舗装されていない道を走り、ものの四十分ほどでアデルカステラの郊外にある丘に到着しました。

 丘の上に、尖塔が印象的なお城が建っていて、その周囲には見渡す限りの緑が広がっています。

 わたしたちは、木の下にレジャーシートをひいて、まずご主人様がその上に腰掛けました。


「あなたたちも立ってないで、座ったらどう? 今日はお休みなのよ。わたしに仕える必要なんてないわ」


 その言葉を受けて、わたしも瑠璃さんもシートの上に並んで腰掛けました。


「そよ風が気持ちいいですね~」


 この辺りは周囲に建物などの障害物がほとんどなくて、風の通りがとても良かったです。

 瞳を閉じて、野原を撫でる爽やかな風と香りを全身に感じます。

 まるで故郷に帰ってきたかのような心持ちでした。


「ちょっと早いけど、お昼にしましょうか」


 ご主人様がそう言うと、瑠璃さんは、手にしたバスケットを開きます。

 中には丹精込めて作られた諸々のサンドウィッチが並んでいました。


「いただきます」


 まずご主人様がほおばり、それを見てわたしもサンドウィッチを手にしました。


「そうです。ココアもありますよ、ご主人様」


 わたしは水筒に入れてあった、あったかいココアをカップに注いで、ご主人様の前に差し出します。


「ありがとう。でも、そこまでしてくれなくてもいいのよ。さすがのわたしでも、カップに飲み物を注ぐことくらいはできるもの」


 そう漏らしつつも、ご主人様はわたしの注いだココアをゴクリと飲み干しました。


「外で飲むココアはおいしいわね」


「そうですね」


 わたしもココアを飲みながら、


「お屋敷のテラスで飲むときもありますけど、それよりもずっと気持ちがいいです。広々として、開放感もありますから」


「それにお天気にも恵まれて、木漏れ日もとても綺麗」


 ご主人様は、手のひらを空へと掲げました。

 木漏れ日が艶やかな金髪に降り注いで、まるで光の中にいる精霊を捕まえようとするそのお姿がとても綺麗でした。


「そういえば」


 もう一つサンドウィッチを手にして、ご主人様は言います。


「七菜は、たしか田舎出身だったわよね?」


「そうですね、山に囲まれた小さな町で、こんな緑に覆われた風景が、延々と広がるようなところでした」


「七菜はやっぱり、こういう緑がいっぱいなところが落ち着くのかしら?」


「はい、確かに落ち着きます。

 でも落ち着くというよりかは、周囲に家がまばらにしか建っていないので、動き回ったり、走り回ったり、そういうことができるのに幸せを感じます。わたし、体を動かすのは大好きなので。

 でもサリスモニカの石造りの街も大好きですよ?

 まるで童話の中みたいで、どこか歴史を感じさせる街の空気が好きです」


「ふふっ、奇遇ね。わたしもそうよ。わたしもサリスモニカの街が好きよ」


 ご主人様は笑って言いました。


「わたし、近代的な道具とか、そういうのが苦手なのは知ってるでしょう?」


 掃除機とか、洗濯機とか、バスのことです。

 わたしはうんうんと頷きます。


「どうしても合わないのよ、そういった現代文明の利器といったものが。便利なのは分かっているけど、あの音や臭いが生理的にダメ……なのかしらね。あなたたちが、ほうきで掃除をしたり、馬車に乗ったりするほうが落ち着くのよ。

 そしてもそれは街や家も同じ事よ。わたしは歴史を感じさせるあの街が好き。ちょっと古めかしいあのお屋敷が好き」


「その気持ち、なんだか分かる気がします」


 新しくて便利なこと――すなわち、いいことではありませんから。

 古いものには古いものなりの、良さがありますから――。

 そしてそれはこのお屋敷にやってきて、しみじみと感じていたのでした。


 そんな折、わたしの右肩に突然重みを感じました。

 それは――すぅすぅと寝息を立てて、わたしにもたれかかる瑠璃さんでした。


「あら、瑠璃ったら眠っちゃったのね。それも仕方ないわよね――こんなにもぽかぽかしてうたた寝したくなる気分なんだもの」


 ご主人様はクスクスと笑います。


「……きっと疲れているんだと思います」


「そうね。瑠璃は、いつも働き過ぎだもの。肉体的にも精神的にも、結構な負担が来ているはずよ」

「そうですね……」


 このまま肩に寄りかかられても大変なので、膝枕をしてあげることにしました。

 そして安らかな寝息を立てる彼女の頭を撫でてあげるのでした。


「わたしも、少し休もうかしら……」


 そう言うとご主人様は瞳を閉じて、木の幹にもたれかかりました。


「瑠璃さん……」


 日々のお仕事に疲れて、こんなところで眠りについてしまった先輩の姿を見て、胸が苦しくなりました。

 普段、お仕事では大して力になれないわたし。

 でも――別のアプローチなら力になれるかもしれません。

 わたしも瞳を閉じて、手のひらから瑠璃さんの全身の熱を感じ取ります。

 そして心の中で呪文を唱えて、彼女の口元にそっと息を吹きかけました。

 木漏れ日と光の精霊が放つ白い光が混じり合います。

 ――生命の息吹です。

 傷ついた動物や、枯れた花に魔法を使ったことはありますけど、人間相手に使うのはお姉ちゃんを除けば初めてでした。

 お姉ちゃんの時はうまく行きませんでしたけど、きっと人間にも効くはずなんです。

 瑠璃さんの疲れも、少しはなくなるはずです。

 ご主人様はすぐ側にいますけど、眠っているから大丈夫……ですよね?


    *


「う~~ん、やっぱり緑の中で眠るのって気持ちがいいわね」


 しばらくして、ご主人様は大きく伸びをして紅い瞳を開きました。

 まだ瑠璃さんは、可愛らしい寝息を立ててまどろみの中にいました。


「ちょっと体を動かしたい気分だわ。机に向かってばかりだと、肩が凝るもの」


 立ち上がって、腕をぶんぶんと回しながらおっしゃいます。

 それにはわたしも賛成でした。


「はい。バトミントンとか、やりたいですけど――」


 広場でラケットを手に、羽根を打ち合う子供を見て、自分の率直な願望を漏らします。

 せっかく街を離れて自然の中にやってきたのだから、体を動かしたいんです。


「あら、七菜はバドミントンを嗜むの?」


「はいっ。故郷の学校で、放課後よくお友達と遊んでいたんです」


「そうなの! わたし、やったことないけど、少しは興味はあるわ。

 羽根を落とさないように延々と打ち返し合うのって、シンプルで、それでいて奥が深そうだもの」

「そうですね。でも――」


 わたしたちの手元には、バドミントンの羽根もラケットもありません。

 楽しそうに羽根を打ち返し合う子供たちを、指をくわえて見ていることしかできません……。


「そうね。わたしたちの手元には、何もないわ。

 でも――現状を打開する策は必ずあるはずよ。少し待ってなさい」


「ま、待ってください。どこかへ行かれるおつもりですか?」


「ちょっと向こうに見える林に行ってくるだけよ。

 七菜、あなたはそこで待っているのよ。もうしばらく、瑠璃にいい夢を見させてあげて頂戴」


 そう言い放って、遠くの方に見える林の方へ駆けていきました。

 野原を駆けるご主人様の姿はとても意外で新鮮で、わたしは少しビックリしてしまいました。


「こんなものしかなかったけど、どうかしら?」


 十五分ほどして戻ってきたご主人様は、夏の風物詩・うちわと木の実と鳥の羽根を手にして戻ってきました。

 うちわは穴も空いていない割と綺麗なもので、誰かがいらなくなって捨てたものなのでしょう。

 でも、そんな予想外の結果に、わたしはきょとんとしてしまいます。


「もしかして――これでバドミントンを……?」


「そうよ。うちわはラケットに、木の実と鳥の羽根はバドミントンの羽根になるでしょう?」


 ご主人様は、瑠璃さんが持ってきたバスケットを漁ると、中からソーイングセットを取り出しました。

 おそらく、ご主人様がお召し物を枝に引っかけて破ったときなどに備えて、淹れてあったのだと想います。


「瑠璃ったら、本当に準備がいいんだから」


 そして針で木の実に小さな穴を開けると、そこに柄の部分を差し込みました。


「これで完成よ。どうかしら?」


 ご主人様はしてやったりと言いたげな笑みを浮かべました。


「すごいです……。何もなかったのに、バドミントンセットができちゃいました!」


「わたしはね、負けず嫌いなの。バドミントンをしたいのに、ラケットや羽根がないから、そこで諦めたりなんて絶対にしないわ。どんな形でもいいから、自分の望みを自分の力で実現させたいのよ。

 わたしはそんな風に生きてきたわ」


 うちわで、作ったばかりの羽根をつきながら、そうおっしゃるご主人様はとてもかっこよかったです。


 わたしは膝枕をやめて瑠璃さんをシートの上に寝かせると、うちわを受け取って、ご主人様のお相手をいたしました。

 ラケットも羽根も、普通のバドミントンのものと違いますから、予測不可能な動きばかりして、二人とも全然羽根を打ち返せなかったですけど、でもやっぱり楽しいのです。

 思えば――昔もそうでした。

 コツが全然つかめなくって、ろくに羽根を打ち返せなくても、おひさまの下で体を動かして、友達と一緒に笑い合うのが楽しいんだって。


 ご主人様も、このバドミントンに熱中していらっしゃいました。

 そして――わたしは感じたんです。

 やっぱりご主人様がわたしたちメイドに望んでいるのは、影となり後ろからご主人様を支えるような存在ではなくって、表に出てご主人様と一緒に幸せを分かち合えるような存在なんだって。

 それは言ってみれば――言い過ぎかもしれませんが――「友達」といえる存在なんじゃないかって。

 ご主人様と一緒に幸せな時間を過ごして、ふとそう思ったんです。


    *


 結局、夕方頃まで瑠璃さんはぐっすりと眠っていて、目が覚めたその瞬間にご主人様に深々と謝罪していました。


 ――弛んでいました。ご主人様に見苦しいところを見せてしまいました、って。


 でもご主人様は、それを笑ってあっさりと流していました。

 それはやっぱり、ご主人様が、瑠璃さんのことを(しもべ)でなくって、友達と考えているのだと思うと合点がいきます。


 帰りの馬車で、瑠璃さんはふと、こんなことを口にしました。


「……今日はつい眠ってしまったが、ぽかぽかと暖かくて、爽やかな風が吹く自然の中で休息を取れて、肉体的にも精神的にも楽になれた。

 それに……夢を見たんだ。白い光の中で優しい風が吹いて、体の疲れが全て溶けていくような、そんな夢を――」


 そして――瑠璃さんのリフレッシュもうまくいったみたいです。

 わたしの想いも魔法も――瑠璃さんにしっかりと届いたようで何よりです!

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