第18章 ピラフのおいしい喫茶店
友美に電話を掛けてみた。仕事が終わって、通夜に行くまでの時間に話を聞きたいと申し出ると、仕事を抜け出して会社近くの喫茶店で話をしたいと返された。仕事終わりと通夜までの間には時間が取れないのだという。喫茶店の名前と場所を告げられ、自分は先に行って待っているという。
友美の指定した喫茶店は中央区と秋葉区の境に位置している。友美の勤め先もすぐ近くと聞いた。
喫茶店のドアを開けるとベルが乾いた音をたてる。カウンターに立ったマスターが、いらっしゃいませ、と声を掛けてきた。店内を見回すと、奥のボックス席に座っていた女性が振り向いた。西根友美だ。カウンターと入り口近くのテーブル席に他のお客もいる。友美の選んだ席は、傍らに置かれた観葉植物が目隠しのようになり、秘密の話をするのにはもってこいの席だ。
「大丈夫なんですか? お仕事抜けてきて」
丸柴刑事が業務の心配をする。
「いいんです。会社からは、休んでいいって言われてたくらいですから。そうしようかなとも思ったんですけど、何かしてないと落ち着かなくって出社した状態ですから、ちょっと抜け出すことくらいわけないです」
友美にはおかわりを、私たち三人には新たにコーヒーが運ばれてきて、マスターがカウンター内に戻ったあとで、理真が口を開いた。
「友美ちゃん、単刀直入に言うわ。今日は、アリバイを訊きに来たの」
「そうじゃないかと思ってました」友美は気分を害したような様子もなく、「土曜日のことから話せばいいですか?」
「金曜日の夜、私たちと別れてファミレスを出たあとからお願いするわ」
「分かりました」
友美はコーヒーをひと口飲んでから語り始めた。
「あの夜は藍子ちゃんを送って、そのまま帰りました。私の家に着いたのが十一時半だったから、藍子ちゃんを送り届けたのは十一時二十分くらいじゃないでしょうか。その日はお風呂に入ってすぐに寝たんですけど、夜中に藍子ちゃんから電話が掛かってきて。保さんの件でした。お母さんやお兄ちゃんを起こそうかとも思ったんですけど、夜中だったし、私ひとりで藍子ちゃんを迎えに行って病院へ行くことにしました。
病院で皆さんと別れてから、また藍子ちゃんを家まで送って、帰りました。お母さんたちにも知らせなきゃならないんで、目覚まし時計を朝七時にセットしてから寝ました。お母さんはいつもそのくらいの時間には起きてますし、お兄ちゃんも医院があるから、起きている時間ですし。それで、朝起きてお母さんとお兄ちゃんに昨夜のことを話して。二人とも、それはびっくりしてましたよ。お母さんはすぐにお父さんに知らせに行って。お兄ちゃんはすぐにお見舞いに行こうって。医院は休むからって、出勤予定だった看護師さんに携帯電話で連絡してました。入院するなら、色々必要な物があるだろうと、藍子ちゃんの家に寄って、お手伝いさんの福田さんに準備してもらって。私、藍子ちゃんも誘ったんですけど、断られちゃいました。藍子ちゃんに話は?」
理真が、すでに訊いたと答えると、それならもう知ってますね、と友美は言って、
「それで、私たち家族三人で病院へ行くことになったんです」
「病院の売店で飲み物や食べ物を買ったそうだけど。どんなものを買ったか憶えてる?」
「適当に見繕って籠に入れたから……おせんべいや、和菓子とかを選びましたね。保さんの好みが分からなかったから、ご老人が好きそうなものを。あとは、ミネラルウォーター、お茶も買ったかな。私の買ったものが、何か事件に関係あるんですか」
理真は、ちょっと参考までに、などと言って逃げ、先を促す。
「お昼くらいに家に帰って、その日はもう何もする気が起きなかったので、家で部屋の掃除をしたり、本を読んだりしてました。日曜日は友達と買い物に行きました。朝十時くらいに家を出て、その友達を拾って。海のほう、関屋に住んでるんです。高校時代からの同年齢の友達です」
理真はその友達の名前と電話番号を教えてもらった。
「ちなみにどちらへ」
「長岡まで。で、買い物をしてたら、お母さんから電話が来て……保さんが亡くなったことを知ったんです。それで友達には悪かったけど、買い物を切り上げて新潟へ戻りました。友達を家まで送って、自宅に着いたのは三時くらいだったと思います」
「ありがとう、とても参考になったわ。また何か訊きたいことができたら協力してね。それと、今日はお世話になるわ。ごめんね、急に」
「いえ、むしろ嬉しいですよ、安堂さんと江嶋さんが泊まりにきてくれるなんて。皆さん保さんのお通夜とお葬式には?」
理真と私は通夜だけに顔を出すと。丸柴刑事は出ないが、警察を代表して城島警部が出席すると答えた。
「そうですか。じゃあ、家に来るのは、お通夜が終わってからですね。私の家族も全員出席するので、お母さんたちと一緒に帰ることになるかもしれませんね」
「友美ちゃんは一緒に帰らないの?」
「はい、私は藍子ちゃんに付き添って最後までいます。藍子ちゃん、あんまり親戚付き合いとかないだろうし、きっと不安だと思うから。福田さんは色々忙しいだろうし」
面倒見がいい子だ。本当の姉妹のようだ。
「今日のこと、藍子ちゃんに話したら、自分も泊まりたいって言ってましたよ。でも安堂さんたちはお仕事で泊まるんだからって言い聞かせました。私も残念だな。お仕事じゃなくて、しかも休みの前だったらよかったのに」
「今度、仕事以外でお邪魔するわ」
「絶対ですよ。そのときは藍子ちゃんも呼びますよ。刑事さんも来て下さいね」
友美の視線を受け、丸柴刑事は微笑んで頷く。
「あ、友美ちゃん」
席から腰を浮かしかけた友美を理真が止めた。友美は、何ですか? と座り直す。
「体のほうは大丈夫?」
「どうしたんですか、いきなり」
「友美ちゃん、ちょっと疲れてるみたいだから」
「そんなふうに見えました?」
友美は意外そうな顔で訊く。
「うん、ちょっとね。色んなことが続いて大変だけど、体は大事にしてね」
「ふふ、ありがとうございます。やさしいですね、安堂さん」
藍子ちゃんが心配していたよ、と私は喉の先まで出かけた言葉を飲み込んだ。友美は改めて腰を浮かすと、
「じゃあ、私はこれで失礼しますけれど、皆さんもお帰りですか? ここのカレーピラフ、おすすめです。せっかくだからぜひ食べていって下さいよ」
友美は自分の分のコーヒー代を置いて店を出た。
これで事件発生時の関係者の動向が分かった。もちろん全員が本当のことを言っているとは限らないが、とりあえず今までの情報をまとめてみることにする。そのためにこのまま喫茶店に残ることにした。捜査本部でやってもいいのだが、息が詰まる。たまには署のコーヒーメーカーではなく、喫茶店で出す本格のコーヒーを飲みながら会議もしてみたい。私はインスタントとの違いはあんまり分からないけどね。三人ともコーヒーのお代わりを注文する。理真は、小腹がすいた、などと言い、友美おすすめのカレーピラフも注文した。
理真と丸柴刑事は外に電話をしに一度店を出て行った。理真は友美が日曜日に一緒だったという友達に、丸柴刑事は、佐枝子、勝巳、樹実彦の携帯電話の通話記録の照会を本部に依頼しに。その間に私は、手帳に書き込んだ各人のアリバイをもとに、表に起こしてみた。(アリバイ表)
カレーピラフが席に運ばれてきて程なく、二人が戻ってきた。まず理真が成果を話す。
「友美ちゃんの友達はうまいこと捕まったわ。日曜日は午前十一時二十分頃に友美ちゃんが迎えに来たって。その後、確かに長岡まで買い物に行ったそうよ。で、午後一時くらいに友美ちゃんに電話が掛かってきて、急用が出来たからって、新潟まで戻ったと。家に送ってもらった時間は二時半くらい。友美ちゃんが家に帰ったのは三時よね。関屋から西根家まで車で三十分。ぴったりね」
続いて丸柴刑事だ。
「佐枝子さんと勝巳さんの携帯電話の通話記録が取れたわ。二人とも日曜日の十一時にはちょうど通話状態だった。自宅近く秋葉区の基地局で受けているわ。自宅にいたことは間違いないようね。樹実彦さんの携帯の通話記録はなかったわ」
二人とも万代シティまで行って電話を掛け、病院へ行っての犯行は不可能だ。ひとりで行動できないであろう樹実彦もだ。その情報もアリバイ表に書き加える。
「一連の事件が同一犯の犯行だとして、何か事件が起きた時間のアリバイは?」と丸柴刑事。
私は、作製したアリバイ表をテーブルの上に広げて、
「まず、四月十六日金曜日夜、久慈村さん殺害時には、友美ちゃんが電車の中、残り全員は西根家在宅。
一週間後の四月二十三日金曜日夜、保さん刺傷時は、全員就寝中か、自室でひとりきり。
二日後の二十五日日曜日午前十一時、横手病院へ犯行予告電話が掛かってきた時間。樹実彦さん、佐枝子さん、勝巳さんは自宅。樹実彦さんと佐枝子さんは、互いにアリバイを証言している。家族の証言だけど、今はそこは不問にしよう。また、携帯電話の通話記録から、佐枝子さんと勝巳さんは在宅していたことが分かった。友美ちゃんは友人の迎えでひとりで車中。藍子ちゃんは新潟駅でひとり。
同日午後十二時から十二時半、保さん死亡時刻。樹実彦さん、佐枝子さん、勝巳さんは引き続き自宅。友美ちゃんは友人と長岡。藍子ちゃんは友人と一緒に新潟駅」
少し考え込むような表情のあと、理真が口を開き、
「友美ちゃんは、久慈村さんの死亡時刻には決定的なアリバイがあるけれど、金曜日深夜と日曜日十一時三分のアリバイがないね。日曜日の保さん死亡時刻には友達と長岡。これは確かなアリバイね。
藍子ちゃんは、久慈村さん殺害時には現場の西根家にいたし、彼女は高校生で車の運転はできないけれど、新津駅前なら自宅から自転車で行ける距離ね。保さんを刺すことも可能。保さんの死亡時刻には友達と食事。これも動かしようがないアリバイ」
「藍子ちゃんは、唯一動機があるのよね……」
丸柴刑事が言った。祖父との不仲のことだ。
「でも……」私は二人に向かって、「保さんの死亡時刻には完全なアリバイがある。それは藍子ちゃんだけじゃなく、西根家全員にもだよ。この一点から、やはり犯人はこの中にはいない、と考えて問題ないんじゃ」
二人とも何も言わない。理真がその沈黙を破って、
「もし、もしも、だよ」私と丸柴刑事の顔を交互に見て、「屋上からシーツを伝っての侵入が、実際に行われていなかったとしたら? あれは犯人が作ったニセの手掛かりだったとしたら?」
「理真、まだそれを言ってるの?」
「丸姉、ごめん。だから、もしも、って断ったじゃない。ちょっとこの考えで話させて。屋上からの侵入が実際に行われていない。フェイクだったとしたら。どうなる?」
「どうなる、って……」
「犯人は、万代シティで病院に電話を掛けた。これだけは病院の職員が実際に聞いて、通話記録にも残ってるから、間違いがない行動。これが出来たのは誰? ……友美ちゃんと藍子ちゃんの二人だよ。友美ちゃんは、友達を迎えに行く途中に万代に寄ることは十分可能。万代から友達を拾う関屋までは車で十分とかからない。藍子ちゃんも、駅に着いて友達が来るまで約三十分の間ひとりよ。万代まで行って電話を掛けて、また駅に帰ってくるには十分な時間だわ」
「じゃあ、理真」丸柴刑事が、仕方ないな、という顔で、「保さんはどうやって殺されたっていうの? 何十キロも離れた場所から毒を飲ませるなんて、そんな遠隔殺人が可能なの?」
「そう」理真は丸柴刑事を指さして、「だから、服毒死なんだよ。毒は、保さんが自ら飲んだ、っていうのは?」
「自殺ってこと?」丸柴刑事はそう言って、「保さんが自殺だったとしたら、あのメモは何? サイドテーブルの引き出しからみつかった『日曜日零時から零時半に』っていうあのメモは。ペットボトルに残っていた毒入りウーロン茶は? どうしてあんな中途半端な量を残したの? しかも丁寧に冷蔵庫にしまって。おまけにペットボトルからは指紋が拭き取られていたのよ。どうして? それに、電話。あの電話は何なの?」
「自殺かどうかは別にして、メモについては、おかしな点があるのよ。犯人が病室に入って保さんを殺したならさ、どうしてそのメモを回収しなかったの? いくら筆跡を誤魔化したと言っても、残しておくのは気分がよくないはずよね」
「探したけど見つけられなかったとか」
「サイドテーブルの引き出しにしまってあったんだよね。そう時間がかからずに捜査員が発見してる。テーブルの引き出しなんて、真っ先に調べる場所じゃない?」
「あくまで保さんは殺害されたっていうの? 自分から毒を飲んだんじゃないかって、今言ったばかりなのに?」
「私は、保さんは自殺、なんて言ってないからね。それと、丸姉、屋上から犯人が侵入か脱出するところの目撃証言は出たの?」
丸柴刑事は首を横に振って、
「出てたら、真っ先に教えてるわよ。どちらもごく短い時間の出来事だろうからね。それに、病院の隣はショッピングセンターだけど、病院の五階を見上げながら歩いてる人なんていないわよ」
「そうよねー……」
「理真は、どうしても相模を犯人にしたくないのね。この前の捜査会議で大見得切っちゃったから?」
「相模健、か……あ、その相模さんと保さんとの繋がりのほうは、どうなの? あのメモには名前も書いてなかった。あれを読んで保さんが犯人を迎え入れたなら、保さんは犯人を知っていたことになる。犯人が相模さんであれば、すなわち、相模さんを知っていたということになる」
丸柴刑事は、これにも首を横に振って、
「駄目ね。二人が知り合いだったかも、という繋がりは全然ないわ。保さんに限らず、関係者どころか、新潟という土地自体にも、縁もゆかりもない人物よ、相模は」
「相模健。問題なのは、それだよ」
「問題って、何が?」私は訊く。
「影も形も見えなさすぎじゃない? 警視庁の……そう、田町刑事。田町刑事から、この事件の犯人は相模健だって言われてから、ずっと探してるんだよね。織田刑事たちがこれだけ懸命に捜索しているのに、尻尾も掴ませない。声も指紋も筆跡も隠す。唯一相模……らしき人物と接触したといえるのは、病院に掛かってきた電話の受け答えをした職員の人だけよね。それも変声機を通したようなおかしな声で。録音もないから、私たちはそれを聞くことも出来ない」
「そうね、確かに……」丸柴刑事は腕を組み考え込むような顔をして、「声や指紋、筆跡を隠しているのは、あの会議のあと、刑事たちの間でも、もう一回疑問視されたわ。犯人が相模なら、今更何を隠す必要があるのか、って」
「隠す必要のある人物って、誰?」
「それは……」理真の質問に丸柴刑事は一瞬言い淀んで、「相模以外の人間、でしょ」
「しかも?」理真は丸柴刑事に詰め寄る。
「しかも、って?」
丸柴刑事は引かないため、二人の顔の距離が詰まる。
「はっきり言っちゃいなよ、丸姉。私たちに声を知られていて、指紋も筆跡も容易に取られてしまう可能性のある人物、でしょ」
「理真、ぶっちゃけたわね」
「さらにはっきり言うとね――」
「時坂藍子と西根友美の二人、でしょ」
丸柴刑事、言ってしまった。さすがに直接その名前を聞くと、理真も複雑な心境になるのか、顔を引っ込め、大人しくもとのように椅子に腰を掛ける。逆に丸柴刑事は止まらない。
「特に、時坂藍子よ。さっきも言ったけど、保に対してだけだけれど、唯一動機もあるしね。久慈村殺害時、一番近くにいて、金曜日の夜に新津駅前へ行くことも可能。保殺害時には、直前に本人と会っている、しかも二人だけでね。万代シティまで行って病院に電話を掛ける時間もあった。理真の屋上トリックフェイク説を取るなら、逆に言えば犯人は保の死亡時刻には完全なアリバイを用意してるはずよね。でなければあんなフェイクを残す意味ないもの。時坂藍子は、その時間には完璧なアリバイがある。あとは、離れた場所から保を毒殺するトリックさえ用意できれば――」
「ちょ、ちょっと待って下さい――」
私は丸柴刑事の話を止めようとしたが、
「まだあるわよ」丸柴刑事は構わず続ける。
「保さん殺害に使われたシアン化カリウムね」と理真。
「そう。シアン化カリウムといえば、メッキ工場で使われてるのが有名だけど、医薬品の合成なんかにも用途があるわ。製薬会社に関係のある人物なら、入手は不可能ではない。当然、出所を今当たってるけどね」
「何なんですか! 二人して寄って集って」
私は思わず大きな声を出してしまった。客は私たちの他には誰もいなくなっていたのが幸いだ。
「そういきり立たないでよ由宇。誰も藍子ちゃんが犯人だなんて言ってないじゃない」
理真が私をなだめにきたが、
「いや、十分言ってたからね」
「ごめん、私も冷静じゃなかった。あくまで可能性よ。私だって藍子ちゃんが殺人犯だなんて思いたくないわよ。……でも、警察としては、そんな甘いことは言っていられないんじゃない。丸姉」
「……理真の言うとおりよ。知っての通り、捜査は、ほぼ行き詰まってる状態なの。何でもいいから、とっかかりが欲しい」
「捜査本部でも、藍子ちゃんのことは目をつけてたんでしょ?」
「ええ、実はね。理真の口から同じような意見が出て、変な言い方だけど安心したわ。藍子ちゃんについては私に一任されているのよ。中野くんや警部では、とても女子高生の扱いなんてうまく出来そうにないから。大体、怪しいってだけで、何の物証もないんだからね。しかも未成年の女の子相手に、大っぴらに『署で話を……』なんていかないから。ちょっとそれとなくまた食事でもしながら話をしようと思ってるんだけど……」
……確かに。理真と丸柴刑事の言うとおりだ。何の先入観も持たずに一連の事件を見れば、一番怪しいのは藍子なのかもしれない。しかし……。
私たちは喫茶店を出た。丸柴刑事は捜査本部に戻って聞き込みや調査の報告を聞きに行くという。おっと、忘れるところだった。私は勝巳から預かった倉庫の鍵を渡した。
「勝巳さんが見つけてくれたのね」
丸柴刑事は鍵をハンカチに包んで鞄にしまった。
「はい、押入の奥にあって、まず、誰かが使って戻しておいたとは考えられないそうですけど。理真も興味ないみたいだしね」
「そうなの?」
「うーん」
と理真は首を捻る。そんな理真を見て丸柴刑事は、
「名探偵としては、犯人が鍵を持っていて外から施錠しました、じゃ推理の発揮どころがない?」
「そういうんじゃなくてね。まあいいわ。何か出るのを期待してる」
私と理真は丸柴刑事と別れ、保の通夜に出席するべく秋葉区の式場へ向かった。