表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/30

第11章 見立て殺人?

 翌朝の会議は混乱を極めた。

 まず、警視庁から来た刑事二人(田町(たまち)篠塚(しのづか)と名乗った)が時心(ときしん)製薬の薬害事件に端を発する容疑者、相模健(さがみたける)の存在を発表。自分たちは警察庁経由厚労省からの依頼で動いていたこと。デリケートな問題に触れるため、決定的な状況となるまで相模の存在を伏せていたことを詫びる言葉を形ばかり口にした。

 憤懣やるかたないのは新潟県警や新津(にいつ)署の警察官たちだ。最初から容疑者が分かっていたのなら、被害者久慈村(くじむら)の交友関係や過去の関係者をここまで深く洗う必要などなかったのだから当然だろう。

「君たちは警察が見当外れな捜査をしていると思わせ、相模の油断を誘うのに尽力してくれた」などと警視庁の田町刑事が失言したものだから、場内は喧々囂々(けんけんごうごう)の騒ぎとなった。警視庁攻撃の陣頭に立ったのは、反理真(りま)派の織田(おだ)刑事だ。


「何がデリケートな問題なものか、結局あなた方は厚労省のミスを今更蒸し返したくなかっただけでしょう」

「最初から相模の存在を知っていたら、早くに身柄を確保できて、時坂保は襲われずに済んだかもしれない」

「面子と人の命とどっちが大事だと思っているんだ」


 などとその言及は凄まじい。このときばかりは私も織田刑事を応援した。騒ぎを収拾したのは、やはりこの人、城島(じょうしま)警部だった。


「これでお二人も堂々と捜査に加わっていただけますね」


 と、相模を極秘に確保して連れ帰るという目的が失われた今、早々に帰りたがっている田町と篠塚を引き留め、捜査員として残るよう要請した。


「織田くんの班に加わっていただきます」


 強引にその身柄を織田刑事に預ける。これからもどうぞよろしく、と右手を差し出す織田刑事。その顔は漫画なら「ニヤリ」という書き文字が躍るであろう笑顔。こき使われまくるんだろうな。



 会議終了後、理真と私、中野(なかの)丸柴(まるしば)両刑事の四人は、田町、篠塚刑事に話を聞くため別室に集まった。遅れて入ってきた警視庁刑事二人の後ろに城島警部も姿を見せた。


「君が新潟の名探偵さんか。そういえば捜査会議で後ろのほうに座ってたな。そっちがワトソン? 見目麗しい女性コンビとは、時代も変わったね」


 着席するなり田町刑事が口を開く。こうして近くで見ると、いかにもエリート然とした小綺麗な印象を受ける。さすがは警視庁刑事だ。隣の篠塚刑事が後輩のようだ。中野刑事とほとんど変わらない年齢だろう。もっとも中野刑事とは対照的なインテリ風だ。


「よろしくお願いします。安堂(あんどう)理真です。こういう席を設けてもらって感謝しています。色々お尋ねしたいこともありますので」


 城島警部も部屋の隅に椅子を引き寄せて座った。捜査対象を相模に絞れたことで、忙しさも少しは緩和されたのだろうか。今の陣頭指揮は織田刑事が執っていると聞いている。


「まず、時心(ときしん)製薬の薬害事件について二、三伺いたいのですが」そう理真が切り出し、「薬害が発生したことを発表したのは二年前ですよね。どうして相模は今になって復讐に動いたんでしょう? そもそも二年前に相模が裁判等の合法な行動を起こすことはなかったんですか?」

「……知らなかったんだよ」


 田町刑事は懐から取り出した煙草を咥え火を付けた。


「知らなかった?」


 理真が返し、中野、丸柴刑事も顔を見合わせる。


「ああ、順を追って話すよ。二年前のある日、相模は体調が悪くなったというんで、都内の病院に診察に行った。診断結果はただの風邪だった。相模は、その頃仕事の追い込みで疲労が溜まっていたそうで、ことさら重症に感じたんだろうな。医師は風邪薬と栄養剤を投薬して相模を帰した。ところが、その日の診察を終えて帰り支度をしていた医師に看護師のひとりが妙なことを言ってきた。『先生、とうとう新型インフルの患者が国内で出たんですね』と。医師は何のことかさっぱり分からず、逆にその看護師にどういうことか質した。そこでとんでもないミスが行われたことが分かった。医師は他の薬と間違えて『リューゲルフェン製剤』を相模に投薬してしまっていたんだ」

「そんなことがあるんですか?」


 理真が口を挟む。


「ああ、薬の名前がよく似ており、容器も同じようなものを使っていたんだ。しかも、医師が投薬を看護師に指示した文書の文字が書き殴ったようなもので、看護師が読み違えてしまったという不運も重なった」

「そんなことで使う薬を間違えてしまうことがあるんですか」


 と今度は中野刑事だ。


「ああ、信じられないような単純なミスだが時々起こるそうだ。リューゲルフェン製剤は新型ウイルスに未感染の人間に投薬しても特別害のある薬じゃなかったが、すでに発表されていた薬害の可能性がある。医師は後日相模に連絡し、体調を確認するとかの口実で、それとなく診察前後に服用していた薬はあるかと訊いた。そうしたら、飲んでいたんだよ、副作用を起こす媒体となる例の風邪薬を。診察に来る直前の朝までな。医師の慌てぶりが想像できるよな。医師はやんわりと、もう一度検査をしたいから出来るだけ早く病院に来てくれと相模に告げた。相模は一週間ほどして来院したそうだ。検査結果は……陽性だ。最悪の結果だった」

「その医師は結果を相模に伝えなかったというんですか」

「圧力がかかったんだよ。厚労省と時心製薬からな。幸い、相模は自分がリューゲルフェン製剤を投薬されたことを知らない。副作用は白血球が減少していくというものだが、はっきりとその症状が出るまでには時間がかかる。そのときになって検査を受けても、原因がリューゲルフェン製剤によるものだということを解明されることはまずない。病状は別の原因によるものと判断されるだろう。厚労省は許可認定がずさんだったという負い目がある。時心製薬はやっと持ち直した経営だ、ここで不祥事を出すのは絶対にまずい。双方の意見が一致したというわけだ。相模を診察した医師も、こんなことがバレたら医師としてやっていけないどころか、刑事告訴もされかねんからな。時心製薬から協力費と称したわずかな口止め料を受け取って従った」

「ひでえ話だ」


 中野刑事が漏らした。理真は、


「でも、結局、厚労省と時心製薬は薬害が起きたことを発表しましたよね。なぜなんですか」

「その医院の看護師だよ。リューゲルフェン製剤を投薬した患者が出たってのに、いつまでたっても国内での新型インフル感染のニュースが流れない。変だと思って医師を質したが、しどろもどろの返事しか返ってこない。おかしいと思いカルテを調べてみたら、リューゲルフェン製剤を投薬した患者はひとりもいないことになっていた。医師がカルテを書き換えたんだな。リューゲルフェン製剤を投薬した事実すらなくせと厚労省と時心製薬に命令されたんだ。当然、相模の検査結果も末梢されていた。しかし、医院にあるリューゲルフェン製剤の在庫は確かにひとつ減っている。これはただ事ではないと感じた看護師は、このまま医師を質し続けても埒があかないと思い、知り合いの雑誌記者に相談した。記者はすぐに動いた。患者を装い医師に面会し、こんな噂があるのだがと話を切り出した。後ろめたさと良心の呵責もあったんだろう。百戦錬磨の雑誌記者の追求を医師は抗い通すことが出来ず全てを話した。しかし患者の、相模の名前だけは頑として口にしなかったそうだ。医師を通して記者の動きを知った厚労省と時心製薬は、スキャンダルとして報じられるよりはと、先んじて薬害患者が出たことを公表したんだ」

「そういえばその頃、発表とほとんど同時に薬害発生を報じた雑誌があったな。思い出したぞ。本当は薬害被害は隠蔽されようとしていたとか、かなりセンセーショナルな記事を書いてたっけ。厚労省と時心製薬は無視を決め込んでいたが。あれは事実だったのか」


 中野刑事が上目遣いで昔の記憶を引き出すように言った。


「そんなわけで、当の相模健は自分がリューゲルフェン製剤のせいで薬害被害に遭ったことを知らなかったんだよ。それからも厚労省は定期的に相模の現況を観察していたんだが、ひと月ほど前にやつは突然姿を消した。そこへ来てリューゲルフェン製剤認可時の新薬認可調整委員会に在籍していた久慈村要吾の殺害事件が起きたもんだ。犯人は相模と考えておかしくはないだろう」


 そこまで語り終えた田町刑事は、煙草を灰皿でもみ消した。喋っている時間が長く、煙草はほとんど吸われていなかった。


「もっと早く教えてほしかったですね」


 凄むように言う中野刑事に、田町は寂しげな薄笑いで答えた。察しろ、と言っているようだった。


「つまりこういうことですか」と理真が、「ひと月前、相模健さんは自分が白血球減少の病状に罹かっていることを知った。その原因が二年前の投薬にあることを知り、姿を消し、久慈村さんと時坂保(ときさかたもつ)さんに復讐を企てた。久慈村さんは首尾よく葬ったが、時坂保さんのほうは仕損じてしまった」


 理真の総括に田町は大きく頷いた。理真はさらに、


「それにしても、いきなり殺すでしょうか? 法的手段に出るのが普通なのでは? そもそも相模さんはどういう経緯で自分の症状の原因が二年前の治療にあると知ったんでしょうか?」

「そんなことは知らんよ」


 田町刑事は二本目の煙草に火を付けた、今度はじっくり味わうつもりらしく、うまそうに吸い込んだ煙を天井に向けて吐き出した。理真は煙越しに、


「相模さんが、自分が白血球減少……白血病と言っていいんでしょうか、に罹ったことを知ったのは事実なんですか?」

「ああ、会社の健康診断の血液検査で発覚した。確認済みだ。相模が姿を消す二週間ほど前に本人に検査結果が行っている」

「相模さんが自分の身に起きたことを知ったのであれば、真っ先に復讐するのはその投薬を指示した医師なのでは? その医師はどうなんですか?」

「薬害発表のすぐあとに引退して、翌年に亡くなったよ。もともと高齢だったことに加え、あの騒動だ、心身ともに耐えられなかったんだろう。その医師が臨終の間際、相模に全てを打ち明けたと考えられないことはないな。医師と相模の接触があったかどうかは確認できていない。そこまでスパイみたいに監視し続けることは無理だよ。医師の家族にも聞いたが、相模と接触していたかは知らないということだ」

「それであれば、相模さんが復讐の白羽の矢をまず久慈村さんに突き立てたというのは、妥当、と言っては語弊がありますけれど、理解できる行動なんでしょうか? 久慈村さんは何とか委員会……新薬認可調整委員会? に所属していたということですが、当の医師がすでに鬼籍に入っていたとして、その次に復讐の矛先を向けられるような重要な責任者だったんでしょうか?」

「真っ先に狙われるとなれば、何といっても時坂保を始め、時心製薬の経営陣連中だろうな。あとは当時の厚生労働大臣か。だが、久慈村の仕事の雑っぷりは有名だったらしい。当時一緒に委員会に所属していた人間に話を聞いたんだが、久慈村なら殺されても文句は言えない、なんて冗談半分で言ってたよ」


 そういえば、昨日の城島警部の情報でも、副作用の可能性を見逃した責任の半分は久慈村にあると言われていた、とのことだったっけ。


「お陰で当時の委員会メンバー全員を警護対象としなければならなくなった。人員のやりくりに苦労するはめになったよ。久慈村は、たまたまメインターゲットの時坂保のそばにいたため、ついで、と言っちゃ悪いが狙われただけかもしれんがな」


 田町刑事は、今度はうまそうに根本まで吸いきった煙草を灰皿でもみ消し、


「そろそろいいかな。俺の知ってることは大概喋り尽くした。早く捜査に戻らないと、おっかない刑事さんに叱られるんでね」


 田町、篠塚両刑事が腰を浮かしかけたところに、


「あ、最後にひとつ、よろしいですか?」


 理真の一言で二人は座り直した。


「久慈村さん殺害の様子は、見立て殺人であるということですけれど、これに最初に気づいたのは田町さんなんですか?」

「ああ、それはこの篠塚だよ」と田町刑事は隣に座るもうひとりの警視庁刑事を親指で指した。「こいつ、テレビゲームが趣味でね。久慈村が殺され、容疑者が相模かもしれないとなり、警視庁に捜査要請が来たときに、殺害現場状況を聞いて、こいつが言い出したのさ」


 篠塚刑事は頷いた。


「相模さんが自分の作ったゲームに殺害の様子をわざわざ見立てた理由については? どのようなお考えなんですか?」

「自分の犯行だと知らしめたかったんじゃないのかな。あの何とかというゲームは相模最後の作品となった。思い入れがあったんじゃないか? この殺人は自分の復讐である、と分からせるためにな。ま、相模を逮捕して吐かせれば済むことだ」

「警視庁の刑事さんにしては、ちょっと単純な推理なんじゃないでしょうか。東京では地方とは比べものにならないくらい不可能犯罪が起きていますよね。超犯罪者の起こす事件にも多く関わっておいでのはずです。彼らがそんな単純な理由で見立て殺人を犯したことがあったでしょうか?」

「そこまで込み入って推理する必要はないだろ。もう犯人は分かってる。裏に何か複雑な事情があったとしても、相模を捕まえて、本人に全て喋らせればいいのさ」

「時坂保さん襲撃が、何の変哲もない通り魔的犯行だったことについては? 第一の犯行でそこまで見立てにこだわったにしては、随分と方針の切り替えが大胆だと思いますが」

「最初に自分の仕業だとアピールできれば十分だったんだろう。わざわざ何回も複雑な殺害方法を取ってリスクを増やす必要もない。それも相模を逮捕したら聞き出すさ」


 田町刑事は喋りながら席を立ち、城島警部に会釈してドアへ向かう、篠塚刑事もそれに倣い、二人は退室していった。篠塚という刑事、結局一言も喋らなかったな。



 警視庁の刑事二名が退室したあとも他のメンバーは部屋に残り、即席の会議が始まった。中野刑事が全員分の缶コーヒーを買ってくる。城島警部のおごりだ。


「どうもこの事件は安堂さんの出番はないみたいな感じになってきましたね」

「あら、どうして?」


 中野刑事の理真降板論に丸柴刑事が理由を尋ねる。


「だってそうじゃないですか。容疑者は特定できたんだから。あとは警察の物量にものを言わせたローラー作戦で相模を燻りだして、とっ捕まえて終わり、ですよ。密室の謎は残りますけれど、さっき田町刑事が言った通り、それも相模を逮捕したら本人の口から聞き出せばいいだけです」

「どう思う、理真くん」


 城島警部が缶コーヒーの蓋を開けながら訊いた。キャラに合った渋いブラックかと思ったら、意外にもカフェオレだ。


「うーん。まず、その久慈村さん殺害現場の様子が、容疑者の作ったゲーム、何だっけ? サイキ大戦キリン? の見立て殺人だというのは間違いないことなんですか?」

「ああ、これ。私調べてきた」


 私は(そう)が理真の部屋に忘れていったサイキ大戦キリンの攻略本を鞄から取り出す。事件の様相がこれなので、少し借りておこう。付箋を貼り付けたページを開く。


「このキャラクターね、あの凶器、モーニングスターを使うのは」


 机の上に開いた攻略本を、全員が覗き込む。


『特能会幹部 稲凪隗羅(いななぎかいら)、男、三十二歳。特能会会長の士名厳座(しめいげんざ)に常に付き従うボディーガード。強力なサイコキネシス能力者』と説明がある。

 キャラクターのイラストは、パンクロッカーのような異様な髪型をして、背広を着たサングラスの男の周りを、宙に浮いた様々な武器が取り囲んでいるというものだ。その武器の中にモーニングスターもある。


「このサイコキネシスというのはですね、手を触れずに物を動かせる超能力のことです。このキャラクターはその能力を使って、武器を空中に浮かせて戦うんです」私は説明した。

「この人はゲームの中では重要キャラクターなの?」と理真。

「ううん、それほどでもないよ。中盤くらいに少し出てきて倒されちゃう。私も忘れてた。今朝この本を見て思い出したくらい。それがどうかした?」

「うーん。そんなキャラクターを見立て殺人のモチーフに選ぶかな、と思って。もっと重要なメインキャラクターにしない? 普通」

「犯人の考えた密室トリックに合致するのがこのキャラクターしかいなかったんじゃ?」

「それは、あの密室を作るには、モーニングスターが絶対必要だったってことね。この他にモーニングスターを使うキャラクターや、それが出てくる場面はないのね?」

「うん、これだけ」

「ひとついいですか」中野刑事が挙手して、「あの、〈見立て殺人〉って何ですか?」


 派手にずっこけた。理真ひとりだけが。

 ……。


「中野くん、そんなのも知らずに今まで会話に参加してたの?」


 と呆れた口調で丸柴刑事。その間に理真は、まるで自分以外に誰もコケなかったことを非難するように、私たちの顔を見ながらゆっくりと起き上がり服の埃を払った。誰も極力理真のほうは見ないようにしている。


「は、はい、訊こう訊こうと思ってはいたんですが、機会を逸し続けて今に至る次第で……」


 そう言って中野刑事は神妙な表情をした。服の埃を払い終えた理真は、


「見立て殺人ていうのはですね……由宇(ゆう)、お願い」


 さも自分が説明する風に喋り出しておきながら私に振る。仕方がないな。


「えー、見立て殺人というのはですね、例えば、歌の歌詞の情景の通りに死体や周りの状況に演出を施すような、まさに殺害現場を何かに見立てて行われる殺人のことです。有名なのでは、レジェンド探偵ファイロ・ヴァンスが解決した『僧正殺人事件』があります。これは、マザーグースの童謡の内容通りに殺人が重ねられるという事件でした」

「マザーグースの童謡、ですか」

「はい、最初の殺人は、『誰が殺したコック・ロビン』という有名な童謡に見立てられたものでした」

「えっ! それって漫画の『パタリロ!』じゃないんですか?」

「原典はマザーグースの童謡なんです」


 パタリロの見立て殺人ってどういうのだよ。


「国内では、金田一耕助(きんだいちこうすけ)が解決した『獄門島(ごくもんとう)』事件が有名ですね」

「ああ、それなら知ってます。映画化されたのを観ました。なるほど、理解しました。あの事件も俳句の内容の通りに殺人事件が起きたんでしたね。ああいうのを見立て殺人と言うんですね。ところで俺は金田一は断然古谷一行(ふるやいっこう)派ですね」


 映画版『獄門島』の金田一役は石坂浩二(いしざかこうじ)じゃなかったか? まあいい。中野刑事に稲垣吾郎(いながきごろう)版金田一の感想を聞いてみたいところだが。


「それなら今回の現場は、まさにそのゲームキャラクターの見立て殺人と言えますね」


 中野刑事は得心したようだ。


 私は、「理真は懐疑的なの?」と訊いてみる。理真は、うーん、と唸ってから、


「ちょっと弱いような。凶器が珍しいものという点が一致してるだけじゃない? じゃあ、毒キノコを食べさせた殺人事件が起きたら、スーパーマリオの見立て殺人になるの?」

「スーパーマリオは、むしろキノコを食べて強くなるだろ!」

「いえ、取るとやられちゃう毒キノコが出てくるシリーズもありますよ」中野刑事がフォローしてくれ、続ける。「俺はハマってると思います。この見立てのツボは、ゲームのキャラクターがサイコキネシスを使うってことですよ」

「どういうことですか?」

「手を触れずに物を動かせるんでしょ? だったら、犯人はあの倉庫の外からサイコキネシスで凶器を操って久慈村を殺害したという見立てが成り立ちます! 犯人が密室にこだわった理由です」


 なるほど。中野刑事冴えてるかも。理真も、おお、と、感嘆した声を上げた。が、続けて、


「……でも違和感がある。犯人が超能力者を称する人物で、『自分がサイコキなんとかで密室内の人間を殺した』と豪語してくる場合じゃないですか? それって。ただゲームの見立て、犯人はこのゲームを作った人物である、と流布したいためなら、もっといいやり方があるんじゃ。誰が見ても分かる見立てにしませんか? 現に最初は誰も見立て殺人だなんて言ってなくて、犯人は相模健である、職業はゲームのシナリオライターである、彼の手がけたゲームに殺人の凶器と同じ武器が出てくる、と、ここまで関連づけてやっと見立て殺人なんじゃないかと思い始めたんですよね。こだわるところが間違ってる気がします」

「まあとにかく」城島警部が立ち上がり、「警察は相模健確保に向けて捜査方針を統一することになったが、理真くんには引き続き独自に捜査を継続してもらいたい。中野の言った通り、ここからは警察の組織力がものを言うだろうが、相模を確保してそれですんなり終わるかは分からんしな」

「私と中野くんはこれから時坂保の事情聴取に行くけど、理真と由宇ちゃんも来るわよね」


 丸柴刑事の誘いに当然乗らないわけはない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ