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07 夢

 ――――あれれ? 勇者様がなんでここに……? ああ、夢ですか。夢の中ですね。


 ある晴れた昼下がり。どこの街だったのかは忘れてしまったけどある宿の一室。ここで四人の女の子達は勇者様を囲んで楽しそうにおしゃべりをしているんだ。当然、この輪の中にはオレの姿もある。

 この時期はまだ魔王を倒す事に向けた、戦いの経験を重ねている頃ですね。要するにレベル上げです。

 まだまだ魔王城に乗り込むアイテムすら全て揃っていない状態ですし、ハーレム要員も四人と最終的な十一人から見れば少ないですから。 

 オレ? オレは四番目の要員でしたよ。だからこの頃は入ったばかりのぺーぺーの状態ですね。


 しかし、この中にいるオレは凄く楽しそうだなー。この半年後には捨てられるなんて夢にも思っていないんだろうね。ここは夢の中だからどうしようもないですけど――――




「レオー? 昨日服を買いに行ったら、お店でミコがねー? もうひどいのよー? 私が試着している部屋にまで入ってきて……」


 エルフの美女アリアさんが可笑しそう笑いながら昨日のオレの行為をカミングアウトする。

 ええええー! そ、それをこんなところで! ただおっぱいとか腰のくびれを見てみたかっただけなんですから。邪まな気持ちなんて全然……いやちょっとしかなかったんですから!!


「ま、待ってください。そ、それを勇者様の目の前で言わなくてもいいじゃないですか!」


「ミコ、本当なのかい」


「はい勇者様……あんまりアリアさんがお綺麗でしたのでつい……」


 勇者様はにこにこしてオレにお話しかけてくる。


「……。ミコ? 勇者なんて言ってもただのひとりの男なんだからそんなにいつまでも畏まった言い方はしなくても俺は気にしないよ?」


「で、でも……」


「レオ? 言い方なんて人それぞれですもの。今すぐに直せるものではないのですよ?」


 子爵家の令嬢、エルセリアさんがオレの事をフォローしてくれた。

 正直に言うと助かったって思ったんだ。勇者様は存在そのものが別次元な感じですし、名前で呼ぶなんて畏れ多いからさ。しかもこんなオレをパーティーの一員にしてくれたんだから感謝してもしきれない。

 勇者様々です。足を向けてなんて寝られません。


「ああ、そうだね。判ってはいるんだけど」







 ――――あれ? 場所が飛んだ? 夢だから仕方ないか。今度はどこかなー?

 ああ、フランクリンの港街を魔族から開放した日だね。この日も色々とあったなー。

 この辺りまで来るとみんな随分と強くなってますし、パーティーメンバーも八人まで増えていたはず――――




「ミコ。どうしたの?」


 海の見える丘の上の教会。その玄関にある三段ばかりの白い階段に腰を下ろし、膝に手を掛けて体育座りでぼーっと夕日を眺めていると、エルセリアさんが見に来てくれた。


「あっ、エルセリアさん。なんでもないです。なんでも」


 子爵家の令嬢のエルセリアさんは勇者様の一番最初のパーティーメンバーで強力な神聖魔法の担い手です。戦いにおけるキーマンだけでなく美人ですし、肩にかかる金髪はいくつもの縦ロールに分かれていてそれだけで貴族のやんごとなき御令嬢様ってのが見てとれます。

 家柄、容姿、気品の面ではこの勇者パーティーでは特に優れていますね。


「そんな事ないでしょ? 随分と落ち込んでいるみたいよ?」


「え、いえ、本当になんでもありませんから。あはははー。ただぼけーっとしてただけですよ!」


 ここでエルセリアさんの優しさに絆されて勇者様の事を聞くのはダメ。そんな事したら……。

 じつは最近勇者様がそっけない気がするんです。話しかけてもそれ程顔をこちらへ向けてくれなくなりましたし、買い物とかで道で出くわしても手をあげて挨拶するくらいしかしてくれなくなりました。

 かと言って全然喋らないわけじゃなくて相変わらず食事の時やみなさんと一緒の時は普通に接してくれるんです。


 うーむ。オレの考えすぎなのかなー。うーむ。


「そう? それならいいんだけどね。あっ、その格好だとスカートの中丸見えよ。もっと恥じらいを持ちなさい。年頃なんだから」


「え? うわああああ!」


 え? 何だと!? 叫び声を上げると咄嗟にスカートを巻いて涙目になって前を見る。すると反応したかの様に掃除夫達が一斉に目をそらした。

 な、なんと言う訓練度!!


 そう言えばやたらと教会の人達がオレの前方で掃き掃除をしてるなーって思ったよ!! そっかー、オレのパンツを見てたのかー。そんなに見たかったのか? オレのはいてるパンツを? まあ、オレってば美少女だから仕方ないか。

 あーあ、もったいないなー。どうせ見られるんだったら能動的に見せて金でも取るんだったかー。


 うーん。思考が在らぬ方向へと行ってしまうのは、慌てている証拠ですね。







 ──今度は戦場……? ああ、ここは魔王城の目の前、魔物ヶ原ですね。

 ここで魔物や魔獣たちとの決戦を行ったんでした。

 この時はもうメンバーは十二人全員が揃ってましたし怖いものなんて無い状態だったから、何万の魔物がいようとも負ける気は全然無かったですね── 




 円陣を組んでいる私達。その中心には勇者様がいるんだ。


「前方より敵の魔物部隊およそ一万! さらに後ろからも同じく一万。これが最後の纏まった戦力だと思われます! どうしますかレオ様?」


 使い魔の報告に最年少メンバー、幼女賢者のコロンちゃんが勇者様にお伺いを立てる。


「うん。軍師のコロンちゃんにいつもの様に指揮は任せるよ!」


 それににっこりと微笑んでコロンちゃんの頭を撫でながら勇者様は答える。

 ちょっと恥ずかしそうな嬉しそうなコロンちゃん。彼女は小柄な十歳の女の子です。そしていつも大好きな使い魔、ミニ飛竜のリュウ君を肩に乗せているんですよ。その仕草がすっごく可愛いくてオレの妹みたいにみえてしまいます。うんうん。


「はい! わっかりましたー! ではまず我々は二手に分かれて前方と後方の魔物に応戦しまーす。しかるのちに私が合図を送りますからそれで後退してください! その時ルーデロータさんは力を解放してくださいね!」


「判ったよー。じゃあ、あたしはここでコロンちゃんと一緒に待機してまーす!」


 コロンちゃんが元気にうなずくと作戦を説明を話しだす。

 まあ、最後の要はルーデロータさんだよねー。いつもの事ですから、それは判ってます。コロンちゃんもそれを宛てにして作戦を立てていますしね。

 ただ、このルーデロータさん。能力を使う時にパワーを溜めなきゃならないし、その能力を開放する為には広い場所が必要なんです。だからちょっと魔物と戦ってパワーを溜める時間を稼がないといけないんです。


 戦いの始まる前から溜めておくのは必須ですけど、溜めたパワーがすぐ霧散するのもすぐなのでやっぱり能力を開放する為にはしばらく時間がかかるんです。


「ルーデ? コロンは賢者だけど能力があるわけじゃないんだからお前が守ってあげろよ」


「判ってますって。もう、あたしってそんなに信用ないのかなー」


「あはは。日頃の行いじゃないのか?」


 上級戦士のお姉ちゃん属性のラルガさんが軽口を言うと口を尖がらせて拗ねたフリをするルーデロータさん。まあ、ふたりとも美人さんですからね。こう言う関係も絵になります。


「そうですよ。ルーデロータさんは大雑把ですから」


 だから、オレも輪に入りたくて一生懸命に軽口を叩いて見せた。


「何おー! このミコ! 待ちやがれー!」


 オレの言葉にルーデロータさんはやや長い銀髪を振りかざしてこちらを見ると更に口を尖がらせて怒る。彼女の怒った顔を見ると瞳の色がいつも真っ赤でちょっと怖いんだよねー。アルビノで肌も色素が薄そうですし。


 でも、いいなー、この光景。

 戦う前のピリピリした雰囲気が吹っ飛んでみんながリラックスしているのが判る。


「もう、みなさんお静かに! これから作戦スタートしますよー! 3・2・1……スタート!」


 コロンちゃんのその宣言とともにみんなは頷き、そのまま所定の位置へと走り出したのだった。




 ルーデロータさんとコロンちゃんを中心にして、前後の魔物達へと私達は五人一組で戦いを始めた。


 オレは今日も勇者様に声を掛けてもらえなかったけど、それはたぶん魔王城を目の前にした緊張と責任感でいっぱいいっぱいだったからだと思う。勇者様は忙しいし大変なプレッシャーに心を磨り減らしていますから仕方が無いんです。うん。そうに決まってます。


 なので、オレはちょっと遠慮して勇者様のパーティーじゃなくて後方を任された上級戦士ラルガさんの方で戦ってるのです。


 オレの精霊魔法は状態異常や身体強化等のサポート系、神聖魔法とは別系統ですが体を癒す事も出来ます。それに炎や水の精霊の力を借りれば攻撃も出来るので結構便利屋さんとして活躍できるのです。

 でも反面、精霊魔法ってのは器用貧乏なところも多々ありまして、神聖魔法の最大回復魔法には回復量では負け、暗黒魔法の絶大な攻撃呪文にも同じく負けてしまうでしょう。

 なんて言いますか、孔明や呂布にはなれませんけど李儒とか夏侯淵くらいにはなれる。そんな感じなんです。




「はーい、みなさーん! ルーデロータさんのパワーが溜まりましたよー。全力で戻ってきてくださーい!」


 コロンちゃんからの全体感応信号をキャッチする。これを受けてみんなが一斉に真ん中に向かって走り出す。オレは風の精霊の力を借りてみんなに追い風を当てる。多分走力がだいぶ速くなったと思う。これなら魔物も追いつけないでしょう。




 やっとの事でコロンちゃんとルーデロータさんのいる中心部へと到着した。

 ハアハア。走るのは……走るのは苦手ですよ……。


「みんな着いた様ですね! ではルーデロータさんお願いします!」


「んじゃ、やるねー。お、お、おおおおぉぉ! お城構築!」


 コロンちゃんの確認の後、ルーデロータさんが全身から湧き出る白い光を天に向かってとき放つ。すると何も無かった平原をどこからともなく現れた壁がルーデロータさんを中心に取り囲み始める。そして遠くで次々にレンガの壁が組み上げられていくと、その脇にも巨大な高射塔がいくつも出来上がっていく。更に中心部では一際大きな大城塔が聳え立ち、最後に魔力で出来た影の兵士達が出現して直径一キロ程の無骨な野戦城塞が完成する。


 そう、ルーデローテさんの能力は城塞構築能力なんです。

 オレの精霊魔法やエルセリアさんの神聖魔法みたいに既存の能力の決定版的な使い手じゃなくて、所謂ユニーク能力使いなんです。


「じゃあ、影達? 悪いけど魔物をこの城の内部へと入れないように頑張って!」


 ルーデロータさんは影の兵隊の指揮官らしい影にそう言うと影の兵隊達はいよいよ動き始めた。

 この影達はよく働きます。そりゃあ、もう死に物狂いで命令に従うんですよ。ですから、未だにルーデロータさんのお城は陥落した事がありません。


 突然現れた強固な城塞を前にどうする事もできない魔物達。それでも空を飛べる魔物は上からの攻撃に活路を見出そうとするんだけど、高射塔に配置されたバリスタが瞬く間に上空の敵を撃墜させていく。

 更に地上では壁をよじ登ろうとする歩兵系の魔物達と魔力で出来た影達の間で激しい戦闘が行われはじめた。

 



「さてと、じゃあ昼食にしますか?」


「はーい。じゃあミコちゃんそのテーブルの上を拭いて」


 ルーデロータさんのお昼宣言にエルセリアさんが頷いて、オレにテーブルの上を拭いてくれる様に言ってきた。

 まあ、このお城さえ完成してしまえば一万や二万くらいの敵にどうこう出来るとは思いませんからね。


「判りましたー。台拭き台拭きー!」




 当然の様にその日の夕方には魔物達はちりじりになってしまっていた。そこへオレ達がみんな門から討って出て散々に蹴散らすと組織的に対抗出来る魔物は何処にも居なくなっていた。








 ――――ん? ここは……? またまた場面が変わっている。

 えーっと……ん? お屋敷の門の目の前……? も、もしかしてあの決定的な瞬間を――――




「ねえ、みんな本当にどうしたの? 朝からなんかテンション低いよ。相談があるなら……」


「ミコ!! 話の腰を折って悪いんだが少し俺の話を聞いてくれないか?」


 勇者様がオレのはしゃいでいる声を真剣な声で遮る。その顔つきはとても鎮痛な様子。周りのみんなもさっきまでルーデロータさんのお城に居た雰囲気とはまるで違っていた。


 ──うわあ、聞きたくない!


「あ、はい。勇者様。どうぞ」


 それに答える何も知らないオレ。何にもしらないからとても不思議そうな顔をして勇者様の次の言葉をぼんやりとしながら待っている。


 ──やめてくれ、これ以上はもう聞きたくないんだ! 


「昨日の晩にみんなで話し合って決めた事がある。……ミコ。君には悪いんだがここから出て行ってくれないか?」


「え? え? ええぇ!? ど、どうしてなんですか勇者様!?」


 ──ううぅぅ。夢とは言えこれはこたえてしまう。


「それだ。その勇者様って呼び方が嫌だったんだ。他のみんなは俺の事をレオって呼んでくれるのに君だけは最後まで呼んでくれなかった。それがとてつもなく苦痛だったんだよ。肩書きじゃなくて名前で呼んで欲しかったんだ。だから、だから君とは一緒に居られない!」


「え? ええー!?」


 何ともいえない顔をして言葉の意味を理解しようとしているオレ。全然判らない。まったく判らない。なんでそんな事言うの? あまりの事に体が反応してくれない。


 ──もう嫌だよー。こんな場面をオレに見せるのはやめてくれよー。頼むよ本当に!


 ──頼むよー!







 目が開く。そしてがばりと上半身だけを起こした。

 ううぅ、体中汗でびっしょりだ。ワイシャツとパンツだけだから汗を吸うにしても限度があるからね。

 ああ、嫌な夢だった……。まだまだあれから一週間くらいしか経っていないと言うのにもうこんな夢を見る様になるんだなー。比較的他人事として捉えようとして思考を切り替えようとするんだけどやっぱりそんな事出来るわけが無い。


 はあ、この夢は見たくないのになー。


 仕方がないちょっと早起きし過ぎたけど起きようかな……。仕事も探しに行かなきゃならないし。


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