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04 続・酒場

タイトルを少し変えてみましたが、なんだかしっくりきません。

何か良さそうなタイトルがあれば教えてください。

 中年達の装備自慢が終わる事無く続いている。


 この剣は敵の血をどのくらい飲んできたか知らないんだと剣を目の前に出してドヤ顔の浅黒。

 やれ俺のこのローブは幸運が詰まっているんだ。

 いやいや、俺の杖は数々の魔物を屠ってきたんだ。

 このフードのおかげで敵に気付かれずに先制攻撃が出来たんだ。

 等々と三人の暗黒魔術師も負けずに自慢話をオレに聞かせては悦に浸る。


 それらをにこにこしながら聞いてあげている(・・・・・)オレ。いや、もう判ったから。貴方達は凄い。凄いからさー、もっと女性が楽しいと思う話題は無いんですか?

 『すっげーなその装備!』『かっけー!』とでも言ってやれば満足するのかな?


 まあねー、最初から浅黒は言ってたもんな『冒険の話をしてやる』って。でも、それならもっとわくわくする様な冒険の話を聞かせてくださいよ。そんな装備品自慢を永遠とされても困るんですよ。こっちもさ。


 だいたい装備品なら、オレのがチートだと思うんだよね。だって、一級品どころか伝説級だよ。今着ているこの装備品はさ? 殊更自慢はしないけどね。うん、しないけど……ね?

 

 この耳で輝いている『月光の耳飾り』は月の光をたっぷりと浴びた幸運度+7の伝説級だし、今着ている『月光のジャケット』だって月光シリーズの決定版で対魔力と対アンデット戦ではとても強い防御力を誇るんです。それに背中には雲に掛かった満月が描かれている……んー、この絵柄はちょっと恥ずかしいけどね。

 更にこの『ムーンライトスタッフ』! 長さもお手軽で手で握るととってもしっくり来るんです。あと、この杖の先っちょにある瘤の部分が三日月みたいな形になっていてとてもカッコイイんです。効能も良くて、魔力増幅+5とアンデット攻撃力アップ+5もあるんですよ。しかも杖の先っちょの三日月部分が光って洞窟探索に大いに役立ちますし!

 えっへん!


 あー、他のバックルブーツやホワイトキャミソール、それに膝上丈フレアスカートは残念ながら市販品です。







 しかし装備の自慢話は終わらないですねー。ずーっとにこにこと笑って頷いてるのも疲れてきましたよ。はあ、女性にモテたいのなら、まずその自慢げに話す口を閉じた方がいいんじゃない?

 そう言えば元のオレも思い返してみるとこう言う時ってこの中年達と同じ様な感じで喋っていたかもしれない……。ああぁ、だからモテなかったのか……。ショックだわー。


「……お嬢ちゃん聞いてるか? ここからがこの剣の凄いところなんだぞ?」


「うん。聞いてるよー」


 オレがそう答えると浅黒は椅子を隣にくっ付けるとおもむろに座り直したフリをして、そのまま肩に手を回してきた。

 うわあ、セクハラだー!! ど、どうしようセクハラ来たんですけど!


「でだ、この剣を持った俺は西の塔を目指して……」


 さらっとセクハラを流したこの浅黒は腕を肩に回したまま言葉を続けていく。うう、今は『月光のジャケット』は脱いで薄手のキャミだけだからなー。肌が露出しすぎていてちょっと恐怖を感じてしまうんだけど。

 なーんて警戒しながらにこにこ笑って相槌を打ってたんですよ。そしたら浅黒め、ついに来やがりました!

 左肩に回していたごっつい手がおもむろにキャミの肩紐をはずして内側へと侵入してきたんだ。そしてブラジャー越しにさほど大きくないオレの胸を撫ではじめ、そのまま間髪置かずに揉みほぐしてきたんだ。


「や、やめてください」


「ん? ああ、悪い悪い。わざとじゃないんだ許してくれよ?」


「本当にやめてください」


「判ってる。判ってるって」


 笑いながら浅黒はそう言って手を離してくれたんだけど、なんか信用が置けない気がする。

 うん。もう夜も更けている様だし店を出ようか。はずされたキャミの肩紐を肩に掛け直すと椅子の背もたれに掛けてあった『月光のジャケット』を着る。

 オレ、もう帰るから。セクハラ野郎は嫌いなので。




「楽しいお話、ありがとうございました。私はそろそろ帰りますね」


 だから椅子を立って挨拶をしたんだ。でも……。


「まあまあ、いいじゃねーか? な、な?」


 浅黒はそう言うとオレの腕を掴んで椅子に引き戻した。いやいや、もう帰るってばさ。帰る場所も無いんだけど……。


「いえ、もう夜も遅いので帰ります」


「なんだお前。俺から離れられると思っているのか?」


 うはっ、ちょろっと呑んだだけで『お前』扱いですか!? なんと言う自己中!

 オレに対してそうまでメンチ切れるとは……。実力差が凄くあると言うのに相手の四人組は気付いてないんだなー。

 

「離れるも何も、おじ様達とは行きずりの仲でしょ?」


「ふん。こっちは男四人なんだぜ。お前判っていて言ってるのか? まあ、いいから呑め。呑めって言ってるだろうが!」


 そう言った浅黒は無理やりにブランデーの入ったグラスをオレの口に持ってくると強引に傾けた。

 うわあああ、オ、オレの真っ白なキャミが! お気に入りのキャミがー! ブランデーまみれにー! し、しかもスカートまでー! どっちも白系なのでブランデーの色の汚れがはっきりと判ってしまう。

 これじゃあ恥ずかしくて昼間に表を歩けないじゃないか!

 くっそ! このバカ共、どうしてくれようか!!




「や、やめてやれよ! 女の子が可哀想だろ!」


 え? 誰? 


「なんだお前。お呼びじゃないんだよ! カウンターに戻って一人で寂しく呑んでいろよ」


 浅黒がすごんで睨みつける。

 んー、この人……ああ、カウンターの反対側にいた、ただのおっさんかー。あーあ、実力も無いのにこんな場面に首を突っ込んじゃって。大丈夫なのかなこのおっさん。呼吸も荒いし、手だってすっごく震えてる。実力以上の事に首を突っ込んじゃったら後に引けないんだよ? いいのおっさん?

 ……。……でも、でも、その心意気。嫌いじゃないよ。勇気を振り絞った様なそんな顔。そして震えてるにしても握った拳が後戻りはしないとそう自分に言い聞かせている様。そしてなによりか弱い女子(・・・・・)を悪漢から救おうとしているその姿勢にちょっぴり感動を覚えてしまう。


「う、うるしゃい! さ、君はこっちへ」


 浅黒の脅迫に声を裏返させながら答えるおっさん。だいぶ怖いんだろうね。

 実力に裏付けられたオレ達勇者様一行とは違う、別段凄いところも無いただのおっさんがオレを助けようとしてくれているんだ。くぅぅ! いいね!! よっしゃ、ここはひとつか弱い女子になりきって助けられてあげようか! でも影ながらの応援はするからフォローは任せてね!


「は、はい! 助けてください! この人達に襲われそうなんです」


 だから立ち上がって、このちょい太めなおっさんの背中に早足で行って隠れるとこんな風に言ってあげたんだ。 

 頑張れおっさん。



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