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33 死ぬ? 牢屋に入る? それともロックンロール?

今回の第33話のサブタイトルは、

マイケル・モンローのアルバム『ノットフェイキンイット』から『デッド ジェイル オア ロックンロール』から。


ノリが良くて、彼のブルースハープが響き渡るライブ受けにぴったりなナンバーです。




牢屋ネタならこのタイトルにしようと前から思っていましたw

ミコさんもきっとこの歌はお気に入りだった……はずです。元おっさんですしw

第33話




 五日目…………。

 そうなんです。五日目なんですよ今日は。捕まってから五日目。くさい飯を食べさせられはじめて五日目の朝なんです。


 って事で、美衣さんと同じ二人部屋のブタバコからのミコです……。ああ、目の前の硬そうな鉄格子が全てのやる気を無くさせますねー。


 現在オレと美衣さんの住んでいる(・・・・・)このレンガ造りの牢部屋なんですけど、窓が無いので朝だと言うのにとても薄暗いんです。では何故こんなに光が刺し込まないのに今が朝だと判るのかと言えば、遠くの牢番所にある唯一の窓付近が明るく見えるからなんです。

 まあ、そんな薄暗いこの部屋なんですけどお昼前にでもなればそれなりに明るくはなるんですけどね……っと、現状を考えているうちに美衣さんが起き出してきましたね。あいさつあいさつっと。




「おはようございます。美衣さん。今日も寒いですよ」


「ん……、ああ、まだ牢の中だったわね。おはようミコ。冬だもの寒いでしょ」


 うん。やっぱり朝はおはようの挨拶は欠かせませんね。

 さてさて、それじゃあ畳み掛ける様にそのまま朝の挨拶から何か話題を…………えーっと、よしっ! 寒さの話題にしよう!


「はい。これだけ寒いと、もしかして外は雪が積もってたりして」


「うーん。この牢部屋からは外は見えないし、さすがに判らないわね」


 うんうん。美衣さんも話のキャッチボールを返してくれてますね。やはり物事を円滑に運ぶのは会話が一番ですから。


 っと、そんな会話を続けてると薄暗い牢屋の中、いつもの様にベッドから起きて半座りになるとそれに合わせて美衣さんもごそごそと布団から起き上がった。

 んー、見たところなんだかとても機嫌が悪そうですねー。ちょっと調子に乗りすぎて話かけすぎたかなぁ。


「んーーー! ねえミコ。今は朝ですよね?」


 大きく伸びをすると今度は美衣さんが話しかけてきた。おっと、機嫌が悪いのは思い過ごしだったのかな。


「あっ、はい。そうですね。牢番の方が少し明るいですし、もうじき朝食だと思いますよー?」


「朝食ですか……。また固いパンと申し訳程度のスープなのでしょうね」


「あはははー。あー、そうですねー、たぶんそれでなのしょうねー」


 笑い事じゃないけど笑えない、今日もまたそんな食事なんだろうなぁ。

 あー、もう! 温かいごはんプリーズです!!




 さて、四畳半程度のオレと美衣さんのこの二人部屋なんですけど、四方向のうち一面は普通に硬そうな鉄格子で出来ているんです。そして他の三方向はレンガの壁となっています。あっ、床は石畳ですねー。

 んで、この部屋の調度品なんですけど、お世辞にも綺麗とは言えないこのベッドは、少しでも叩くと埃が舞ってとても不衛生で、その上ベッドに敷かれているのはこれまた真っ白からは程遠い薄汚れたシーツ。更にこれまたちょっと黄ばんだ薄い掛け布団なんです。

 なんと言いますか、囚人を殺す気満々なお部屋と言いますか……。だって、こんな薄い布団で寝ていたら冬とかそんな季節だったら凍死してしまいますよ! ……って言うか、今がその冬だったー! ふぁっきん!

 



 はぁぁぁ、入牢生活なんて平成の男だった頃でもあり得なかったって言うのに……。もう、ため息が出ますよ。


 そんな風に元の世界の生活を考えながらベッドを降りると、朝ごはんはまだかなーっと両手で鉄格子の鉄棒を掴んでその間から顔を出した。こんな芸当も小顔だから出来るんですよね。ホントに小顔は便利です! えっへん!

 なーんて、今の状況で威張ったって仕方ないんですけどね…………。


 おっと、牢部屋の鉄格子から顔だけ出して牢番所を見てるとなんだかガヤガヤしはじめたみたいですね。

 ん? ああ、ようやく何か動きがあったみたい。これは朝ごはんですね! さて、それじゃあ鉄格子から顔を引っこ抜きますかーっ。

 よいしょよいしょ。よいしょよいしょ。ぐっぐぐぐー…………あれ!? ぬ、抜けない!? まずいぞ! 脱獄とか思われてしまう!




「……おい、何をやってんだお前は?」 


 いつもの様にお盆を運んできた牢番が呆れた表情でオレを見る。


「い、いえ、これはその……、そうそう! この私の小顔はこの鉄棒と鉄棒の間を抜けられるかなーなんて実験してみたんですよ! あはははー! ただ……、逆に抜けなくなってしまったのでがんばって抜こうとしているところなんですぅ……」


 ふふふ、顔を出したまま薄ら笑いを浮かべてちょっと間抜けな感じに言ってやったぜ! 美少女が間抜けだと逆に可愛らしいだろ!


「ほう。まあ何をするのもお前の勝手だが牢破りなんて事は考えるんじゃないぞ。そんな事をしたら後が怖いからな!」


 こっちが『んぎぎぎー』なんてやりながら首を引っこ抜こうとしていると牢番はちょっと脅しに似た事を言ってこちらを怖がらせようとにやりと唇を吊り上げた。

 まあね、こちとら十代少女、それも美の付く少女がふたりなんだからちょっと怖がらせて自分の有利な立場をアピールしたいんだろうね。

 仕方が無いね。ちょっと怖がったフリでもしてあげましょうかね。それで男の征服欲みたいなのが収まれば待遇もよくなるかもしれませんし。


「ひいぃ。そんな事しませんって! 大目に見てくださいよー! お、お願いしますよー!」


 どうかな? 男心は満たされたかな? えーっと、ちょっと涙目で言うのがコツですよ。やっぱり女の武器を使う時には効果的に使わないとネ。ただし見極めは大事です。やりすぎちゃってエロい事をされるといけないので。例えばこのまま口を犯されてしまったら目も当てられません。

 っと、こんな演技をしていると、なんとなく後ろの美衣さんがジト目でオレを見てる様な気がしないでもないんです。でも首が嵌ってるので振り向けません。仕方ないね。


「まあ、俺は怖がらせたりはしないからな安心しろ。ほら朝飯だぞ」


「あっ、はい。ありがとうございます!」


 一通り話しが終わると牢番は隣の小窓からこちら側へと無造作に朝飯を入れるとそのまま呆れた表情で戻っていった。

 

 オレもその間に悪戦苦闘の末、どうにかこうにかやっと首が抜けました。先程のオレの顔が小顔だから出来る云々は聞かなかったことにして下さい。恥ずかしいので……。


 顔も戻ったし、さあ、今日のくさい飯の中身はなんだろう……。

 オレと美衣さんはみすぼらしい献立内容を確かめながら空腹を満たします。

 もっと良い食事プリーズ!!


 心は満たされないけどお腹はどうにか満たされた。すっごく不本意ですが。

 ホント、ここにこうして座っているだけでストレスが貯まりますよ。それも急激に。







「美衣さん……どうですか? じつを言うと私は結構きついんですよね。この牢屋暮らしって……」


「私とて同じ気持ちです。しかし五日も宿へ帰らなければエミカや仲間達はおかしいと思って探してくれているはずです」


 朝食の後、オレの懸念に横でベッドの上で正座していた美衣さんは少しやつれた顔で答える。あ、オレは正座をすると足が痛くなるからベッドに寝転がってるよ。正座は前世から苦手なのです!


「そうですよねー。探してくれてるはずですよねー。はぁ……」


「ミコ。そんなに気を落とさないで。溜息をついてもどうにかなる問題でもないのですから……はぁ……」


 オレの溜息を叱咤しようとして自分も溜息つくあたり美衣さんもかなり精神的にまいってるなー。

 まあ、オレらが精神的にまいるのも仕方ないことなんだよ。だって冤罪だよ。冤罪! 無実の罪で牢屋に入れられる程辛いものはない。オレらが何をしたって言う話ですよ。果し合いなんだから双方納得済のはずだし、そもそもオレが殺したわけじゃないじゃん!


 だから初日はもうギャンギャンと騒いだんだ。


 『ここから出せー』『冤罪だ冤罪』『無実の者をよく調べもせずに下手人扱いとは嘆かわしい!』『理不尽すぎるー!』

 なーんてふたりで喚き散らしたんだよ、もう手が付けられないくらいに。


 でも牢側の役人から返ってくる答えは『証人が証言している』の一点張り。本当にどうにもなりませんよ。


 あの時の美衣さんは鬼みたいな顔をして『あ、あの女狐、可愛い顔して私達を嵌めおったなっ! おのれぇー許せぬ! 断じて許せぬ! 彼奴の悪事を暴いたうえで、きっと公儀に掛けおうてくれるゆえ心しておれぇい!!』なんてマジギレしていましたし。


 美衣さん、怒ると口調に時代劇が入るから。




 んで、振り返って現状をみるとですね。一応、実力行使で脱出は可能だと思うんだ。オレと美衣さんの得物は入牢の時に取られたとは言え美衣さんは剣術以外にも免許皆伝はいろいろ持っていますし、オレだって杖による魔力の増幅が出来ないだけでわりとやばいレベルの精霊魔法は使えますからね。

 でもそれは最終手段にしています。だって勇者はともかくパーティのメンバーにまで犯罪者の汚名を貼らせてしまいますからね。牢破りの仲間って汚名ってやつを。







 それからしばらく経ったお昼過ぎ。美衣さんもオレもやる事がなく自分のベッドでそれぞれ体育座りをしてボケーっとしてたんです。そしたら見張りの牢番がふたり何やら話ながら歩いてきて、丁度オレらの牢部屋の前でとまるとその間から見知った顔が飛び出してきた。


「やっほー! 美衣! ミコ! やっと見つけたよ!」


 果たして、そこには真っ赤な目をしたアルビノ美少女ルーデロータさんがいて、病弱設定なんてあるのか無いのか知らないけど元気いっぱいに笑顔を振りまいてきた。


「ルーデロータさん!」


「ルーデロータさん、はぁぁ、よかったです。これぞ天の助け」


 地獄に仏とばかり、ベッドから飛び上がって鉄格子へと掴まるオレと美衣さんは揃った様に彼女の名前を呼んだんだ。更に美衣さんなんか、もう降臨した神様でも見るかの様にルーデロータさんに向かって拍手をパンパンと二度打ち鳴らす始末。

 よほどに嬉しいオレと美衣さんでありました。まる。


「それにしてもどうしてここが判ったのですか?」


「ミコ。まあ、その事については後にしようよ。まずはふたりとも無事で何より。さあ、牢番さん早く鍵を開けてよ。モタモタしない。急いで。早く!」


 そうオレに言ったルーデロータさんは門番に早口で迫った。彼女も相当怒っているんだろうね。


「は、はい! こ、このお嬢さん(・・・・)方が勇者様の眷属だったとは露知らず……勘弁してください!!」


 そう牢番は涙ながらに言うと懐にあったたくさんの鍵からひとつを取り出しこの牢の鍵をあけたのだった。







 牢屋敷の長い石畳の廊下を牢番ふたり・オレ・美衣さん・ルーデロータさんの順で歩いています。


「ふふふ……これであの女狐に仕返しが出来る! ふふふ……」


 下を向いてぶつぶつと何かをつぶやいてる怖い美衣さんはこの際放っておいて話を進めましょうか。んー、本当に怖いですね。くわばらくわばら。


「美衣。ちょっと怖いからお国の武士言葉でしゃべるのは自重しなさいよ」


 あまりの怖さにいつも飄々としているルーデロータさんも引き気味です。




 さて、オレと美衣さんのふたりはこの五日間ずーっと牢屋暮らしだったので体が匂っていると思うんですよ。なので、もしかするとすっぱい匂いかもしれません……。

 女子としてはこんな状態ですっぱい香りを漂わせながら表を歩きたくないんですよ。

 なので恐縮しきりの牢番さんに体を洗う場所は無いかと聞いてみようと思います。この牢番さんが直接私達に何かをしたってわけでもないのですから穏便にね。


「牢番さん?」


「は、はい!!? な、なんでございますか?」


「そんなに恐縮しないでください。取って食おうなんて思ってませんから。ただ、とにかく偉い役人さんを連れてきてもらいたいんですよ?」


「? 偉い役人をですか? あっ! こ、これまた何か不都合でもありましたかっ!!?」


「いえいえ。そう言うわけではありませんが。

 えーっとですねー、私達、これでも一応女の子なので五日間も入牢暮らしだとちょっと人前に出るのは……ねえ。

 ですから体を洗える場所を提供できるお偉いさんを紹介して頂きたいなーなんて思ったんですよ? いかがですか牢番さん?」


 っと、ここまでがオレと牢番さんの会話。

 そして、ここからは美衣さんの出番です。


「うむ。体が匂って仕方がないゆえ風呂を所望したい! 同心でも与力でも誰でもよいから急ぎ申し伝えよ! 判ったな! 判ったのならとく急ぎませい!」


 うわあ、せっかくオレが穏便に話しかけてるのに美衣さんが凄い怒ってまくし立てています。牢番さんを睨みながら怒っています。

 いつもの色白な肌が真っ赤になるくらい怒ってます! 怒ってますから言葉も時代劇になってます!

 牢番さんにそこまで怒らなくてもよいじゃないですかーなんてオレなんかは思うんだけどね。美衣さんは牢から出られた事で怒りに火がついたみたいです。


「わ、わ、わ、判りましたーー! 急いで上の者に伝えて参りますーーー!」


 『ぴゅー』なんて擬音とともに哀れな彼は廊下の石畳につまずきながら走っていきました。

 牢番さんご愁傷様です。


 とりあえず風呂はなんとかなりそうですね。





5/23日 修正

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