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31 罠に嵌めるつもりが ▲リギド視点

10月24日 後半部分をちょっぴり修正しました。

第31話 リギド視点








 隊長さんと話をした翌日。私は黄色い長めのワンピースで、大通りを抜けたところにある勇者様達が宿泊している宿へと来ていた。今私は『勇者様達が宿泊している宿』なんて言いましたが、そこはそれ、自分から表立って勇者と看板を掲げて宿泊しているわけも無いので、一応『ここに宿泊している高貴なお方』へと言う事で取次ぎをやってもらっています。


 ん? なぜ宿の場所を知っているのかって? それは最初にミコさん達と会った日。その彼女達を宿まで送ると言う名目で着いて行きましたから、それで宿の場所は判っているんですよ。


 はあ、さすがに勇者様の泊まる宿は大きいな。いったい一泊いくらくらいかかるのでしょうか? そう言えばこの受付ロビーの下に敷いてある絨毯はふかふかだし、天井から釣り下がっているシャンデリアもキラキラしてとても綺麗です。


 ああ、高級感溢れるこの場所に、フォーマルで決めてきたとは言え私なんかがいたら場違いさを覚えてしまいそうです。


 そんな事を考えていたら勇者様のパーティーメンバーの方と思われる人から許可が出たと言う事で、その宿の二階にあるサロンへと案内される事になった。






「それではこちらへ」


「あっ、はい」


 案内人から着いてくる様に言われ階段を昇りはじめた。


 うわぁ、この緩やかなカーブを描く階段も気持ちが良いくらいに立派ですねえ。あっ、あの白いカーテン! 良い趣味してますねー。欲しいなー。


 ……などと内心ではつまらない事を思ったり驚いたりしながら、それらは表には出さずに先を進む。


 そして、爪先に負担の掛かる一端のヒールがコツコツとリズミカルな音を立てて、私は階段を昇り目的のサロンへと向かったのだった。











「私はリギドと申します。今回はここの主に聞いていただきたい話がありましてお尋ねしました。よろしいでしょうか?」


 さすがに会って早々ここに泊まってるのって『勇者様』なんでしょ? ねえねえ、そうなんでしょ? などとは言えるはずも無く、普通の会話からはじめます。


「ご丁寧にどうも。私はティルカと申しますわ。隣はアナスタシア。どうぞお見知りおきを。今日はあいにく私達しか残っておりませんのでご用は私達ふたりが承りますわ」


「うん。私達がお相手するの」


 青いチェックのミニスカートを履いた女の子はそう自分の名前を言うと私の正面の椅子へと腰掛けた。ふむ、この子は勝気な感じかな。翻ってもうひとりの子はなんだか存在感の薄い雰囲気ですね。


「どうぞお座りくださいリギドさん」


「はい。それでは失礼します」


 彼女達と白い硬そうな木のテーブルを挟んでふかふかの椅子に座る。


 んーーー、良い椅子です! 座り心地最高です! でも、まあ、高いんだろうなー。はぁ、こんな椅子に目の前の白い重厚な木のテーブル……。こんな家具の似合う家に住みたいなー。はふぅ……。 


「リギドさん?」


「…………」


「あのー、リギドさん?」


「…………え、あっ、はい! な、なんでしょうティルカさん!?」


「いえ、貴女の目がどこか遠くへと行っていたので何事かと。それで砂糖はいくつ入れます?」


「あー、はい。ひとつ……いえ三つお願いします」


「三つですね判りました」


 ぐああああ。妄想してしまっていたーー!


 ううぅ、これは格好の悪いところを見られてしまいました。











「ふむふむなるほど。そう言う事なら良い薬がございます。今度改めて持参致しましょう…………っと、それで本題なのですけどティルカさん? ここにミコさんと美衣さんと言う方はおりますでしょうか?」 


 ティルカさんから出されたコーヒーを頂きながらしばらくは雑談に耽っていたのですが、向こうからはまるでこちらの用向きを聞いてきません。ですのでちょっと埒が明きませんから強引に本来の話を振ってみました。 


「うっ…………ああ、そうですね。おります。おりますけど……えーっと、そうそう今はあいにく出払っておりまして。現在、宿にはい……居ませんのよ。ですから伝言があるのなら伝えておきますけど……?」


 ミコさんと美衣さんの話を出したら途端にしどろもどろになるティルカさん。


 あはは。この子はとても判りやすい表情をしてくれますねー。本当はミコさんと美衣さんの行方は判らないんでしょ? でも、それを部外者である私に言えるはずもないですからね。

 ふふふ。

 でも、でもね、その行方不明のおふたりの情報に関してとても近いところにいるのが私だと知ったらどんな顔をするんでしょうか? 

 まあ、ふたりの居る場所を言うつもりなんてありませんけど。


 で、それに比べてもう片方のアナスタシアさんはまるっきり表情を変えません。姿格好も地味ですし、大人しい感じなのですが目の奥の中に得体の知れない何かがありそうで少し怖いです……。

 う-ん、じつを言うとやりづらいのはこちらの大人しい子の方かもしれませんね。


「ねえリギド? 私は貴女がどんな用事でここへ来たのかは知らないの。でもね用事は知らないのだけど疑問ならあるの」


 っと、丁度このアナスタシアって子の事を考えていたら、つぶさにこちらへ揺さぶりをかけてきました。やはりこちらの子の方がティルカさんよりも数段面倒くさそうです。


「疑問ですか?」


「うん。そう。疑問。なぜ貴女はミコや美衣の事を知っているの?」


 ああ、そう来ましたか。やっぱり面倒くさいですねー。


「は、はい、それがつい先日見てしまったのですが、そのお二方がとある魔術道場の者達と口論しているところに出くわしまして…………」











「はい、はい。そうなのです。そこでお二方は道場の者へと不意に襲いかかり乱暴狼藉に及んだのでございます」


 ポケットから取り出したハンカチで顔の汗を拭くフリをする。現場の切迫感を出さなくてはいけませんから。


「ふーん。あのふたりがそんな理不尽な事をしたんだー? へぇー。でも私にはにわかには信じられないの。それってホントに本当の事なの?」


「は、はい。左様でございます。私も鬼の形相なお二方を止める事など出来よう筈もなく……まことに心苦しいのですがその日は逃げ帰ったしだいです」


 地味な子が『ふーん』なんて不信感を前に出して、私の言っている内容に対してチクチクと言葉を刻んできた。


「ふーん。でもふたりは出かけているからここには居ないの。だからね今は本人達から直接は聞けないの」


 ううぅ、この地味な子との対話はつらいです。何を言ってもチクチクと突っついてくる。


「そ、そうでございますね。ここに居られぬとあらば私には皆目見当がつきません」


「ふーん。へぇー。そう。とにかくふたりが戻ったら伝えておくの。リギド、聞かせてくれてありがとうなの。で…………他に用事は?」


「あ、はい。今回はそれだけをお伝えしようかと……。で、では、そう言ったわけで御免くださりませ。それではまた……」


 そう私は言うとフカフカの椅子から立ち上がって、そのままぺこぺこと頭を何度も下げた。

 ちょっと分が悪いです。早く退散しましょう。勇者様の仲間になる為には何度も訪れなくてはいけないのですけど、今回は本当に分が悪いですから。




 二階のサロンの扉の前でティルカさんと地味なアナスタシアさんにもう一度お辞儀をすると足早に階段を降り、一階のロビーを通り過ぎてそのまま高級宿を出ました。


 はー。くたびれました。後半のアナスタシアさんとの会話は冷や汗の連続でした。あの子の目を見ていると何故か生きた心地がしません。


 まあ、今日の顔見せはこのくらいでいいでしょう。あまり長く居ても仕方ないですし。




 ふふふ、さあて忙しくなってきました! なんと言ってもあのふたりにはこのままずーっと牢暮らし銅山暮らしをしてもらわなければならないんですから。

 最後まで彼女達の居場所だけはなんとか隠し遠して、勇者様に取り入り仲間に加えてもらわなければ!











◆ ティルカ視点






 リギドさんが挨拶もそこそこに階段を降り、一階に辿り着いたところで彼女の姿は見えなくなる。別に何かの感傷があるわけでもないのでそれを見届けた私達は元居たサロンへと歩き出した。


「ねえティルカ?」


 サロンへと至る、遠くもない道すがらアナスタシアが私へ話しかけてきた。

 なんでしょう?


「何?」


 階段から離れ、ふたりで並んでサロンに戻りさっきまで座っていた椅子に腰を下ろす。目の前のコーヒーはさめて冷たくなっていた。


「結局あの人、何しに来たの?」


「私が知るはずないでしょう。貴女はどう?」


 さめたコーヒーを飲みながらアナスタシアの言葉に私は質問で返した。


 だって、こう言うの苦手ですし。暗黒魔法でどっかんどっかんやって相手をねじ伏せるのは大好物ですけど、細かい人間観察とかは大の苦手なんです……。 


 


「そうねぇ…………。ヤツは怪しいね。怪しすぎるの」


「そ、そうかしら?」


「うん。…………あのガキ、一丁前にペラ回していい気になっとったけぇ気分はよかろうが、あげん能書きこいとったら絵図書いとるんはヤツ自身じゃあ言うてるんと変わらんのじゃあ! あん外道……私の死霊でいわしたろうか!?」


 『うん』と返事をしたその時まではまだ普通だったアナスタシア。でもその後からみるみる表情が一変し、私が住んでいた下町のスジ者みたいな語調に一瞬でかわったのです。そう言えば確かミコさんもこの表情を見た時に『何っ? 何々、スガワラブンタ!?』なんて意味不明な事を言ってましたっけ。


 うわぁ、たまにこの子は興奮するとこの喋りになってしまいます。その表情と言葉はおっかないんですって!


「ア、アナスタシアさん!? 貴女また言動が乱暴になってきたわよ!」


 私が慌てて恐ろしい言葉を聞き咎めると彼女は表情を改めてキョトンとした顔をこちらに向ける。そして何事もなかったかの様に軽い謝罪を口に出した。


「あっごめん。でもね私は絶対リギドがミコや美衣の事を知っていると思うの」


 うーん。そう言われればそうかも。

 なんとなくですけど私もぼんやりとそんな気になってきましたわね。


 いつも思うのですけどこの子って頭がいいですわね。じつはコロンに匹敵するのではなくて? しかし流石にそれは無いか。


 さて、とにかく今回の件はレオ様が帰ってきたらきっちりと報告しましょう。


 こんな重要な情報ですもの。きっと私の株も急上昇ですわ!






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