28 果し合い
さて朝から黄色い女の子の元へとオレと美衣さんは訪ねたのですけど、すぐに手を引かれて件の秋桜魔術道場へと連れていかれました。
ちょいと急ぎすぎじゃない? まあ、何か手立てがあるって言ってたから、それを試すのかな?
「ごめんくださーい! 私はスパリオ魔術道場の道場主兼師範リギド・スパリオですー! 今回は用事があって出向いて来ましたー! どなたかおられませんかー?」
リギドさんが秋桜魔術道場の門前から中の人を呼ぶ。うーむ、もう少し迫力のある口上は無いもんですかね。
しばらくすると門人らしい人が出てきた。
その人とリギドさんはアレコレと問答をすると出てきた門人はまた道場の中へと戻っていった。
何だろう? 何か約束でも取り付けたのかな。
「出てきた人は道場の中へ戻った様ですけどどうしたのです?」
「ミコさん、まあ見ていて下さい」
「はあ……」
自信満々に答えるリギドさん。
そう言われましてもと、オレと美衣さんは顔を見合わせる。だって主導する立場じゃないから顔を見合わせるくらいしか出来ないんだもん。
しばらく秋桜魔術道場の門前で待っていると先程の門人が出てきた。
「師範は承知するそうです」
「そうですか! 判りました。では後程!」
そう言うとリギドさんは門を背中に元来た道を歩きはじめる。
それを見てなんだかよく判らないけど彼女についていくオレと美衣さん。ホントに何が何やらさっぱりですよ。
「リギドさん? 話はまとまったのですか?」
「はい。話はつきました! ですからもう少し付き合って下さいね!」
「はぁ……」
あのー、リギドさん? そんな嬉しそうに言われてもこっちは具体的な話は何も判らないんですけどー。
◇
それからしばらく三人でふらふらと大通りを歩いて喫茶店に寄ったり大道芸人のショー等を見たりして過ごしたんだ。
いや、喫茶店のお菓子とかショーはとても美味しいし面白かったんですけど、オレとか美衣さんは何のために一緒にいるのって話ですよ?
そんな風に歩いていたら大きい広場の真ん中でリギドさんが立ち止まった。周りにはさっきの秋桜魔術道場の師範のえーっと……あー、そうそうセキュー達三人が立っていた。門人を多数連れて。
「さあ、到着しましたよ。ここに来たかったんです」
「ふーむ、ここにですかー。美衣さんどう思います?」
「あちらは師範から門人まで勢ぞろいみたいですね」
オレの声に美衣さんも感嘆の声をあげます。表面上だけでしょうけどね。
「はい。二十人はいますね」
とりあえず一通り驚いてみる。まあ、オレらのパーティのメンバーならこの程度の相手はどうって事もないですけど、今回はオレと美衣さんは脇役だからねー。
リギドさん、オレ達は見届けますから! ちゃんと見届けますから!
「リギド! よく逃げずに来たな! お前からの果たし状は読ませてもらった。この提案こちらとしては願ってもない事。よって受ける事とする」
秋桜魔術道場の師範セキューが意味の判らない事をこちらへ向けて言い放った。
えっと、果し合いはまあいい、この状況を見るに、さっきの秋桜魔術道場の門前でのやりとりはこれだったんだろうってのは容易に想像できる。でも提案したのはこっちからだと言うのは意味が判らない。だって、リギドさんがエキューと戦っても勝てるわけないから。
なのでオレはてっきりあちらさんがここで待ち伏せでもしていたのかと思ったんだけど……違うのか?
「これはいったいどう言う事なのですかリギドさん?」
「はい。えーっと、借金も今日までに返せるワケがないですし、道場だってただで差し押さえられるのも癪です。ですから真剣勝負をしてこっちが勝ったら借金無しって事で手を打ったんですよ!」
ドヤ顔で答えるリギドさん。もう、この人どうにかしないと……。って言いますか、彼女の実力じゃあ勝てるわけないですよね? どうするんですか?
「リギドさん、負ける事とか考えてなかったのですか?」
「負けてしまったら私を性奴隷にするって事で話は済んでます」
ちょ、ちょっとまてーーー!
「ちょっとまてーーー! それって……」
あまりの事に驚いてしまう。自分の事を、更に言えば女の子の操を軽く考えすぎだろうって。それとも貴女、勝つ算段でもあったりするのですか?
女の子の操について元男のオレが言うのもアレですけど。
「どうした!? こちらは準備万端だぞ! 果し合いなのだからこちらも覚悟は出来ている。不慮の事故で死したとしても恨む事は無い!」
威勢のいい事を言うセキュー。
まあ、そりゃあリギドさん相手じゃ負ける気はしないわな。
ホントにどうするの?
「そ、それじゃあミコさん! 助っ人お願いします!」
そう言うとリギドさんは、さも当然だとばかりにオレの後ろへと回る。
「え? えーーー?」
「お願いします。お願いします。本当にお願いします。私じゃあ絶対勝てないので! ミコさんしか頼る人がいないんです!」
オレがびっくりして口を開けていると、泣きそうな顔で何度も何度も頭を下げるリギドさん。
「美衣さんは剣士みたいですし、もう魔法使いのミコさんしか頼る相手がいないんですー!」
今迄の余裕やら何やらは全てオレにやってもらうための安心感からなの!? いや本当にそれってどうなの!?
う、うーん。すっごく納得いかないんですけど、流石に女の子を性奴隷にさせるわけにはいかないからなー。仕方ないか。
「はぁ……、今回だけですよー」
「ありがとうございます。ありがとうございます。ご恩は一生忘れません!」
ペコペコと何度も『ありがとうございます』をする黄色い女の子のリギドさん。
もう、調子いいなー。
この人はたぶん長生きしそうです。




