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26 旅はつづく

だいぶ遅れました ('A`)

第26話



 ここは地方都市テンゲン。


 正門ゲートから都市の中へと入ると建物や人家の様相も変わりはじめ、今迄の白い漆喰の壁の建物やレンガ造りの洋風建築とは趣きの違う木造建築が増えはじめた。増えはじめたと言ってもまだまだ比率はレンガ等の建物の方が多いことは確かだけどようやくヒノモト国が近づいてきたのが認識出来たんだ。

 っと言うわけで、ここはそんな西洋文化と東洋オリエンタル文化が混じった様な雰囲気の街なんです。


 その街の海岸方面から海の向こうは、まだ何も見えませんけどもう何日か南下すれば島国であるヒノモト国も見えてくるはずです。

 島国と言っても、島部分はヒノモト国土の三割程で、目的地の国都カスガヤマは大陸とは地続きですから海を渡る必要はないんですけどね。

 

 そんなまだ雪が脇に高く積み上げられている地方都市の大通りをオレと美衣さんは歩いていた。

 その隣で歩いている美衣さんは勇者パーティにおける東方組のひとりでこの旅の目的地のひとつでもあるヒノモト国の貴族令嬢だったりします。


 まあ、ぶっちゃけオレに言わせればヒノモト国と言うのは昔の日本みたいな国でして、そこの貴族ですから要するにお公家さんの家なんですよ。美衣さんの名字だって一条(・・)さんなんて言うテンプレ的なお公家さんの名字ですし。

 で、そこのお姫様である美衣さんなのですが、いつも振袖を着ている黒髪黒目の大和撫子でとっても美人さんなんです。しかも剣と薙刀の腕もピカイチで、流派は忘れましたがいくつかの免許皆伝を誇ります。

 その彼女の今日の着ているモノは白地に花札の坊主の二〇点の赤い空の月が描いてある振袖……。なんだか筋者(すじもの)っぽい凄みがありますね。そんな美衣さんは見た目からして隙がありませんし(怖い意味で)年齢だってオレとふたつしか違わない十五歳。本当にしっかりしています。そんな武士娘って称号が似合いそうな女の子が美衣さんなんですよ。

 お公家さんのお姫様なのに武士娘ってのもアレではありますが。


 一度目の魔王退治の旅で美衣さんが仲間になった時、彼女のお屋敷で色々と出自だの由緒だのを一条家当主の親父さんから聞かされましたが全然覚えてません。

 何故かって? だって話が長すぎるんだもん……。


 一応は長旅の疲れを癒す名目なので二、三日はこの街に逗留する予定。

 だって、もう旅が始まってから三週間は経過してますから色々とくたびれてるんです。

 本来は二〇日くらいでヒノモト国の国都カスガヤマには着くのですが今は冬。そうそう予定通りには参りません。




「美衣さん。沢山買いましたねー?」


「はい。父上や実家の皆さんにお土産です。久しぶりの里帰りですから皆さんに喜んで頂こうなんて思いまして」


「なるほど。そうなんですかー」


 ニコニコしながら実家の一条家の事を話してくれる美衣さん。

 流石はヒノモト人。考え方のベースは常に御家大事ですねー。でもその考え方嫌いじゃないよ。オレだって世界は違えど日本生まれの半分は日本育ちですから、転生前は忠臣蔵とか年末時代劇はよく見ていましたし。

 うん。里見さん恰好よかったなー。


「ミコもお土産……あっ、ごめんなさい! 無神経な事を言ってしまって……」


 んん? 美衣さん? 急にどうしたんでしょ? 

 あっ、ああ、そう言う事ですか。 


「え? あっ、いや、そんなに大げさに謝罪しなくても気にしませんからっ!」


「本当にごめんなさい」


「いいですって! そんなに気にせずとも!」


「でも……」


 ああ、そんなにしょんぼりしないでくださいよ。オレが孤児で田舎の村の孤児院育ちってのはもう仕方がない部分ですしね。まあ、その孤児院がもう無くなっちゃってるのは少し寂しいけど、それはもう心の中で折り合いはついてるんですから。

 それに孤児院って言っても小さな村でしたから孤児だってオレを入れて五人くらいで、無くなっちゃうのはみんなが働ける歳になったって事の裏返しって事だもんな。

 だから孤児院が無くなったのは孤児がみんな独り立ち出来たんだからお祝い事なんだよ。







 っと、こんな風に美衣さんの謝罪を受けながら歩いていたらわりと近くから人の争う音が聞こえてきたんだ。その喧騒に大通りを歩いているオレ達や沢山の通行人が足を止める。

 えーっと、争う音は……この建物からか?

 その音は丁度立ち止まった横の建物が正体みたいだ。なになに『スパリオ魔術道場』?

 んー、魔術道場? 魔術道場ってなんだろう?


「美衣さん、魔術道場って初めて聞いたのですけど何だか判りますか?」


「そうですねぇ、一言で言いますと魔法を習うところですね。剣術道場の魔法版の様なものですよ。私達には必要はありませんが低レベルの人だったりそれなりのレベル帯の人には役に立っているんですよ」


 いつもの様に美衣さんが丁寧な口調で教えてくれる。

 なるほど。時代劇によく出てくる剣術道場の魔法版ですか。

 って事は道場破りとかもあったりして。魔法で戦う道場破り……おおぉ、なんだか格好いいかも!


 美衣さんの言葉を聞いて関心しながらその場の状況を見ていたら遂に争う音がここまで聞こえた来たんだ。

 そしてその『スパリオ魔術道場』の戸口から慌てた女の子が転がりながら出てきた。いや、出てきたって言うよりも叩き出されてきたと表現した方がよさそうです。


 投げ出されたまま両手をついて未だ戸口の前でハアハアと疲れた様に息をしている、肩くらいの黄色の髪の小柄な女の子。

 うん、着ている服も自身の髪の毛の黄色で統一してあるしファッションセンスがキュート。しかも小顔でわりと可愛いんじゃないかな。

 でも、よく見るとその女の子は所々擦り傷やら打ち身の痕なんかが目立っていてとっても痛々しい。 中にも人が居るみたいだし試合でもしていた……わけではなさそう。


 おっと、中から人が出てきたぞ。ひーふーみー、三人ですか。それも全員男。三人とも魔法使い風な衣装を身に着けた華奢な連中ですね。

 そのうちの一番偉そうな男が何やら呪文を唱えながら黄色い女の子の前まで近寄って行きます。

 近づかれて恐怖を感じたのかオレ達を含めた周りの野次馬に懇願の表情を見せる黄色の女の子。そしてその目はオレの目と合わさり瞬く間に急ダッシュでオレの脛を掴んで後ろへと隠れた。


「ど、どうか助けてください! お願いします! なんでもしますから!」


 おおっとー! 女の子から助けを求められたら助けるしかないよね。

 隣の美衣さんを見ても『こうなったらやりましょうか』って表情をしていますし。

 それじゃあちょっとか弱い女の子を助けちゃいましょうかー!


「ちょっとやりすぎじゃないのですか貴方方。この(なり)を見れば実力差はみえているじゃないですかー」


 そう言って男達の前で黄色の女の子を庇ってみせた。まったく大の大人が三人も寄って女の子ひとりに怪我を負わせるなんて信じられない。

 って言うか、お前らもっと考えろよ。女の子に傷を負わせるよりも優しくして自分に靡く様にした方が断然いいでしょうに。そうすれば気持ちいい事も出来るかもしれませんし。それともこの男達は特殊性癖で女の子にキャッキャ言われるよりも痛めつける方が好きなのか!?


「…………見かけない顔だがお前は何者だ?」


「通りすがりのお節介焼きですよ」


「ふん。生意気な女め……まあいい。リギド、明日の刻限までに借金を返せねば道場は貰い受けるからな」


 偉そうな男はオレの後ろで震えている黄色の女の子に大喝すると今度はオレの方を向いた。オレに言いたい事がある様です。


「もうひとつ。そこのお節介女、俺の名は秋桜(コスモス)流の魔術師範セキューだ! お前も魔導を扱うのならうちの道場へこい! 身の程を思い知らせてやる」


 そう言うと、周りの野次馬を散らせてからどこかへと歩いて行った。一応は悪いと思ったのか騒動を収めたみたいだね。




「ありがとうございます! 本当に助かりました! 是非、是非うちの道場へ寄って行ってください! さっ、さあ、どうぞ! どうぞこちらへ!」


 一騒動が終わって大通りの往来もまた元に戻った頃、件の黄色い女の子からお礼がてらにと半ば強引に道場へと誘われた。うーん、目が必死だね。たぶん守ってほしいとかそう言う類の話になりそうです。

 さてさてどうしたもんでしょ?







「えーーーー! リギドさん、貴女借金ありすぎでしょう!!」


「は、はい。面目ないです……」


 オレと美衣さんのふたりは誘われるまま中へ入って黄色い女の子のリギド・スパリオさんから大まかな話を聞いたんですけど、その話がぶっ飛びすぎていて出されたお茶を吹き出しそうになっちゃったんです。

 リギドさん、貴女あいつらからお金を借りすぎですよ……。


「その借りたお金はいったい何に使ったんですか!?」


「ああぁ、あの、そのぉ、道場の運転資金とか諸々に……」


「はぁ、それはお困りでしょう。私と同じくらいの年齢に見えるのに道場経営とか大変でしょうから」


「ううぅ、現に私のこの道場は閑古鳥が鳴いてますけどね……」


 しかし門弟がひとりもいないって、それってどうなんですか?

 そう思うともう一度この黄色い女の子のリギドさんを見る。うーむ、魔法の資質と容姿は関係ないとは言えのほほんとし過ぎですよね、この子ってば。

 さっきの騒動を見ている限りとりあえず戦いにおける魔法の実力はちょっとアレみたいですね。って事は魔法の効能とかそう言った類の魔法的な学問が得意なのかなー。もしかしたら座学系な道場なんでしょうかね?




「それでその借金の期限が明日なのですね」


 その辺りの話を進めて考え込んでいたら、大部屋で正座で座っていた美衣さんもちょっと驚いて、膝をリギドさんの方に一歩進めて聞き返しています。そりゃあそうでしょう。金貨二四〇枚とか運転資金だとしても使いすぎだと思いますし!? 平成で言うところのだいたい二四〇〇万円ですから。

 

「はい。見ての通り道場には門弟もいません。ですから収入もからっきしなのです……。そうなってきますと明日の期限以内にお金を返すなんてとてもとても……」


 そんな事を言いながらリギドさんはオレや美衣さんに切羽詰まった近況を話してくる。

 あはは……はぁ。二〇畳ほどあるこの部屋には魔導具などが壁に掛けてあるだけで人はオレと美衣さん、それとリギドさんの三人だけ。普段も人が居る様には見えない。


 まあ、判ったよ。リギドさんが困っているって事はさ。で、オレ達にどうして欲しいんでしょう? 心情的には助けてあげたいんですけど、流石に借金を肩代わりするのはなんか違う気がするし。

 それにそもそもオレだって個人的なお金は多くはないからね。

 って言うか、魔王討伐の報奨金はどうなったんでしょうかね? オレ報奨金は貰ってないんですけど。貰う前に勇者に追い出されたんですけど……。


「……それで私達に何をして欲しいのですか? とりあえずお金はありませんからね」


 手伝うのはいい。それは問題無いんだけど、お金関係は無理だから。まあ、勇者に頼めば貸してくれるかもしれませんが、ヤツに借りは作りたくないので。


「は、はい。えーっとですね……、是非明日セキュー達の道場まで着いてきてもらいたいのです」


「あの男達の道場にですか? しかし赴いても解決出来るとは思えませんが? それともこの道場を差し出すのですか?」


 リギドさんの言う話に納得が出来ないのか美衣さんの言葉にもちょっと角が出来る。


「いえ、この道場は渡しません! それよりも私にいい考えがあるんでご一緒頂ければと……」


 いい考え……傍から見ればそんなの全然無いと思うんだけどなー。リギドさんのどこにそんな自信があるのかな。でもまだリギドさんとは出会ってから数時間の間柄でしかありませんから、もしかすると凄い隠し玉とかある…………のかなー?








まだもうちょっとネット環境が不安定です

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