24 温泉の街
旅を始めてから今日で四日目。冬で寒いから汗はそんなにかかないんだけれど体を洗えないのが辛くなってくる時期です。だからかは判りませんが運良く、いや必然的にここへと辿り着いたのです。温泉の街へ!
朝の喧騒を横目に魔法の腕時計を見る。今は午前の九時過ぎ。冬とは言えこのくらいになってくると少しづつ暖かくなってくる。周りを見れば所々に温泉地特有の湯気が一軒一軒の宿から立ち込めていた。
至るところから温泉が沸き出る街『ツキオルカ』。ここは温泉の街だけあってどこへ行っても温泉宿があるんです。
だって広い大通には何十軒と大きな旅館宿が立ち並んていて、狭い路地にだってこじんまりとした旅籠が軒を連ねているんですから。
たぶん昔から、旅人はここで一休みしてから東へ北へと旅出て行ったんでしょう。
あっ、ほら疲れた旅人の大好きな娼館だって何軒も並んでます。こう言うのは温泉街ならではだなー。
「ミコ? どうしたの? あー! さては男娼館を見てたんだなー!」
「な、何を言うんですルーデロータさん!」
急にへんてこりんな事を言い出すルーデロータさん。娼館がたくさん並んでいる通りに一軒だけ男娼館が見える。
たぶんオレが娼館を見ているのに感づいたルーデロータさんが、男娼館を見てると勘違いしたんだと思う。
って言うかさ! なんでオレが男娼館なんてものを見なきゃならないんですか!? 好意があったりするならいざ知らず、流石に身も知らない男を体の中に受け入れる気はしないんですけど!
「必死に取り繕うところを見ると怪しいなぁ?」
「わ、私は別に……」
「興味くらいはあるんでしょ? ね? ね?」
「あ、ありませんよ!」
元の自分のお○んちんは、数えるのがバカバカしくなるほどアレしたんだから興味も何も、どうすれば興奮するとか、どうすればよくなるなんて事は、全世界の女性の中で一番知っているんじゃないのかってくらいに知ってますよ!
ど…………童貞でしたので突き刺したことはありませんでしたが…………。
うーむ、オレも突き刺されると前世で見てたエロ動画みたいにああ言う顔をしながらあんな声を出すんだろうか……。
「でもねミコ、最初は大好きな人に捧げなさい。安売りはダメだよ」
「うっ、それはそうですが、そもそも私は男娼館なんてものは見ていないんですってば!」
「ミコってすっごく初心なんだね。判った! 年上の私がちょっとだけ教えてあげる。狙った男の落とし方とか色々! えーっとまずは男を誑かす妖しい流し目から練習しますか……」
ルーデロータさんと変な会話で盛り上がる。
盛り上がってるのはルーデロータさんだけなんだけど。オレには王都に大事な人が待ってるんだから、こんなところではじめてを捧げるわけにはいかないんだっての!
だからね、狙った男の落とし方とかいらないから! 流し目とかいらないから!
「レオ様。どの宿に致しますか?」
オレとルーデロータさんがわちゃわちゃとしょうもない事をやっている横では勇者とシャーリン様が宿を考えている様子です。
まあ、お金はオレが出すわけじゃなくて国からの支度金から出すんだからどこでもいいね。警備が厳重でお風呂が大きくて料理と酒がうまけりゃなんでも!
「そうだねー。俺はどこでもいいんだけど」
「じゃあレオ様、あそこにしましょう! あの綺麗な白い壁のあの宿に!」
シャーリン様はそう言うと高級そうな旅館って言うか、ホテルを指差した。
ああ、まあ、シャーリン様ならそう言うでしょうねー。シャーリン様好みな高級そうなホテルだもんね。
◇
って事で、シャーリン様の言うがままにこの高級ホテルが宿になりまして、受付やら何やらを勇者とシャーリン様に任せてオレらは部屋のキーを持ってペタペタとホテルの廊下を歩いてます。
このホテル、本当に高級なんですよ。ロビーには真っ赤な絨毯が敷き詰められていて、そこから縦横無尽に伸びる廊下にも真っ赤な絨毯が敷いてあるくらいの豪華さ。
これは酒と料理にも期待していいかもしれない。勿論お風呂にも!
てくてくと廊下を歩いていくと何部屋かが隣り合っている扉の前でみんなが立ち止まる。
たぶんここ辺りが割り当てられた部屋群なんでしょう。
「ここには私達三人が入りますね」
「はい。それでは私達東方組とミコはこちらで」
アリアさんがティルカさんを伴って三人部屋の錠前にキーを通す。それに美衣さんがいつもの様に丁寧に答える。
アリアさんはここへシャーリン様も呼ぶつもりなんだろうね。だからティルカさんとふたりで三人部屋を選んだんでしょう。
それに対して美衣さんも三人部屋を使いますよと宣言。そこへオレも入れられてしまった。いや、美衣さんもエミカさんも好きなので全然問題ないんですけどね。ただ事前の話もなかったから慌てただけです。
「私とルーデはこっちを使うぞ!」
「ふたり部屋!? まあ、仕方ないか。ラルガ姉さんよろしくね」
「ああ、よろしくだぞ。荷物を置いたらさっそく風呂へ行こう!」
なんとも気の合うふたり組は早速とばかりに部屋に入る。中でちょこちょこと何かした音がするとすぐにも部屋から出てふたりは揃ってお風呂場へと向かった。
行動力抜群ですねこのふたりは!
「それじゃあ、最後に私達はこっちにしましょうか」
「うん! エルセリアお姉さん。今日は私と一緒に寝よう!」
「あらあらコロンは寂しがり屋なのね」
エルセリアさんの言葉にコロンちゃんが一緒に寝る宣言をする。そしてその傍らのアナスタシアさんも無言で小さく頷くと彼女達三人もキーで部屋の鍵を開けると中へと入っていった。
ってことで、オレ達も中へと入りましょう。
「うん。ここはよいお部屋ですね」
美衣さんがオレの前でそんな事を言う。
中は十二畳ほどの部屋になっており、意匠を凝らした木のテーブルと六つの高級そうな腰掛が真ん中にある。でも重厚な感じがしないのは大きなガラス窓から入る陽光のお蔭だと思う。
「美衣さん、エミカさん、この扉を開けるとバルコニーみたいですよ?」
オレが海辺に近いガラス窓の扉の前でそう言うとエミカさんが近づいて来た。
「どれどれ?」
窓辺のガラス窓は大きく、その横から出入りが可能になってる扉が一枚。そこを出ると真っ白なバルコニーだ。そこにあるのは白い大理石のテーブルと白い椅子。そして海辺の温泉宿だからなのか潮の香りが漂ってきている。
うん。このホテルはいい。値段もいい値段なんだろうけどサービスだって良さそうです。
「やっ、あっ。バ、バルコニーはいいけど風が……風が強いですね」
「んだ。こりゃ強えーわ。冬の北風らすけ仕方ねーね」
オレとエミカさんはスカートが捲れない様に前とお尻に手を当てながら強風に逆らって目の前に広がってる浜を見る。
オレは白のロングスカートだから捲れても前後を抑えていればパンツが見えることはないんだけど、エミカさんは赤と黒のゴスロリで、しかもふわふわのミニスカだから前後だけ押さえても横からパンツがチラチラ見えるんだよね。
うん。今日は白と薄い青のしましまかー。
いやー、眼福眼福。ごちそうさまです。
パンツが見えて嬉しいけど風で寒くなってきたので中へと戻りました。
風で風邪を引いたらいけませんし。
強風で髪の毛がぼさぼさになっちゃったので部屋にある大きな姿見を身ながら手櫛で髪を整えるふたり。
仕草が女子っぽいかな? 女子だし、いいよね?
手櫛で整えると部屋内にある別の扉を開ける。扉を開いて中を見てみるとそこには大きなベッドが三つきちんとした寸法で置かれていた。うん。とても高そうだし、見た目が既にふかふかです。
実際に腰掛けてみたら思ったとおりにふかふかでとても心地いい。
心地いいんだけど、四日も体を洗っていないこの体では流石にベッドの中で休みたくないね。きったなくなりそうだから。うーん、はやくお風呂入りたい!
汚い話になってしまうけどじつは、昨日くらいからおまたがちょっと痒くて……。大事な場所が痒いとかありえないんだけど痒いんだから仕方がない。
だからはやくお風呂で体洗いたいんです! 特におまたとかを……。
「それじゃあ、私達もお風呂へと繰り出しましょうか」
「んだんだ」
「はーい! 早速行きましょう」
美衣さんの声にエミカさんとオレも同調する。
貴重品は持ったし、財布もオッケー。替えの下着とパジャマも持ちました。準備良しです!
三人で部屋を出て、廊下の曲がり角や二差路に書いてある『お風呂場はこちら』等の案内板を道標にとことこと歩きます。
わりとオレ達の部屋からは遠いみたい。遠いから廊下途中のカフェやレストラン、ホテル内バー等を見る事が出来、色々と楽しそうな場所がたくさんあるホテルだなーなんて思いを巡らせる事ができました。
広いホテルだから遊技場とかもあってなんとも楽しみです。
お風呂場に着くと脱衣場で服を脱いで洗濯籠へと投げ込む。洗濯料金も払ってるから洗濯してもらいましょう。パンツとブラも取ってかごに入れるとタオルで体を隠しながらお風呂場の中へと入りました。
おお、広い! しかも大きいお風呂から小さなお風呂、更には外への扉を開ければ露天風呂まであります。混浴だから出来る色んなお風呂の数々。これで男女で分けてれば半分づつしか使えないからここまで壮大なお風呂場にはならなかったはずです。
「じゃあ、体を洗いましょうか」
「四日も風呂へーって無えーっけ、体中かーえてさ、困ってたんだわ」
「私も痒くて(おまたとか特に……)」
オレの場合は大事なところ込みで痒くて……。早く洗ってしまおうっと。
オレら三人以外のみんなはもう来ているみたいですね。体を洗い終わったのか、みなさんは湯船の中でゆったりしています。いいなー、早く体を洗ってオレもお風呂に入ろうっと!
ごしごし。ごしごし。くちゅくちゅぬちゅぬちゅ。もみもみもみ。くちゅくちゅ……とろーり。
「んっ! あっ……んん……。はあはあ」
髪の毛から体の隅々まで石鹸で泡々になりながら洗いきりました!! 大事なところは特に丁寧に優しく洗いましたよ。くちゅくちゅ言わせながら!
泡の手や指で大事な部分を洗うとちょっとだけ気持ち良かったのは秘密だぞ!
◇
「アナスタシアはおっぱい大きいね」
湯船の中。
『ふへぇー』って顔で温泉を堪能していると、わざわざオレのところまで寄ってきて、アナスタシアさんの胸の大きさについて論評しはじめたルーデロータさん。
あのー、返事に困るんですが。
「そ、そうですね」
「私もミコもあんまり大きくないから悩んじゃうよねー?」
「え、う、うん」
「でも、私もミコもシャーリン様の絶壁には勝ってるからいいけどねー」
「あははは……」
そう言うと交互に自分とオレの胸を比較するように見るルーデロータさん。
オレは小振りとは言え、貧乳好きの紳士が愛おしく思えるくらいには膨らんでいたりはするんですよ。だから貧乳好きには喜んでもらえると思いますよ! 先っちょだって小さいしツンと上を向いてるから形だっていいはずです!
オレが男だった頃は、この女子の胸の先っちょって奴を吸ったり舐めたりしたくて仕方が無かったんですよ。ですから孤児院で生活していた頃、じつは膨らみ始めのおっぱいを自分の口で吸ったり舐めたりしたいと思った事がありまして、頑張って顔を近づけ様としたんですけど、悪戦苦闘の末、絶対に無理って言うのが判ったんです……。
で、その晩は吸うのを諦めて、仕方がないから揉んだり摘んだりするくらいに留めた思い出があります。それはそれで気持ち良かったんですけど。
あーあ、吸ってみたいなー。どんな味がするんだろ? お乳の味はするんだろうか? これから先、オレは吸われたり舐められる事はあるかもしれないけど、女子のおっぱいを吸う事は無さそうだからとっても残念なんですよ。あう。
おっと、ルーデロータさんとの会話の続きをしなきゃ!
「ルーデロータさんだって言うほど小さくないじゃないですか。私のに比べればー」
「そりゃ、年齢的に私の方が大きいのは自然の摂理だよ。ミコは成長してるんだからあんまり気にしない気にしない」
湯船の中での女子トーク。ルーデロータさんはおっぱいの大きさがとっても気になるみたいだねー
でもね、元男から言わせてもらうと……女子のおっぱいはどんなのでもオッケーなんだよ! そりゃあ、好みはあるけどね。ただ、基本的に男は女の子のおっぱいならどんなのでも興奮するんだよ。だからそんなに心配しないでね! 絶壁じゃなきゃ嫌だ! なんて言う紳士までいるくらいですから。
異論は認めてないのであしからず。
ざんぶと湯船の中で肩からお湯をかける。ふへぇー気持ちいいわぁ。
そんな事をやってたらお風呂場へと誰か別の人が入ってきた。
あれは男……かな?
混浴だから男がいるのは当たり前なんだけど、もの凄い気恥ずかしさとなんだかよく判らない恐怖心みたいな感情が頭の中を駆け巡る。
男の頃には体験出来なかった感覚、本能からくる自然な恐怖みたいなヤツだ。
ああ、女の子は裸を見られたり、見られそうになるといつもこんな感覚を抱いていたんだなー。なんて、この恐怖心を楽しんでいるオレ。たぶんパンツを見られる時も少なからず似た様な感覚になるんだと思う。オレの場合はなぜか下着関係ではならないみたいだけど。
それじゃあ男も入ってきたしオレも上がりますかー。知らない男に柔肌を見せる気はないからね。
そう思ってタオルで体を隠すと男の入っているお風呂の側を通って出口へと向かう。
あ、この男は勇者だったか。近づいたら判ったよ。たぶん遠慮して女子達には近づかなかったってわけですか。偉いねー。偉い偉い。
◇
油断。
油断してしまった。この時勇者に気を取られなかったら。この時前方を見ていれば。そんな後悔はしてもどうしようもないけども、後悔せずにはいられない状況になってしまったんだ。
結論から言うと勇者の目の前で尻餅をついてしまったんだけどこれがまた最悪な出来事でして……いや、勇者からするとラッキーなのかもしれない。
要するに勇者の目の前でM字の体勢で尻餅をついたんだよ。更に片乳だけは運良くタオルで隠せているけど、もう片方は見られたわけで……。さらに大事な部分も……。
歩いて勇者の脇を通り過ぎる瞬間、床のタイルに脚を滑らせて転んでしまった。
びっくりして手を床に付けて防御したんだけど、そのせいで体を隠していたタオルが取れてしまった。
「やっ、待って!?」
オレはあまりにビックリしてしまい大声を出してしまった。そのせいで勇者はこちらに振り向くし、更に尻餅をついた事により勇者と向かい合うようにM字をさらしてしまった……。
み、見られた!? 勇者にオレの一番大事な部分をみ、見られた!!?
……って言うかーー!! な、な、なんだこのエロイベントはーーー!!
嘘だろ! ありえん! このシチュエーションはありえん!
「み、ミコ……。あ、あのさ。見えてる……ぞ……色々と……」
「ううぅ、ああ、あの、その……ああ……やぁ……」
がくがくとあごが動いて言葉みたいなうめき声を出し続けるオレ。強烈な羞恥心が脳みそと体を駆け巡る。そして顔から火の出るくらいの勢いで真っ赤な顔をしたオレから自分でも驚くほどの悲鳴が飛び出た。
「あぅ。あ……、い、い……イヤっ。イヤあああぁぁぁぁぁぁぁ!!」
おおぉ、すっげーな! オレってもしかすると自分で思ってるよりも女らしかったりするのかもしれないぞ。
オレは自分の叫び声を聞きながら客観的にそんな事を思ったのだった。




