22 出征パレード
平家の資料が届いたのでそれを見たり、色々あって遅くなりましたー!
赤や青、たくさんの色の紙吹雪が王都『クラウン』の大通りに舞う。現在オレ達は出征パレードの真っ最中です。
王都にいる大勢の市民の激励を受け、半ばパレードみたいに大通りをオレ達勇者パーティーの乗った天井の取り払われた大きな馬車が通る。大通りの両側からは市民の割れんばかり喚声。そしてその間を抜けていくオレ達。
みんな華やかな衣装を着て、堪えず微笑みを浮かべながら優雅に手を振りながら市民達の声に答える……。
うぐぐ、中々の重労働です! だいぶ顔が引きつってきましたし、振っている手も次第に痛くなってきました。楽チンって思ってたのは最初だけでしたよ。これをあともう一、二時間はやらなきゃならないなんて死にそう……。
大通りの左右には人、人、人。更に人。
お爺さんお婆さんから夫婦に親子連れ、幼い兄妹等々色んな人達が所狭しとこちらを見て手を振っている。
応援してくれるのは純粋に嬉しい。いや、本当に嬉しいよ。たださ、恥ずかしいんだよ。とーっても照れるんだよ。何て言うかこんなにまで期待されるのはオレの分じゃない感じって言うのかな。
あー、表現が出来ないんだけど、とにかくくすぐったくて恥ずかしくてお尻がむず痒くなりそうなんですよ。
そんなにオレは熱狂される程の偉い奴じゃないんだけどなー。そうは思うんだけど沿道の人達はオレの心の中なんて知ってか知らずか熱狂度を一際上げていく。
ふと目をやると一組の男女と目があった。オレと同じくらいかちょいと下くらいかな? 幼なじみ? それとも兄妹かな? そんなふたりがオレに羨望的な眼差しを向ける。
相変わらずの張り付いた笑顔で手を振っているオレだけど、なんだか可愛らしくて一生懸命なそのふたりには本当の笑顔を見せてあげたくなる。だからふたりに視線を合わせるとにっこりと頷いてあげた。
有名なオレからにっこりされて感激か? 感激だよな? オレの方もなんだか純粋に嬉しかったからお会い子だな!
そしてそれに反応したおふたりさんは、馬車がその場所を通り過ぎるまでずーっと感激した表情でオレの事を眺めていた。
「ねぇ、ミコさん? 街の人達、みんな私達に期待をかけてくれていますわね」
隣で手を振っているティルカさんが小声で話しかけてきました。突然のコンタクトにちょっとだけ後ずさるオレ。
じつはこの人は苦手だったりします。え? 言われなくても判ってるって? まあ、勇者の三人の取り巻きのひとりですし普段のアレで判ろうものなのですけど、それでもこのティルカさんは無視とか嫌味な事はせずにわりと話しかけてきてくれる人なんです。あ、いや、無視はともかく嫌味は言ってくるか……。
「え、う、あっ、はい……そ、そうですねティルカさん」
「ええ、私達もこの期待に答えなくては!」
「は、はいー」
ぐっと一瞬だけ表情を引き締めて目を遠くへとやるティルカさん。まあ、先回の魔王を倒す時もこの人は人一倍頑張ってましたから、民の為とかそう言う純な心の持ち主なのかもしれません。格好は女子高生の制服ですけど……。
くそっ! もうちょっとでパンツが見えるのにその鉄壁な青いミニプリーツスカートが邪魔で邪魔で! JKのくせにパンツを見せてくれないのは反則じゃないのか!
そのスカートの裾から見える太ももがとってもいいんですけど、やっぱりそれだけじゃあ収まらないのが元男たるこのミコ様なのだ! あーあ、パンツ見たいなー。風が吹かないかなー。嫌らしい風……吹かないかなー。
いっそ精霊魔法で風を……ダメだ、そこまですると犯罪者になっちまう!
ああ、じれったい!
◇
更に町中を晒し者になりながら馬車が行く。
引きつった微笑みの中、こんなところを知り合いに見られたら嫌だなーなんて思ってると……あっ、マスターだ。そして程なくマスターと目が合っちゃった。
うわああぁぁぁ!! 白雪の仔牛亭のマスターに見られたー!! こんな笑顔で手をふりふりしているオレをマスターに見られたー!! こ、殺せぇぇぇぇー! もういっそ死ろせぇぇぇぇー!。
っと、この間、ずっとにっこり笑顔で手を振りながらの思考です。
それを知ってか知らずかマスターはオレが判る様にととっても大振りに手を振ってくれる。有り難いんだけど、すっごく恥ずかしい!! ヤメてくれー!
だ、だめだ。このままでは精神が磨り減ってしまう。
そうだ! いつもの様に考え事で時間を潰してしまおう。えーっと考え事考え事……。何かいい考え事のネタは無いかなぁ。
…………。
……。
◇
――――昨日のお城の食堂にて。
夕食後の喫茶タイムでの事です。誰ともなく話題がのぼり話が始まったのですよ。この勇者パーティーの名称について……。
「私は可愛いのがいいなぁ」
大きなテーブルのオレと対角線上の位置に座っているコロンちゃんが無邪気な表情で言う。
可愛い子が笑顔なのはいい事だねー。抱き締めてあげたくなってしまうよ。
「可愛いのもいいけどさ、魔王を倒しに行くんだから格好いいのにした方が魔王も嫌がるんじゃないか?」
上級戦士のボーイッシュなラルガさんは格好いい名前がお好みみたい。
なんとなく判るよ。ラルガさんならそう言うだろうなー。可愛いよりも格好いい方が似合う気がするもん。ってのんびりと温かい紅茶を飲みながら思っていたら椅子から立ち上がりテーブルに手をつく人物がひとり。
シャーリン様だ。
「いえ! ここはやはりレオ様の御名前を入れて『レオ様と引き立て役の少女達』では如何でしょう? ねぇ、レオ様」
「う、いや、う……ん」
シャーリン様がこれは良い案だとばかりに身を乗り出して勇者へと詰め寄るんだけど、当の勇者はあまり乗り気じゃないみたい。
まあ、オレも嫌だよ。こんな名前……。みんなも微妙な表情だし、シャーリン様には早くその案を取り下げてもらいたい。
だって、『貴女はレオ様と引き立て役の少女達のミコさんですね?』なーんて立ち寄った街の人から言われたら恥ずかしくて死にたくなるもの。
「冗談はこれくらいにして本当に良い名前は無いかな? なあ、みんな?」
あーあ、勇者に冗談って事にされちゃった。お可哀想にシャーリン様。けっけっけっ。
「『一二〇五年マフィア』なんてどうですか?」
とりあえずはオレも参加しようとひとつの案を言ってみた。
本当は七三〇年マフィアにしたいんだけど、それだと年代の数字が全然関係ないからね。
「それは今年の年号にマフィアをくっつけたのですか……? でもねミコ? マフィアなんて単語はあんまりよろしくないのではなくて?」
テーブルで言うところの勇者のすぐ隣にいるエルセリアさんにそんな事を言われる。マフィアなんて言葉はあんまりよくないんじゃないか? って事ですね。
うーむ、それはそうなんだけども、この名前にすれば魔王には勝った後に司令官は流れ矢に当たって息を引き取りそうじゃないですかー? まあ、それは冗談ですけど何かしらのアクシデントに遭ってくれそうだからいいかなーって。
「あははー、やっぱり却下ですか?」
「ミコの意見も採用してあげたいのだけど、『一二〇五年マフィア』はちょっとね……」
って事でエルセリアさんの言葉でオレの案は却下されちまいました。残念。
「そ、それじゃあ私も言っていいかな?」
ちょっと恥ずかしそうな顔でルーデロータさんが手を上げる。本当に恥ずかしそうです。
「ルーデも何かいい案があるのかい?」
ルーデロータさんと一番親しいラルガさんがニヤニヤしながら尋ねる。このふたりは仲がいいからね。思考も似てるのかも? でもルーデロータさんは脳筋ってわけではなさそうなんだけどね。気が合う理由なんて人それぞれだからそれについて考えるのも無駄だよね。
「うん。十四歳の頃からこんな事もあろうかと温めてきた名前があるんだ」
「そりゃあ凄い。そんなに前から考えていたなんて、いったいどんな名前なんだい?」
ラルガさんが受け答えているけど、オレは何か嫌な予感がしてきた……十四歳から温めてきたってあたりから。
十四歳って中学二年生くらいだよね。それくらいの歳で考えたのを今も温めてるってのが既に何か嫌な……。
「えーっとね、『真夜中を染める真紅の業火』とかどう? すっごくカッコイイと思うんだけど!!」
「うぐっ」
「なに!」
「まさかルーデロータにそんなネーミングセンスが!?」
みんなが聞いたままの体勢で固まっている。しかもみんながみんな表情がとても痛々しい。アイタタタタタ……とかそんな感じです。
開いた口が塞がらないんですね。
ルーデロータさんは好きですけどオレもそればっかりはやめて頂きたいです。
「きゃ、却下でオネガイシマス」
だから、堪らずにオレは声が裏返るくらいの声でルーデロータさんの案件を退けた。みんなもこればっかりは同じく首を縦に振っている。
それはさすがにヤバイ。それで呼ばれるのは殺されるのと同意だと思うんです。判ってくださいルーデロータさん!
「えー。いい名前だと思ったんだけどなー」
当のルーデロータさんは残念そうには言うけどそれ程気にしてはいないみたい。まあ、ルーデロータさんは頭の中にその手の引き出しはたくさん持ってるんじゃないかな? それに彼女は素で赤目だしアルビノが入ってますから元々中二病なんでしょうね。たぶん……。
「あのう、みなさん奇を手等ってばかりいてもしかたないですよ。ここは単純に『第二次魔王討伐隊』や『魔王討伐隊』でいいんじゃないですか?」
しんみりとサムライガールの美衣さんが正論を言う。
あまりにも正論過ぎて誰も異を唱えられなかったためこれに名前が決定してしまいましたとさ。
ってか、美衣さんってヒノモト出身で、さらにはエミカさんの出身地とそれほど離れていないのに話し方が丁寧だし凛としてるなー。エミカさんみたいに方言とかで訛ってないんだね。
「では、我々の名称は『第二次魔王討伐隊』で決定するものとする」
最後に勇者がこう宣言すると会議室は拍手で決定を祝う事になった。
オレもこんなシンプルな名前でいいと思うんだ。
◇
――――おっと考え事している間に出征パレードは無事終わったみたいです。
今はもっとも華やかな東門にみんなで勢揃い中。
そして城門の前で勇者パーティー……いや、第二次魔王討伐隊の管轄大臣たるいつもの財務大臣から餞別の金銭を勇者が受け取る。
そしてオレ達全員は城門から振り返り王都の市民に手をもう一度ふり笑顔を振り撒いて旅立つのだった。
さあ、一丁気合を入れますか!!




