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21 まじでチートな魔道具使いさん

「魔王の結界を破る全てのアイテムはもうすでに我らが手にあるのですから、まっすぐに魔王の城を突くべきです」


 真っ赤なドレスに身を包んだシャーリン様がとにかく魔王を最初にやっつけましょうと意見を述べる。チラチラと勇者の方を見ながらの発言に意図がなんとなく判ってしまうんですけど。

 要するにシャーリン様は勇者の言葉を代弁しているんでしょう。事前に勇者にこう言ってくれって命じられたんだと思います。

 ちなみに魔王の結界を破るアイテムって言うのは『聖霊のお守り』『勇者の剣』『七色の指輪』『ブルークリスタルロッド』の四つ。これらは先回の旅で全て収集済みだったりします。


 おっと! そうそう、言うのが遅れてしまいましたがオレは今王城の会議の間に来ていたりします。ステーキハウス白雪の仔牛亭からしばらく歩けばすぐですからね王城は。オレが着いた時にはもうみなさんもお揃いでした。

 指定した時間には遅れずに着いたのにティルカさんなんかは『私達よりも遅いなんて寝坊でもしたのですかー?』なんて言ってきたし、なんだか居たたまれないんですけど!


 で、その会議の部屋にある大きなテーブルでみんなが座って現在は作戦会議の真っ最中なのです。




「でも、その途上のヒノモト国には寄らないの? そこであちらのオンミョウジに儀式をしてもらわないとジョシンの宝薬が効果を発揮しないと聞いたんだけど」


 ルーデロータさんが別の角度から意見を言う。一応ここは王城の中だけど今回はみなさんフォーマルではなくて普段着みたい。真っ赤なドレスのシャーリン様はいつもの事なのでほっとくとして……。

 まあ、普段着と言っても最低限度の身嗜みはあるからみんなスカート系の服を着ています。ああ、(くだん)のヒノモト国から来た美衣さんは和装ですね。彼女は大和撫子ですから、着ている物も椿の絵柄が素晴らしい振袖なんです。


 と、話がずれた。とにかく女子はスカートを履いておけばオッケーってのは、男からするととても楽しいんだろうねー。

 短ければ短い程いいんでしょ? 男共は?

 でもね、見えたとしてもオレのは白パンツなので、大人が好きな赤だの黒は履いてませんからあしからず。だって、オレってば元ロリコンですよ? 赤とか黒に興奮なんてした事がないんです。ですからロリ好きな白色に行く着くのは自然の摂理だったのですよ? 元のオレが大好きだった白いパンツを今の女子になったオレが履く。何にも変なところは無いね。

 って言うか、紳士は皆そうあれかし。




「わ、私もそれは考えないではおりませんでしたが……」


 あの苛烈を心情とするシャーリン様がルーデロータさんの言葉にだいぶ怯んでいる様子。チラチラと勇者にアイコンタクトはしているみたいですけど。

 本当はシャーリン様も、『いつまでも若い体』を手にしたいんですよね。もしかしたら魔王との戦いで顔を焼かれるかもしれない、もしかしたら旅の途中、病気で片目が潰れるかもしれない……。そんな事を考えたら早く不老になってしまいたいとこう思うのも判る気がします。

 この不老の薬は、病気にも滅法強いらしいのです。ですから尚更早く飲みたいんでしょう。若い体を何十年も維持できるなんて夢の様ですからね。かく言うオレも早く飲みたいです!

 ですから……。

 

「じゃあ、みなさん多数決をしませんか? シャーリン様の言う様にまずは魔王をやっつけるか。それともルーデロータさんのヒノモトへ行ってみんなで薬を飲んでから心置きなく魔王討伐をするか。どちらかで?」


 こんな風にオレも言ってみましたよ。その言葉に勇者が嫌な顔をこちらへ向けてるのが判ります。

 へっへー、ザマーミロです!


「賛成!」


「賛成です」


「賛成らわー(だよー)


 みんなが口々に賛成と言ってくれる。最後にはシャーリン様も折れたのか自分の席に静かに座った。

 さあ、誰も反対は居ない様ですよ? 勇者様(・・・)


 良いか悪いか勇者の性格は単純で『悪即斬』や『サーチ・アンド・デストロイ』な心の持ち主なんです。なので魔王が蔓延っているのは現状とても許せないんだと思います。大陸に住む人を思えばこそなんでしょうけど、流石にオレも含めた周りの眷属たちはそう簡単に割り切れるものでもないんです。

 だってみんな、自分を飾り立てる為には何でも犠牲にする事が出来る女の子って言う種族なんですよ? 不老の薬をすぐにでも飲みたいに決まってるじゃないですか。




「判った。じゃあ、ここはみんなで多数決と行こうか。俺はまず憎い魔王をやってから色々したいと思うんだけど、みんなも同じ様な意見だと嬉しい」


 勇者が勇者スマイルを混ぜて、みんなを見回す。

 まあ、勇者は美形だとは思いますよ。あの顔で言われたら初対面だったら言う事を聞く女子も多いんじゃないかなーなんて思ったりはしますが、もうここまで共に過ごしてきた面々はどう思うかだよねー。

 前にエミカさんから聞いたお屋敷の暴露話でも、勇者の取り巻きはシャーリン様・ティルカさん・アリアさんの三人のみだからねー。これで多数決に応じるとか勇者もヤキがまわったかな?


「それじゃあ、まず最初に魔王をやっつけた方がいいと思う人ー?」


 ガクッとコケそうになった。勇者! お前は学級会の委員長か!?

 そんな事を思ったのはオレだけだったみたいだけど、周りを見れば例の如く勇者を入れて四人が手を上げている。これにはちょっと引きつった顔になる勇者。人望の差ですね……。


「そ、それじゃあ、ヒノモトへと渡って薬を飲んでから魔王城へと乗り込む方がいいと思う人ー?」


 その言葉を言い終わる前にザザザッと七つの手が上がった。

 ふふふ、勝負あったみたいですね。って言うか、あったりまえだのクラッカーって話ですよ。シャーリン様達三人も心の中ではどう思ってたか知れたものじゃありませんし。

 ああそう言えば、アリアさんはエルフだからどうなるのかな? 更に若い体で生き続けるのかなー? エルさんは……いや想像するのもアレなのでやめておこう。







 午後。

 旅程は先程の多数決で、まずはヒノモトの国へと行くところから始まる事で決定しました。

 出発は明日の朝。スケジュール関係は別室で現在勇者とシャーリン様、それにエルセリアさんとコロンちゃんで練っているところです。


 だから今オレたちはいつもの控え室で紅茶なんか飲みながらゆったりとしています。うーむ、意外と落ち着けてるなオレ。やっぱりみんなが居てくれるお蔭だと思うんだよ。最初は勇者との旅なんて! とは思ってたけど案外、前の旅の気分で行けるんじゃないかな?

 まあ、勇者が嫌だって言えば嫌ですけどね。

 

 って言うか、この中の何人が勇者の体を受け入れたんでしょう? すっげー気になるわー。どうしよう。元の男の頃はそんなの全然興味が無かったのに今はとっても気になってしまいます!

 これも女性脳の仕業なんでしょうか? うーむ、気になるなぁ。


 思うに、三人は完璧でしょうね。毎晩の様に出し入れされてるんだろうね。

 って、まさか三人同時だったりするのか!! いや、それはさすがに無いでしょう……でも、あの勇者の事ですしそのまさかを平気で……。


 まあ、他にはいないかな。

 三人以外で体を受け入れてる人がいたら、たぶんさっきも勇者の意見に同調して手を上げていたでしょうし……。あはは、こんな思考になるなんてオレもいよいよ女子だなー。

 そのうちオレも子供とか欲しくなるんでしょうか? 自分の子供を……。まだそんな実感はわかないね。




「みんなー、ちーとばかし(ちょっと)こっちへ来てくんなせ(ください)ー」


 卑猥な事や将来の事で楽しんでいると部屋の奥からエミカさんの声が聞こえてきた。

 そういや、さっきから何かを何か縫ってたよね。何かは知らないけど。

 エミカさんの声にみんながぞろぞろと近寄っていく。オレも当然そっちへと……。


「じゃーん! 先回の旅の教訓を生かして、今回はこんげのがん(こんなの)を作ってみたよー」


 エミカさんはいつもの様に方言丸出しの言葉でほこらしげに言うと、なにやら大袋を披露した。

 これはなんでしょう? ただの大きい皮の袋? 袋の先端部には紐が付いていて、絞ると中身が出てこない工夫がされてるけどそんなに凄い袋には見えないんですが……。


このがん(これ)はねー、この口から入るもんらったら(だったら)袋の大きさに関係無えー(なし)で何でもへーる(はいる)んだわ」


 一通りみんなを見回すと、実践をはじめるエミカさん。

 まず袋の紐を解いてそこへ自らの下着袋、服の入った袋、大きなテント用具が折り畳んである袋……って、そんな大きいのが入るんですか!? ああっ? おおぉぉ!? うわー、入ってるし!! 

 これにはみんながみんな、目ん玉を大きくして感嘆の声をあげています。勿論オレだって驚きを隠しきれません。さ、さすがは魔道具使いです! こんな凄いのまで作ってしまうとは! 


「ほらほら、そんげな(そんな)顔してねーでみんなも入れてくんなせ(ください)!」


「じゃあ、私の荷物も入れてもらおうかしら」


 ティルカさんがまずはと自分の荷物を持ってきて入れてもらう。押し込みもしないのにすんなりと入るその皮袋に一同から溜息がもれる。そして一番目のティルカさんを川切りに我も我もと入れてもらい、最後にアナスタシアさんのこじんまりとした白い袋を入れると全ての荷物が短時間で片付いてしまいました。


「ありがと……」


 アナスタシアさんって言葉がとても少ないからたまに聞けると可愛らしい声で驚いてしまうんだよな。

 まるで銀○伝の沈黙提督みたい。やっぱり一杯のコーヒーにも二杯のコーヒーにも困らないんでしょうか。


 


 いやー、凄い! オレも当然荷物は入れて貰いましたが、さすがは勇者パーティーの面子のひとりだけあるわー。魔道具使い凄いなー。チートだなー。


「この皮袋。どんげに(どんなに)いっぺこと(たくさん)入れても重さは袋の分だけで誰が持っても気にもならねすけ(ならないから)、代表して私が持っとくわ(もっておくね)


 外から見れば、ぺったりとして何も入っていないような大きい皮袋なんだけど、じつは中にはそりゃあもう沢山入っているんだよねー。

 それをささっと肩に担いで調子を見るエミカさん。いつもの様に赤と黒のゴスロリ服で自分のアイテムの調子を見てる姿はとっても可愛らしい。


 でもエミカさん? 貴女の方言パワーってじつは絶大なので、一方的にそれで喋られると一気に場が緩くなるのでちょっとくらいは空気を読んで下さいね……。

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