18 王城にドレスでお呼ばれした件
王城に着いたオレは髭とは別れて、メイドさんに伴われると宛がわれた客間に案内された。大きな窓。高い天井。そして二十畳くらいはあるであろう広い部屋。
その部屋の真ん中には大きなテーブルがあり、周りには椅子が沢山置かれている。
この部屋は……、前に何度か式典や祝賀のパーティーでお城へ来た時に使った待合室だね。廊下は寒かったけどこの部屋は暖炉がある為そこまでは寒くは無い。
んで、たしかオレはここに座っていて……よっこいしょっと。
前に来た時の事を考えながら先回と同じ席へと座った。流石は高級な椅子だわ。座り心地は大変良いし、お尻の辺りはふかふか、それに背凭れと肘掛けも完備してますね。
『ふへー』なんて顔をして深く座ると、足が付かないのをいい事に足をブラブラさせるオレ。だって暇なんだもんよ! 仕方ないでしょ!
でもあんまりやりすぎるとドレスが皺になるかな。
今オレの着ているこの白のギリシャ風なドレスは外行きなだけあってとても上品な一品なんです。柔らかい生地をゆったりとした感じで採寸して作ってありますから、体のラインは判りにくいのですけど、現在流行のルネッサンスドレスとは違ってコルセットみたいなのをはめなくていいのが長所です。
しかも流行じゃないのであんまりこれを着てる人もいませんから、ちょっと『人とは違うんだぞ!』自慢ができるかもしれません。
ふひひ。
しばらく待っているとお迎えの燕尾服が来たのでその人に着いて行く。
黒の燕尾服のおっさんかー。こんな人が大勢いるんだよなこの王城内って。大きな長い廊下に沿っていくつもある扉。その前には必ずと言っていいほど燕尾服のおっさんが恭しく立っているからね。
一部屋にひとり燕尾服なのかな。
どうでもいい事を考えてるといつの間にか玉座の間へと入っていた。またやっちゃったよ。考え事すると碌な事が無いね。
◇
玉座の間の中には大勢の人がいた。
うーむ、何十人もいるなー。いや、百人は超えるか?
部屋の奥、階段を三段ほど昇った玉座にはこの国の女王様がすとんと座っておられ、その傍らには御付の侍女が何人かいます。そして警護の武官がふたりほど。
階段を下りたところには、大きな真ん中の赤い絨毯沿いに諸大臣が勢揃い。
そして、大臣達の次の列には左側に身分の高い文官貴族。右側には武官貴族が並んで立っている。
でもオレが一番衝撃的で、一番面倒な顔をさせた原因はそんな貴族様方ではなく、オレとあまり変わらない場所に立っている勇者の姿だったりします。
うわー。最悪です。なんとなくそうかなーなんて思ってたけど、こう現実に近くに居られるととっても嫌ですね!!
「みなの者よう来てくれた。わらわは心より礼を申すぞ」
女王様が来てくれた事に労いの言葉を掛けてくれる。
それに対してオレを含めた勇者パーティーメンバーはみんな片膝を付いて頭を下げる。まあ、これくらいは礼儀なのでオレにだって出来ます!
「女王陛下におかれましてはご機嫌麗しく、我らと致しましても……」
お呼ばれした勇者パーティーの面々を代表して勇者が仰々しく礼を返す。まあ、美形だから様にはなっているのは認めるけど、もうオレの中ではこの人に対しての思慕の情も恋心も丸っきり無くなっちゃっているので、正直に言えば関心が無かったりします。
「ふむふむ。それは難儀したであろう」
「ははっ! これも女王陛下並びに王国の為と思えばこそ! 更に……」
女王様と勇者の世間話が常ならずと続いている。全校朝会の校長先生と生徒会長の話かよ! 長すぎるでしょうに!
片膝で頭を垂れているその体勢でちらりと勇者を含むみんなの方を見る。横を見てるとエルセリアさんと目が合う。オレの視線に気が付いたエルセリアさんは微かに喜ぶとにっこりと微笑んでくれる。それにつられてオレもにっこりとしてしまう。
エルセリアさんには嫌われては居ないみたいでホッとする。彼女には随分とお世話になったらね。嫌われてしまってたら泣けてくるところでしたよ。
にんまりとしながらもう一度横を見る。まだ陛下と勇者の世間話は続いている様だし、まあ、いいよね。
今度はコロンちゃんと目が合い。間髪をおかずにお互いがにっこりとする。うんうん。みんなはやっぱりいいなー。勇者とはパーティーを組むのは嫌ですけど、彼女達とはもう一度、一緒に旅をしてみてもいいなー。
更に横を伺う。
げっ! ティルカさんと目が合ってしまった! ティルカさんは俺の目に気が付くと口角を吊り上げてニヤリと笑顔を投げかけてくる。
うわあ、とっても良い笑顔だよー! ど、どうしよう……。
「なるほど。民の為にそこまで気に掛けているとはわらわからも礼を申すぞ」
「有り難き幸せ。それもこれも女王陛下のご威光あっての事……」
「うむうむ」
まだ勇者と女王様の話は続いていたんだけど、初老貴族のひとりが女王様に近寄って耳打ちするとひとつ頷いてこちらを眺めた。たぶん、長すぎるから早く本題に入れって言われたんでしょうね。
「されば、お主ら最近またもや魔物が大量に発生している事を存じておるか? この魔族共は事もあろうに再度魔王城を陥落せしめ、更にはこの王都にまで攻めかかって来る気配さえ見せていると言う。しかも魔王城を占拠した連中に先代魔王の弟がおり、その弟めが魔王に即位したのだと言う情報までも入ってきておる。そこで!」
「ははっ!」
「お主らには悪いとは思うが今一度魔王を討伐してもらう事となった。依存あらば申してみよ。それに応じて取り計らう故な」
間に勇者の声が混ざったけど女王様は一気に魔王討伐の命令を告げる。
まあ、行って倒せって命令ならやれない事もないと思う。レベルだってキチガイの様に上がってるし、装備品だってみんながみんな伝説級やら幻想級の品物を持ってるしね。それに一度やった事をもう一回やるってのは高レベルで冒険スタートみたいなものだから楽だとは思うんだ。
ただし! ただしさ、勇者とパーティーを組みたくないんだよね。オレとしては……。
「はい! このレオ・マックギャラリー。女王陛下の為、喜んでお受け仕ります!」
「私も及ばずながらお供致します!」
「女王陛下と勇者の為この命差し出す所存です!」
「承知いたしますわ」
勇者が真っ先に手を上げて立ち上がる。そしてシャーリン様、ティルカさん、アリアさんの順に立ち上がり、それにならって他のメンバーもぞろぞろと立ち上がり剣やら杖を掲げた。
「ワイアット勳爵士。そなたもよろしいか?」
この空気。ここにいるお偉方や勇者パーティーのみんながみんなオレの方を向いているこの状況……無理だ。オレにはここで嫌ですなんて言える心の強さなんて持っていない。
くー、嫌だけど、とっても嫌なんだけど肯定してしまうしかない。
そう考えるとノロノロと立ち上がり杖を掲げて……。
「ううぅ…………はい……国の為、非才の身ながらお受けいたします……」
こうしてオレは勇者パーティーへと再加入を果たした。新年からなんちゅう厄年なんでしょうか。
「うむうむ、皆の者頼りにしておるからの。では財務大臣。アレを」
にこにこした女王様は階下にいる財務貴族に何かの会津を送るとその貴族は前に進み出て通路の真ん中に敷いてある真っ赤な絨毯の中央に行くとこちらを向いて話し始めた。
「ははっ! 今回は女王陛下の心づくしの礼としてジョシンの宝薬を出す事となった。しかもこの褒賞は前払いである」
なんだと!それって高価過ぎて王族や身分の高い貴族、あとは大金持ちの商人くらいしか服用出来ないって言う不老の薬の事ですか!?
「あのう、それはどんな薬なのですか?」
コロンちゃんが判らないって顔で質問をする。コロンちゃんは知らないのかな?
「ん? 判らぬか? まあ、無理もあるまい。少し説明をしてやろう」
「あ、はい。お願いします」
財務大臣の貴族は自分の知識をひけらかせると思ったのか、ちょっと恥ずかしそうにするとコロンちゃんに説明を始めた。たぶん、知らない人も居るからと配慮しての事なんでしょうね。
気が利くなー。この貴族さんは。
「おっほん。このジョシンの宝薬とは一二〇〇年の昔、この大陸を救ってくださった救世主様から伝えられたとされる宝薬の事である。効能は初潮を向かえた女性が服用するとその服用した姿のまま年を重ねて老いる事が無いとされるものだ。」
「初潮……ってことは女の人にしか効かないのですか?」
コロンちゃんは初潮と言う言葉に恥ずかしそうにしながら質問をする。
その恥ずかしそうな顔! グッドですよ! バッチグーです!
「うむ。男性用は無いな」
「そうですか。判りました。ありがとうございます。財務大臣さん」
にっこりと笑顔で財務大臣の貴族にお礼を言うと、当の本人も恥ずかしいやら嬉しいやらで、しどろもどろにはなるけどそのまま話を続ける。
「そう言うわけで褒賞として全員にひとつづつ女王陛下より下賜奉る」
その言葉に全員が『有り難き幸せ』と異口同音に大きく言い放った。
いやはや不老の宝薬を手に入れられるとは、こんな幻想級アイテムは魔王を倒してもドロップしないと思うよ。さすがは王家だわ。太っ腹だなー。
そういえば女王様も十代のブロンドの美少女だけど本当は八〇歳は越えてるんだっけ。すっげーなー。それをオレも貰えるなんて。生きてると何があるか判らないものだねー。
「ああ、そうそう、これは表面的には不老なだけで、ちゃんと寿命が来れば死ぬのでそれだけは忘れないように」
最後に財務大臣が喜んでいるオレ達に冷や水を掛けるように言ったけど、まあ、何十年も後の事だからね。気にもしないんじゃないかな?
りじゅ作品での必殺技。女芯丹。ここでも出す事にしました。
ってことは三作品はつながってるって言うのかー! な、なんだってー!




