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17 嫌な予感

 一二〇〇年前、この王国が存亡の岐路に立たされた時、国の巫女である当時の女王に召喚された異世界の救世主が居たと言う。その救世主によってこの国は存亡の危機から救われ、以来王国は繁栄を謳歌している。

 そしてその時をカルマ暦元年。あるいは女神暦元年と称される事になるんだって。


 この大陸の主神、女神カルマとその召喚された救世主ってどこでどう繋がっているのか? その辺りの事は文献によってあいまいでよく判っていないらしい。

 だからこの国の考古学者は昔から何よりもまず、その関連性を研究するのがセオリーとされている。

 一説によると美衣さんの故郷、東方の島国国家はその救世主の末裔だと言う伝説があるけどこれもまた定かでは無いみたい。

 まあ、一二〇〇年も前の話だからね。仕方ないね。




 カルマ暦とも女神暦とも称されるこの王国の年号。

 その女神暦一二〇五年の新年三日目の朝は快晴でした。


 ベッドの中で目を開ける。薄青のカーテンが太陽の日差しを受け部屋の中を明るくしています。

 昨日もまた食堂でドンチャン騒ぎをしたので起きても頭がボーっとしています。幸い二日酔いによる頭痛は無いのですけどね。うーん、食欲は無いですね。朝の紅茶だけでいいです。とてもお腹に入りませんから……。


 部屋から出て寝巻きのダフダフの白ワイシャツで階段を下りると食堂の扉を開けた。当然エルさんとローレンスさんは居ない。まだ寝てるんでしょう。

 仕方ない。自分で作りますか。

 そう思うと暖炉の前に水を入れたやかんを持ってってお湯を沸かします。程よく沸いたら茶葉をこした容器にお湯を注いでそれをまたカップへと入れます。

 紅茶がやっと出来上がりました。においを嗅ぐと紅茶のいい香りがします。


「ふへへ。いい匂いだなー」


 美少女にあるまじき下品な笑い声とゲス顔。紅茶のいい匂いを嗅ぐとこんな顔になりますよね?

 



 カーテン越しの朝日を浴びながら誰も居ない食堂で紅茶片手に昨日の昼間のことを思い出す。まだ入れたばかりなので熱くて飲めないから……。


 昨日はローレンスさんと一緒に白雪の仔牛亭へと行ってきました。まさか正月の二日目からお客さんなんてまばらだろうからと、そんな理由で。

 まあ、入ってみたらそれなりに人が居たのでビックリしましたが、暇な人は大勢いるんだなーって感心するやら何とやら……。


 で、色々と料理を注文したのですけど、そこでお客さん達の会話が耳に聞こえてきたんですよ。


 曰く、魔物どころの話じゃない。

 曰く、魔王城が再奪取された。

 曰く、前魔王の弟が新魔王になった。

 等々……。


 これにはオレもローレンスさんも驚きが隠せません。だってローレンスさんはオレから話を聞いて大体の魔王討伐の概要は知っていますからね。

 話しているお客さんは行商人風の男達。情報の早いこう言う商人達が噂をするくらいですから、信憑性は高いと思うんですよ。

 ああ、嫌だなー。もう平和に暮らしたいだけなのになー。こう言う話を耳にするとどんよりとしてきます。


 


 紅茶にまた口を付けてみる。まだ熱いね……。猫舌だから熱いのは苦手です。


 まあ、魔物云々は勇者達に任せておけば大丈夫でしょ? 今回オレはここらへんでのんびりとお店で働いたりしながら戦果を期待してますね!


 今度倒したらみんなは騎士か准騎士だね。もうオレとは身分が違いすぎるようになるんだろうなー。

 シャーリン様とエルセリアさんなんて貴族階級に入るんじゃない? 家格以外の実力で貴族になるなんて凄いねー。元々貴族だから新しく別家でも立てるのかな?

 えっ、勇者? 知らんですよ? 凱旋パレードの途中で猫のうんこでも踏めばいいんじゃないかな? 




 ふあああ、紅茶もようやく飲めるくらいの暖かさになりました。うん美味しい! 

 これを飲んだらもう一回部屋に戻って二度寝しようっと!! だってまだ眠いんだもん。

 仕方ないね。

 






 次の日、ローレンスさんとエルさんと三人で朝食を食べていたんです。オレなんか、今日からお店へ出勤だなーなんてボケーっと考えてたらくらいには普通の朝だったのに……それは唐突に現れました。


 メイドさんが来客の対応から戻ってきて言うには、その客人はオレに用があるらしい。


「なんでしょう?」


「さあ? あたしゃ見当がつかないねー?」


 オレの疑問にエルさんもさっぱり判らないと困り顔。

 仕方ないなー。


「玄関で対応してきますよ? もう、朝食時に来るなんて非常識ですねー?」


「なんだったら、これで追い返してやりな!」


 エルさんからフライパンを渡されるけど、ちょっとそれは…………。




 朝っぱらからまったく……なんてブツブツ言いながら玄関に行くとなんだか偉そうな髭の青年が立っていた。それもすっごい正装で。道には大きな馬車が停まっているみたい。アレに乗ってきたのかな。

 しっかし、オレはこう言う人って苦手なんだよなぁ。髭も偉そうだし。


「お前がミコ・ワイアット本人か?」


「は、はい。私がミコ・ワイアットです。えーっと、どんなご用ですか?」


「ふん。こんな小娘が……よし判った。それでは俺に着いて参れ」


「えっ? なぜですか? って言うか貴方は誰なのですか?」


「ああ、そうか言い忘れたな。俺は王国騎士のエリックだ。見知りおけ。用向きは城からお前を連れてこいと言われただけだ」


 エリックって顔じゃないんだけど! ただの偉そうな髭にしか見えないんだけどー!

 って、待て待て、この某エリックに気を持っていかれちゃダメだ。

 深呼吸深呼吸。すーはーすーはー。


 よし! まずはこの意味不明な現状を把握しなきゃ。えーっとまずは……そうだな、城がオレに何の用なんだろうってところからだな。

 この時期にお城への招待と言えば……新年会? いやいや、新年会のお誘いに事前の招待状も無しなはずが無い。とすれば……勇者関係か? 


 魔物が増え始めた + 魔王が復活したらしい + 魔王城が再奪取された + 王城に呼ばれる = 勇者関係


 なんだかこんな公式が成り立ちそうな……。

 うーむ、なんだかとっても嫌な予感がするんだけど。


「そ、そうですか。で、では少々お待ち下さい。着替えてきますから」


「うむ。急いで支度せよ」


「は、はぁ」


「なんだ、不服か?」


 なんなんでしょうか、この男は。

 見て判らないのかなー? 不服に決まってるじゃないですか!


「いえ、では少々お待ち下さい」




 廊下を歩いて食堂まで行くと心配そうなおふたりと目が合う。


「あはははー。そんな顔しないで下さい。ただ王城へ来てくれってだけですよー。ですからおふたりは心配しないで待っていて下さいね」


 そう言うとそのまま部屋へ行き、取り敢えずベッドの上に着ている服を全て脱ぎ捨てた。そして新しい洗濯済みの白い下着を付け、髪を整えてから今ある一番の外行きを着る。要するに肩が出ていて足首まである長めの白いドレスだ。ギリシャ風な薄い生地だけど一張羅はこれしかないんだもん。

 一応は王城だし、普段着で行くわけにもいかないからねー。あーあ、面倒くさいなー。


 うー、肩の出てるドレスは寒いな……。上に何か羽織って行こうっと。




「じゃあふたりとも、ちょっとお出かけをしてきますね」


 食堂へと戻ると、月光のジャケットを上から羽織りその下に薄い白のドレスを着たオレは、行くのが嫌だなーって顔をしながらおふたりに声を掛けた。


「何かされたらすぐに逃げて帰るんだぞ!」


「そうだよ。ミコちゃんや、私達はミコちゃんの味方だからね」


 ローレンスさんとエルさんがこちらを心配そうに見ながらオレに元気を出してもらおうと、殊更に励ましてくれた。いい親子だなー。こんないい親子は他にいないよ。


「はい……とにかく行ってきます」


 はぁぁぁ、気乗りしないなー。やるせない気持ちを抑えながらトボトボと肩を落として玄関まで向かった。




 表に出たオレは騎士のエリックに着いていき馬車の中へと入る。そして座席の奥まで入って腰掛けると、窓に頬杖を付いて外を眺めながら考え込んでしまった。だからいつ馬車が出発したのかすら判らなかった……。

 いや、動いた事を認識はしたはずなんだけど、オレの頭の中には入ってこなかった様なそんな感じ。


 …………。……。……おおっとー! ここはどこだ!? ああ……、もうじき城門か。

 動き始めてからしばらくして我に帰る。あぶねーあぶねー、自分を無くすってこう言うのを言うのかなー? 考え事に更けると周りが見えなくなってしまうのは悪い癖だ。

 うーん、もしかしたらオレにもう一度勇者パーティーに入れなんて言うんじゃないだろうなぁ……。


 って言うか、白雪の仔牛亭に当日欠勤の連絡入れなきゃ! 無断欠勤したらマスターに叱られるー!!

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