10 遭遇
色々と歩き回りましたが少なくともこの街には職安が無い事だけは判りました。とっても凄い収穫ですね!
はあ、骨折り損のくたびれ儲けってところですか。
もういいや。まだ夕方前ですけど、とりあえず今日はもう帰りましょう。気力が続きませんから。
そう思い、来た道を逆方向へと進路をとりました。
じつはローレンスさんの農場兼母屋はこの城塞都市の外にあるんですよ。見渡す限り畑だったんだから城塞のお外ってのは最初から気付くべきところなんですけど、オレは相変わらずの鈍感みたいで最初は判らなかったんです。最初に案内された時、酔っていた事もあって当初は城門を抜けた事すら気付いてなかったんですから。
普通は判るんだってさ。聞いたらローレンスさんやエルさんにもそう言われましたし。
もしかするとオレって、相当な世間知らずなのかもしれない……。そう言えば酒場でローレンスさんに誘われてのこのこと着いてったし、その前には勇者様にも捨てられてるしなぁ。
うーん。ちょっと情けなくなってくるなー。
とことこ歩く帰り道。見渡せば周りは城壁に囲まれているのが判る。
囲んでいる城壁の長さは十キロ以上。高さは五メートル。とても強固なこの城塞都市、中の人口だけでも三万人もいますし、城壁周りの周辺人口を会わせれは十万人都市ですよ。
王都の東側を縦断している大河は城壁を突き抜けてそのまま北の海へと流れそそいでいます。
この大陸の気候は温暖で春夏秋冬、季節もあり、ここに住んでいる市民は平穏な人達が多いイメージ。
特産は王都名物油風呂。これは牛肉にパン粉をつけて油で揚げる食べ物でとてもジューシーで美味しいですね。けっしてタライの中に油を入れて、そこに蝋燭の点いた小船を浮かべた風呂ではありません。
王都の屋台の定番なのです。あっ、ほらあの屋台にも置いていますね。
さて、もうじき城門ですね。そう思うと青デニムの膝丈スカートのポケットに入ってる身分証明を取りだそうとしたのですが、道の角から現れた人物にバッタリと出会ってしまいました。
勇者様に……。
「あっ、あっの、その……」
目の前には普段着姿の勇者様。その目は一瞬驚いた様に見えたのですけど、またいつものオレを見る時の目にかわる。
えっと……。ど、どうしましょう。
「あーら? ミコさん? お久しぶりですわね」
この方はティルカさん。確か魔法の学校の学生をしているんです。いつも、座学から実技まで常に学年トップを取っていたって自慢してましたから能力は高いらしいです。まあ、戦っている時のあの攻撃魔法のすさまじさで、ある程度判るんですけど。
容姿だってとても器量良しで話し方や考え方は今時の女子高生な感じかな。肩くらいまでの緑色の髪はよく手入れされていますし、お顔もややキツそうな印象は与えますが可愛いです。
彼女は今日も平成日本の女子高生の制服みたいな服を着て、その上からトレードマークの黒いマントを羽織ってますね。さすがは暗黒魔法のエキスパート。マントはかかせない様です。
しかし、その青系のチェックスカートはいつ見ても短いですねー。JKなら仕方ないのか……。
「お、お久しぶりです。ティルカさん」
「あれ、ティルカにだけ? レオや私には挨拶無しですか?」
「あ、いえ、勇者さ……レオ様お久しぶりです。アリアさんもお久しぶりです。あの……私は……」
恐る恐る勇者……いえ、レオ様に挨拶をする。目は当然の様に合わせられません。遠慮と言うよりも、もう卑屈な感じです。判ってはいるんだけどどうしようもない。
アリアさんにも挨拶をします。このアリアさんはエルフだったりするのですが、それも普通の一般的な誰もが考えるエルフ像なエルフなのです。横に広いエルさんとはえらい違いですね。
冒険の当初は非常によくしてもらってたのですけど、いつの間にか嫌われるようになりました。何があったのかは鈍感なオレにはさっぱり判りません。
って言うか、このティルカさんとアリアさんにはあんまり良い印象を持たれていないんです、あと、ここにはいませんけど貴族令嬢のシャーリン様にも……。
「ミコ?」
「は、はい! レオ様! なんでございましょうか?」
名前を呼ばれた事にドキっとして、背中の骨がシャンと伸びる。腰の曲がったおじいさんとかにこう言うやり方で声を掛けると腰が伸びていいんじゃないかな?
レオ様がわざわざオレに話しかけてくるなんて……もしかしたら『戻って来い』とか言われるんじゃ!? ドキドキが心の中で募ってくる。
うわあ、緊張するなぁ。
「なんで君がまだここにいるんだ?」
「え? え?」
え? え? なんだって? 何て言ったの?
「そうですよ。ミコは田舎に帰ったのではなかったのですか?」
アリアさんからも追撃がくる。
あ、いえ、あの、あうあう。
「はあ……。君が……。君がここにいると俺は精神的にダメになってしまうんだ。前にも言っただろう? だから故郷でもどこでもいいけどどこか遠くへ行ってくれないか?」
「そうですわ。ミコさん、貴女がいるとレオ様が安心出来ないのですよ。それに貴女だって何度もこんな風に出くわしては嫌でしょう?」
そしてティルカさんからの最後の追い込み……。なんで? なんでそんな心にぐっさりとくる様な事を言うの?
えっと……ホントにオレにどこかへ行って欲しいとそう言うわけなのか? 屋敷からも追い出され、この街からも出て行けって言うのですか?
また泣けてくる……。オレって涙もろい……なあ……。
うっく、ぐしぐし…………くそっ! くそっ! くそっ!
いつの間にかオレは一目散に走り出していた。城門の警備の役人に身分証を提示したのはまだ理性が働いていたからだろう。城門を通過して城外に出ると、またローレンスさんの家まで泣きながら走り続けたんだ。
ローレンスさんの家に辿り着くと、リビングにいたローレンスさんに帰宅を告げそのまま走る様に自分の部屋に入る。そしてそのままの勢いでベッドへとダイブすると枕に顔をつけて嗚咽を洩らすのだった。
なんでオレばっかりこんな目に遭わなきゃならないんだよ!




