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09 就職氷河期

 十月と言っても日中はまだまだ暖かい。いや汗が出るくらいだから暑いのかな。右手をひさし代わりにして真上で輝く太陽を見るとそんな事をぼんやりと思った。

 しっかし、探しても探しても何処にもないなー。


 王都の城塞の中の大通りをひたすら歩いているオレは、現在職安を探し中だったりします。

 昨日まではそこいらの宿屋さんやレストラン等を回って仕事を貰おうとしていたんです。でもいざ店の中に入ると急に気恥ずかしさで顔が熱くなってきてそのまま入り口から出てしまい、仕事の口なんて見つかりもしなかったんですよ。

 でも、前世の事をふと考えた時、そう言えば『職業安定所』ってのがあったじゃないかーって思い当たりまして今日はもっぱら職安探しに精を出しているとこう言った次第です。だってローレンスさんのところにずーっとご厄介になるのは気が引けますしね。早く自立したいんです。


 今日は白のTシャツの上にいつもの月光のジャケット、下はこの前、買い物に来た時に一緒に買った青デニムのちょい横に広がってる膝丈スカートです。デニム生地は堅いから風で捲れる事もないので比較的安全なのです! 下から覗かれたら、その方面は無防備なのでどうしようもありませんけど、わざわざそんな事をする人なんていないですよね?

 手にはムーンライトスタッフも握っていますし、耳飾も当然着けています。何かあった時、オレは防御力が紙なので装備品で誤魔化すしかないんですよ。

 え? パンツの色? パンツは白ですよ白! 決まってるじゃないですか!




 しかし職安って中々見つからないものですねー。はあ、もう草臥れてきましたよ。体力ないなーオレって。まあ、十三歳の女子だもん仕方ないんだけどね。


 とにかくもうしばらく探して、見つからない様ならどこかのお店でお昼にしましょうか。







 あはははー。当然の様に職安は見つかりません。仕方ないどこかに入って人心地つきますか。


 ど・こ・に・し・よ・う・か・な。


 オレは店の数だけ言葉を一区切りづつ指を差しまくると最後の指は普通のステーキハウスを指し示した。うーむ。全部食べきれる量ならいいんですけど。

 ボリューム満点な気がするんですよ。こう言う店は……。


 でも、せっかく指で決めた店だからと思い切って中に入る。

 『カランコロン』とお客さんが店に入った事を知らせる小気味良い音が鳴ります。おおっと、わりといい感じですね。


「あいよー。いらっしゃい。テーブルでもカウンターでもどこでもいい。掛けてくれ」


「はーい。じゃあ、このテーブルにしますね」


 そう言うと窓際の大通りのよく見える窓側のテーブルに行って椅子に腰掛ける。街の大通りは活気があって人の歩く姿がもいっぱいです。


「注文決まったかい?」


 ステーキ屋のマスターが書き物片手にこちらへと来て何がいいのかを聞いてきた。

 何がいいんだろう? あんまり大きいのは食べきれないと悪いので小さめのでいいからね。えーっと……お品書きを見ながら悪戦苦闘する。


「と、とりあえずエールを一杯。あとはこの牛肉サラダを下さい!」


「あいよー。エールに牛肉サラダねー」


 マスターの背中を見ながらニヤニヤしてしまう。早くエール呑みたい。だってエールはオレにとっては水みたいなものだからね。

 いつ呑むの? 今でしょう!


「あいよエールお待ちー!」


「おおぉ、キタキタキター!」


 目の前に置かれたエールの入った大きなコップ。前世の中ジョッキくらいはあるんじゃないかな。


「ゴキュゴキュゴキュっ」


 んぐっんぐっんぐっ……。ぷはぁーうめえ! エールうめぇ! 最高だよー!


「大将! もう一杯おかわり」


「あいよー、嬢ちゃんいける口だねー」


「うんうん。一番美味いところ頼みますよー」


「まかせとけ!」


 そう言うとマスターはまた作業に戻るのだった。とにかくエールは大至急ね!

 



 牛肉サラダも届いて、エールも三杯目に差し掛かる。うん。この牛肉サラダも美味いですね。塩とオリーブオイルで味付けしてあるんですかー。こう言うのもありっちゃあありです。

 しかし、この牛肉のブツ切り感! 荒々しさを主張したこの調理の仕方がが男の料理っぽくてオレは好きですよ! そしてこのエールが……美味い! ああ、極楽だわー。極楽極楽。


 惚けた顔でまたもや窓から大通りを見る。人多いなー。おおぉ! すっげー、あの子可愛いなぁ。短いスカートからみえる足がすっげーそそりますわ。昔の元オレがこんな風に目を皿の様にして女子のスカートから伸びる太ももを見ていたら、即逮捕だろうけど、今は女性だからいくらでも見放題! たっぷりと拝んでも不審者扱いすらされないんですよ!


 うーむ、って事は、オレも男共からは逮捕されるギリギリまで見られてるんだろうなー。なんてったってオレ美少女ですし! ちょっこっとくらいはサービスカットでも出してあげようかな?


 まあ、オレだって元は男なんですから女子を見てトキメキもするんですよ! ただ、今現在は女子の脳みそなので好きだと思った男になら色々されても……まあ、構わないって心境にもなっています。

 この辺り、難しいんだよね。デリケートな部分ですから。元々の男の肉体だったら男となんか超無理。死ぬほど無理……なんですけど、なぜかこの女性の脳みそと体になってるとそんなに違和感が無いんですよ? どう言う作りなんだろうねー? 生物的には正しいからなのかな?

 色々と考察はしてるし、男を好きになるメカニズムを調べたり……まあ、捨てられましたけどね……。うう、思い出すとダメだなー。まだ泣けてきますよ。


 よ、よし、切り替え切り替え! ファイトだオレ!




 相変わらずエールを呑みながら、窓からの大通りの景色をボーっとしながら見ている。


 うーん。うーん。この店へ入る前からなのですが、どうも何か違和感を感じるのですよ。これはいったい何なのでしょうか? 判らないなー。何かしらの視線って言うんですか? 視線ってよりも、何かのサイン染みたモノを感じるんですよー? 

 この感覚、気持ち悪いなー。肌に来るって言うか何て言うか……。とても気味が悪い感じ。


 あ、消えた。頭にビンビンと来ていた違和感が急に消える。うーむ。どうしたんでしょう。まるで判らない……。何なのでしょうか。 


 何かしらの魔力探知を受けている? それとも誰かに監視されている? 窓側に座ったのはまずかったかなー? でもなー、もしかすると気のせいかもしれませんし……。

 こちらからも魔力を……いや、やめておきましょう。やぶへびになるのも嫌ですから。


 





 あー、食べて呑んだわー。お腹ぽんぽんだわー。


「大将、おあいそー」


「へい、白銅貨二枚です」


 にこにこしながらマスターが来て値段を言う。白銅貨二枚ね。えーっと……。勇者様からもらったお金袋をさぐって白銅貨を二枚取り出すとテーブルの上に置く。


「それじゃあ、ご馳走様でしたー」


「またどうぞー」


 マスターの声を後ろに聞きながらステーキハウスを出る。酒も入ったし、今日の気分は上々です! 変な違和感以外は!

 って言うか、まだ職が何も決まってないじゃん!

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