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01 門前払い

 魔王討伐の祝宴の翌日。王宮からオレを含めた勇者様御一行、総勢十二名はお屋敷までの帰路についていた。パーティーのメンバーは勇者様の他は全て女の子。その女の子達と我らが勇者様が力を合わせて魔王をやっつけたのです! 勿論オレも魔王との戦いでは色々と役に立ったと思う。勇者様を筆頭にしたメインの五人は別格だとしても二番手の回復役としては頑張ったからね。


 朝の澄んだ空気と陽の光がこの体に染み渡る。

 うーん。いい朝だなー! 魔王が君臨していた時は毎日がどんよりとした曇り空がデフォだったもんな。

 だから魔王が滅びたと知った人類の大歓声は文字では表せないくらいだったんだよ。


 長い間、魔王の脅威に生きた心地がしなかった王都の人々の顔はこれでようやくとても明るくなったんだ。今ではみんな活き活きとしているから朝も早くから街並みは動き出している。

 道端ではレンガ職人が薪を担いでレンガ作りの準備に汗を流しているし。それよりももっと遠くを眺めると、露天商がせっせと土台を組んで木材と幌で出来た屋根を紐で縛っているのが見えたりとお昼に向けて賑やかになりつつあるんだ。

 そりゃあそうだ。この王都はこの大陸で一番栄えている街だからね。

 元々オレの住んでいた田舎とは比べられないくらいに大きな城塞都市なんだ。


 んで、今のこの街並みや人々の営みはすっごく充実してるし、空を眺めればとても良いお天気で気分も高揚してくる……はずなんだけど、オレ以外の勇者パーティーのみんなの顔が暗く沈んでいる様に見えるんだよ……気のせいかな?


「どうしたのみんな元気ないよ!? 私は昨日の祝宴でお腹一杯になって早く寝ちゃったから元気が有り余ってるんだけど、みんなは元気無いみたいだよ? あー! さてはみんなまた勇者様と夜更かししてたんでしょ?」


 両手を広げてクルリと一回転すると、膝丈上の白のスカートが少しふわふわした生地な為、捲り上がらない様に手で押さえてからそのまま後ろ手に組む。そして後ろ歩きをしながら可愛らしい声で彼女達みんなに元気を出してもらおうと殊更テンションを上げて言ってみた。


 十三年も女として生きてきたから可愛い声を出すくらいお手の物だ。って言うか地声がもう可愛らしいんだったよ……。仕方ないね。


「う、うん。元気元気。うん元気」


「お、おう。私はい、いつでも元気百倍だぜ……」


 目の前に居た幼女賢者のコロンちゃんとビキニアーマーを着た上級戦士のラルガさんが揃って歯切れの悪い様な顔で答える。

 うーん。みんなノリが悪いですねー? どうしたんでしょう?


 で、さほど王宮からは離れてはいない高級住宅地にあるお屋敷の大きな門前まで辿り着いた。みんなの空気は更に悪化している。何がそんなに空気を悪くしているんでしょうか? 


「ねえ、みんな本当にどうしたの? 朝からなんかテンション低いよ。相談があるなら……」


「ミコ!! 話の腰を折って悪いんだが少し俺の話を聞いてくれないか?」


 空気を和ませようと明るい声でみんなを元気付けようとした最中、勇者様に言葉を遮られてしまった。しかもちょっと怒気を含んだ声で。

 オ、オレ何か怒らせる様な事したっけな?


「あ、はい。勇者様。どうぞ」


 そうそう、オレの今の名前はミコって名前なんですよ。可愛らしいでしょ? 今はそんな事言ってられないけど。


「昨日の晩にみんなで話し合って決めた事がある。……ミコ。君には悪いんだがここから出て行ってくれないか?」


 聳え立つ目の前の門で、勇者様は数いるハーレム要員の中からオレだけに無慈悲にもそんな事を言い放つ。


「え? え? ええぇ!? ど、どうしてなんですか勇者様!?」


「それだ。その勇者様って呼び方が嫌だったんだ。他のみんなは俺の事をレオって呼んでくれるのに君だけは最後まで呼んでくれなかった。それがとてつもなく苦痛だったんだよ。肩書きじゃなくて名前で呼んで欲しかったんだ。だから、だから君とは一緒に居られない!」


「え? ええー!?」


 そ、そんなぁ。オレが勇者様って呼んでいたのは敬意を込めての言動なんですけど! それが裏目に出てしまったって言うのですか!

 ううぅ。それってすごく悲しいんですけど!

 って言うか、前世では男だったけど今は女性ですし、勇者様、貴方のハーレム要員の一人なんですよー! そんな事言わないで置いて下さいよー! お願いしますよー!

 ほらこのクリーム色の長髪も勇者様が可愛らしいって言ったから伸ばしたんですよ。メンバーの中でも下から数えた方が早いこの小柄な体型だって勇者様がいいって言うから牛乳とか飲まずに体型を維持してきたんですから! ゆ、勇者様ぁー!


「本当にごめん。でももう決めた事だから……。これ少ないけど路銀の足しにして……。最後に一言だけ、君との旅も楽しかったよ。じゃあ、故郷に戻って平和に暮らしてくれ」




 それからの事はあまり覚えていない。勇者様の足にしがみついて残してくれるように頼んだり、マジな泣き落としまで使って懇願したんだけど最後まで勇者様は首を縦には振らなかった。

そして涙とハナでぐしゃぐしゃの顔で呆然としているオレの目の前で鉄で出来た門が音を立てて『ギィィィーーガシャン!!』って閉じられたのだった。


 その音を聞いた瞬間あまりの仕打ちにオレは膝から崩れ落ちてしまった。


 長い間、門に背中を付けて膝を抱えながら絶望に打ちひしがれていたオレだけど、ゆっくりと立ち上がり勇者様のくれたお金の入った袋を懐に仕舞うとトボトボと歩き始めたのだった。どこへ行くって当面の当ては無いけど……。

 でもお腹だけは空腹を脳みそに信号を伝えてくる。早くご飯を食べろとしつこいくらいに。だからとにかくこの場だけは離れる事にしたんです。


 離れる時、振り返ってもう一度勇者様のお屋敷を見る。ああ、あのテラスに昨日までみんなと笑顔で一緒に居たんだよね……ううぅ……うっく……ぐすぐす……。

 ぐすっ……、なんでオレがこんな目に遭わなきゃならないんだろう……。何か悪い事でもしたのか? 涙を拭きながらオレは今まで住んでいたお屋敷を後にしたのだった。

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