仕事はちゃんとしましょう
「はい、じゃあ異世界転生して逆ハー作りたいヤツはこっち並べ~」
やる気無さそうな声の元に我先にと群がる魂達。中々シュールな光景だと思う。しかもこの場にいる魂のうち、私以外全員列に並んじゃってるよ?皆様どれだけ愛に飢えてるんだろうか。
気が付いたらこの良くわからない空間にいた私は、元公務員だったと思うけど、どうやら死んでしまったらしい。正直生前の記憶が曖昧になっていて、どうして死んだかとか生前の自分の名前とかは全く思い出せない。でも、何となく死んだんだなというのは本能?的な部分で理解出来ていた。
そうして突然始まった選別作業をボーッと眺めていたけど、他の魂達が細かい要望を聞かれている間はずーっと放置されてた。まぁ、時間の感覚とかあんまり無いから良いけどね。
そうして大勢の魂達の選別作業も無事に終わり、ようやく私の番かな?と思ったのに、係員らしき男の人は私になんて目もくれず、さっさと何処かに消えてしまった。
・・・え、無視ですか?完全な放置プレイですか?私はこれからどうすれば良いんですか?
当然ながら答えてくれる人などなく、私はそのまま何もないこの空間を漂い続けた。
あれからどれだけの年月が過ぎたのでしょうか。魂だけの存在になったせいか、それともこの空間が特殊なのか。私からは時間という概念が無くなったようで、全くわかりません。
ですが確実に時間は流れているとわかるのは、魂達の選別作業があの後も数回行われているからです。毎回最初と同じ係員らしき人が同じ質問をし、集められた魂達は全員列に並んで何処かに送り出され、全てが終わると係員さんは何処かに消える。この繰り返しです。因みに係員さんは毎回私の存在をスルーします。
自分から係員さんに話し掛ければ良いだけと思われるかもしれませんが、あの列に並んで逆ハー狙いと思われるのも何となく嫌です。だから選別作業が終わったら即特攻仕掛けようと思っているのですが、あの係員さん話し掛ける隙がなさすぎるんですよ。一回なんて最初のダルそうな様子が嘘みたいにウキウキした顔で帰っていきました。あの様子はきっとデートですね。流石にデートの邪魔したら悪いかと思ってその時は諦めました。どうせ次の選別作業の時に会えますからね。
と、思ったら次の時は前回の帰り際が嘘のように沈みきった様子で淡々と作業していました。きっと振られてしまったのでしょう。そっとしておいてあげようと私はその時も彼に声を掛けるのは止めました。そんな何とも声が掛けにくい状況が何回も続き、最近ではもう開き直って1人の生活を楽しんでいます。
私が一方的に彼を観察する生活はその後も続いていましたが、とうとう終止符が打たれる時がやって来ました。どうやら係員さんが交代するようで、引き継ぎの為にやって来た後任の人に見つけてもらえたのです。
「ちょっ、先輩!何なんですかアレ!?」
人をアレ呼ばわりとは失礼な。レディに対する礼儀がなってませんよ?
「いや、その状態でレディって言われても。つーか、何時からそこにいるんだよ!?」
そうですね。時間的にはどれ程たったのかわかりませんが、82回前の選別作業の時からここにいます。
「82!?千年近く前じゃねぇか!」
「先輩アンタ本当に何やってんですか?!彼女もう神格持っちゃってるじゃないですか!」
「俺は何もしてねぇ!」
そうですよ?彼は私がすぐ傍を浮かんでいても無視してすぐに帰ってしまいましたから、何もされてませんよ?
というか私、神格持ってるんですか?別に特に変わったようには思えないのですが。ただちょっと空間を隔離して自分用のお気に入りスペースを作れるようになっただけですよ?
「よりにもよってこの空間弄れるとか!もうこれ大問題じゃないですか!どうするんですか先輩!」
「いや、でも、その、なぁ?これからはお前の仕事になるんだから後は任せた!」
「ふざけんなぁぁぁ!」
本当に帰るときだけは素早い人ですねぇ。そして大丈夫ですか後輩君。リアルにorz状態の人って初めて見ましたよ。まぁお茶でもどうぞ。
「・・・ありがとうございます。ところでこのお茶は何処から?」
さぁ?何となく欲しいなぁと思ったら出てきました。他にお茶菓子もありますよ。
「ハハ、創造も出来るんですか」
どうしたんですか、益々落ち込んで。お茶が口に合いませんでしたか?別のにします?
「いえ、こちらを頂きます」
ところで、先程から気になっていたのですけど、私の心の声が聞こえてます?
「はい。貴女の心の声は現在駄々漏れ状態なので」
あら、駄々漏れですか。それは恥ずかしいですね。どうにかなりませんか?
「嫌なら心に壁を作るのをイメージして下さい。伝えたいことだけ伝えようと思えば問題ありませんよ」
なるほど、何となくわかりました。
「・・・この一瞬で会得なさるとは流石ですね。やろうと思えば人型にもなれたりなんかして・・」
「あ、出来ました」
「オメデトウゴザイマス」
何故か項垂れている彼に連れられて色々な場所を巡った結果、私はあの空間で魂の格が上がりすぎて神様になっていたことが判明しました。
私は能力的には上級神に分類されるらしいのですが、何分一切修行をしていないので何となくでしか力を使えない事もあり、力を半分ほど封印されたうえで神様見習いとして新しくミーナという名前をいただきました。そして実は中級神だった後輩君ことアヴェル君が私の指導係になってくれました。因みに私を見落とした先輩係員さんは降格処分となったそうです。
与えられた仕事はどんなものでもキチンとやり抜くのは基本ですから、同情はしませんけどね。
「アヴェル君、種が大木になってしまいました」
「せめて苗木程度に留めてほしかったです」
アヴェル君の上司らしい神様から与えられた私とアヴェル君の家兼修行場は、私の術の訓練のために最初の頃の面影が無くなってしまいました。
水を出す訓練で池を作り、萎れかけた花を元気にしようとしたら花畑が広がり、配色が地味な家の壁を飾ろうと思って綺麗な色の石を出したら真っ青な顔のアヴェル君が「原石・・」と呟いていました。怖すぎるから炎系と風系の術には手を出さないでと懇願されましたのでそれらは試していません。今回の種から芽を出す訓練で成長した大木は庭に良い感じの木陰を作ってくれています。私としては自然豊かな家になって良いと思うのですが、アヴェル君の悲愴感が年々酷くなります。
そんな失敗だらけの私のフォローを続けた為か、アヴェル君はどんどん強くなり、とうとう先日上級神に昇格しました。
上級神になれば当然多くの責任がありますから、これからは私の面倒を見る余裕などなくなってしまうでしょう。アヴェル君が無能な指導員だと後任の方に誤解されないよう、私も更に精進しなくては!
「アヴェル君、私頑張りますね!」
「程々でお願いします」
今日も暗雲を背負ったかのような様子のアヴェル君に見守られながら、神様見習いとしての第2の人生楽しんでいます。
集まった魂の全てが異世界転生するわけでも、逆ハー作れる訳でもないです。あれは単に集まりが良いので先輩係員が勝手に言ってるだけです。




