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第2話 魔王は人を助けるようで

 さて僕以外の生存者が全滅した事で一段落した惨殺ショーだが、現在、僕はタールシェル市に向けて旅をしている。洞窟にある惨殺ショーで出来た死体はキチンと埋葬し、黙祷を捧げておいた。それが僕のするべき事だと思ったからね。


 洞窟を抜けると、そこに紫色集団が使っていたと思われる馬車の一団が見えたので遠慮なく突撃、残っていた見張り共々、皆殺しにしました。さて、馬車の荷台に入っていたのは食料と水、金銭類や衣類等々、僕が必要なものがあったので少しずつ拝借。馬車ごと貰ってもいいんだけど、僕は馬を操れないからね。


 というわけで荷台に積んであった雑嚢に衣類や金銭類、水を入れてみた。人間ならば食料も入れるべきなんだけど僕は魔王なのであんまり食べなくてもいいのと乾パンなどの保存食が主だったので省かせてもらった。保存食はあんまり美味しくないし、1ヶ月程度なら僕は水のみで生存できる。武器が入ってなかったので仕方なく洞窟にあった刃の先端が欠けている鋼鉄製の少しボロの剣を頂くことにした。鞘がどっかに紛失してしまったのでベルトに直につけている。刃渡りは1メートル弱もあるので足にぶつけないように注意だ。念のために布を巻いておく。


 というわけで出発し歩いて現在にいたる僕なのだが、現在の空は闇に包まれている。普通ならば日が暮れたら野宿をするべきなんだけど、僕はそうしない。なぜなら僕には『脳内地図クリエーション』があるからね。


 『脳内地図』は僕の解放されたスキルの1つで脳内に自動的に更新されていく便利なもので特にマッピングに優れた能力だが、それのお陰で今まで通ったことのあるところを正確に把握している。そしてそれを頼りに僕は暗闇の中、此処、ザラード森林を進んでいる。解放されたスキルというのは、僕は封印から目覚めたばかりで本来の力が発揮できていないのだが、それでも時間が経てば徐々に取り戻している。要は元の僕に戻るために必要なのは時間という訳だ。それにしても長い間を必要とするので折角なのでこの世界の見物でもしようかと思い、マップが表示している最も近い街タールシェル市に向かっている。


 結構歩いているがかなり暇だ。『我が見るのは真実のみ(マーベラアイズ)』の効果で昼間のように明るい視界で特に問題もなく進めるのと、時折現れる魔物ーこの世界に存在する魔力の突然変異体。動物と似て異なる生物。等級も存在し、割とポピュラーな存在。ーも僕の視界に入らないように逃げていくか、突撃してきて僕の蹴りで半殺しにされるかの二択なので単調だ。時々、出てくる蚊のような生物に血を吸われてストレスが溜まるくらいだ。


そろそろ、休憩でもするかなと思っているとここで異変が起きた。森の中で聞こえる誰かの悲鳴。男女二人組の声が前方から聞こえたのでなんとなく思考してみる。助けようかな、無視するかな。


 5秒の思考の結果、暇なので突撃します。助けよう。善は急げ。最も僕は魔王という悪の存在なんだけどね。


 走って現場に到着してみたものの結構事態は深刻みたいだ。普通の布の服を着ている若い男はその緑色の髪の大半が血まみれになっているのと、そのあったであろう右手首が食いちぎらちゃってる。結構グロい。もう片方の青髪の女性は血が点々としているものの血色はいい方なので男が女をかばった結果だと推理してみる。


 その対峙している魔物だがあれは僕が封印される前からいたので覚えている。名前は〈死真珠蜥蜴パールデッド・リザード〉。尻尾を含めた10メートル程の体躯に頭の天辺に生えた2本の角と肘から湾曲していて蟷螂のような鎌を両手に2本ずつ持ち、体表が純度の高いブラックパールで覆われているのが特徴の蜥蜴型魔物だ。その身体に付いているブラックパールのお陰で普通の蜥蜴とは別格の防御と攻撃力を誇るけど一方で金稼ぎの道具としても見られる魔物だが、おかしいな、コイツの生息地は現在地のザラード森林ではなく、もっと北のジリーナ鉱山にいる奴なんだけど。何か事情でもあったのかな。


 それはともかく、


「大丈夫か。助けが必要かな。」


声をかけ、僕の存在を伝える。


「ああ頼む、何とかしてくれ。手に負えないんだ。」


 僕の助けの声に反応したのは息も絶え絶えな男の方だ。女の方が答えてくれたほうが良かった。理由は言わずもがな、女の助けのほうがいいじゃん。


「じゃあ僕がコイツを引き寄せるので、ちゃちゃっと逃げてください。」


 簡単に指示をした僕に「分かった」の返事が聞こえなかったが足音が僅かに聞こえたので逃げ出したのだろう。音のする方には顔を向けず50メートルほどの距離がある〈死真珠蜥蜴〉の間合いを一気に詰める。もう僕と奴以外に見る奴はいない。好都合だ。周りを気にして変に人間らしく手加減するよりかは全力で叩きのめしたほうが圧倒的に楽だ。


 僕は雑嚢を落とし剣を抜き放ち両手で構える。刃こぼれしているのが見た目的に残念だが、仕方ないさっさと倒そう。取りあえず、相手の鎌を避け、腹に潜り込み、比較的鉱物が少なく柔らかい相手の腹部に一撃をお見舞いする。それなりに固いので無理矢理押し込む。相手の腹にまとわりついた鉱石が砕ける。ピシッと嫌な音が僕の剣から聞こえる。マズい、剣が折れそうだ。そんな僕の考えを余所に〈死真珠蜥蜴〉が悲鳴の唸りをあげる。緑色の血が僅かに斬りつけた腹部から漏れている。


 一応、このボロ剣でもギリギリいけるみたいだ。でも扱いに注意しないと数時間前と同じな様に素手で戦う羽目になりそうだ。流石に鉱物を殴るのは血が出ないにしても打撲くらいはしそうなので避けたい。倒せない訳じゃないけどさ。


「叩き折らないように注意してっと。」


こんなことになるくらいなら洞窟での戦いの時に調子に乗って剣を片っ端から折るんじゃなかった。とにかく気をつけて攻撃しよう。


 相手の弱点は先程、斬りつけた傷から露出した中の肉部分だ。そこを重点的に攻撃していこう。連続で狂ったようにその蟷螂の様な鋭い鎌を振るう〈死真珠蜥蜴〉に対し僕は3メートル程、飛翔し回避。重力の力を使いつつ再び腹に剣をぶつける。クリーンヒットだ。


 再び手に持つ獲物のヒビが入る音が聞こえる。持ってくれよ。素手は勘弁だ。〈死真珠蜥蜴〉の強烈な鳴き声と同時に血が吹き出る。もう少しか。


 と思ったら〈死真珠蜥蜴〉が着地した僕の所にタイミングを合わせて刃が飛んできたので危険なので剣で受け止めるが、ここで悲劇が。元々ボロボロの剣が蜥蜴の力強い鎌と僕の高い腕力で圧迫されることで更に酷使される。そこからの鍔迫り合いのせいでその酷使が加速すれば当然、


ポキン。


「うわっ、剣が。」


 剣がお亡くなりなってしまった。抑えるものがなくなった鎌が僕に向かってくるので慌ててしゃがんで回避。間一髪だ。更にそこからの両手の鎌と波状攻撃。後ろにステップをしながら危なげなく回避していく


 さて、どうする。僕は攻撃を避けつつ考える。最終兵器すででなぐるを使うしかないか。でも、打撲はなあ。そんな思考が巡る。


 ここで、突然の声が聞こえる。


「俺の剣を使ってくれ。」


どうやら、茂みに男女が隠れていたようだ。逃げてなかったのか。逃げ出していなかったのには驚いたが、更に驚いたのは次だった。僕の死角から剣を放り投げてきた、危なっ。危うく頭にぶつけてしまうところだったが、僕は魔王的な身体能力を生かし、無理矢理キャッチすることに成功する。


 見られたのは後回しだ。後で考えよう。とにかく感謝しよう。取り敢えず素手で殴らなくて済む。鞘を捨て、剣を構える。装飾がなく愚直だが使い込まれた皮のグリップに1メートル半ぐらいの長く厚みがある刃と良く手入れされた良い剣だ。これならさっきみたいに折れてしまう心配はないだろう。


 蜥蜴の僕を狙った攻撃を剣で弾く。蜥蜴の右腕が大きく弾かれ隙が生まれる。そこをすかさず、蜥蜴の腹を縦に斬る、横に斬る、斜めに斬る。紙を引き裂くように肉が裂ける。


 この三連撃に〈死真珠蜥蜴〉は巨大な悲鳴をあげる。身体が震える。そこで蜥蜴は身体を回転させ唸るような尻尾で僕を狙ってくる。


「甘い。」


その横からの攻撃は予測範囲内だ。その苦し紛れの尻尾が当たる前に縦から斬りつける。結果、尻尾はその固いブラックパールごと切断。落ちた尻尾に更に悲鳴をあげ、僕を引き離そうとしているけど、もう遅い。胴体に深々と剣を突き刺し、蜥蜴の身体から力が抜けた。僕の勝ちだ。


「よっと。」


 僕は血糊が付いた剣を振り払い、鞘を拾って、収める。さて、どうしようか。僕は蜥蜴の死体と声を失っている2人を交互に見ながらどう説明するか考えざるを得なくなった。さて、どうしようかな。

現段階で主人公の能力が戻ってきました。

本来の力にはまだ程遠いですが。

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