第1話 魔王は目覚めたら戦闘でして
9/10 加筆修正しました。
ここは薄暗い洞窟。ここで僕の意識が覚醒する。目を開け、周りを見渡す。金属製の鎖ようなモノが僕の白い肌に直接縛り付けられている。眠っていた時にはこんなものはついていなかった筈だ。足も、胴体にも余すところなく縛られている。ついでに人もいる。およそ30ちょっと。大所帯だ。
「目覚めましたか。」
粘着質な声が目の前に聞こえる、正面で突っ立ている中年男の声だ。僕は自分が裸だったのを今更ながら気付いたのだが、身体が鎖で縛られているので動けない。なので僕は、
「お前らは誰だ。」
殺気を混ぜつつ、堂々としてみた。裸で何が悪い。
僕の殺気が通じたのか、紫色の服を頭から身につけている中年男は身体をビクッと震わせる。
そこで周りの紫の集団が動く。人の波がうごめき、僕の目の前に道が開かれた。そして、開かれた道から人が歩いてくる。高い金属音が木霊する。その頭ごと隠している紫色の服も銀色の刺繍で炎を模したマークが施されている。その他とは違う威圧感に僕はこの中のトップだと分かった。そいつが僕の目の前に立つ。
「そなたが文献に残る最も古き魔王、初代魔王であるか。我が名は軍事国家エゼル・バーコックの騎士、シュリカ・ザールコック。我が国の為の糧になってもらおう。」
その言葉と共に刺繍付きの服を脱ぎ去る。その下に隠れているのはこの若干薄暗いここでもはっきり分かるほどに磨き込まれ赤い炎が胸に描かれている銀色の甲冑。それと同じく頭も銀色の兜で覆われた騎士が僕の目の前に現れた。ちなみに胸の装甲が膨らんでいるし、さっきの高い声質から確実に騎士が女だと分かった。女だ。テンションあがるね。
「そうだね。僕が魔王だけど、一体、何するのかな。僕を奴隷とかでもしてみるのかな。」
上がったテンションを相手に気取られないようにあくまで声を落として聞いてみる。というか全裸な上に、冷たい鎖が地肌に当たって正直、風邪を引きそうだ。用件は早く聞きたい。
「ふっ。それでもいいのだが、私があくまで欲するのは勇者の称号。そなたを殺すことにこそ意味がある。」
僕の質問に対して淡々とシュリカは答える。僕の命が目的らしい。でも、まだ質問が終わっていないので話を続けさせてもらおうかな。
「へえ、それじゃあ今代の魔王はどうなの。僕みたいな老いぼれ相手より今の力ある若いのを倒したほうが名誉があるんだと思うけどね。」
「私は自分の力を弁えている。おそらく、今の私では今代の魔王に勝つことは無きに等しい。しかし、封印から目覚めたばかりのお前を倒し、その莫大な経験値と勇者の称号を得ることで私は強者になれるのだ。」
シュリカは剣を抜き放ちながら答える。確かに覚醒したばかりの僕では下手すると負けてしまうかもと思っているのかも知れない。そして、勇者になれば強者になれるのだ。それがこの世界の必然で、ルールだ。が、そんなことより最後の質問だ。
「今、何年の何月何日。それを教えてくれないかな。」
一瞬、拍子抜けの顔をしていたシュリカだが、すぐに顔を元の真剣な表情へと変え、答える。
「『魔封の拘束』がつけられた、お前には今日を生きる必要がない。よって知らなくていい。その命の華、もらい受けよう。」
そこでシュリカは剣を振るう。さっきまで真面目に答えてくれたのに最後はこれだ。ちゃんと答えてくれよ。本命の質問なのにさ。さてさて取り敢えず首を一直線に迫ってくる刃を折ってみる。
「…っ。」
シュリカが驚いているようだ。仕方ないことかも知れない。全身を鎖で縛られた僕に対して必中の攻撃だったはずだが、僕の力任せに引きちぎるという行為に僕は解放。後はもっさりとした剣のスピードに合わせて真剣白刃取りを行い、そのままぽっきり折ってみた。
はっきり言えばこの程度は朝飯通り越して晩飯前くらいなんだよね。
「何故だ。何故、拘束が解けた。何故、私の剣が止められた。国で一番の私の剣技にだぞ。」
どうやら、ショックが相当大きかったようだ。だけど国内最強がその程度ならその国はどうかしてると僕は思う。シュリカは中程で折られた剣を取り落としてしまった。
「まあ、君の剣が言うほど速くなかったし、それと、あんま魔王舐めない方が身のためだよ。」
轟。
その音ともに僕は力強く足を踏み込み、ボディーブローを彼女に叩き込む。音を軽く置き去りにした攻撃は女だが重装備で固められかなりの重量を誇るであろう、彼女の身体が紙屑のごとく宙を舞う。そして勢いそのまま、背後の堅い岩盤に激突する。一名脱落。
そこで僕はシュリカの折れた長剣ー折れてしまって30センチほどしかないーを手に取り言い放つ。
「僕に刃向かったんだから準備はいいよね。初代魔王の僕が君達の相手を『特別』に相手してあげるよ。」
恐らく、頭であり一番の実力者であるシュリカが真っ先に脱落してしまったので途端にずっと黙っていた中年男含む紫色集団が悲鳴を上げる。結構うるさいね。さて惨殺ショーを始めよう。まずは手始めに一番叫んでいる中年男から。
どれくらい経っただろうか。というか15分も経ってないだろう。僕の周りは酷い有り様だった。
僕は最後の死体を蹴り飛ばし半径50メートルほどのスペースを持つ洞窟の中央に追いやる。死体も酷い状態だった。僕の割と全力な拳に頭が千切れたり、相手が魔法を使ってきたのですぐ近くの人間を肉盾にしたお陰で火魔法を受け、所々焦げた臭いがする奴とか腹に複数の穴が空いちゃってる奴など、大小様々の致命傷を誰かしら負っている。
僕も全身、返り血で血まみれなので早くどうにかしたい。獲物にしていたシュリカの剣が、最初の攻撃で呆気なく粉砕してしまったので仕方なく素手で泣く泣く殴るはめになったのも原因だろう。
「さてさて、服でも剥ぎ取りますか。」
全裸なのを気にして何体かは比較的状態の良い服をに剥ぎ取る。血が全身にべっとりなので何枚かはタオル代わりだ。そして血を拭き取り、灰色の地味なシャツにくすんだ茶色のズボン、紫色のローブを羽織る。やっと落ち着いた。
外に出ようかと洞窟の端にある階段に足をむけたのだがそこで岩が崩れ落ちた。
「待…て…貴様を倒す。死ん…だ仲…間の為にも。」
どうやらさっきまで気絶していたシュリカが目覚めたようだ。僕は首だけを音のした方向へと向ける。身体はふらふらだし、銀色の鎧は全壊し、その素肌を酷している。兜をつけていて分からなかった青い眼も隠れていた金髪もだ。
今は砂埃の所為で髪も素肌も茶色くなっているけど。
「そうか。そうだね。君も安らかに眠らさせてあげようか。」
シュリカに引導を渡すか。
僕は死体から同じような形の長剣を2つ拾い、1つをシュリカに投げ渡す。それを受け取るのを見て僕は残った一本を構える。そして少し間を置き、シュリカが僕に近寄り、剣を振るう。
「喰らえっ。」
意外なことにさっきまでのボロボロな印象とは裏腹に力強い剣に僕は感心するが、その両手を使った攻撃に片手で持った剣を合わせる。必然的に起こる鍔迫り合い。僕は蹴りをお見舞いしそれを強制的に中断させる。手加減を十分にかけたのでシュリカは2メートル程、後退し踏みとどまる。
「当たらないよ。」
「まだだっ。」
その距離を一気に縮めたシュリカは今度は剣を使った連続攻撃を行う。力が入った隙の大きい攻撃だ。それに対して僕は剣すら使わずに避ける。目に見えているので楽勝だ。
「『閃光紫炎斬』。」
叫んだその技はスキルと呼ぶモノだ。人間の努力の結晶が生み出した奇跡だ。紫色の炎に包まれたその一撃は必殺の一撃。僕はそれに剣を向ける。
「終わりだ。」
紫色の炎が当たる前に、その腕ごとシュリカに一撃を叩き斬る。力の差が違いすぎる。シュリカから鮮血が吹き出る。そしてそのまま倒れ込んだ。致命傷だ。僕はシュリカを見下ろした。
「負けか。この私が。」
「僕は君のことを忘れないだろう。君の名をこの身体に刻み、僕は前に進もう。」
眼にはすでに光は灯っていない。掠れる声に、静かに僕は言った。それを聞いたのかポツリとシュリカが話す。
「私は死ぬ。私は勇者に成れなかった。おまえを倒し勇者になれなかったが、来世で私が勇者になれることを願おう。」
どうしてここまで彼女が勇者に固執しているのかは敢えて聞かない。最初に言っていた国の為だとかそういうのでは恐らくないのだろう。ここで聞いてしまっては彼女の誇りは守れない。だから僕は言おう。
「そうだな。来世では勇者になれることを僕も心から願おう。」
本心からそう思う。彼女は今世では運が悪かったけど来世には頑張ってもらいたい。僕の言葉を聞き終わると、シュリカは静かに息を引き取った。
死んだ彼女たちの分も僕は生きよう。
開幕から結構飛ばす主人公。後、主人公の現段階の能力は肉弾戦能力しか今のところありません。