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 僕はこの手に希望を掴む!

作者: 月草イナエ

 

 見渡す風景は一面の田園風景。変わり映えのしないうんざりする景色の中、僕は車を走らせている。

 何時もは殆ど利用する事の無い町外れの県道。この道はある場所に向かう目的の為だけに最近作られた。

 地域の発展と言う名目の下。その利益は周辺部の工業団地と沿道の商店のみに潤いを与え、そこから道一本外れた場所から客を吸い上げ、地の利と言う貧富の差が生まれる。

 今年の春に作られた七野ななの高速道路インターチェンジ──僕の住む七野町ななのまちに作られた高速道路の入り口だ。

 サービスエリアも併設されている為、地元の人間に多少の雇用は生まれるが、高速道路を利用しない僕の様なドライバーにとっては、無用の代物だった。増してや、僕の家は隣町との境目にあり、距離的には隣町のインターチェンジを利用した方が近い上に、国道を走れば隣町と七野町の区間を高速道路と大して変わらない時間で移動が出来る。全く無駄な物を国民の血税を浪費し、作ったと言わざるを得ない。

 

 だが、僕にはその無駄な代物を利用して、どうしても確かめなければならない重要な案件があった──


 ──数日前、会社の友人がその事を僕に自慢気に話すので、最初は半信半疑で聞いていたのだが、経験・・したものにしか分からない体験らしい。インターチェンジの間隔も狭い七野町と隣町の区間はそれに適しているとの話だ。一般道では体験出来ない未知の体験。僕はそれを確かめる為に田園風景を横目に車を七野インターチェンジへ向け走らせていた──


 暫く走ると高速道路の隣に真新しいインターチェンジが見えてくる。僕はウインカーを点滅させながらインターチェンジの方向に車線を変え、通行可能なゲートの下に車を停車する。窓を下げ、腕を伸ばして発券機からチケットを抜き取ると、隣町のインターチェンジへ向かう下りの路線へ車を走らせながら徐々にスピードを上げていく。

 後方を確認しながら高速道路本線へスムーズに合流すると、スピードを上げ追い越し車線へ車を進める。


 時速八十キロに差し掛かった辺りで僕はおもむろに右腕を窓から出し、手のひらを広げる。


(………これは……確かに……)


 徐々にアクセルを踏み込み時速百キロをキープする。

 手のひらに伝わる空気の抵抗力を五分間程堪能すると、今度はスピードを落とし、九十キロの状態でまた五分間。

 何度かスピードを変えながら手のひらを流れる空気の抵抗を楽しむ僕の視界に、隣町のインターチェンジ出口の標識が目に止まる。

 僕は腕を車内に戻し、インターチェンジの出口へ車を向ける。

 料金所の職員にチケットと二百四十円を渡すと『お疲れ様でした』と掛けられた声に笑顔を返す。


 近くのコンビニに車を止め、ホットの缶コーヒーを買い、冷えた右手を温めながらコーヒーを一口啜すする。

 じんわりと手のひらに伝わる暖かさを噛み締め、左手でスマホを操作する。


「……もしもし。あっ、テルか? アレやってみたけどさ~ お前の言う百二十キロは無いなぁ~……堅いよ。僕は八十二ぐらいが限界だな……」


『ああっ?! 何言ってんだよ! このペッタン野郎め。お前は高速より一般道でも走ってろ! お前には夢がねぇーよ!』


(……全くコイツは分かっていない。夢なんかより希望があれば十分だ)


 それから電話の向こうではテルの熱の入った独演会が始まり、僕はコーヒー片手に適当な相槌を打つ。

 やれやれ……コイツの好みと僕の好みは違うのだ。僕は一般道で十分だ。



 僕の手はまだ見ぬ希望を掴む為にあるのだから……


 

 

 

 【この小説を読んだ後の注意事項】


 1 走行中の車窓から手を出してはいけません!

 2 車の制限速度は守りましょう。

 3 車間距離は十分に安全な運転を心掛けましょう。

 4 わき見運転はやめましょう。

 

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― 新着の感想 ―
[良い点] 車を走らせるシーン、高速に乗り速度を変えていくシーンなどは、適度にリアリティのある描写で、流れる景色や強い空気抵抗の様子をありありと想像することができました。 [気になる点] 検証すべき案…
2014/03/10 23:04 退会済み
管理
[一言] 主人公は友達よりもスリルを求めているのですね・・・・・。
2014/02/04 18:11 退会済み
管理
[良い点] R指定はこまりますね (^^;; しかし、実際にやってみる勇気はない…です。 ( ´△`)残念です
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