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エレオスブルグの診療所  作者: 天照
八方美人×八芒星@魔法使い
3/36

カルテ1:デア・サブマ

キャラ図鑑1 佐野・杏里 19歳 3月3日生まれ 

出身:ジパング A型 150CM 

座右の銘「成世葉なせば 奈留なる・・・って人の名前ですかねぇ!?」

 

――晴れた日の早朝、エレオスブルグの街に日差しが差し込む中、街の隅っこの丘に建つ診療所のシャッターも診察室の窓も開いていた――


「あぁ・・これは自律神経失調症だね」

「え?私が!!?」

「そう、症状の緩和を促す漢方薬を出しておきますから、一か月飲んでみて」

「・・・そんな」


不服そうに自身へ指をさして慌てふためく女子高校生の身なりをした少女とは裏腹に、担当医は机に肘をついたまま抑揚のない声で淡々と診察を完了させた。

すると待っていましたと言わんばかりに後ろからひょこっと女性看護師が顔を覗かせる。


「では、お薬の処方箋を作成しますので再度待合室に案内しますね」


無気力な医者の隣で、にこやかな女性看護師が案内する気満々で戸口へと向かう。


「おい、杏里! そっちは更衣室だろ!ベタな少女コミックみたいな間違えしてんじゃねぇ!」

「おぉ!アイムソーリー、髭ソーリー、手術前に髭を剃るなら六枚刃がおススメです!」


そんな少女コミックがあってたまるか!という疑問を封印したまま、髭を剃る必要も無い女性患者に対して杏里という看護師は180°ターンを決めるとニコっと微笑んだ。


「軍人さんならミリタリーナイフでも髭を剃るらしいんですよ!ワイルド派とマイルド派の紛争が始まりますよね、名付けて髭剃りの乱」

「そんな事はどうでも良いです」

 

患者である少女は氷の様な冷たい眼差しで杏里をスルーした後、再度担当医の前に仁王立った。


「とにかくですね、そんな診断されても別に私は生活で悩んでいる覚えとかないんですよ?もっと風邪薬みたいにすぐ治る薬ないんですか」

「申告な悩み事がないのならゆっくり治せば良いじぇねぇか」


全く態度を変えない医者の態度に少女はギリっと歯を噛みしめる。


「・・誤診です、帰りますっ!」


不機嫌そうなツンデレ風味の少女は冷静に戸へ手をかける。


「待てっ!」


医師が先程までの態度とは打って変わって厳しい目つきで少女を呼び止めた。


「何ですか?やっぱり誤診ですか?」

「そっちは宿直室の扉だ」

「え?・・あ・・」


少女は赤面のまま、慌てて元来た扉へ走る。しかし、ドアが半開きになった辺りで医者がその気怠そうな目を患者の背中に向けた。


「いやぁ、お前さんみたいな魔法使いの職業の方には最近多いんだよね。MPマジックポイントを使う上で精神の消費量を見誤って自律神経が磨り減っている人」

「・・・っえ?先生、何故私が魔法使いだってわかったんですか?」


不思議そうに振り返る患者に対して、医者は頬杖をついていない方の手で彼女の胸元を指さした。


「ほら、それ魔術師の資格バッチでだろ?しかも八芒星のマークって結構凄いんじゃねぇのか?」


一般的にこの世界では法務省から魔法術士の認定を得ると、証となるバッチが貰える。

大抵は魔術専門学校の高校級くらいになると五芒星から始まり、昇格すると星の数が上がる。

現在彼女は八芒星となるので一番人数の多い五芒星より更に三階級上の希少エリートとなる。


「まぁ・・その分、責任も重大ですけどね」


少女が黒く長い髪の毛をかき分ける。


「・・というわけで、結局そういった責任問題のストレスに消費MPの心労が重なって引き起こした事態だと当院では分析しました。取りあえず薬出すからそれが的外れな処方だと感じたら別の病院に行くのも自由だ」

「・・はぁ、そうですか・・分かりました」

「お大事にどうぞ!」


医師の挨拶にに反応して再度杏里が少女の後ろからひょこっと現れる。


「では待合室まで案内しますので会計の時に用紙をもらったらお隣の薬局に立ち寄ってください」


杏里がニコニコ顔で出口の扉に手をかけた。


「おい、杏里。そっちはボイラー室の扉だろ。さすがに少女コミックでボイラーは厳しいぞ」

「確かに壁ドンしたら配管破裂しちゃいますもんね!もう、この病院出口多すぎ出木杉!」


杏里は自分の頭をコツンと叩くと。少女は医師に一礼すると診察室を出て、数歩を歩いた先の待合室の椅子に腰かけた。


「はぁ・・・」


会計待ちの間、意味深な溜息を一つ吐いて壁に掛けてあるテレビをボーっと眺める


「・・ダメだ・・・」

「ん?テレビの医療占いですか?」


杏里がソファーの後ろから顔を出すと一緒にテレビをを眺めた。


「うわっ、何してるんですか!?」

「へへ、でもラッキーパーソンがドジっ子看護師でラッキープレイスが海だって、この病院では見つからないかもですね」


(詰んでいる・・・外れろ!朝一でこんな看護師と遭遇した時点で心労が悪化しそうなのに)


少女は杏里の笑顔を視界から遮って手で額を抑える。

そもそも本当に看護師なのか?という疑問に関してだが、彼女が着ている七分丈の白いワンピース型のナース服。正面はこの世界の医療連合の印がデザインとして付いており、首元には群青色でエレオスブルグの国を現わす紋章刺繍が施されている。この襟元の紋章こそが正看護師の証である。


そんなはくがつく一流ライセンスの印も残念ながら少女の視界には一切入っていなかった。

投げやりにテレビを眺めると丁度テレビでは健康情報番組が映っていて司会者がフリップボードを見て何やら語りだしている。


『自律神経とは交感神経と副交感神経の二つがバランスよく交互に活動する事で成り立つ神経です。運動時の代謝など生命活動を活発にする交感神経と、食事中や睡眠時など体を落ち着かせている時に強く働く神経が副交感神経です。

この2つの神経は基本的に12時間周期で入れ替わりますが、ストレスや過労により両神経のバランスが崩れると情緒不安定や、不眠症、動悸、頭痛など様々な神経症状に悩まされる様になります』


少女は視線を変えずにテレビを眺めているものの、表情は大分険しい。


「はぁ、この歳で心労なんて、我ながら情けない・・」

「マギアスさん、会計窓口までどうぞ」


事務員の声に立ち上がるとマギアスと名の付く少女は静かに歩き出した。


「心労を抱えてしまうくらい一生懸命生きて、情けない事は無いですよ」

「・・・・・」


寂しげな背中にエールを送る杏里に対し、彼女は一回も振り返る事無く会計を済ませて出て行ってしまった。


「お大事にしてくださいね!」


それでも杏里はどこかのサイトに負けないくらいのニコニコで、玄関に出るとその背中が完全に見えなくなるまで見送った。

やがて一人取り残されたエントランスで、東から昇ってくる日差しを感じて手をかざしては空を見上げる。青空が白塗りの壁に反射して眩しい。


「さ、今日も省エネ診療開始です!」


笑顔で呟くと杏里は健康サンダル仕様に改造したナースサンダルをパタパタと音立てながら診察室へと戻った――


「矢沢先生!わたくし、佐野杏里はゲーティング(お見送り)の任務を遂行し玄関より無事『デアサブマ』へ帰還して参りました」


勢いよく診察室へ戻った杏里はそのまま俊敏な敬礼をする。


「あぁ、お帰り。お前の横文字さっぱり分かんねーけど」


この矢沢先生と呼ばれる、いかにも少々脱力気味の医師はそのまま目を合わせる事も無く、引き出しの中の塩せんべいを取り出して食べ始める。


「そりゃあ、こんなに良いお天気なんですから、横文字通り越して3D文字くらい行っちゃうかもしれませんね」


敬礼を止め、今度はガッツポーズでやる気をアピールしてくる。


「お前ね、そんな次元の歪みを駆使した様な謎文字出した瞬間給料下げるからな?それこそ4D文字なんて出したら即懲戒免職だからな」

「待ってください!医院長が帰って来るまで私たちでこの『デア・サブマ診療所』を護って行くんですよね!ここはひとつ穏便に」


――デア・サブマとは直訳で【女神の奇跡】という、この診療所の名前となる――


「そもそも何だよデア・サブマって!!?POPスターのニューシングルかよ!?クセェな」

「臭くないですよ。医院長の愛情がこもった素敵な名前じゃないですか!」

「クセぇよ!使い古した剣道の小手みたいな匂いがする名前だぜ。もっとこうイカした名前があるだろ?キャロルとか」


杏里のキャラと医院長のセンスを真っ向から否定するこの医者の名前は矢沢・F・ブリティッシュという。

異国の地のYAZAWAというロック歌手に深い憧れを抱き髪型も顎鬚あごひげの長さも真似ているが、可愛らしいミドルネームがそれを邪魔する。

なのでこの診療所で矢沢先生のミドルネームでの呼び出しはタブーとされている。


「このこのぉ、本当は匂いフェチのくせして!」


すかさず杏里が矢沢先生の肩に肘打ちを仕掛けると振動で塩せんべいがどんどん砕け散って行く。


「あっ!おま、YAZAWAのせんべえだぞ?破片が床に・・ちゃんと掃いとけよ」


矢沢先生は気の抜け具合が絶妙すぎて診察中であってもその気怠いオーラが払拭されることは決してない。それでも医師としての潜在性ポテンシャルは医院長や杏里も認めており、小さな診療所へ訪れて来る様々な患者にジャンルレスな診察を行い治療を施すので、内に秘めた情熱を足し引きすると多少の気怠さもご愛嬌として見られている節がある。


現に今の患者の症状も希望通り風邪であれば内科だったが、診療結果は心療内科や精神科の管轄である。


杏里が掃除ロッカーからホウキを持ってきてサッサッサっと自身の過失を掃いて行く。


「にしても医院長先生は昨日も徹夜だったんですかねぇ・・?」

「ありゃあもう病気の領域だ、情熱じゃなくて執念だな」


矢沢先生が今度は引き出しから串イカを取り出す。


先程から二人の会話に出て来る医院長というのは、デア・サブマの創立者にしてエレオスブルグ屈指の名医であるレゾ・マリアという女性の事である。

絶世の美女であることでも有名だが、人を救うための知識・技術もエレオスブルグではトップクラスであり、患者の精神的なケアやその後の治療生活支援など、彼女がエレオスブルグの医学界に及ぼした影響は数知れない。


「大人しくインホスで稼いでりゃあ最新医療システムの中で富と名声を得られたのに。こんな小規模な診療所を建てる成り上がりっぷりな」


インホスとはインペリウム・ホスピタルの略称で帝国病院という街一番の規模を誇る総合病院の事である。

小児科・内科・外科・産婦人科・心療科・循環器科・・等々此処に来れば大抵の治療は行えてしまう。

マリアは元々は此処インホスの外科医だったが、独立して外科医のみではなく内科医としても医療業務を拡大していった。

しかし、患者の数に対して人手が足りないインホスの方から召集がかかり、今では週の殆どをインホスにて徹夜の治療に明け暮れている。


「fあ」jg♨ddjn」

「矢沢先生、イカさんがお口の中でライブしているせいで全く聞き取れません」

「ほっふはへえは」(ロックじゃねぇか)


『ゴクン』とスルメが喉仏を通って行く。


「大体なぁ、外科医と内科医の両立ってのにはどっちの医者達からも後ろ指さされたみたいだしな」

「それって、楽じゃ無い事をやってのけたって事ですよね!医院長はすごいなぁ!」

「歌手も医者も仕事人ってのは仁義を通すもんだ」

「恰好良い」


再び杏里が矢沢先生の肩に肘打ちをする度に串の先が矢沢の喉に刺さる。

・・・

・・

この天真爛漫な看護師の名は佐野・杏里。

看護の高等専門学校を卒業し国家試験に合格後、そのままデア・サブマの門を叩いた。 

昔、父親が怪我をした時にインホスで手術に立ち会ったのがマリアだったのだ。

それ以来、医療の道に憧れて愛犬の様にマリアに懐いてついに職場まで一緒にしてしまった。


「では、では洗濯物を取り込んできまーす!」


再びパタパタという音が診察室に響き渡ると階段の上へと上がって行く。

矢沢先生が一人で喉に刺さった串を抜いた。


「・・・止まんねぇな(出血)」


・・・・

・・・


屋上はウッドデッキになっており大きな木が診療所の屋上に傘の様に覆いかぶさっている

葉と葉の隙間から射す光に眩しさを感じながら物干し竿に掛けてあったシーツを取り込み、篭の中へと次々に入れていく。


遠くに見えるのはエレオスブルグの城下町と首都街と霞むインホスの外観。

レンガ積みの家々と城の近くに聳え立つコンクリートで塗り固められた大きな病院の不釣り合いさが余計に存在感を醸している


この診療所に訪れる患者の殆どはインホスから回ってくるお零れというカテゴリーの患者たちである。

だからいつもこの診療所の入り口で患者側も落胆する。今日初診で訪れた魔法使いの少女もその口の一人である。

彼女はエリートであるが故に生活シフトが厳しく、インホスの診療時間だと都合がつかず此処を紹介されてきた。


『この歳で心労なんて、我ながら情けない・・』


洗濯物を取り込む手を止めてマギアスの働く首都街を見つめて微笑む。


「そんな事無いですよ」


こめかみの部分にさり気ない編み込みを入れ、後ろの毛先が短いポニーテールを風になびかせている。杏里のゴールドブラウンの髪の毛が空からの日差しに反射した。



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