高台からの眺め
温かいお風呂。美味しい食事。ふかふかのお布団。歩き疲れていた少女はすぐに眠りに着いた。次の日、二人は宮司さんに何度もお礼を言い、早朝に神社を出立した。
道の側に小川が流れている。サラサラと流れる水は澄んでいて、岩や魚がとても良く見える。今日は昨日と違って下り坂の為か、少女の足取りも軽やかだ。道を進むにつれ、鬱蒼としていた木の影も薄くなり時々日の光が差し込んでいる。
不安気だった少女も今日はずっと笑顔でいる。もうすぐ家族に会える。そんな思いが少女を笑顔にしているのかも知れない。道端に咲く花を見付けては、走り寄りその香りを楽しんでいる。そんな少女をお巡りさんは微笑ましく見つめた。
今日も空には、うっすらと蛍光灯のような物が見える。それを少女は眩し気に見上げた。
「あれ。何だか分かる?」
指を差して、お巡りさんに訊いてみる。
「いや、分からない。……何かな?」
お巡りさんは首を傾げる。
「あれはね、いつか行く場所なんだって。お店に居た男の子が教えてくれたんだよ」
「……いつか、行く場所……」
お巡りさんは暫く立ち止まって、うっすらと浮かぶそれを見上げていた。
少し歩いた所に道路から左に伸びる道があり、小さな駐車場へ続いていた。少女は何となく気に成ってそちらへ向かって歩いて行く。
「そっちじゃないよ」
お巡りさんが呼び止めるが、その声を無視してよろよろと歩いて行く。何かに吸い寄せられるようにガードレールに歩み寄った。高台から開けた町並みを見下ろす。
「あっ、…この景色。見た事ある」
「本当だ。俺もここからの景色を良く見ていた気がする」
少女の隣にお巡りさんも並んだ。
高層ビルなどは無く、一番高くても精々五階建て程のビルがチラホラ在るぐらい。寂れたボーリング場、カラオケ店、電気屋、床屋、スーパー、駄菓子屋。発展した街では無いけれど、これで十分暮らし易い。勿論、各病院も揃ってる。町から少し離れた場所に小中学校が隣接され、その直ぐ側には交番もある。建物の間には、点々と畑があり、山裾には水田が広がる。
青々と茂る稲穂の先を風がザッと撫でて行く。それに光が当たり、緑色の海の様に見えた。綺麗な町だ。そう思った時に、家族の顔が浮かんで来た。
お父さん、お母さん、お兄ちゃん、妹、おばあちゃん、仲の良い友達、学校の先生。次々と浮かんでくる顔。
「ここだ。ここが私の住んでいた所だ。…お母さんたちが居る場所だ!」
少女は走り出そうとした。その手をお巡りさんが掴む。
「待って。走ったら危ないよ。会えるから、走らないで行こうね」
そう言われ、少女は逸る気持ちを抑えながら、大股で懐かしい町へと急いだ。




