二人の夢
最終話です。
「又、来るからね」
お巡りさんはそう言って、出て行った。
少女は自分の部屋があった場所に向かった。部屋の扉が開いている。中に入ると、生前自分が使っていたまま残されていた。
床にはピンク色のラグ、シングルベッドにはピンクの布団、犬やくまのぬいぐるみ、ハート型のクッションが二個。あの宿と同じ部屋だ。机には毎日背負った赤いランドセル。教科書、ノート、落書き帳。宝物入れ。大好きな本。オルゴール。棚の上には見覚えの無い色紙が飾ってある。
「突然いなく成って淋しい」「又、一緒に遊びたい」「天国でも、楽しくね」と、メッセージが書いてある。クラスメイトが私がいなく成った後で届けてくれた物だ。
「…………」
少女は色紙を抱きしめたまま泣いた。ひとしきり泣いた後、色紙を元に戻し、部屋を後にする。懐かしい部屋をあちこち見て、リビングのソファーに腰を下ろす。すぐ後から二つ歳上のお兄ちゃんが入ってきた。少女の斜めにある椅子に座り、浮かない顔をしている。
「……あの時、どうして俺はちゃんと見ていてあげなかったんだろう」
と頭を抱える。少女は何の事を言っているのか分からなかったけれど、流された時の事を言っているのだと気付いた。少女は見ていられなくて、リビングをそっと出て行った。
二間続きの和室の仏壇の前に戻って来た。そこには母親がぼんやりと座っていた。
「あの時、川に行っちゃダメって強く反対していたら、あの子は死なずに済んだのに。あの笑顔で今も笑ってくれていた筈なのに…」
遺影の中の少女の顔を見ながらそう言う。
お兄ちゃんもお母さんも、私が死んだ事を自分のせいだと思っている。
……違う。皆のせいじゃ無い。私が悪いんだ。あの日、どうしても川に行きたいと言ったのは私だ。私の我が儘で私は死んだ。誰のせいでも無いのに……。
いつの間にか、お巡りさんが戻って来た。
「お別れしてきたの?」
ぐずぐず鼻をならしながら訊くと
「ああ、会って来たよ。…どうかした?」
そう訊かれた少女は、自分の思いを吐き出した。誰のせいでも無いんだと、自分が悪いのだと訴える。お巡りさんは少女の頭をヨシヨシと撫でる。
「俺、決めたんだ。天国になんか行かない。」
「えっ、ここにいるの?」
「いや、あそこには行かなきゃならないだろ?」
空にうっすらと浮かぶ蛍光灯を指差す。
「妻は再婚したのかと思ってた。でも、あの子は俺の子だった。俺、守護霊に成る。家族の傍で、ずっと見守って行きたいと思う。」
少女はポカンとお巡りさんを見上げる。
「……変かな?」
少女は首を横に振る。
「君はどうするの?」
そう訊かれ、考えた。
その時が来た様だ。お巡りさんと少女の体が薄く透けていく。二人は少女の家を出て、空に浮かぶ蛍光灯が良く見える場所に移動する。その間もずっと少女は考えた。二人が光の粒に包まれて行く。
「私ね、又、お父さんとお母さんの子どもに生まれたい。家族の元に帰りたい。そうお願いしてみる」
と力強く言った。そうか。とお巡りさんは笑ってくれた。少女も笑顔で頷いた。
***
数年後。
――おぎゃあ、おぎゃあ、おぎゃあ――
「おめでとうございます。女の子ですよ」
――――ただいま――――
最後まで読んで頂き有難うございました。
この作品は、東海沖地震の一年後に書き始めました。今も何千人もの方が見つかっていません。毎日辛い思いをされていると思います。
きっと亡くなった方たちも、家族の元に帰りたいと願っているに違い無いと思い、書き始めました。
元の話とはだいぶ変わってしまいましたが、書きあげる事が出来て良かったです。有難うございました。




