「魔力なしの無能は出て行け!」と追放された私、家族に殺されたはずが 伝説の魔法使いに“世界で最も価値のある備品”として溺愛されています
魔力なしの貴族令嬢の私は、追放された先で家族に殺される。
伝説の魔法使いは私の死体から湧き出た魔力を、最高の“備品”として利用する。
◆
攻撃魔法には攻撃魔法の。
回復魔法には回復魔法の。
それぞれに適した魔力がある。
けれど私はなんの魔力も持たない無能だった。
魔法を使おうとすると、身体の奥に詰まった感覚がある。
魔力を身体に通す入り口が壊れている。
だから、私の身体に魔力はない——無能。
貴族が、その家系の魔法を誇るのが当たり前の世界に転生したというのに——。
「我が家にこんな無能がいると知られたら大変だ。妹たちの婚約にも影響が出る」
「父上、ただ追放するだけでは駄目です。生きている限り、無能が生まれる家系だと知られてしまいます……!」
◆
魔力がない無能の私は家族から『出て行け』と家を追い出された。
“無能”と知られたら妹たちの縁談にも影響がある。
『お姉様、私たちは結婚なんて必要ないの。お姉様と一緒にいられたらそれだけでいいの』
まだ小さい可愛い妹たちは分かっていないのよ。
誰にも選ばれない惨めさを。
私は誰よりも妹たちを愛しているし、自分が無能なことは受け入れている。
だから、妹たちを一生愛し続けるけど、あなたたちは私の愛だけじゃ物足りなくなる。
だから、追放されたことは仕方がない。
「お嬢さま……」
仲のいい一つ年下のメイドだけが見送ってくれる。
「妹たちをよろしくね」
メイドの震える手を握った。
父と兄に家族のために出て行くように言われて、喜んで出て来たわ。
でも、殺されることは了承してない——。
街道を歩いていたら、崖のような場所が続く道があった。
けれど、道は広くゆとりがあって崖から落ちるような心配はない場所だ。
急に足が持ち上がりよろけた。
「わ、わ」
大勢の人が、私の間抜けなダンスを目撃した。
崖に落ちそうなところで持ち直したけど、追い討ちで身体に突風が当たる。
これは……!
私に身体は崖の上まで飛び出して、後は落下するだけ。
ゴロゴロと崖を転がってついた川に身体が顔から半分浸る。
死因が何だったのか、いつ死んだのか。
私は知らない。
身体に感じた、風魔法の衝撃だけが残り続けた。
風魔法——。
実家が守る我が家が貴族たる所以の魔法だ。
家族が、私を殺した。
◆
異常な魔力を感知した。
数百年生きて来た僕も初めて触れる魔力。
どの分類にも当てはまらないが、どの分類にも当てはまる。
万能の魔力。
「こんなモノが存在したのか……!」
夕暮れの川に沈む若い令嬢の死体。
これが万能の魔力の器か……。
可哀想にあの街道から転落したのか……。
安全な街道だと言うのに、何があった?
——これだけ憐れんだなら死者への礼儀は果たしただろう。
僕は上の街道を見上げる。
人がひっきりなしに通っている。
今は平和な様子だが、目撃者がいれば先の城門や砦に令嬢が転落したことは伝わっているだろう。
助け——遺体の回収に人がくる。
せっかく見つけた、万能の魔力の器だ。
横取りされたくはない。
こんな素晴らしいモノは僕が大事に使わなければ、世界の損失だ。
こんなモノでも執着する家族には悪いが、これはすでに人でも死体でもない。
僕の研究所の大事な備品だ。
◆
私が目覚めた時、清潔なベッドの上にいた。
顔が全部水に浸かって死んだ記憶が生々しいだけに、落差に驚く。
どうして?
誰かが助けてくれた!?
なら嬉しいけど、そうとも限らない——。
考えていると鼻がむずむずして、近くのテーブルクロスで鼻をかむ。
真っ黒な泥とゴミが混じってる。
川の水に浸った時のゴミが残ってる!?
気づくと口の中も気持ち悪い。
多分、清潔そうな水とバケツを見つけてうがいする。
うがいなんて可愛いものじゃないけど、気持ち悪い。
耳の中も違和感がある。
実は、身体の魔力の詰まりが取れたような感覚がある。
けど、他の所が詰まっているみたいで気持ち悪い。
「おええぇぇぇ」
ドアが開く。
「なんだ、目が覚めたのか? まるで人間だな」
見知らぬ男が入ってくる。
「……汚いな」
私を見るなり言う。
「お、お風呂に入らせてください」
気になる事はたくさんあるけれど、まずはお風呂!
「風呂か、僕もしばらく入ってないからな……。使えるだろうか?」
は、入って!
誰だか知らないけど、お風呂に入ってない割には清潔感がある。
数年お風呂に入ってなくてもモテそうな美青年でもあるけど……。
「汚れが落ちればいいんだろう?」
そう言うと美青年が杖を取り出して私に向ける。
何か呪文を唱えると、私の身体が光に包まれた。
光が消えた後の私はすっかり汚れが落ちて綺麗になったらしい。
爪に入っていた泥汚れや、服や髪についた汚れが落ちて、風呂上がりのような感覚がある。
さっきまでの私は、清潔なベッドで目が覚めたけど、清潔なベッドにはとても寝かせたくない状態をしてたようだ。
これは、助けてくれた(?)人は相当おかしな人だと思う。
助けてくれたのは、目に前の魔法使いなんだろうけど。
……多分、口や鼻、耳の中もこの調子で汚れは落ちたんだと思う。
でも、ちゃんと洗わないと気持ち悪い。
「お風呂をください!」
私はもう一度言う。
◆
お風呂は本当に使ってなかったらしい。
思い出したくないあり様だった。
さっき私にかけた魔法でお風呂は綺麗になって入ったけど、思い出したくない魔法をかける前の絵が思い出されて、身体は綺麗になったけど精神的なダメージをおった。
泥汚れの方が自然のものだからまだ綺麗。
……川に浸かってたんだ、私。
川に追い込んだのは家族が使う風魔法だった。
そこまで私が邪魔だったの?
追放だけなら、いつか妹たちに会える日がくると思っていたけれど……。
私は、本当に一人ぼっちになってしまった。
◆
改めて魔法使いに向き直る。
しかし、魔法使いはぶつぶつ言って机の上で何かしている。
しばらく待ったけど私に気づく様子がないから、その辺の棚を漁る。
クッキーの缶がある!
しかし、このゴミ屋敷で食べ物を見つけたからって食べていいのか問題。
迷ったが、一口食べてみる。
ちゃんとクッキーだ!
お店で売っていてもいいくらいの品質!
私は横にあった紅茶も淹れてみる。
水は……多分、綺麗だと思うけど……。
あの一瞬で綺麗にしてしまう魔法で掃除してるんだとは思うけど……。
湯を沸かすかまど周りも綺麗で、やかんも問題ない。
水瓶にも水が溜まってる。
多分、一瞬で水を汲むような魔法があって、毎朝やってるとかルーティンがあるんだと思う。
流石に魔法使いも水を飲まないわけにはいかないから数ヶ月前の水ってことはないでしょう。
慎重に匂いを嗅いで問題は見当たらないから沸かす。
薪の量が少ないけど、これも魔法で火をつけられるからな気がする。
魔法使いは魔法で全部できるけど、魔法が使えない人用に薪も一応置いてある感じ。
人は見かけないけど、割と広そうなのよね、このゴミ屋敷。
◆
「何をしている」
やっと気づいて魔法使いが言う。
「クッキーを食べて、紅茶を飲んでます」
クッキーは残しておくつもりだったのに最後の一枚になって、紅茶は十杯目くらい?
「あ、それは……滅多に手に入らない街の高級クッキーだぞ! 辞めっていった研究員が先週置いて行ったモノだ!」
良かった、全然食べられるモノだった。
「紅茶や水も古くありませんよね?」
「それよりクッキーだ! まったく、やはり死体に宿った意思など、人間とは言えないな」
「クッキー食べられたくらいで、小さい男ね。死んだ感覚はあるけど、生きてるし私は死体じゃないわよ」
鼻や口に入っていた泥を思うと、生きた人間の中に入れる量じゃない気がするけど——生き返ったなら問題ないわ。
「生きていた頃の事を身体が記憶して、再生しているに過ぎない。お前は万能の魔力の器だ。魔力が勝手に動いている。……まったく、せっかく最高の品が台無しだ。それでも十分利用価値はあるが……」
最後の方はぶつぶつと独り言だ。
勝手なことを言っているけど、私は転生者なのよ。
この世界に転生して来た連続した記憶を持つ意思——いわゆる魂なのよ。
モノ(死体)に宿った惰性の動きなんかじゃないわよ。
「今は、私が生きているのかいないのかは問題じゃないわよね? ここはどこで、あなたが誰で、これからどうするのかが問題よ」
「そこで一番問題になるのが、お前が生きているかどうかだ」
「ん?」
「ここは町外れの山奥の魔法研究所で、俺は所長の魔法使いだ。死んだ死体のお前を拾って、魔力の器として——研究所の備品として管理する、以上だ」
「だから、死体じゃないって言うの!」
人の事を備品って、なんなのこの人は!
ガタガタ
食器が震えるテーブルの上に光のスジが伸びる。
何本もの手が獲物を求めるように一箇所を目指している。
魔法使いの手が、無数の光の手に掴まれて強く発光する。
「なんだ……!? 手が……勝手に……!」
魔法使いの驚愕。
同時に、魔法使いの手が杖を持たずに杖を振る動きをする。
魔法使いの手から光が放たれる……!
「……何が起こったの……」
光が収まって辺りを見ると、ゴミ屋敷だった周囲が綺麗に整理整頓されている。
「……魔法使いがやった……?」
なんで、整理整頓なんて……?
私を備品扱いしたあの文脈からいうと……?
「お前はここに収納されろって事……!」
「違う! 勘違いして怒るな! この魔法はお前がやったんだ! 僕の身体を使って!」
「……え?」
「なんて事を! 最高に実用的で使いやすい完璧な配置だったのに! もう何処に何があるかわからない!」
「この配置を、また覚えていけばいいじゃない?」
「今までの研究はさっきの配置とリンクして記憶していたんだ! 配置が消えたら全て水の泡だ!」
……これって、私が悪いの?
「魔法使いが、自分でやったんでしょう?」
「お前が、お前の万能の魔力が、僕の身体に勝手に魔法を使わせたんだ!」
「私の意思でその魔法を選んだわけじゃないわよ。あなたがどんな魔法を使えるかなんて知らないんだから」
「魔力自身がお前の意図を汲んで選んだんだろう。身体の記憶の表層でしかないお前の意図など単純だ」
「……怒りましょうか? 私が意思ある人間でも、表層でも、魔力が私の感情で動くのは変わらないんだから、あなたは私を怒らせないようにするしかないわよ」
「……ふ、お前だってその魔力を持ったまま外に出てはいけないんだから、僕を頼るしかない。感情の暴走で別の魔法使いの魔法を使わせることだってあるが、お前は魔法使いも魔法の種類も判別できないんだからな」
私が無能だって見抜いてる。
無能だから魔法の練習なんてしてこなかったから、魔法に関する知識はゼロだ。
だから、万能の魔力は私以外の人に魔法を使わせるように動く……。
たまたまそばに人に危害を加える魔法を持つ魔法使いがいたら?
危険かもしれない……。
「万能の魔力が死んだ私を生き返らせたって事よね? 危険でも私を助けてくれるモノだわ」
「お前の意思が死んで、魔力を詰まらせていたモノが消えたんだ。意思は戻るはずない」
また、平行線だ。
「いいわ。ここで、大人しくしてるのはいいけど備品じゃないわよ。人として扱って」
「もちろん。ただし、その魔力は研究として提供するんだ。魔力の正体がわかることはお前にとっても悪い話じゃない」
◆
私はこのゴミ屋敷——研究所に住むことになった。
それなのに、テーブルの上の食事が一人分しかない。
「食べるのか?」
驚愕する魔法使い。
「人として扱って……!」
魔法使いが杖を振って魔法で食事を出して、本日二度目の魔力の暴走は回避された。
「食事はいつも魔法で出すの? かまどや鍋があったけど」
「僕しかいない時は魔法だが、研究員がいる時は彼らに作らせる。無から生み出す魔法は世界に与える影響が大きいから使わない方がいいからな」
「研究員はいつもいるわけじゃないのね」
「いつも必要だが、すぐ居なくなる。クッキーを持ってくるやつなんてほぼ居ない。最近の若者は根性がない」
「こんな環境じゃ逃げるに決まってるでしょう。私だって料理なんてできないし、掃除もできないのよ。研究員にやってもらわないと」
「それは研究員じゃないだろう」
「まずは環境が整わないと研究なんてできないんだから、研究のうちよ。万能の魔力って言っても全然万能じゃないんだから……」
「使う魔法の種類によって分かれている魔力が、万能の魔力なら分ける必要がないってだけだからな。この魔力の限定のせいで魔法は各家系でしか使われないような秘匿性の高いモノになって発展しないんだ」
「魔法使いは色々な魔法を使えてるけど、杖のおかげなの?」
いくつもの杖が腰回りに結ばれて、私の前で魔法を使うたびに違う杖を使っている。
「そうだ、魔法を使う度の杖を変えるのは面倒だ。万能の魔力があれば杖を変える必要がない」
「たくさんの人が魔法を使えるようになるってことね!」
「は? なぜ僕以外のモノが魔法を使える必要がある? 研究するわけでもないのに」
「あのね……」
まあ技術が確立されたら広まるし、動機はこの際どうでもいいか。
◆
「ここがお前の寝室だ」
私は魔法使いに自分の部屋を要求した。
最初に寝かされていた部屋は、『実験動物の間』と言うらしく、ベッドは魔法で出しておいたらしい。
そこで寝ろと言われたが断固拒否した。
まあ、この研究所で一番綺麗な場所かもしれないけど。
それで連れてこられた新しい寝室だが、ここまでの廊下の状況を考えても、おぞましい様子しか想像できない。
目をつぶってる間に掃除の魔法をかけるように要求した。
「お前の万能の魔力を引き出して使ってみよう」
「どうやって?」
目をつむったままで私が聞く。
「手をつないで身体をつなげれば魔力が流れ込んで……こないな。……握り方のせいか?」
魔法使いは私の手をいろんな方法で握ってくる。
指と指の隙間に手を入れられて、これ恋人つなぎだ! って気づいた時には、無駄に心臓が跳ね上がった。
その後で、肩を守るように抱きつかれた時には驚きで目を開けそうになった。
「こうでもないか……」
魔法使いがつぶやくと、唇に唇が触れる。
「!?」
流石に目を見開いた。
魔法使いが唇を重ねる私なんか見ずに、自分の手から発動された魔法の行方を見てた。
光に包まれた部屋は、次の瞬間、綺麗で清潔感のある部屋になっていた。
こ、これで、ここで寝れるの!?
いや、そんなこと言ってる場合じゃなくて!
「魔法使い! 何するの……」
魔法使いの顔が迫って、私の口が塞がれる。
魔法使いの手が素早く動いたと思ったら、身体が光に包まれる。
次の瞬間、私は別の部屋にいた。
すごく綺麗な部屋じゃないけど嫌な感じはしない。
生活感があり、そこそこ散らかってる。
「……一回目より二回目の方が魔力の行使が簡単だった」
魔法使いがぶつぶつと言う。
「なんなの! 魔法使い! キ、キスするなんて!」
「そこまで身体をつなげないと、万能の魔力が使えなかった。二回目の方が行使がしやすかったから、今晩一晩中キスして抱き合って寝てれば、明日には手をふなつなぐだけで使えるようになるだろう」
「な、なに言ってるのー!」
「……今日はお前を拾ってから試さなきゃならないことが多い。文句があるなら明日にしろ」
有無を言わさずキスすると、ベッドに倒れ込む。
苦しいほどに抱きしめられてキスされて……。
……。
嫌なら、私の万能の魔力が暴走して、魔法使いをやっつける魔法を本人に使われるはずなのに。
魔法使いの首に手を回して、強くキスを求めてた。
私は今日、殺されたんだ。
誰でもいいから、必要として欲しかった——。
◆
翌日、魔法使いの思った通りに、手をつなぐだけで万能の魔力が発動させられるようになった。
「すごいぞ! 思った通りだ!」
自分の仮説が正しかったと喜ぶ魔法使いは可愛いけど……。
その晩も魔法使いは私を抱いて寝た。
「身体がつながっていれば、魔力が流れて当然なんだ。つながっていなくても万能の魔力を使えるように出来てこそ実験に意味がある」
そう言って昨日以上に抱きしめられる。
髪を一本一本、自分のものにするように撫でる、魔法使い。
私は、やっぱり安心してしまう。
昼間も、暇があるとキスされて抱くしめられた。
募集した研究員に応募が来て、次々と採用されていく。
昼間にところ構わずキスしてた魔法使いは、キスできなくてイライラしてる。
「早く万能の魔力を俺のものにしたいのに……」
昼間は隠れて私を抱きしめる。
なんだか、安心じゃないドキドキする気持ちが混じって来る。
◆
「魔法使い、他の研究員が私の万能の魔力を使えないのは、不便じゃありませんか」
「ん? ……なんだって? 他の男にキスされたいのか……?」
魔法使いは心底わからないと言う目で私を見ている。
「研究が進めば私にとってもいい事あるんです。私は備品ですから、誰とキスしても気にすることありません」
「お前は自分を、人として扱えと言っただろう!」
魔法使いが意外な怒り方をする。
「……でも、ここから出してはくれないでしょう。だったら、自分が万能の魔力を使えるようになって出て行くしかない」
「危険だ。お前は世界にとって危険すぎる」
「あなたは世界なんて興味ないでしょう?」
魔法使いが一瞬沈黙する。
「なにが望みだ」
「妹たちに会いたい……。家族に復讐……はしなくていいけど、妹には会いたい……」
魔法使いに抱きしめられて、殺された心の傷は塞がってきた。
でも、もう一度、大好きな妹たちに会いたいって気持ちは逆に膨らんでくる。
「……少しだけだ。僕もすぐ横にいる」
「ありがとう、魔法使い!」
妹たちに会えると思うと自然と笑顔になった。
「万能の魔力が俺に絡みついてくる。お前を喜ばせることでも動くのか……」
◆
数ヶ月ぶりの実家は以前と変わらないように見えた。
魔法使いが、父と兄の不在を確かめて、私は妹たちのいる子供部屋に行く。
「お姉さま、やっと帰ってきた!」
「末の妹たちが言った通り、本当に帰ってきてくれたの!」
末の妹と一番上の妹が、私を歓迎してくれた。
魔法使いが離れて見ている。
妹たちをいつも見てくれている、仲の良かったメイドは今日はいない。
「末の妹が言った通りって?」
嫌な予感がする。
「メイドがね、お姉さまを的にして風魔法を当てるゲームをして、当てられたらすぐに帰ってくるって言ってたの!」
「私たちちゃんと当てられたでしょ?」
無邪気な様子の妹たちは、私に褒めてもらいたがっている。
風魔法を私に当てるゲーム……。
この家を追放された後に街道で私を崖の下に突き落とした風……。
家族の魔法なのはわかっていたけど……父か、兄のものだと……。
人目が多かったから——。
人に見られても怪しまれない、七歳と五歳の妹を使った……。
——メイドは!?
「お姉さまがいなくなった日から見ないの」
一番上の十歳の妹が言う。
カッと血が熱くなる。
怒りが万能の魔力を暴走させる。
何かあったのかと身構えていた魔法使いに、万能の魔力が襲いかかり魔法を使わせる。
魔法使いの手から光が出ると真っ直ぐにある場所まで道標のように光の筋ができる。
「お姉さま……」
上の妹が不安そうに私を見る。
「少し、待っていてね」
妹たちを部屋に残して外に出る。
◆
私と魔法使いにしか見れない光を追いながら思い出す。
私が、追放される日に震えていたメイド。
私と別れることを悲しんでくれているんだと思った。
でも、違ったの?
妹たちを使って私を殺せと言われた事への恐怖……。
道標が示したのは庭の奥だった。
他と比べて心なしか雑草が少ない。
私は手で土を掘り返そうとしゃがむ。
「やめておけ……まだ骨だけになるには早い」
魔法使いが言う。
怒りで目の前が真っ暗になる。
馬車が到着して父と兄が帰ってきた。
「お父様、お兄様、メイドを殺しましたね」
「なぜ、お前が!? 死体は見つからなかったと聞いたが、生きていたのか!?」
死んだはずの私に驚いている。
「私を……殺すだけならまだ許したのに……。妹たちを騙して、利用したメイドまで殺した……!」
私は怒りで目の前が真っ暗になっているけど、心は冷静だった。
「だからなんだ、無能のお前に何ができる!」
嘲笑うかのような兄。
妹たちのことも、メイドのこともなんとも思っていないのね。
貴族に生まれて、魔力があって、自分のために使う事を当然と思っている。
なら、私がそれ以上の力で、あなた方を蹂躙するのも許されるのが、この世界の理なんでしょう!
私の周りに万能の魔力が円をかいて広がる。
魔法を求めて手を伸ばしている。
私は、自分の意思で万能の魔力を利用する。
私について来る魔法使いを操って、父と兄を消す。
冷静な頭と心。
唇の端が上がり思わず笑顔になる。
復讐って楽しい。
——でも、
それは、妹とメイドを利用するのとどう違う?
心臓に水をかけられたみたいに冷えていく。
こんな事を、魔法使いにやらせてはいけない。
私の周りに這うように動いていた万能の魔力がどこにもない。
魔法使いの顔を見る。
気難しそうな顔が笑顔になった
「万能の魔力に勝ったようだな」
父と兄がこの隙を見逃さない。
強大な、家系に伝わる風魔法が二人の手から放たれる。
けれど、腰の杖を取り出して後から魔法を唱える魔法使いの方が圧倒的だった。
魔法使い召喚された魔獣が父と兄を風魔法ごと飲み込む。
唖然と魔獣を見つめる父と兄の絶望の表情が最後になった。
貴族の屋敷で起こった魔法対決は一瞬で終わった。
気づいた者はほとんど居ないだろう。
「魔法使い、私のためにあなたに手を汚させてしまった……」
万能の魔力で操ったわけじゃないけど、同じ事だ。
「僕の意思でやったことだ。数百年も生きて伝説の魔法使いなんて呼ばれていれば、殺人なんて気にするようなことじゃない」
たぶん、そうだとは思ったけど……。
「僕の大事な備品を守るためだ」
魔法使いは私を抱きしめてくれる。
私は魔法使いの胸で泣くだけだった。
ふと気になって、横を見ると、上の妹が一部始終を見ていた。
声もなく怯えている。
涙を拭いて妹に手を伸ばすけど、拒絶されてしまう……。
しばらく泣いて、妹が話し出す。
「メイドが死んでいるんじゃないかって、なんとなく分かってた。妹たちの話のおかしさも……」
ただ信じたくなかったと妹がいう。
たった十歳の妹が抱えるのは重い話だ。
「お姉さまは悪くない。けど、ここにいたら、妹たちに悪いことが起きる……! ごめんなさい、ごめんなさい……!」
それでも、妹は下の妹を守ろうとしてる。
当主と次期当主を失ったこの家で、まだ小さいけど当主が立派に誕生していた。
新しい当主の妹にも追放される。
私は無能でも、万能でも、いらない存在なのね。
でも、十歳の妹にはまだ貴族の家の当主は荷が重い。
「使い魔を置いて父と兄が生きているように見せかけることはできる。お前の万能の魔力でつながれば、研究所からも干渉できるだろう」
魔法使いの説明に、妹の顔が明るくなった。
「ごめんなさい、お姉さまを追い出すのに、お姉さまを頼ってしまう!」
「いいのよ! 妹たちと関われて嬉しいんだから!」
上の妹が成人するまでは、私が守れる。
◆
研究所に戻っても私は魔法使いの膝の上で思い出すたびに泣き続けていた。
魔法使いの首に腕を回して抱きつく私の髪を優しくなでてくれる魔法使い。
メイドのこと、妹たちのこと、自分のこと、泣きたいことがたくさんあった。
もう二度と会えない一つ年下のメイド。
彼女の死を家族に知らせなくてはいけない。
貧しい家だと聞く、家族のために父と兄の命令に逆らえなかったんだろう。
「僕が伝えよう」
魔法使いが言ってくれて頼もしいけど、ちょっと心配ではある。
実家は私が使い魔を操ることで一応の目処はたって、妹たちはいつも通りの生活をしている。
でも、上の妹には表面上は変わらなくても、辛い日々だろう。
末の妹二人もいつか自分のしたことに気づき、悩む時がくる。
貴族の屋敷も魔力と言う呪いに縛られた牢獄だった。
私も、自分で止められたとはいえ、魔法使いを操って人を殺そうとした。
万能の魔力は危険すぎる。
「私は、魔法使いのそばにいない方がいいのかも」
また操ってしまう不安を口にする。
「殺人も気にしない。お前に操られるとしてこんな都合のいい男は他に居ないだろう」
倫理観がない自分が、操っても一番安全だって魔法使いは言っている。
……その通りなのかもしれないけど。
魔法使いは私を見つめる。
「お前はここに僕と永遠に閉じこもっているのが一番だ。お前を世界一、愛してるのは僕だからな」
魔法使いが私にキスを落とす。
私は驚いて目を見開く。
愛してるって……。
「お前を喜ばせるのが、万能の魔力を使いこなす方法でもあるしな」
少し、照れたように私を見ないで魔法使いが付け加えた。
私の万能の魔力が魔法使いを歓迎して、手を伸ばしていく。
私も同時に手を伸ばす。
私も万能の魔力も、魔法使い絶対に離したくない。
こうして、私の万能の魔力を離れていても使いこなせるようになった魔法使い。
実験はもう必要ないのに、それでも彼は私を抱きしめてキスをする。
「俺の大事な令嬢、一生ここでお前を利用する」
私は魔法使いの永遠の備品になった。




