第9話 巻き込まれた!
「どうしたティーヌ。アヒルがコンニチワとでも挨拶したか?」
あり得ないことを例える冒険者間での冗談で受ける。
「うちのオウムは言葉を教えたので喋りますけどね」
「まじで!? 喋るトリなんているの!? 見たい!」
「こんど屋敷にきますか?」
「深掘りしなくて良いですから、まずは事情を話しませんか? レオンティーヌさん」
脱線しかかっていた俺とレオンティーヌに対して、ものすごくわざとらしい咳払いで軌道修正するレティシアだった。
ていうか喋るトリだぞ? お前さんは気にならないのかよ。
「そうでした。アル、大変なんです」
「大変なのはもう判ったよ。何があったんだ?」
「なんだかよくわからないうちに、アルが間男ということになってしまいました!」
「「な、なんだってー!?」」
あまりと言えばあまりな発言に、俺とレティシアの声がハモってしまった。
「なんだよ間男って……」
「一般的に既婚女性の不倫相手のことを指しますね」
「辞書的な意味を訊いたんじゃねえよ。知ってるよ」
なんで意味の解説を求めてると思ったんだよ、レオンティーヌは。
どうして俺が間男という解釈になるか、という理由を聞いたんですよ。判ってくれますか? お嬢様。
「そもそもティーヌは結婚してるのか?」
独身なら不倫もへったくれもないだろう。
「しておりませんが、生まれたときから婚約者はいますね」
「そりゃそうか。侯爵家の令嬢だもんな」
貴族の結婚は政略だ。
恋愛の延長線上には存在していない。
どこの家と縁を繋ぐのが有利か不利か。そういう基準で考えられるのである。
好きでもない相手の家に嫁ぐとか、あったこともない女を嫁に迎えるとか、平民の俺たちにはちょっと想像もつかないけどね。
「それで、その婚約者が騒ぎ始めたのです。男と二人きりで行動など不貞の極み、そいつは間男だと」
「そりゃデートとかならそうだろうけどよ……」
レオンティーヌの言葉にげっそりする。
俺たちが行ったのはダンジョンだ。
色恋からは、たぶんものすごく遠い場所だろう。
モンスターの巣窟だからね。そんなところで乳繰り合っていたら、むき出しの尻からぱっくんちょって食べられてしまうよ。
一瞬の油断が命取りになるんだから。
「背を預け合って戦う場所だからこそ、強い信頼や友情が生まれ、そこから恋愛を経て結婚ってケースもありますが。最初のダンジョンアタックでそこまで接近したという話は聞いたことがありませんね」
そんな恋多き方が生き残れるような甘い場所ではないですよとレティシアが半笑いしている。
同意見だよ。
「とはいえ、貴族のおぼっちゃまはダンジョンの危険なんか知らないだろうからな。ティーヌと俺がおてて繋いで仲良くお出かけしたって解釈になるのか」
「それも平民の男と、ということです」
レオンティーヌがため息をつく。
ほとほと嫌気がさした、という顔で。
レオンティーヌの婚約者であるセレスティアンは、ネルヴィル伯爵家の嫡男らしい。
三女とはいえバシュラール侯爵家の娘を嫁にもらえば、家の格はぐっと上がる。
侯爵家と伯爵家。一つしか違わないじゃないかと俺なら思ってしまうんだけど、この階一つがものすごく大きいんだってさ。
「だからこそ、わたしが剣に生きると宣言しても婚約破棄もしなかったのでしょうが」
「べつに騎士叙勲されたって結婚できないわけじゃないだろうしな」
騎士は独身でなければならないなんて決まりはどこにもない。
もしあったら、ルーン王国の貴族社会は独身だらけだ。
むしろ騎士叙勲されたからこそ良縁に恵まれる、という側面だってあるくらいだ。
すえは騎士か魔導師か、なんて子供のころに言われるのはそういう事情だね。
当然、女性が騎士になったところでルールが変わるわけじゃない。
レオンティーヌが叙勲されたとしても、普通に結婚できるだろう。
ただまあ、本人は家庭に縛られることより、剣に生きて剣に倒れることを望みそうだけどね。
「俺はただの指導員だって説明してくれなかったのか?」
「もちろん父を通して説明しています。けれど、だったら女の冒険者で良いだろう。わざわざ男を連れて行く必要はない、だそうです」
「うっわ……」
「セレスティアン卿という御仁をわたしはよく知れませんが、男と女の間には恋愛という関係しか存在しないと思っているようですね」
やれやれと両手を広げるレオンティーヌだった。
ちなみに彼女はセレスティアンなる人物と会ったことも、言葉を交わしたこともないらしい。
「なかなか面倒そうな相手だな」
「で、その面倒そうなセレスティアン卿が、アルに決闘を申し込むと息巻いているらしいのです」
巻き込まれた!
貴族たちの力関係に巻き込まれちゃったじゃん!
「……よし、逃げよう」
「冒険者ギルドとしては、それもまた選択肢の一つだと思いますけどね」
ギルドだって貴族のゴタゴタには巻き込まれたくないだろう。
だけどレティシアは諦めきった顔で外を指さした。
ぱからんぱからんと馬蹄の音が近づいてきている。
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