第7話 マンティコア
広間に躍り込んだ俺とレオンティーヌに対し、マンティコアはめんどくさそうに顔をむけた。
余裕ですね。
人間の冒険者が二人程度、暇つぶしにもならないといった感じですか。
では、まずその余裕を吹き飛ばしてあげましょうか。
胸の隠しから数本の串状のナイフを引き抜く。東方ヒーズル王国の投げナイフである『スリケン』を、俺独自の解釈で再現したものだ。
剣をギリギリまで抜かないというファイトスタイルのおかげで、接近するまでの間にいろいろやれるんだよね。
「シノビ!」
裂帛の気合とともに投げつける。
このスリケンという武器は、変に回転しないでまっすぐに飛ぶのが強みだ。
「そこには壁があった」
しわがれた、不快極まる声がマンティコアの口から漏れ、スリケンがまるでなにかにぶつかったようはじかれ、乾いた音を立てて床に落ちる。
防御魔法か。
これがあるから厄介なんだ。けど、予想していないわけがない。
「疾っ!」
「GURUAAAAAA!!!」
レオンティーヌの長剣が一閃し、サソリの尾を斬り飛ばす。
俺とマンティコアの攻防の隙を突いて、側面から最接近していたのである。
彼女の神速があればこその動きだ。
「よっと! 自分の毒で苦しみなさい!」
空中で尾をキャッチし、そのままぶっすりとマンティコアの尻に刺す。
獅子の身体が、指された場所からみるみる変色していった。
絶叫とともにマンティコアが暴れるが、もちろんレオンティーヌはとっくに攻撃範囲から退避している。
二転三転ととんぼを切って。
しつこく追いかけようとするマンティコア。
そこに再びスリケンが飛んでくる。
「そこには壁があった」
結果は同じ。
俺が投げた三本のスリケンは虚しく床に落ちただけ。
しかしその隙を突いて、またレオンティーヌが接近攻撃を仕掛ける。
今度はマンティコアも備えていた。
「雨は剣となり大地を穿った」
魔力の剣が降り注ぎ、レオンティーヌは舌打ちとともに跳び下がった。一瞬前まで彼女がいた場所に、どすどすと具現化した光が突き刺さり、そして消えていく。
二度目の連係攻撃が不発に終わり、俺とレオンティーヌは少しの距離を置いてマンティコアと対峙した。
こちらはまだダメージはない。
俺のスリケンが半分くらいの残弾になったくらいだ。
対してマンティコアは毒の尾を失い、しかもそれが身体に刺さっている。継続的にダメージは入るだろうけど、自分の毒だからね。死に至ることはないだろう。
「総合的に見て、こっちが不利ではないってところかな」
「良いと思いますよ。かなり不利って状況からのスタートですからね」
にやりと不敵に笑い合い、俺たちは最初のポジション取りに移行する。
つまり、俺がマンティコアの正面。レオンティーヌは左側面に回り込もうとする位置だ。
二度目の攻撃もこのポジショニングからおこなわれた。
マンティコアは動かない。低い唸りをあげながらも、相変わらず待ちの姿勢で油断なく、俺とレオンティーヌを等分に視界に入れている。
一回目の攻撃は充分に効果があった。二回目は途中で中断させられた。
三回目は同じ攻撃をするか。
あるいはパターンを変えるか。
それを見極めようとしているんだろうね。
俺たちがどう動いても対応できるように。
……けど、それは悪手なんだよ!
俺はスリケンを投げつける。左右の手で、ありったけの数だ。
「そこには壁があった」
不快な笑いで魔法を発動させるマンティコア。スリケンがすべて床に落ちる。
「ティーヌ!」
「諒解!」
大声を出す俺に、やはり大声でレオンティーヌが応える。
マンティコアは余裕をもって迎撃しようとする。
が、彼女は剣を構えたまま、たった一歩しか踏み込まなかった。
威勢良く応えたのに。
ほんの一瞬、マンティコアは戸惑う。
そしてその一瞬こそが俺たちの勝機だ。
「ジョスト!」
スリケンの後を追うように最接近していた俺が剣を一閃させる。
とどろき渡るマンティコアの絶叫。
「疾っ!」
それをかき消すように、今度こそ突進したレオンティーヌが縦横に剣を振るった。
策も計算もなくマンティコアが暴れる。
生への渇望か死への恐怖か。
いずれにしても、ここからはゼロ距離での削り合いだ。
こちらは一発でももらったら終わり。
かなり神経を消耗するけど、充分にダメージをところからスタートしているからね。
やがて、首筋に致命傷をうけたマンティコアがどうと倒れる。
長い時間のようにも思えるけど、ほんの一寸(この場合は時間の単位、約六分)に満たない攻防だ。
「ふぃー……ぎりぎりだったな」
「うまくはまりましたね。アル」
懐から取り出した布切れて剣についた血糊を拭い去ったところで、レオンティーヌが声をかけてきた。
右拳を突き出して。
コツンとそれにぶつける。
二回同じ攻撃パターンを繰り返したことで、三度目はどうするのかとマンティコアに考えさせることができた。
それが俺たちの使った策略だ。
同じことを二回やったってのがキモね。
そして三回目も同じパターンだとマンティコアは読んだ。読むように俺たちは声を出し、行動した。
「もしマンティコアがわたしたちの計算なんか無視して、がーっと襲いかかってきたら、別の計算用紙が必要でしたね」
「知恵の回るモンスターだからな。その知恵に足をすくわれた」
誰かが言っていたよ。
そこそこ頭が良い敵の方が戦いやすいって。
※著者からのお願いです
この作品を「面白かった」「気に入った」「続きが気になる」「もっと読みたい」と思った方は、
下にある☆☆☆☆☆を★★★★★にして評価していただいたり、
ブックマーク登録を、どうかお願いいたします。
あなた様の応援が著者の力になります!
なにとぞ! なにとぞ!!




