第50話 始まりの終わり
前衛はゴブリンが二百くらいか。
でかいのもいるからホブゴブリンだろうな。
左翼はコボルト。右翼はオークかな。どっちも百くらい。中央部の本隊は五十くらいか。小山みたいにでかいのが見えるからサイクロプスとかもいるんだろう。
「鬼族の総攻撃って感じだな。頭はオーガーあたりか」
「ただのオーガーじゃなそうです。冠みたいなのかぶってますよ」
目の良いレオンティーヌが、右手をかざして見晴るかす。
冠をかぶったオーガーか。
オーガーロードって感じかな。
「戦術を理解したことで、モンスターたちも進化しているのかもしれないね」
「ろくなことしないね。ドイル王国は」
「私の作戦でトーリアンを陥落させた方が良かっただろう?」
「そんなばかなぁ」
ラファイエットの作戦をくじいたのはクライヴだ。
そのせいでドイルはモンスターを使った私掠戦術を実行するに至る。結果としてひどい状態になった。
だからといって、ラファイエットがトーリアンを奪い、ドイル国境が東進していれば良かったかといえば、そんなことはまったくない。
「その二つを比べれば、いまの方が少しだけマシですね」
「その心は?」
「ファイが仲間になりましたから」
満面の笑みでレオンティーヌが答える。
どっちにしても地獄のルートなら、たしかに頼もしい仲間がいる方がまだ良いか。
「というわけでファイ。作戦を立ててください。四半刻(約三十分)以内に」
「無茶ぶりすぎる! やるけれども! 無茶すぎだから!」
ぷりぷりと怒りながら敵軍に視線を投げるラファイエット。
指をさしながらブツブツ呟いているのは、いろんな可能性を検討しているんだろう。
しばらくそういう状態が続き、
「よし。みんな耳を貸してくれ」
やがて、俺たちを手招きした。
ゆっくりと街門が開いていく。
モンスター軍は、もう二町(約二百メートル)ほどにまで迫っている。
整然と出撃するシティコマンド二百名。
全軍だ。
出し惜しみする余裕はない。
瞬く間に紡錘陣形が形成されていく。先頭部分にはレオンティーヌや俺、クライヴの他、兵士たちの中でもとくに精強な者をそろえた。
こちらの陣形を見て取ったモンスター軍の前衛が陣を広げる。
前衛が突進を受け止め、足が止まったところを左右両翼から挟み込んで半包囲しようってことだろう。
なんでモンスターが陣形戦できるだよって言いたくなるけど、ここはもう今さらだ。
そしてトーリアン軍が、いざ突進するぞ、という風情でレオンティーヌが右手を振り上げた瞬間である。
街壁の上から無数の魔力弾が飛ぶ。
それは弓なりの軌道を描いて、次々とモンスター軍前衛に着弾した。
一撃で二十から三十は倒れただろう。
もちろんユキナエの仕業である。
レッドドラゴンを倒したときの高機動マジックミサイルと比較したら、細かいコントロールがない分ラクだって言っていた。
とにかく数を打てば良いから。
ただ、食らったゴブリンどもはそれどころではない。
魔法攻撃を受けるなんて、人間だって滅多にない経験だ。
パニックを起こしてうずくまったり、走り出して味方とぶつかって転んだり、ひどいありさまになった。
「全軍! 突撃!!」
響くレオンティーヌの声。
俺たちは一斉に駆け出した。
目の前には連携を乱したゴブリンども!
「カモだ! 殺しまくるぜ!!」
縦横に『サダヒデ』を振るう。万全の備えで突入した俺たちと恐慌から始まったゴブリンども。
数が同じならどうなるかって話さ。
受け止めるどころではなく突破を許してしまう。
こうなると、左右の両翼は遊兵になる。戦闘に参加しない兵力というやつだ。
もし敵に頭があれば、両翼は前進を続けさせ、トーリアン軍の後背で再集結し、本隊との挟撃を狙うだろうとラファイエットは言っていた。
おそらくそうはならないだろう、ともね。
ゴブリンはゴブリン、オークはオーク、コボルトはコボルトで一軍を形成させているのは、種族間の連携に不安があるから。
「モンスターは急速に進化している。まるで人間のようにね。ということは同族での殺し合いに長けた我々が有利ということさ」
皮肉たっぷりにラファイエットが言い放ったものである。
手を結んだり裏切ったりは、人間のお家芸だとね。
「初手さえ崩せば、あとは一気に力押しできる。ファイの言うとおりになりましたね! アル!」
「あいつが味方で良かったよ!」
レオンティーヌと並んで戦場を疾駆する。
目指すは敵のボス。
しゃらくさくも冠なんぞをかぶったオーガーだ。
「見えた!」
「周囲にオーガーが六! 親衛隊というところですか!」
「一人あたま三だぜ!」
「お任せあれ!」
ちらりと不敵な笑みをかわし、一気に距離を詰める。
初めて一緒に潜ったダンジョンでも、オーガーと戦ったっけな。
あの頃と比較したら練度も装備も段違いだ。
もちろん二人ともね。
『サダヒデ』と『ハバキリ』が閃き、次々と人食い鬼が血の泥濘に沈んでいく。
二人で六匹を倒すのに一寸(この場合は時間の単位、約六分)もかからなかった。
しかし、俺たちの目に映ったのはちょっと信じられない光景である。
オーガーロードが逃げていく後ろ姿。
「オーガーが……逃げる?」
獰猛きわまりないモンスターのオーガーが背中を見せて逃げるなんて、ちょっと理解の外側だ。
「けど! 逃がすわけにはいかない!」
抜く手もみせずに投げた手裏剣が四本、すべてオーガーロードの首筋に突き立った。
どうともんどり打って倒れる。
その瞬間、モンスター軍の連携が完全に崩壊した。
最初に本隊のオーガーやサイクロプスが逃げ出し、続いて他のモンスターも四方八方に逃げ散っていく。
「頭を潰された人間の軍隊みたいな潰走ですね……」
呟くレオンティーヌ。
その瞳に勝利の高揚は浮かんでいなかった。
「どうにも、俺たちが考えているより速いペースで、モンスターの進化が進んでいるのかもな」
軽く首を振る。
だが、考えるのは後だ。
まずはこの戦いを締めなくてはならない。
「ティーヌ、勝ち鬨を」
そうでした、とレオンティーヌが頷いた。
「完全勝利です! えいえい! おー!!」
「「えいえいおー!!」」
兵士どもが唱和し、歓呼がトーリアンの街に伝播していく。
だがこの勝利は、まだまだ前哨戦に過ぎない。
なんとなく、俺にはそんな気がしていた。
第一部 完
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