第5話 かっこつけが冒険者のポリシー
格好いいじゃねえか。
俺がレオンティーヌの手を取った理由は、この言葉に集約される。
もともと冒険者なんて生き物は馬鹿で単純なんだよ。口でどんな賢しらなことを言ったって、判断の基準なんて一点しかない。
格好いいか悪いか。
長いものに巻かれ、強いものにおもねり、鞠躬如として生きるのが嫌だから、こんな無頼漢みたいな稼業をやってるんだよね。
無難に生きるなら商家の門でも叩いて丁稚の小僧から始めたほうがずっと良い。なにしろ給金ってやつがもらえるからな、あいつらは。
「なかなかに度しがたい御仁ですね。アル」
「おまいう」
ぽんと胸を叩かれたから、仰角四十五度の美しいツッコミチョップで返しておく。
女だてらに、本気で、死ぬ覚悟までもって進むレオンティーヌを格好いいと思わなかったら、そいつは少なくとも冒険者ではない。
冒険しない人生行路を歩むと良い。
「さて、ティーヌの本気が判ったところで、ちゃんと作戦会議をしようか」
「適当にお茶を濁して街に戻るって方針を改めてくれたようで、なによりです」
「バレてたのか」
「ですから、緒戦で実力を見せる必要があると思っていました」
危なげなく勝つ、ではなく、圧倒的な実力の差を見せつける。
そうしないとお嬢様の手遊びと思われたままだ。
「ごめんって。実力を見誤ってたのは謝るからいじめないでくれ」
両手を挙げて降参の意を示す。
むしろ、測られていたのは俺の方か。
「ドラゴンを倒すにしても、いまの装備じゃ全然足りないよな。俺もティーヌも」
「魔法の品物が欲しいところですよね。せめて武器だけでも」
二人で協力し合いながらモンスターを倒し、突き進むこと十階層。
とくに苦戦することなく、大広間と呼ばれるスペースに陣取っていた牛頭魔人を撃破して、小休止である。
レオンティーヌのファイトスタイルは、典型的な技とスピードが売り物の軽戦士タイプ。
圧倒的な速度と柔軟性で敵を翻弄するので、鈍重なミノタウロスでは彼女の影すら捉えられなかった。
けど同時に、パワー不足は否めない。
ミノタウロスに対して細かい傷をたくさん与えることはできたけど、致命的な一撃を繰り出すことはできなかった。
協力プレイで難なく倒したものの、レオンティーヌひとりだったらかなりの時間を要しただろうし、最悪負けていた可能性もある。
技が軽いのはもうどうしようもない。膂力の問題だから。
どれほど鍛えたところで女性のレオンティーヌでは男性以上のパワーを得ることは難しいし、かえって彼女の長所を殺すことになってしまう。
「ミノタウロスの筋肉を貫けないのは予想外でした」
ふうとレオンティーヌが嘆息した。
「相手がゴブリンだったら五十回は殺していただろうからな」
速く、鋭い攻撃の連続だった。
しかし、それだけでは通せないのがモンスターのモンスターたるゆえんでもある。
ゴブリンの首を一撃で跳ね飛ばす剣技が、ミノタウロスには軽傷しか与えることができない。
人間が相手の場合、小兵を圧倒した技が巨漢には通用しない、なんてことはない。スピードもパワーも防御力も、一本の直線上に存在しているから。
「けど、焦ってパニックにならなかったティーヌはすごいと素直に感心したけどな」
「一人だったらパニクってましたよ。アルがいると判ってましたから、わたしに注意を引きつけることができれば充分と割り切っただけです」
いや、その割り切りが熟練者のものだって話なんだけどな。
バシュラール侯爵は、いったいどれほどの訓練を彼女に施したんだか。空恐ろしいね。十六の娘が血の小便を出すくらいの鍛錬って、ちょっと常軌を逸しているわ。
ともあれ、現状でレオンティーヌの戦闘能力を飛躍的に向上させる手段は、装備品の強化しかない。
俺も一緒だけどね。
彼女は侯爵家の娘として、俺はそれなりの冒険者として、恥ずかしくない程度の武器や防具を装備している。
けど、それじゃあ上位モンスターと戦うのは厳しい。
ましてドラゴンなんて、夢のまた夢だ。
「目標としては、ドラゴンの鎧を切り裂けるレベルの剣、ということになりますか」
「かなりの魔力を持った剣だな」
どれほどの名工が打った剣でもノーマルソードではいかにも荷が重い。魔剣か聖剣か霊剣か、いずれにしてもかなりのランクのものが必要になるだろう。
「腕試しのつもりで潜ったダンジョンですが、目的ができましたね、アル」
「探索され尽くしてるポートリーンじゃあ、未知のアイテムをゲットするのは望み薄だけどな」
それでも最下層まで降りれば、モンスターの素材がゲットできるだろう。
良いものが手に入ればそれを加工するという手もある。
「あ、そうだ。アルの戦い方も見たいんですけど、良いですか?」
「わかった。次の戦闘は俺がフォワードをやろう」
頷きあい、もたれていた壁から身体を離した。
冒険者は座って休息したりしない。
荷物だけ置いて、壁や岩に身体を預けて休むのである。
すぐ動けるようにというのと、一度座ってしまうとなかなか立ち上がれないっていう、理由が二つあるんだよね。
※著者からのお願いです
この作品を「面白かった」「気に入った」「続きが気になる」「もっと読みたい」と思った方は、
下にある☆☆☆☆☆を★★★★★にして評価していただいたり、
ブックマーク登録を、どうかお願いいたします。
あなた様の応援が著者の力になります!
なにとぞ! なにとぞ!!




