第49話 これは戦争だよ
ガタゴトと馬車が街道を進む。
護衛は三人。
いかにも冒険者といった軽装だ。
突如、左右の茂みからゴブリンが飛び出す。
三十匹ほど。
「十倍の戦力で戦えば損害を考慮する必要はほぼない。そんなことが判るレベルにまで達してるのか!」
戦闘のゴブリンを一刀のもとに斬り伏せ、愕然と俺は叫ぶ。
ちょっと前に偵察が走ったとクライヴが確認している。
つまりゴブリンたちは、こちらの戦力を把握した上で圧倒的多数による挟撃戦を展開しているのだ。
このまま事態が進めば、本気で人間はモンスターの軍と戦うことになるだろう。
人間同士で戦い、モンスターとも戦い、いくつの国が消えるだろうね、とはラファイエットの陰鬱な予測だが、現実感を持って理解してしまった。
「だからこそ! わたしたちが頑張らないとです!」
飛燕の身のこなしでレオンティーヌが、ゴブリンどもの間を駆ける。
後に転がるは胴から切り離された首、首、首。
一閃で一匹、二閃で二匹。
ほんのわずかな遅滞もなくゴブリンどもを屠っていく。
俺とクライヴも負けていられない。
より効率的に、より圧倒的な力をもって、一匹また一匹と倒していく。
手数をかけず、なるべく一撃で倒すようにというのがラファイエットの作戦だから。
無茶な要求ですよ軍師さま。
「やはり暴力はすべてを解決する作戦」だ。ひっどいネーミングである。
つまり、作戦を立てて勝ちやすき勝とうとするモンスターどもに冷や水をぶっかけるため、圧倒的な暴力で叩き伏せるというのが骨子だ。
どんなに作戦を立てたって、人間には通用しない。
数の優位を確保し、体制的に絶対に有利なポジションを取ったにも関わらず、手も足も出ずに負けるんだ。
作戦なんて立てず、いままで通り夜陰に紛れて奇襲した方が良い。
そう思わせる。
簡単な話じゃないよ?
まず圧倒的に不利な体勢なのに、圧倒的に勝利しないといけない。
一度や二度ではなく、毎回ね。
たまたま失敗しただけ、なんて思わせないために。
これを懲り返すことで、モンスターたちが得た正解を不正解に変えるんだ。
「ふん」
『サダヒデ』を振って、付いてもいない血脂を飛ばす。
俺とレオンティーヌとクライヴの三人で、それぞれ十匹ずつ。
「……あとはまかせて」
ユキナエが馬車の中からのそのそ出てきた。
当たり前だけど、馬車には貴重品も食料も積んでいない。
「……大地の槍」
詠唱とともに地面から突き出した錐状の槍が、ゴブリンの死体を貫いて宙づりにする。
残酷なようだが、見せしめだ。
人間には向かうとこうなるぞ、とね。
「これで効果が出たら、他の地方でも真似するだろうね。戦術ではなく力で叩き潰せ、と」
御者をしていたラファイエットが麦わら帽子を取る。
豊かに髪が風にながれた。
野良着が似合わない男ナンバーワンの称号をあげたいくらい似合っていない。
「それはそれでしんどいとは思いますが」
「相手がゴブリン程度ならともかくな」
レオンティーヌの言葉に肩をすくめる。
オーガーとまではいかなくても、オークレベルが出てきたら、さすがに一撃でぶっ倒すというのは難しくなる。
身体能力でいえば、人間よりずっと上だからだ。
「そのクラスは、まあ今は考えなくて良いだろうね。結局、先兵になるのはゴブリンやコボルトさ」
辺境の守備隊のやられ具合をみて、どこの国も動員する兵力を決めるのと同じ、というたとえはどぎついけれど、そういう側面はたしかにある。
ゴブリンやコボルトが次々やられていくのを見て、モンスターたちが人間を警戒するなら、この作戦は成功だ。
モンスターの襲撃のやり方は過去のものに戻るだろう。
「問題は、敵が次の手を打ってきたと場合だろうね」
そう漏らしたラファイエットの言葉は、しかし日を置かず現実のものとなる。
「敵影発見! 敵影発見!!」
大声ともに警鐘が打ち鳴らされ、俺たちは朝食を中断してトーリアンの壁に向かった。
「城司さま! 敵数算定不能! 数百と推測されます!」
警備の兵士が青ざめた顔で告げる。
地平線の彼方から、どろどろと不吉な地響きを立てて軍団が近づいていた。
「なんでここを目指してんの? あいつら」
「そりゃあ、私たちの戦法があちこちに伝播したらまずいからだろうね。だからそのまえに、総力をあげて叩き潰す」
肩の高さで両手を広げてみせるラファイエット。
こうならなければ良いと思った方向にばかり話が進むね、と。
「もう戦争ですよ、ファイ」
さすがのレオンティーヌも、声に緊張をはらんでいる。
トーリアンを襲うという選択をした。それはとりもなおさず、自分たちの戦術の有用性と、俺たちの作戦の危険性の両方を認識しているからだ。
モンスターが、である。
もはや国家間の戦争と大差ない。
「なんとなくなんですけれど、いつか私たち人間も、軍隊同士で戦うのではなく、敵国の民草を狙うような戦い方をするようになるかもしれませんね」
ぽつりとレオンティーヌが言った。
不吉すぎる予言である。
勘弁してくれ。
そんなの、ただの地獄じゃないか。
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