第43話 レッドドラゴン
きしんだ音を立てて街門が開いていく。
ここがドラゴンと人間の領域を分ける境界だ。
まあ現実、空を飛べるドラゴンに対して街壁がどれほど意味があるかって思うんだけど、それなりに意味があるとラファイエットが言っていた。
人が隠れられる障害物と考えれば良いって。
ドラゴンは頭の良いモンスターだからリスクは取らない。
壁を通過したところで、後ろからバカスカ矢を射かけられたらたまったもんじゃないしね。
わざわざ自分が不利になるような局面で戦ったりはしないんだそうだ。
細く開いた扉から俺たちが五人が滑り出ると、ゆっくりと扉が閉まる。その際、がんばれとか死ぬなよとかシティコマンドたちが声援を送ってくれた。
「絶対に勝ってきますよ!」
レオンティーヌが元気に手を振りかえす。
勇ましいことだ。
「まっすぐマルズ山を目指す感じでいいのか? ファイ」
「まあね。そのうちレッドドラゴンが私たちに気づいて飛んでくるんじゃないかな」
なんとも頼もしい軍師さまのアドバイスである。
この人に作戦をまるっと委ねて大丈夫なのかと思ってしまうけど、ラファイエット以上の知恵は、俺には出せないからね。
そうして歩くこと一刻《約二時間》、マルズ山から飛び立つ影が見えた。
「おいでさなったか」
ぺろりと唇を湿らす。
ドラゴンの飛行速度なら、あっという間に交戦範囲に入るだろう。
「みんな、手はず通りに」
俺とレオンティーヌが連携できる程度の距離を置いて横に並び、やや下がった位置にクライヴが、ユキナエとラファイエットを守るようにして立つ。
そしてこの三人が構えるのは弓だ。
ポックルトで買い求めた長弓で、値段はそれなりにしたけど、ここまできて金を惜しんでも仕方ないからね。
武器も導具も薬も、必要と思われるだけ買っている。
「ブレスを恐れる必要はないよ。高速飛行中には放てない、自分が焼けてしまうからね。止まるか低速にならないといけないってこと」
作戦会議で何度も言ったことをラファイエットが繰り返す。
口調は淡々としていて、まるで勝利が既定の事実であるかのように聞こえるのが不思議だ。
ぐんぐんと近づいてきたレッドドラゴンが減速し、十二間《約二十二メートル》ほどの距離で止まる。
口の中にたまる炎。
「良い的だ。君たちの腕を見せてくれ!」
「撃て!」
俺の号令で、次々と矢を射かける。
当たる当たる。
そりゃあ全長五十尺《約十五メートル》もある巨体だもの、外せっていう方が無理だよ。
普通だったら竜鱗に阻まれてはじかれちゃうところだけど、鏃にはユキナエの魔力付与が施されている。石壁だって貫けてしまうんだ。
とはいえしょせんは矢だからね。
あの巨体が相手では致命傷にならない。
苦し紛れのブレスが放たれる。
「大いなる盾よ!」
ラファイエットの防御魔法が発動し、俺たちを力場で包んだ。
全員がバシリスクの皮を使った装備を身につけていることもあって、熱いけと我慢できないほどじゃない、という程度の威力まで軽減されている。
そして、矢が命中した場所が徐々に黒ずんでいく。
鏃に施されているのはエンチャントだけではない。ピトフーイの毒がたっぷりと塗布されているのだ。
解毒法のない猛毒で、毒への耐性が強いドラゴンにでもそれなりの効果が見込める。
咆哮とともに暴れるレッドドラゴン。
ダメージはさほどでもないが不快感がすごいのだろう。
「最初にブレス。それがドラゴンの必勝パダーンだからね。くると判っていれば対応できるよ」
とは、ラファイエット軍師さまのお言葉だ。
本当にその通りになったのだからびっくりである。
牙や爪による攻撃だったら、用意していた弓矢も、毒も、魔法も、ぜんぶ無駄になってしまっただろう。
「そして、それすら布石に過ぎないんだもんな! ユキナ!」
「……わかってる。高機動マジックミサイル……二十連!」
ぶんとユキナエが杖を振れば、彼女の背後に二十もの魔力弾が浮かび上がる。
それがバラバラの軌道を描きながらドラゴンの巨体を迂回して、次々と背中に命中した。
避けるとか迎撃するとか、そういう次元ではない。
「あれをぜんぶ操ってるなんて!」
すごいとレオンティーヌが感嘆の声を上げる。
「……まだまだ。さらに十連!」
再び放たれる魔力弾。
ユキナエの丸い鼻からぽたぽたと血が垂れた。
脳の処理速度に肉体が追いつかなくなっているのだろう。
「いくぞ、ティーヌ」
「諒解! 待っていました!」
二人同時に弓と矢筒を捨てて、一気に距離を詰める。
接近に気づいたドラゴンが迎撃しようと口に炎をためたが、ブレスを放つことなく巨大な前肢の爪で襲いかかってきた。
「やっぱり!」
「ブレスが防がれて反撃に繋げられたから!」
俺とレオンティーヌはにやりと笑った。
爪での攻撃ということは、頭を下げなくては届かない。
すなわち、こちらの攻撃範囲に相手の急所も入るということだ。
「疾っ!」
踏み込みから一閃。
レッドドラゴンの右手の指が二本、斬り飛んだ。
浅かったか。
腕ごと持って行きたかったぜ!
怒りの咆哮とともに、ドラゴンの首が迫る。
巨大な顎。びっしり並んだ牙。
※著者からのお願いです
この作品を「面白かった」「気に入った」「続きが気になる」「もっと読みたい」と思った方は、
下にある☆☆☆☆☆を★★★★★にして評価していただいたり、
ブックマーク登録を、どうかお願いいたします。
あなた様の応援が著者の力になります!
なにとぞ! なにとぞ!!




