第42話 マルズ平原へ
拠点となるのは南の中核都市であるポックルト。
さらに南にはマルズ山とマルズ平原があり、それを迂回するように街道が伸びている。
おおきく西に逸れてね。
まっすぐ南進できればオルメルト王国まですぐなんだけど、マルズ平原を移動していたらとにかく危険なのだ。
マルズ山からドラゴンが飛んでくるんだもの。
で、人でも馬でも物資でも、根こそぎ食べちゃう。
これでは街道の整備もまともにできないし、開拓も進まない。
マルズ平原はものすごく肥沃で、桃とかも自生してるんだ。マルズ山には岩塩床もあるらしい。
それがまるっと手つかず。
ルーン王国としても、ポックルトの領主さまにしても、悔しさにハンカチを噛んでるさ。
「せめて話ができるブラックドラゴンとかだったらマシかもしれないけどな」
「マシって、生け贄を差し出すとかそういう話じゃないですか」
俺の呟きにレオンティーヌが嫌な顔をした。
ドラゴンってのは基本的に人間に対して敵対的なモンスターだ。まあ、友好的ならモンスターなんて呼ばないんだけど、ドラゴンの中にはそこまで敵対的な行動をとらないものもいる。
ブルードラゴンやホワイトドラゴンなんかがそうだね。
比較的って注釈付きだけど中立に近い。こっちから手を出さないかぎり無視するくらいの感じかな。
ブラックドラゴンは間違いなく邪悪だし人間を嫌っているんだけど、同時に奸智も兼ね備えていて交渉ができるんだ。
レオンティーヌが言ったように、定期的に生け贄を差し出すからそれ以外には手を出さないでくれ、みたいな感じにね。
「それは交渉じゃなくて、軍門に降ってるっていうんですよ」
ふんすと鼻息を荒くする。
ヤクザ者に払うみかじめ料みたいなもんなんだけど、支払われるのが命ということになると、対等な交渉だなんていえない。
「とはいえ、為政者がそういう選択をすることは珍しくないんだよ。ティーヌ」
優しげな口調でラファイエットがたしなめる。
すべてを失うのではなく、一部を失うに留めるのが政治だ。
ごく少数の犠牲でマルズ平原が開拓できるなら、採算は大きな黒字となる。
「泣いてバーシックを斬るですか? 自分が死なないで済むなら、いくらでも嬉し涙がでますよ」
レオンティーヌは辛辣である。
敗戦の責任を取る人間が必要だったため、かわいがっていた腹心の部下を処断したという大昔の故事だ。
領主やその家族、有力者などが生け贄に選ばれることなんかない。貧乏くじを引かされるのは、いつだって弱い立場の人々だ。
「だからわたしは、ブラックドラゴンでなくて良かったと思ってます」
レッドドラゴンは破壊と殺戮の象徴。
交渉も歩み寄りもない。殺すか殺されるかしかない。
ある意味で非常にシンプルだといえる。
ポックルトの街に入ると、あちこちに高札がかかっていた。
レッドドラゴンに挑む勇士を募る、という類いの。
だいぶ古ぼけた札もあるから、昔っから募集してるんだろうね。
「褒美は望みのままとか書いてるよ。豪気だねぇ」
おかしそうにクライヴが笑った。
ポックルトの領主はもちろん貴族だろうから金も権力もあるだろう。だけど、それには限界がある。
ルーン王国をくれ、なんて要望に応えられるわけもない。
「そこはそれ、常識の範囲内でってことだろうよ」
「でも、わたしの騎士叙勲を推挙してください、くらいなら余裕で頼めそうですね」
してやったりの顔のレオンティーヌだけど、討伐してからの話だからね?
現状、皮算用も良いところだ。
「アルは変なことを言いますね。戦うからには勝つつもりでいきますよ。まさかアルは負ける気なんですか?」
挑戦的に胸を反らす。
このまっすぐさ、まぶしいよな。
「全力は尽くすさ。だけど無謀と雄図は同じ意味じゃない。逃げる算段もしておかないとな」
「そおですけど」
「だからって負けるつもりで戦うんじゃないぜ。考え得るすべての可能性に対応しておくってだけだ」
ぶーたれそうなレオンティーヌの頭をぽんぽんと叩いておく。
再度の挑戦なんかない、という覚悟はもちろん大切だと思うけど、俺としては、勝てるまで何度でも挑んでやるって覚悟の方が好きかな。
「そなたらがレッドドラゴンに挑む勇者か。すべからく勝利を祈念しておるよ」
で、一晩ゆっくりと休んで翌日、領主リンネハイムの城館を訪ねた俺たちは、意外なほどあっさりと陳情の間に通された。
マルズ平原は、ポックルトの南門からでたらすぐであり、だからこそこの門が開くのは討伐隊が出発するときだけ。
リンネハイムの命令がなくては開かないのである。
ただまあ、領主の疲れ切った老顔を見ると、あんまり期待していない感じだね。
何代にもわたって、ずっと失敗続きだったんだから当然か。
ほんと、ドラゴンってたちが悪いんだよな。
軍隊みたいな大人数で挑んだら、広範囲のドラゴンブレスで一網打尽にされるだけ。それを避けるためには的をちいさくするしかないんだけど、それは個人戦でドラゴンに勝てって話になってしまう。
無茶すぎて笑っちゃうよね。
「微力を尽くします。吉報をお待ちありたし」
赤い絨毯に片膝をついたまま、俺は宣言した。
あ、なんかね。俺がリーダーってことになっちゃったんだよ。
インスペクターも、他国の将軍も、魔法学校出の才媛も、侯爵令嬢もいるのに、一介の冒険者の俺が。
ひどい話だと思わん?
※著者からのお願いです
この作品を「面白かった」「気に入った」「続きが気になる」「もっと読みたい」と思った方は、
下にある☆☆☆☆☆を★★★★★にして評価していただいたり、
ブックマーク登録を、どうかお願いいたします。
あなた様の応援が著者の力になります!
なにとぞ! なにとぞ!!




