第4話 本気だから
レオンティーヌの左右から、ゲギャゲギャと不快な鳴き声をあげながらゴブリンどもが迫る。
やはり逃げなかったか。
ゴブリンは臆病なモンスターだけど、同時にずる賢さもある。二対一なら、剣が仲間の身体を貫いていて迅速な行動をとれない人間に勝てるんじゃないかなってくらいの計算はするんだよね。
まあ、仲間を助けるって方向に動かないのは、モンスターのモンスターたる所以だけど。
挟み撃ちになりかかったレオンティーヌは、毛ほどの動揺も示さなかった。
剣を刺したゴブリンの胸に靴裏をつけ、思い切り押しだす。
上手い!
蹴るのではなく押したか!
これなら力はまっすぐに伝わるから、まっすぐ刺した剣は抵抗なく抜ける。いや、最初からそのつもりで切断ではなく刺突を選択したのか。
なんて勝負勘だよ。
本当に初めての実戦なのか?
間一髪、レオンティーヌはバックステップを刻む。
ゴブリンにしてみれば、動けないはずの獲物が突然消えたように見えるだろう。
正面衝突して、無様に尻餅をつく。
「せい!」
その瞬間、裂帛の気合とともに小鬼の肩の高さで長剣が一閃した。
滑稽なほど軽い音立て、首が二つ回廊に落ちる。
「三匹に対して攻撃二回。まあまあの効率でしたね」
面白くもなさそうに呟き、殺した相手の粗末な腰布を剥ぎ取って剣の血脂を拭う。
いやいや、慣れすぎだろう。
なんでそんな堂々としてるんだよ。
「……お見事、危なくなったら助けようと思っていたけど、まったく危なげなかったな」
「ゴブリン程度に後れをとるようでは、とてもとてもドラゴンには届きませんから」
「お、おう、そうだな……」
「まさかアルは、しょせんは小娘のタワゴトと思っていました?」
「そそそそそんなことないぞ!」
「せめてわたしの目を見て否定しなさいな」
不意におかしくなり、二人して吹き出す。
正直、小娘のタワゴトだと思っていたんだよ。最初の実戦でびびって逃げ出すだろう、くらいの予想だった。
ところが蓋を開けてみたら、練達の剣士みたいな戦いぶりだった。
興奮して無茶苦茶やってる感じではなく、冷静に淡々と数に勝る相手を全滅させた。
「もしかして、初めてじゃなかったとか?」
「実戦は初めてですよ。でも」
言いよどむ。
なんか言いたくないことでもあるのかな?
「父に比べれば全然遅いし、圧もありませんでしたね」
「ちょっと、待ってくれるか」
「はい?」
「もしかして、バシュラール侯爵に稽古をつけてもらっていたのか?」
「騎士になりたいと告げた日から、戦場ではこんなものではないと、毎日気絶するまで鍛えられました」
実際の戦場を知る侯爵からの厳しい指導。
そりゃあ強くなるわけだよね。
「血のお小水が出たときは、さすがにこのまま死ぬのかと思いましたが」
「それは人の親として間違ってる」
何考えてんだよ侯爵サマ。
うら若い娘にそこまでするのかよ。
「もしティーヌが大怪我なんかしたら、俺は侯爵さまに殺されると思って戦々恐々としていたんだけどな」
「わたしの身体は傷だらけですよ。いまさら多少増えたとて」
笑ってるし。
まったく笑うところじゃないと思うんだけどな。
貴族のご令嬢なんだからさ。
「大丈夫です。多くの貴族の令嬢は、二斤(約千二百グラム)ちょっともあるロングソードを振り回しません」
「すごい。なにが大丈夫なのかまったく判らない」
やばい侯爵と侯爵令嬢だった。
あるいはレオンティーヌに諦めさせるため侯爵はわざと厳しくしたのかもしれない。
ところが彼女は食らいついてきた。
叩きのめされても叩きのめされても立ち上がり、挑み続けた。
たぶん手に負えなくなったんだろうね、それで侯爵はレオンティーヌを冒険者ギルドに委ねたんだろう。
「けど本当にそれで良かったのか? 騎士でも冒険者でもいいけど、いつだって死と隣り合わせだぞ」
「政略結婚のコマとして生きるか、賭け台に自分の命をベットして自由を勝ち取るか、という二択だったらアルはどちらを選びますか?」
難しい質問すぎる。
かごの鳥か野良猫か。
衣食住の心配をする必要がないという点では前者だろう。けどそれは、夫となる貴族の機嫌を常に伺い続けなくてはいけないということ。
愛しみ合って一緒になった男女だって仲違いは珍しくない。打算が十割の政略結婚など推して知るべしだ。
じゃあ野良猫なら幸福かという話である。
そんなわけはない。明日死んでいるかもしれない人生だ。
「……即答しかねる」
「わたしも悩みました。でも、どうせ一度の人生ですからね。どこまでやれるのか知りたいじゃないですか」
不敵に笑う侯爵令嬢。
「死ぬかもしれないだぜ?」
「生きて、名誉と富貴を掴むかもしれません」
ゼロか百か。
すべてを得るか何もかも失うか。
それが冒険者の生き様。
「どうです? アルもそっちに賭けませんか?」
賭博師の笑みで右手を差し出してくる。
「やれやれ。普通、女が男を誘うってのは、もう少し色恋が絡むと思うんだけどな」
にっと笑い、レオンティーヌに手を握るように言い、俺はそれに自分の拳を軽くぶつけた。
冒険者の流儀ってやつ。
一緒に行こうぜ、相棒。
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