第39話 カミソリふたたび
ダンジョンの外に出ると、なんか見知った顔が待っていた。
「アル! ティーヌ! やっと会えた! ほうぼう探し回ったんだぜ!」
そういって抱擁を求めるように駆け寄ってきたクライヴに、俺は渾身の右パンチをお見舞いする。
「あどんぱろ!?」
奇声を残して飛んでいく。
「探し回ったぜ、じゃないんだよ! 誰のせいでこんな苦労をしてると思ってるんだ!」
「Q~~」
クライヴは伸びてるけど、もうね、ほんとね。
こいつの余計な一言のせいで魔病に取り憑かれるわ、治すためにヒーズルまでこなきゃいけなくなるわ、ものすごい苦労した。
そりゃね、その途中でマジックアイテムを手に入れたり、新しい仲間を得たりしたよ? でもそれは結果論だから。
「……アル、やりすぎ」
俺の怒りの原因がわからないユキナエがクライヴに駆けより、頭を膝に乗せてポーションをかけてやったりしている。
ほっときゃ良いんだよ。
地面で寝てればそのうち目をさますだろうさ。
レオンティーヌは事情を知っているから、すごく微妙な顔をしてるし。
「アルてめえ! いきなり……」
あ、クライヴが目を覚ました。
猛然と文句を言おうとしたところで、なんか固まっている。
じっとユキナエを見つめたりして。
「う、うぐくしい……」
呟いてるし。
うぐくしいとはなんぞや?
「……うぐく……しい?」
ユキナエも首をかしげてるじゃん。
がばっと起き上がり、両手でユキナエの手を取るクライヴ。
「ぜっとんしてください!」
次はぜっとんか。
こいつはいったい、どこの国の言葉を喋ってるんだ?
「解説するのも馬鹿馬鹿しいんですけど、噛みまくってるだけですよ、アル。最初のは美しい、つぎは結婚ですね」
半笑いのレオンティーヌである。
するってえとなんですか?
クライヴは初対面の女に、いきなり美しいとか結婚してくれとかほざいてるんですか?
バカじゃねえの?
「…………」
ユキナエがふくよかな頬を染める。
あんたも、照れるとかじゃなくて、なんか言いなさいよ。
「そういうのは後にして、どうしてクライヴはわたしたちを捜していたんですか?」
ぱんぱんと手を叩いて、謎の寸劇を中断させるレオンティーヌであった。
宿に戻ってから、好きなだけ乳繰り合ってくださいと。
のぞきに行きますからと。
わざとらしいニヤニヤ笑いを向けられたら、さすがにクライヴも正気に戻った。ユキナエはますます赤くなってるけど、こいつは仮に正気だってたいしたことは言わないのでどうでも良い。
「例のベイカー将軍の絡みさ。二人の力を借りたかったんだよ」
俺とレオンティーヌは顔を見合わせた。
例のなんて言われたって、聞いたこともない名前だよ。
だれだよそいつは。
「あー、ラファイエットだよ。山賊の頭目の」
「ああ、あいつか。ベイカーってのが本名だったんだな」
「カミソリトーマスが本名みたいな感じですね」
「やめろぉぉぉっ!」
「いいから先を話せ」
漫才に移行しようとするレオンティーヌとクライヴにツッコミチョップを入れ、話を進める。
「ああ、そのラファイエットがドイルで失脚して亡命してきたんだよ。オイラを頼って」
「「はあ!?」」
思わず奇声をハモらせてしまう俺とレオンティーヌだった。
ラファイエットことベイカー将軍は、ドイル王国でそこそこの地位にある御仁だったらしい。
監察官のクライヴが知らなかった程度なので、本当にそこそこだ。将軍って地位の人たちの中でも下の方だったんじゃないかな。
で、彼は、我がルーン王国を侵略する多ための橋頭堡を作ろうとしていた。
俺たちの記憶にもあるトーリアンの山賊事件だね。
これは失敗してしまうんだ。
ただドイルは、失敗しちゃったうえーんって泣きながら諦めるような国ではない。すぐに別の作戦を走らせる。
「あるいは同時進行だったのかもしれないけどね」
「別の作戦ですか?」
「モンスターにルーンを襲わせようっていう、鬼畜な作戦さあ」
「ちょっと、まってくれるか?」
俺は右手を挙げて制する。
それ、繋がってしまうだろう。俺たちが遭遇したセムリナ付近でのモンスター襲撃と。
「その顔は何か知ってる感じだね、アル」
「襲撃マニュアルを持ったゴブリン」
「そいつは話がはやい」
にやっとクライヴが笑う。
モンスターを使って無差別に民を襲わせるという私掠戦術をドイルは使った。これにベイカー将軍は猛烈に反対したという。
戦なれば陰謀も詐術もやむを得ぬ。しかし、民草の命を無差別に奪うような作戦は肯んじられぬ、と。
軍人が戦って死ぬのは兵家の常だけど、民を巻き込んじゃいけないよって主張らしい。
こういうことを言っちゃったからベイカー将軍はドイルに居場所がなくってしまった。
粛正される危険まであったから、ルーンに亡命した、と。
「ちらっとだけ面識があったオイラを頼ってね」
「さすがカミソリトーマス。知名度が半端ないぜ」
「よし、ケンカだ。表でろアル」
「残念、ここがすでに屋外だよ」
「ていうか、内応策なんじゃないですか? それ」
脱線していこうとする俺とクライヴに、レオンティーヌがんんっと咳払いする。
内応策とはなんぞや?
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