第38話 HMMM!
空中でくるりと一転し、デーモンの背後に着地するレオンティーヌ。
上手い。
これで前後から挟むかたちになった。
すぐに危険なポジショニングだと気づいたデーモンが右へ右へと移動し、マークを振りほどこうとする。
もちろん俺たちだって、そうはさせじと動く。
双方ともに牽制攻撃を繰り返しながら。
ただ、決定打が出せない。
単純な戦闘力で比較すれば、デーモンのそれは人間を遙かに上回っている。だから俺もレオンティーヌも一対一では戦えない。
前後から、どちらかに集中できないように攻撃を繰り返しているが、深くまで踏みこんでしまうと手痛い反撃を受けてしまう。
どちらか一人でも戦闘不能になった時点で詰みだから、大胆な手が打てないのだ。
どうする?
相打ち覚悟で飛び込むか?
サダヒデならデーモンの攻撃も何度かは受けられるはず。その間にレオンティーヌが致命的な一撃を食らわせることができればこっちの価値だ。
分の良い賭けじゃないけど、このくらいのリスクを取らないで倒せる相手じゃない。
軽く心を定める。
あとはきっかけだな。
と思った瞬間。
「……高機動魔力弾」
ユキナエの魔法が飛ぶ。
放たれる数十の魔力弾。
それらは信じられない軌道を描き、俺やレオンティーヌを避けながら、前後左右上下、ありとあらゆる方向からデーモンに着弾する。
「ぐああああ! こんな豆鉄砲で!」
爆煙に包まれ、苦悶しながらもデーモンが吠えた。
「……魔法使いなら見習いだって使えるマジックミサイル。でも……これは布石」
その通りだ!
「いくぞ!」
「もちろんです!」
俺とレオンティーヌが同時に斬り込む。
千載一遇のチャンス。
縦横に剣をひらめかせる。足を止めての削りあいだ。
防御なんか考えない。
ひたすら攻撃あるのみ!
十回斬られたら十五回斬りかえしてやる!
腕から腹から頬から血がしぶき、激痛が襲うけど痛くなんかないもん!
どのくらいそうしていたのか。
すごく長い時間な気もするし、ほんの数瞬の気もする。
どう、と重い音を立てて、デーモンが崩れ落ちた。
お、おわったか……。
最後の力を振り絞って、デーモンの背中にサダヒデを突き刺す。
ここで立ち上がられたら、もう戦うのは無理だからね。
きっちりとどめを刺さないと。
突き刺したサダヒデのすぐ横にも刀身が見え、顔を上げればレオンティーヌと目が合った。
美しい顔も髪も血みどろで、ひっどい状態になっている。
俺もたぶん似たようなものだろうけどね。
「ナイスファイト」
疲労とダメージでぷるぷる震える左腕を伸ばせば、無言のままレオンティーヌが拳を合わせた。
荒い息をつきながら。
もう喋れる状態じゃないんだろう。
「……回復する」
駆け寄ってきたユキナエがポーションをぶっかけてくれた。
しゅわしゅわと音を立て傷が癒やされていく。
効くぅ。
「……ふたりが死ぬかと思った」
すごく心配そうな顔。
軽く笑って、ユキナエの方に左拳を向けた。
「ナイスアシスト。ユキナ」
「……グッドキル。アル、ティーヌ」
今度は三人で拳をコツンとぶつける。
「下級魔族ごとき一人で倒してもらわねば困るのだが、ぎりぎり及第としておくかな」
突然。
突然、声が聞こえた。
大広間の奥から。
立っているのは青年。
俺と同年代だろうか。瀟洒な貫頭衣、ズボンの隠しに手を突っ込み、やや斜に構えたポーズである。
いままで誰もいなかった。
いなかったはずだ。
助けを求めるようにレオンティーヌとユキナエを見れば、二人とも絶望の表情で首を振るのみ。
たぶん俺も同じ顔をしているだろうな。
はじめからいたのか、いま現れたのか。
どっちにしても人間業じゃない。
戦って勝てるような相手では、もっとないだろう。
「警戒しなくてもいい。我は敵ではないからな」
敵でないという宣言のわりには、近づいてもこないしにこりともしない。
「言霊が乗ってしまうので名乗るのはやめておくが、おまえたちはこいつをとりきたのだろう?」
そういって、左手で剣を掲げてみせる。
いや、だかそれどこから出したんだよ。
一瞬前までポケットに手を突っ込んでいたじゃないか。
「羽々斬の剣だ。さあ、誰が使う?」
「わたしが!」
「ふむ。なるほど、竜殺しを目指しているのか。ではちょうど良いな」
近づいてきたレオンティーヌに、男は剣を手渡した。
そしてそのまま空気に溶けていく。
「消えた……」
「……ヤマト神族。はじめてみた……」
ユキナエが額の汗を拭う。
神族か。
そりゃあ迫力あるわ。
名乗られなくて良かった。神族の名前なんか聞いちゃったら、魂が削れてしまう。
ともあれ、あの神様は剣を守っていたのかな。で、あのデーモンは試験みたいなものと。
「でも、ちょうど良いというのは、どういう意味なんでしょう?」
レオンティーヌが小首をかしげた。
近づいただけで希望とかバレちゃった点については、相手が神族なら仕方ない。
人間の心くらい簡単に読むからね。
「……ハバキリというのは蛇を斬るという意味だから」
ぼそぼそと解説するユキナエ。
蛇と竜って、似て非なるものじゃないかと思うけどね!
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