第33話 趣味の問題
レザーアーマーを脱ぎ捨て、レオンティーヌはアーミングダブレットにズボンという姿になった。
革鎧と長いマフラーがないだけで、だいぶ印象が違うよね。
「ダンジョンの中で鎧を脱ぐのは、ちょっとビリッとした緊張感がありますね」
「だな。気休め程度だけど使ってくれ」
ぱちんとマントを外し、俺はレオンティーヌ手渡した。
防御力なんかないに等しいけどマントは空気をはらむからね。襲いかかってきたモンスターの動きを一瞬だけ遅らせることはできる。
そしてその一瞬があれば、レオンティーヌなら反撃に転じることができるんだ。
「ふむ。マントも格好いいかもしれませんね」
装備しての感想がこれである。
さすがかっこつけでマフラーを巻いていた人だ。
パインコーストの街は栄えていた。
厄介な領主がいるって話だったから往路は寄らなかったけど、むしろ大失敗である。
サクーイの街より栄えてるんじゃないかってレベルなんだもの。
「この規模なら冒険者ギルドもあるかもしれませんね」
「あると話が早くて助かるんだけどな」
ないと自分の足で買い取り屋だの魔法屋だのを探さないといけないから大変だ。この街での相場も判らないしね。
「あった。でっかい建物だなぁ」
キョロキョロと周囲を眺めたら、いきなり見つけてしまったよ。
剣と竜を意匠化した看板は、だいたい万国共通なんだよね。
剣と盾だと傭兵ギルド。天秤秤だと商人ギルド。ハンマーなら鍛冶師のギルド。多少デザインの違いはあるけど一緒だから、読み書きができなくても看板で判るんだ。
「素材の買い取りと、彼女の鎧を新調したいんで職人の紹介を頼みたいんだ」
本拠地以外のギルドでおこなう形式的なやりとりの後、俺はさっそく本題に入る。
「ならまずは買い取りからだな」
だいぶ頭が寂しくなり、代わりに腹部がかなりふくよかになった壮年の係員が言った。
資金を作ってから、新調するモノのグレードを考える。このあたりを説明しなくても理解してくれるのがありがたい。
まあ、ギルドのカウンターってのは顔だからね。ヒューマンスキルが高くて、きっちり筋を通せる人が立つ。
ギルド内では幹部クラスだね。
そう考えるとアンジェリクのレティシアってバケモノだよ。あの若さで、しかも女性で、ギルドの幹部なんだから。
「バシリスクの目玉と魔石、いくらになるかな」
「そいつは豪気だ。モノを見せてもらえるかい」
俺が視線を向けると、軽く頷いたレオンティーヌがカウンターの上に小さな革袋をふたつ置いた。
ひとつには目玉、もうひとつには魔石が入っている。
「これは上物だな。良い値が付くよ」
口を開けてのぞき込んだ係員がにんまりと笑みを浮かべた。
もう、ほくほくって感じの顔で、なんだかこっちまで釣られそうである。
「あと、マジックアイテムの鑑定も頼みたいんだ」
「わかったよ。逗留先を教えてくれるかい」
魔石はともかくとしても、バシリスクの目玉は稀少品だからね。ちょいちょいと値段が出てくるわけがない。マジックアイテムの鑑定だってそうだ。
「急かすわけではないけれど、なるべく早めに頼む」
「判ってる判ってる。良い金になったら、そいつでバジリスクの皮を加工するってことだろう?」
「バレてたか」
「そりゃあ、バシリスクを倒して目玉と魔石しか持ちかえらない阿呆は、滅多にいないだろうよ」
係員は大きな腹を抱えて笑った。
鑑定を待つ間、消耗品の補給をおこなう。
虎の子のハイポーションも使っちゃったしね。
「品揃え良いですね。使ってしまったものは全部買えそうです」
「しかも安い。ここは良い街だ」
ほくほく顔の係員にほだされたわけではないが、俺もレオンティーヌもかなりほくほくしてしまっている。
アンジェリクよりも一割が一割五分くらいものが安いんだよね。
サハギンの魔石を売った金もあるし、思い切ってハイポーションをふたつ買ってしまったよ。
俺とレオンティーヌがひとつずつ持っていれば、いざというときも安心だしね。
「あ、これ良いかもしれませんね」
立ち寄った武具屋でレオンティーヌが目をつけたのは手甲だった。ヒーズル独特の防具で、手首から腕をガードする。
籠手よりも軽く動きを阻害しないのが特徴だが、防御力としては微々たるものだ。
「稲妻の刺繍が格好いいです」
「ティーヌってわりと雷系の意匠が好きだよな」
「炎とかの意匠はけっこうありますけど、雷系は少ないんですよ」
「模様はない方が格好いい派閥の俺としては、そこはなんともいえないな」
ともあれ、盾で片手を塞ぐのは冒険者としては微妙だ。ゴテゴテとした籠手も指先の自由を奪う。
手甲は悪くないアイデアかもしれない。
もちろんこんなもので斬撃を受けることなんてできないけどね。何にもないよりはずっと良い。
手裏剣の収納もできそうだと思ったら、もともとシノビ装束らしい。
よし、俺も買っちゃおう。
「おそろいにしましょうよ。アルも稲妻柄で」
「いや、だから俺は無地が好きなんだって」
バディだからって同じ装備をしないといけないわけじゃない。
それぞれのセンスでいこうじゃないかね、レオンティーヌくん。
「あ! こちらにおられましたか!」
きゃいきゃいと騒ぎながら買い物をしていると、息せき切った少年が走ってきた。
この子たしか、泊まってる宿の小間使いだな。
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