第30話 アルベリク剣法
「たとえば居合いというのは、鞘から剣を抜く勢いを使って斬る技ではないんだ」
構えて抜いて、斬って、鞘に収める。
この一連の動きを居合いといって、俺が使っていたのはその動きの中でも、『抜き付け』というものが近いらしい。
「なんてこった……」
「拙者が驚くのは、独学でそこだけを極めたって部分だな」
たとえば、といって、ハンゾロが構え、裂帛の気合とともに一連の動作を披露してくれる。
速い。
そして美しい。
カタナを抜いたときのスピードなんて、ちょっと目で追えない。
「でもこれ、抜く動きではダメージ与えられなくないです?」
レオンティーヌが小首をかしげた。
それはたしかに。
スピードはすごいけど、あきらかに軽くて、これでは鎧を着ている相手や、固い鱗で覆われたモンスターにダメージは与えられなさそうだ。
それよりむしろ、抜いたあとに振り下ろした一撃の方がはるかに強そう。
鞘に添えていた左手も使って、両手持ちになっていたし。
「その通り。さすがだな、アルベリク、レオンティーヌ。『抜き付け』はスピード重視。『斬り下げ』こそが本命だ」
相手が本当に軽装で、防具が何もないなら『抜き付け』で片が付く。
ぶっちゃけ、速い方が強いってことになるそうだ。
でも実際にモンスターと戦ったとき、速さだけでは厳しくなる。
レオンティーヌの高速剣が堅いモンスターに対して不利になってしまうようにね。
「アルベリクの剣技というのは、たしかにヒーズルの剣技ではない。しかしそこから派生し、磨き上げ、高みへと至った究極でもある」
歌うように告げるハンゾロ。
雨だれがいつしか巌に穴を穿つように、ただ一点『抜き付け』だけを極めた。
「荒れた土地で挑み続け咲いた、たった一輪の花のような美しさがある」
「褒めすぎだから! 照れるから!」
ぶんぶんと俺は手を振った。
ほんっとやめて。
お尻が痒くなっちゃうから!
そして剣術稽古が始まった。
俺の戦い方は、たしかにヒーズルの剣技じゃない。それどころか剣術と忍術を混ぜ合わせた合成獣みたいなもんだ。
それは認めよう。
けど、ビーズルの剣術家にこれは美しいと認められたんだ。
これは一つの道である、と。
そしたら、あんまり身体が固まらなくなった。
完全に復調したわけじゃないけどね。
「アルの技は、もはやオリジナル剣技ですね。アルベリク剣法と名付けましょう」
「もうちょっと格好いい名前考えて……」
「良いな。シャドウエッジ流の当主として、アルベリク剣法を我が一門と認めよう」
「認めちゃうんだ……」
バカ二人のせいで、俺の剣技はヒーズル剣法の名流の末席に名を連ねることになってしまったよ。
とはいえ、俺もレオンティーヌも、まだ動きに無駄があるらしくてね。
せっかくだから体捌きや足捌き稽古しようって話になったんだ。
とくに喜んでいるのはレオンティーヌで、鍛錬によって彼女のスピードにはますます磨きがかかり、斬撃の鋭さも増している。
「パワー不足を嘆くのではなくスピードに特化することで活路を見出す。割り切った良い戦法だと拙者も思うが……」
「保留付きか。そのこころは? ハンゾロ師匠」
「剣の強度だよ」
おっと、ハンゾロもそこ気がついたか。
さすが師匠。
「本気で戦えば剣が保たない。かといって頑丈で重い剣だとティーヌの技が死んでしまう、だろ?」
「カタナに持ち代えれば多少はマシになるだろうが、それでも彼女の力量に応えられる業物は少ないだろうな」
当然かなり値も張る、と。
ですよねー。
「それで俺たちはマジックアイテムを探していたんだ。いつかドラゴンスレイヤーになってやるってな」
「竜の鱗を切り裂ける剣か……」
ふむと腕を組むハンゾロ。
その顔は、なんか心当たりがありそうだね。
「もしなにか知っているなら教えてくれないか、師匠。もともとが雲を掴むような話なんだし、空振りしたって文句は言わないからさ」
「大昔の英雄伝説に登場する剣が、ビーズルの神殿に奉られているんだがな。それはレプリカで本物はあるダンジョンの深くに、今も眠っているという話だ」
眉唾くさい話だろう、と付け加える。
かつてヒーズルを荒らし回っていた巨大なドラゴンをある勇者が倒し、そのドラゴンの体内から出てきた剣を奉納したんだってさ。
ここまでならわりと良くある英雄伝説だ。
岩に刺さって勇者にしか抜けない剣とかも定番だね。
「問題はニセモノが奉納されてるって部分だな……」
「そんな噂があること自体も謎だしな」
俺の呟きにハンゾロが反応する。
こんな噂をまいたところで誰も損をしない。王国の権威に傷をつけることもできないだろう。
英雄伝説がどのくらい昔かは知らないけど、時間が経つほど信憑性は薄まっていく。
百年前二百年前とかだったら嘘でも判らないし、誰も気にしない。
「流しても意味がない噂だからこそ真実かもしれん、というレベルだな」
「まあ実際、マジックアイテムの噂なんてそんなものだよな。ダンジョンの場所を教えてもらえるか? 師匠」
「修行が終わったらな」
すぐにはダメだと釘を刺された。
いやいや、修行をサボって行ったりしないって。
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