第3話 ダンジョンへ
レオンティーヌが帰宅した後、ちょっと調べてみたらやっぱりルーン王国軍は女性の入隊を認めていないらしい。
つまり、軍で戦功をたてて出世するという方法はとれないってこと。
それで冒険者って話になったんだろう。
傭兵団に入るって手もあるけど、あんまり個人的な功績はたてられないからね。団レベルで評価されることはあっても。
冒険者なら成功も失敗も自分のものだ。
判断としてはそう悪くないし筋も通っている。
ただまあ、筋が通ってる部分にこそ侯爵家の思惑ってのがあるわけで。
たぶんバシュラール侯爵は冒険者ギルドの上層部といくらかのコネクションがあるんじゃないかな。で、じゃじゃ馬娘の再教育を頼んできたってのが表に出ない事情だろう。
剣に生き剣に倒れるってのは騎士の生き様であって、女性の幸福とはあんまり結びつかないもの。
貴族の結婚は政略だけど、それでも幸福な家庭を築いた人はいっぱいいるだろうしね。
「ちょっと冒険者の真似事をやって、想像よりずっと厳しく、綺麗事では済まない世界に絶望して帰ってこいってことなんだよな」
この場合、多少の怪我はしても良いって解釈で問題ないと思う。
命を落としたり、身体にがっつりと深い傷が残ったりしなければ、俺が責任を負わされることはないんじゃないかな。
希望的観測だけど。
それにしても、侯爵というのはずいぶんと武断的な人だね。
実戦を知ることが現実を知ることってのは事実だけど、実際に娘を死地に送り出しちゃうんだもの。
あるいは、レオンティーヌの決心がそれだけ固かったということかな。
そして翌日。
俺たちはアンジェリクの街からほど近いところにあるポートリーン迷宮を訪れていた。
ほど近いっていうか、このダンジョンを攻略するために築かれたベースキャンプが、アンジェリクの基になっているわけだけどね。
ダンジョンに潜るための装備品や消耗品を取り扱う商人が集まり、出土品を見目当てにした商人も集まり、どんどん規模が大きくなっていった。
そして人口が三千を超えたあたりで、ちゃんとした縄張りがなされて町となり、一万を超えると代官が派遣され、十万を超えるにいたって貴族が領有して統治するようになった。
「以来三百年、ダンジョンとしては探索され尽くしたけど、相変わらずモンスターどもの根城になっているわけだ」
「それで定期的に討伐隊も組織されるんですよね。犠牲も出ているし、いっそ埋めてしまえば良いとも思いますけど」
俺の説明にレオンティーヌが腕を組んだ。
そう簡単な話じゃないんだよなあ。
ひとつには、集まったモンスターからとれる「素材」がかなり重要だってこと。牙でも爪でも魔石でもね。
ここに行けばとれるって場所があった方が採取しやすいだろ?
それに根城があることで、散発的な街への襲撃が抑制できるってのもある。
住むところを求めて戦争を仕掛けるのは人間でもモンスターでも一緒って話しさ。
結局、街とダンジョンは持ちつ持たれつ。
簡単に潰すことはできないんだ。
「難しいものなんですね」
「まあ、モンスターを狩り尽くしてしまうと、俺たちの仕事もなくなってしまうしな」
「それを言わなかったら、アルは博識で思慮深いのだなと感心してあげましたのに」
「失敗した。四つ前くらいのセリフからやり直して良い?」
緊張をほぐすために、すこしふざけながら入り口をくぐった。
回廊は広く、充分に二人が並んで戦えるスペースがある。
「意外と明るいですね」
「それで油断してランタンを使わない人間もいるんだ」
左手にもった明かりをかざしてみせる。
目が慣れてしまえばなくても大丈夫って思える感じだけど、やっぱり暗闇は俺たち人間の領域じゃない。
「戦場では油断しているやつから死ぬ、と、父が言っていましたわ」
「さすが歴戦の猛将だ」
一度や二度の戦場経験ではないらしいからね。バシュラール侯爵という御仁は。
「ただの石頭です」
嫌な顔をするレオンティーヌだった。
進むことしばし。
俺はおもむろに右手の人差し指を唇に当てた。こくりとレオンティーヌが頷く。
彼女も正面から近づく気配に気づいたのだろう。
二つ……、いや三つだな。
足音の軽さから小型の二足歩行……ゴブリンかコボルドといったところか。
「やれるか?」
「やってみます」
互いの耳にだけやっと聞こえる声で会話。
一緒に戦おう、ではない。
俺の立場は仲間ではなく指導員だから。
あくまでもレオンティーヌが一人前の冒険者になるように指導するのが仕事であって、彼女を守ったり代わりに戦ったりしてはいけない。
名目としてね。
もちろん危なくなったら助けるんだけどね。
やがて、接近するゴブリンを目視で確認する。
数は予想通り三匹だ。
距離は五間(約十メートル)ほど。
「いきます!」
くんとレオンティーヌが飛び出す。
いつ抜いたのか、まっすぐに長剣をのばして。
ほとんど一瞬で距離を詰め。
「疾っ!」
チャージの勢いを殺すことなく、先頭のゴブリンに突き入れる。
悲鳴すら上げることなく貫かれ、絶命する小鬼。
緑色の血を吐き出して。
「刺突か!」
非力な女性でも充分に威力が出せる攻撃方法だ。
「だが……」
深く刺さりすぎている。
これでは次の行動が……。
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