第29話 剣術道場
サハギンの強さって、オーガーほどじゃないけどオークよりはかなり強いって感じなんだよね。
それを二枚に下ろしちゃったんだもん、そりゃあ士気が上がるさ。
反対に、味方がこんな倒され方をしたサハギンたちは動揺した。
「しゃ! いくぜ!」
「「おお! お嬢ちゃんにつづけーっ!」」
一気呵成に水夫たちも槍を突き込む。
勝敗の天秤が大きく傾いた。
もうひっくり返すことはできないだろう。
一匹また一匹と血祭りにあげられていく。結局、十六個の死体を残して数匹が海中に逃げていった。
こっちは軽傷が二人でたが、重傷も死者もいない。
「完全勝利だぜ! お嬢ちゃんのおかげだな!」
すっかりヒーロー扱いのレオンティーヌは、水夫たちと拳をぶつけ合っている。
ちなみに彼女の撃破数は、たったの一。
にもかかわらず、五匹倒して撃破王を取った俺よりずっと目立って、ずっと称賛されているというな。
きぃ悔しい。
なーんて俺たちは相棒だから、ピンみたいな撃破の数え方はおかしいんだけどね。
二人で六。
どっちか活躍したとか言いだしたら、その先には仲間割れしか待ってないから。
「アル! サハギンの魔石は譲ってくれるそうですよ!」
とたたた、と、走り寄ってきたレオンティーヌが告げる。
「そいつは豪気だ。けど良いのかい?」
セリフの後半は、レオンティーヌの後ろにいる黒髭の船長に向けたものだ。
サハギンの魔石はゴブリンみたいなクズ魔石じゃない。
十六個も売ったら、二月か二月半くらいは働かずに食えるだろう。
「いいさ。あんたらがいなければ、こっちも何人か犠牲が出ただろう。ただ、胆と磁力機関は譲ってくれると助かる」
「もちろん。ナマモノは持って行けないからね。喜んで譲るさ」
サハギンに限らないけど、ある程度強いモンスターの肝臓は薬の材料になる。磁力機関ってのは、たしか船の動力になるんだったかな?
どっちも貴重だけど、ナマモノは腐るからね。
船だったら保存のための設備はあるだろうから、取引としては正当だと思う。
「そういえばあんたらは、ヒーズルには剣術修行にいくんだろ? 道場にアテはあるのか?」
「いや、ついてから探そうかと思ってた」
「それだったら俺に一つ心当たりがある。紹介状を書くから訊ねてみたらどうだ?」
合わなかったら入門しなければいいしと付け加える。
意外な展開に顔を見合わせた俺とレオンティーヌだったが、船長の厚意に甘えることにした。
縁もゆかりもない異国だからね。
とっかかりみたいなものがあるだけでもありがたい。
いやあー、それにしてもヒーズルってのは異国だと感じるわ。
サクーイの港に降り立った俺は、しみじみと思った。
ルーン王国では黒髪なんてかなり珍しいけど、こっちの人たちみんな黒髪なんだもん。
あと、目も黒いし。
「活気もすごいですしね」
「商売の街なんだろうな。アンジェリクよりも賑やかなくらいだ」
陸の交易都市と海の交易都市では雰囲気が違うんだろう。飛び交う言葉もサクーイのほうが乱暴というか威勢が良い。
「紹介された道場に、まずは顔を出してみましょう。宿を取るのはその後で良いですよね。アル」
「だな。まだ日も高いし」
ゆっくり観光したいところではあるんだけどね。
遊びにきたわけではないし、数日の滞在で済むはずもないから、まずはやるべきことをやってしまおう。
「なるほど、チューバクの紹介ということであれば、こちらに否やはない。授業料も勉強するゆえ、うちで勉強するといいぞ」
交易船の船長の名前を出して爽やかに笑うのは、ハンゾロという剣術家だ。
すっごい美丈夫で、舞台役者になったらさぞ人気が出るだろう。
脇役で出ても主役を食っちまいそうな感じだ。
で、道場にきた瞬間に気づいたわけですよ。
カタナって反ってるのね。
俺のみたいにまっすぐの片刃じゃなくて。
これじゃカミソリトーマスでなくても、おめえの違うよって思うよなぁ。
つらい。
「とはいえ、見たところ二人とも身体はできているようだが、いまさら道場で基本的な鍛錬が必要なのか?」
「じつは事情があってね」
しょんぼりしつつ、俺はハンゾロに事情を説明する。
元々はヒーズルの剣技を勝手に想像した我流の技を使っていたが、ヒーズルではそんな戦い方はないと指摘され、それ以来うまく剣が振れなくなった、と。
型を見せてくれといわれ、ゆっくりと再現したりね。
「なるほど」
一通り検分したハンゾロが腕を組む。
「アルベリクの技は、剣術と忍術が良い感じに混ざっているんだな」
よくわからない言葉が出た。
ニンジュツとはなんぞや?
「そのふたつはどう違うのですか?」
「剣術はサムライの技、忍術はニンジャの技だな。ちなみにニンジャはシノビと呼ばれることもある」
「あ!」
びっくりした顔のレオンティーヌ
俺も驚いた。
手裏剣を投げるとき、俺はシノビって叫んでいたからね。
で、サムライってのは剣士で、ニンジャってのは斥候みたいなものらしい。
ファイトスタイルが微妙に違うんだそうだ。
「こりゃちゃんと矯正するのは、骨が折れそうだな……」
「そうか? 拙者はそうは思わんぞ?」
俺の呟きに、ハンゾロがにやりと笑う。




