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いつか最強のふたりに! -お嬢さま剣士と中堅冒険者-  作者: 南野 雪花


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第28話 マスターキー


 槍を買いました!


 半丈(約百五十センチメートル)ほどの短槍ショートスピアだ。銘入りでもなんでもない、普通の品質のものだけど、実用に耐えれば問題ない。

 まあ俺も槍は素人だしね。突き刺すくらいしか使い方が判らない。


 足払いをしたり、石突きで突き上げたりとか、そういう達人みたいな動きは無理ってもんだ。

 でも、剣でぶっ叩いているよりは体力の消耗が抑えられるしね。


「それではアルベリクさん、レオンティーヌさん。旅の無事を祈っておりますよ」

「ああ、オリフィエルさんも達者でな」

「いろいろとお世話をかけました」


 オリフィエルが突き出した右拳に、俺もレオンティーヌも自分のそれをぶつける。

 セムリナ皇都デ・ブラュネの港でかわす冒険者流の挨拶だ。


 俺たちはここから船に乗りヒーズル王国に向かう。

 わずか三日の船旅らしい。


 あ、ボルクレルからデ・ブラュネのまでの間にも、何度かモンスターの襲撃はあったよ。

 だけど、数をそろえ、主に日中に、まずは車輪を狙って攻撃してくるって情報が共有されたからね。

 迎撃はたやすい。


 モンスターのおそろしさは、なんといっても神出鬼没さだもの。くると判っていて、さらに狙いも判ってるんだから、あえて襲わせて撃退し、がっぽり魔石を稼いだ連中もいるらしい。


 ゴブリンやコボルトの魔石なんかたいして価値もないけど、数を集めればそれなりの金になるからね。


「もしまたデ・ブラュネにこられましたら、ぜひ拙宅に寄ってください」

「そのときは、ぜひ」


 今度は俺が差し出した右手をオリフィエルが握り返した。

 商人流の挨拶である。




「一ヶ月以上もかかるだろうと思っていたヒーズルまでの旅だけど、半分の時間でついてしまうな」


 船上、甲板に立った俺の頬を潮風が撫でていく。

 アンジェリクは陸封された内陸都市だから、海ってやっぱり新鮮だよね。

 デ・ブラュネにいる間に、潮の香りも慣れたし。


「運が良いのか悪いのか判りませんよね」


 くすくすとレオンティーヌが笑う。

 ゴブリン退治に代官たちとの面会。面倒だったけど、知己となったオリフィエルは好漢だった。

 差し引きして採算は黒字かな。


「ともあれ、ようやく剣の修行ができるな」

「ですね。このまま何事もなくサクーイの港に入りたいものです」


「あ、そういうこと言うと……」

「え?」


 レオンティーヌが首をかしげたと同時に船の警戒鐘が打ち鳴らされ、サハギンだ、という叫びが響いた。


「ほらね?」

「なにがですか!?」


「どこの軍事拠点でも治療院でも、今夜は何もなくて平和だなんて言った瞬間にトラブルに巻き込まれるもんなんだよ。敵襲だったり急患だったりね」

「うそぉ……」


 今さらのように両手で口を押さえるけどもう遅い。

 トビウオのような跳躍で、次々と甲板にサハギンが降り立つ。


 むっきむきの筋肉とそれを覆う鱗。殺戮衝動にらんらんと輝く赤い瞳。マーマンのように下半身が魚ではなく、こいつらは二足歩行だ。

 そして獰猛さはゴブリンの比ではない。


「後悔は後だ! いくぞ!」

「はい!」


 すぐに飛び出す。

 着地の直前が狙い目だ。

 なにしろ、空中では防御も回避もできないからね。


「疾っ!」

「どりゃっ!」


 レオンティーヌはいつもの高速剣、俺は勢いをつけての刺突で襲いかかる。


「くっ! 足場が安定しない!?」

「おおっ! ただ刺すだけならやり使いやすいぞ!」


 高度な技を使った方が鎧のような鱗にはじかれ、平凡な突き込みが胸を貫くという、技量とは正反対の結果になった。


「ティーヌ! 刺突(ピアッシングだ)だ!」

「諒解!」


 ちゃきっと剣の握りを変える。


 なんでサハギンどもが三つ叉の槍(トライデント)を使ってるのか、どうして水夫たちがほとんど剣を使わずに槍や斧で戦うのか、その答えが揺れる甲板だ。


 どんと踏み込んで斬るということに、とことん向いてない不安定な足場なのである。

 それだったら、バランスを取りながら勢いをつけて槍を突き出すほうがずっとラクだ。


「く! わたしの突き込みじゃパワーが!」


 俺の撃破数(スコア)が三に達したのに、レオンティーヌはまだ一匹目を始末できていない。

 最も技量の高い彼女がこれでは、総合的な戦力としてかなり厳しいかな。


「お嬢さん。手斧(マスターキー)を使いなさい」


 揺れる甲板でも危なげなく歩を進めた水夫が、レオンティーヌに斧を差し出した。


「マスターキー、ですか? 斧ですよね?」

「俺たちはこいつをマスターキーって呼んで、ありとあらゆる困難の扉をぶち破ってきたんだ。サハギンごときの鱗なんぞ一発で叩き割れる」


 水夫の言い回しにくすっと笑うレオンティーヌ。

 ぶち破るための導具を(キー)と呼ぶことに面白みを感じたのだろう。


「ありがとうございます。ではわたしも、こいつで魚人野郎をぶち破りましょう」


 剣を鞘に収め、くんと加速する。

 とんとんと弾むようなステップは、揺れる甲板をものともしない。接地する時間が極端に少ないからだ。


 しかし、あんな軽いステップじゃ斧に力が乗らない。

 どうするつもりだ、と、思った瞬間。


 レオンティーヌの姿が視界から消えた。

 サハギンが突き出した三つ叉の槍が、虚しく一瞬前まで彼女がいた空間を貫く。


「くたばりなさい! 魚人野郎!」


 声は上から。


 くるりと前方宙返りし、落下速度と回転速度を利用して、サハギンの脳天から股下までを叩き割った。

 見事に二枚に下ろされ、左右に倒れるサハギン。


 戦っていた水夫たちが、一斉に鬨の声を上げる。



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解錠(物理破壊)
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